ブッシュ大統領が、イラク戦争での勝利を宣言してから一年、戦争は終結するどころか、重大で深刻な新しい段階に入りました。昨年三月、フセイン政権打倒とイラク占領のために国際法と世界世論を無視してイラクに侵攻したアメリカは、いま占領の破綻に直面し、イラク中部の都市ファルージャでの大規模な住民虐殺を頂点に、イラク民衆全体を直接敵にまわす新たな終わりなき戦争に突入しつつあります。この新しい戦争の目的は、六月末に設定した「主権委譲」を通じてイラクにアメリカのかいらい国家をつくりあげ、イスラエルのシャロン政権のパレスチナ抹殺計画と連動しつつ、米軍の無期限駐留の下、イラクをアメリカの政治的、軍事的、経済的中東支配の砦としようとするものです。
一年間の占領とその暴政、無能、軍事暴力による反対勢力の強引な排除を味わったイラク民衆は、いまこの企てに、宗派や信条を超えて手を結び、占領軍への大規模な抵抗運動を開始しました。アメリカはかいらい国家樹立の障害となるこの抵抗運動を武力で叩き潰す道を選びました。
私たちは、おびただしいイラク民衆の血を流し、アメリカの若者にも不名誉な死をもたらすこの選択を強く非難し、その撤回を要求します。
私たちはこの戦争にあらためてノーを宣言します。米国のイラク占領は破綻しました。この明白な事実を認めて、何より日本政府がこの戦争への支持をきっぱりと取り消し、有志連合から脱退し、自衛隊をただちに引き揚げることを要求します。
とりわけ私たちはファルージャにおける住民虐殺を許すことは出来ません。三月末、ファルージャでは、四人の米国人傭兵が殺害され、死体が焼かれるという事件が発生し、これにたいして、米軍はこの三〇万都市を海兵隊で包囲、遮断し、電力、水の供給を断ち、武装抵抗勢力を抹殺するという作戦の下、都市住民への無差別攻撃を掛けました。建物を占拠した海兵隊狙撃兵は動くものすべてを標的にし、救急車を狙い撃ちにし、モスクを空爆し、中にいた信者もろとも吹き飛ばしました。包囲・遮断されたこの都市の内部で何が起こったか、また起こっているかが、厳重な報道封鎖にもかかわらず次第にあきらかになりつつあります。この密室の中で一七〇人に達する子どもと多くの女性を含む非武装の市民六〇〇人が米軍に殺され、一〇〇〇人以上が負傷したと伝えられています。
ファルージャを防衛しようとするイラクの人びとの頑強な抵抗と国際的な非難に直面して、米軍は「戦術的配置変更」(キメット司令官)を行い、包囲をゆるめるとともに、米軍の一部を米軍指揮下のイラク人治安部隊と置き換えたと伝えられます。だが米軍は抵抗運動との武力対決の姿勢を変えず、戦闘はイラク全土で継続、激化しています。
私たちはファルージャで何が起こったのか、起こっているかを全面的に明らかにしなければなりません。市民の無差別殺戮と住民生活の破壊という米軍の行為は、南京、ゲルニカ、ドレスデン、広島・長崎、ソンミと並ぶ戦争犯罪、人類史における汚点として裁かれなければなりません。さらに私たちは最近暴かれたアブグレイブ収容所における米占領者によるイラク人拘束者への拷問、虐待、性的陵辱に深刻な衝撃を受けています。一部兵士、要員の逸脱行為という弁解は誰をも説得することはできません。私たちはこの事件の組織的性格とその背後の人種差別主義の徹底的究明、実行者から最高責任者にいたるすべての犯罪者の処罰を要求します。
ファルージャを焦点として、占領軍への抵抗は下からほぼ全土に広がり、占領体制は事実上麻痺、解体しています。米国が「主権委譲」の事実上の受け皿とみなしていた統治評議会は機能を失い、解体状態に陥っています。サドル師の率いるシーア派の対米抵抗勢力とその民兵組織は急速に影響力を拡大しました。ファルージャ救援の中でスンニ派とシーア派の連携が成立し、宗派や地域を超えた反米・反占領の共同行動が実現されました。四月半ば、占領軍は、聖地ナジャフを含むイラク南部、中部の主要都市で支配を失っていることを認めざるをえませんでした。私たちはこの状況を解決する道は一つしかないことを知っています。アメリカがこの戦争の失敗を認め、ネオコン戦略の過ちを認め、それを破棄し、きっぱりと身を引くことです。一九六八年、ジョンソン大統領は、ベトナム戦争の失敗を事実上認め、次回大統領選挙に立候補しないと宣言し、そこから撤兵とベトナム戦争終結へのプロセスが開けたことを私たちは思い起こしています。だがブッシュ政権はこの選択を拒否し、かいらい国家つくりのために、イラク民衆の抵抗を武力で壊滅させる全土戦場化の方針にしがみついています。
私たちはブッシュ政権が、この破綻した企てを、国連の旗の下で継続しようとする最近の「政策転換」を恥知らずな術策として退けます。有志連合の三極の一つスペインが世論の圧力の下この汚い戦争からの脱退を表明し、アメリカが戦争の正統性のよすがとしてきた有志連合がドミノ式に解体しつつあるなかで、ブッシュ政権は、それに代わって、これまで嫌悪してきた国連に助けを求めようとしているのです。
国連の平和維持活動は、米国による占領と軍事行動の自由を「治安維持」の名の下に承認し、前提にするものであるかぎり、現状を何ら変えないばかりか、国連を米国による占領の助手に変えるだけでしょう。それはイラク民衆の新たな抵抗に直面するでしょう。国連の平和維持活動が、米国主導の占領軍とイラクの抵抗運動の間に割って入り、イラクにおける自由選挙の実施と独立したイラク政府の樹立を助けるためには、国連が米国から名実ともに自立した立場に立つことが必要です。そのような平和維持活動には、日本を含め米国のイラク戦争を支持し、派兵している国家の横滑り的参加は許されません。さらに、イラクに利権を持ち、イラク支配の分け前を確保しようとする強い動機をもつ大国軍隊の参加を許すべきではありません。国連安全保障理事会は、アメリカの占領の破綻を繕うための決議を採択してはなりません。アメリカの拒否権によって公正な決議が葬られるなら、国連決議377の「平和のための結集」手続きによって、国連の意思決定の場を安保理から国連総会に移すことが必要です。この文脈において私たちはイスラム諸国会議機構(OIC)加盟二〇カ国が、国連の平和維持に参加する用意を表明したことに注目します。
私たちはイラク民衆の主権回復は、イラクのすべての層の人びとが、アメリカなど占領軍の干渉から完全に自由な状態で代表者会議を開き、イラクの将来を討論し、提案すること、そしてそれに基づいてすべてのイラク人が参加する自由な選挙を通じて政府を構成することによってのみ達成されると信じています。この道筋はアメリカ占領統治に参加していないイラク国内の多くの潮流によって支持されているばかりでなく、広く国際的支持を集めています。国連は、アメリカとその同盟者による武力行使の停止と占領軍撤退の約束を条件としてのみ、またイラクの民衆が求める場合にのみ、このプロセスに参加し、それを助けることができるでしょう。
小泉政権は、占領軍がイラク民衆への全面的武力行使の段階に達した今になっても、この血なまぐさい、見通しを欠いた、犯罪的なアメリカの企ての重要な一翼を進んで担い続けています。私たちはそれを許すことができません。小泉政権は、世界の圧倒的な世論、国ぐにがアメリカの戦争に反対する中、いちはやく戦争支持を宣言しました。そして憲法を公然と無視し、世論の反対を押し切ってイラク特措法を強行し、自衛隊を派兵し、南部イラクに戦後初めての海外基地を建設しました。アメリカの唯一公式の開戦理由「大量破壊兵器」が幻であったことが明らかになり、次に持ち出された「イラク民衆の解放」という名目が、反米・反占領の抵抗の高まりで瓦解したいまでも、日本政府はブッシュの戦争を支持し続けています。
日本はアメリカの率いる連合軍(coalition forces)のまぎれもない戦略的な一員です。事実小泉首相は自衛隊は軍隊であると何度も強調しつつ、その自衛隊の派兵を忠誠の証としてアメリカに売り込んでいます。しかし他方国内に向かっては、「自衛隊は戦争に行くのではない、復興支援に行っているのだ」と大声で叫び、自衛隊があたかもNGOになったかのような口上で人びとを欺いています。だがこの二枚舌はもはや過酷な現実を支えることはできなくなりました。四月初めの人質事件はそれを衝撃的に示しました。給水活動をしようと、学校の補修をしようと、日本軍は有志連合軍・占領軍の一部であることを、その占領軍の攻撃を受けているイラク人は正確に認識しているのです。逆に自衛隊による「復興支援活動」は、人道支援活動の領域そのものを軍事化することで、NGOなどによる本来の自主的人道支援活動を著しく困難にしているのです。
南部も含めてイラク全土が戦闘地帯となり、サマーワの自衛隊基地がすでに砲撃の対象となっているなかで、「活動を非戦闘地域に限る」とした小泉政権自身が成立させたイラク特別措置法に照らしても、自衛隊の駐留が違法となったことは明らかです。さらに新たな戦争局面のなかで、イラク特措法の大前提である「戦後復興」そのものが瓦解しているのです。「すみやかな再建を図るためにイラクにおいて行われている国民生活の安定と向上、民主的な手段による統治組織の設立」と定義されている「戦後復興」などはどこにも存在していません。また「民主的な手段による統治組織」が明らかに存在しない中で、米国のかいらい政権の樹立に協力することも許されません。このようにイラク特措法の大前提が崩れた以上、日本政府は自衛隊のイラク駐留が違法になってしまったことを認め、直ちにその撤退を宣言し、そのために必要な手続きをとることを、私たちは日本政府に要求します。
私たちは、以上の立場から、日本の市民が、占領軍の暴力に苦しむファルージャはじめ、全イラクの民衆と連帯することを呼びかけます。私たちは、マスコミが、イラク戦争の現状と民衆の姿を正確に市民に伝えることで、その社会的な責務を果たすことを求めます。私たちは良識ある国会議員が、私たちの以上の提案、とくに自衛隊の撤退を国会で決定することを求めます。
くりかえし訴えます。戦争が新しい局面に入ったいま、日本はこの戦争からきっぱりと降りるべきです。自衛隊を即時引き揚げなければなりません。私たちはそのために活動を続け、強めます。そこからイラク民衆との新しい関係が開けると私たちは信じています。
二〇〇四年五月
天野恵一 派兵チェック編集委員会
石坂啓 漫画家
鵜飼哲 一橋大学教員
太田昌国 自衛隊の海外派兵と戦争協力に反対する実行委員会
岡田剛士 パレスチナ行動委員会
岡本三夫 第九条の会ヒロシマ
小倉利丸 富山大学教員/ピープルズプラン研究所共同代表
熊岡路矢 日本国際ボランティアセンター代表
越田清和 ほっかいどうピースネット
須賀誠二 NCC靖国神社問題委員会委員長
高里鈴代 基地・軍隊を許さない行動する女たちの会
ダグラス・ラミス 国際政治学
豊見山雅裕 沖縄・一坪反戦地主会会員
中山千夏 作家
西野瑠美子 VAWW−NET JAPAN
弘田しずえ カトリック正義と平和協議会
舟越耿一 長崎大学教員/市民運動ネットワーク長崎
武者小路公秀 国際政治学
武藤一羊 APAジャパン
森瀧春子 核兵器廃絶ヒロシマの会共同代表
矢崎泰久 編集者
柳田真 たんぽぽ舎
山本俊正 日本キリスト教協議会総幹事
湯浅一郎 ピースリンク広島・呉・岩国世話人
吉川勇一 市民の意見30の会・東京
上記の共同声明に賛同される方は、下記のフォームにご記入いただき、送信してください。いただいた賛同署名のうち、お名前、所属はウエッブで公開します。また、政府等の関係組織に送付します。
(第一次集約は2004年5月末日です)
千代田区三崎町3-1-18 近江ビル4階 市民のひろば
電話 03-5275-5989
ファックスの場合:03-3234-4118(市民のひろば)