アフリカへの開発援助を通して日本政府が国益として追求しようとしていることが何なのかを考えてみることから、何かが見えてくるのではないでしょうか。考えられることを以下に列挙してみましょう。
1.国境線を越えた道路・橋や港などの整備などは、現地の住民の生活改善を一義的な目的としているとは思えず、日本の投資環境整備を目的としているものでしょう。保健・教育支援による人材育成についても、それを必要とするアフリカの人々の立場から政策が実施されていないケースもあります。
2.特に南部アフリカ開発共同体(SADC)への援助は、日本産業の生命線とも言えるレアメタルの権益獲得のためと考えられます。
3.きめ細かな無償援助だとかクールアース構想での資金援助の呼びかけも、アフリカの親日感情獲得という外交目的があると思われます。国連安保理常任理事国入りをはじめとした、中国やインドのような新興援助国に負けない国際発言力確保に必死だからです。
4.植民地時代の宗主国、アメリカ、そして新興援助国などが入り乱れる中、日本も大国としてPKO等の国際的軍事関与もしたいという「戦争のできる普通の国」を目指す国策の一環でもあると言えないでしょうか。
5.自助努力の尊重とか言いながら相手国を一層の債務漬けにして憚らない有償援助は、詰まるところ、金貸しによる金儲けではないでしょうか。
ちなみに、ODA(政府開発援助)とは、OECD(経済協力開発機構)のDAC(開発援助委員会)によれば、
「自国の利益に資することは極力控え、相手国の経済発展と福祉の向上のために実施するもの」
とされていて、現に日本は、
「より狭い国益が、この目的に優先しないことを確保すべきである」、「債務貧困国へのローンの供与が多額の債務救済を招いた経験から得られた教訓は、今後の貸付政策に生かすべきである」
という勧告を2003年にDACから受けています。
もうひとつ、アフリカで発生している紛争に対して、紛争の当事者の一方の側だけに肩入れをする姿勢も問題です。
日本政府は93年の第1回TICADの時から一貫してモロッコを招待し続けています。モロッコは、1975年に当時スペイン領であった西サハラを軍事的に占領し、現在まで支配を続けています。この行為は一連の国連総会決議や国際司法裁判所勧告意見、民族自決原則に違反する行為として国際的にも非難を浴びています。また難民となった西サハラの人びとは、亡命政権として西サハラ=サハラ・アラブ民主共和国(SADR)の建設を宣言し、アフリカ連合(AU)にも加盟しています。その一方、モロッコは、西サハラ侵略を理由に、AUの前身であるアフリカ統一機構(OAU)から事実上追放され、OAUからAUになった現在も加盟を認められていません。
今年2月、中山泰秀外務政務官が福田総理の特使としてモロッコを訪問し、TICADへの参加と国連安保理常任理事国入りへの支持を要請しています。これは、安保理でも議題となっている西サハラ-モロッコ紛争の一方の当事者に「常任理事国入り」への支持を要請するという非常識極まりない外交政策といえるでしょう。
日本政府は、TICADプロセスにおいて、AUとの連携を強調していますが、このように日本の国益のためだけに、TICADにモロッコを招待し続け、その一方でSADRの承認を拒否し続けています。このようなTICADプロセスは、西サハラだけでなく、各地で紛争が発生しているアフリカの人々の目にはどのように映るのでしょうか。