マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (2)

 厚労省は2024年5月24日から6月22日まで、健康保険法の省令から健康保険証の交付義務を削除するための意見募集(パブリックコメント)を行った。私たちは「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようと呼びかけた(こちら参照)。
 このパブコメでは、当初、7月上中旬に結果を公表し省令改正を行う予定になっていたが(概要参照)、1カ月以上遅れて8月30日に結果が公表された(こちら)。寄せられた53,028件もの意見のほとんどは、改正内容に反対する意見だった。
 公表された結果一覧は、現行の被保険者証は継続するべき、マイナンバーカードと被保険者証の一体化に反対、高齢者等の通院では顔認証は負担が大きい、資格確認書の交付条件である「電子資格確認が受けられない状況」に本人の意思によりマイナンバーカードの交付を受けていない場合や登録を解除した場合も含まれることを明示的に規定すべき、資格確認書は被保険者の申請によらずに保険者が交付する義務を負うべき、などの意見で埋めつくされている。

 しかし厚労省はこの反対の声を受け止めず、8月30日、健康保険証の交付義務を削除する省令改正を行った(令和六年厚生労働省令第百十九号:行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令)。
 同日、厚生労働省保険局長名で公布通知が各都道府県知事、各指定都市市長、地方厚生(支)局長、都道府県後期高齢者医療広域連合長、社会保険診療報酬支払基金理事長、全国健康保険協会理事長、健康保険組合理事長宛に発出されている(令和6年8月30日保発0 8 3 0 第1号)。

 私たちはこのような厚労省に対して、2024年9月26日、福島みずほ参議院議員事務所を通して
・健康保険証廃止反対の意見が多いことや、マイナ保険証の利用率が低いことを、どう考えているのか?
・マイナ保険証の利用登録解除は、いつから、どのようにおこなうのか?
・「資格確認書」の交付対象を広げるべきではないか?
・医療保険資格が正しく表示されないトラブルは、12月までに解決できるのか?
・マイナ保険証でも、他人が成りすますことはできるのではないか?
・マイナ保険証が一因となって医療機関が閉院していることを、調査し対策しているか?
などのヒアリングを行った(こちら参照)。
 なお同日総務省に対しても、携帯電話契約時の本人確認にマイナカードの公的個人認証しか認めなくすると報じられていることに対するヒアリングを行っている(回答はこちら)。

 厚労省の回答は、いらないネットのサイト(要旨はこちら、質疑内容はこちら)で報告している。またヒアリングの模様は「こばと通信 -声を上げる市民」の協力によりこちらで見ることができる。
 厚労省はパブコメに寄せられた意見は省令改正に反対する内容が圧倒的に多かったことを認めつつ、「より良い医療の提供のためにマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」ため省令改悪を見直す考えがないことを回答した。
 ただ寄せられた意見を無視はでぎず、今後は指摘された不安を解消するための宣伝を行っていくと説明した。実際10月24日以降新聞各紙に下記広報を掲載するなど、マイナ保険証がなくても資格確認書で受診できることや健康保険証も最大1年間利用できることなど、それまでのマイナ保険証の利用促進一辺倒を若干修正した宣伝を行うようになった。
 市民の声が、政府の姿勢を変えさせた。

マイナ保険証有効登録数
(デジタル庁ダッシュボード11月30日時点)


 しかしマイナ保険証利用促進に比べ宣伝量は圧倒的に少ない。また10月28日から可能になるマイナ保険証の利用登録解除(10月9日厚労省事務連絡参照)について、ヒアリングでは周知すると答えながらまったく触れないなど、「不安解消」にはほど遠い内容だ。
 実際12月2日から健康保険証が使えなくなると誤解して、市区町村窓口にマイナンバーカードの申請が押し寄せ(総務省公表資料)、マイナ保険証登録が増加した。人々を不安に駆り立てることで利用促進を図る、こんな手法でどんなデジタル社会を作ろうというのだろうか。

 なおこのヒアリングでは、最近政府がマイナ保険証を促進する理由として「健康保険証では成りすましがある」と強調していることに対してマイナ保険証でも「技術的には」成りすましが可能と認め、また医療機関・薬局は患者にマイナ保険証利用を勧める義務はないと認めるなど、注目すべき回答があった。

 「資格確認書」の交付やマイナ保険証の利用登録解除は、保険者(健保組合、協会けんぽ、自治体=国保・後期高齢者医療、共済組合、国保組合等)が行うことになり、保険者の姿勢が重要になる。
 一部の健保組合では、2024年度入社した新人に健康保険証を交付せずマイナ保険証の手続きを義務づけた(日経2024年9月25日)とか、資格確認書の有効期限を3カ月にして有効期限内にマイナ保険証の手続きを催促したり、資格確認書をマイナカードの紛失や子の出生によりマイナ保険証が取得できない場合のみ発行すると案内している例(東京新聞2024年11月19日)が報じられている。
 そこで加入者約4000万人の最大の保険者である協会けんぽ(全国健康保険協会:健保組合に加入していない企業の従業員対象)に対し、9月30日次の質問書を送り、10月12日までの回答を求めた(いらないネットのサイトに掲載)。
 また公立学校共済組合に対して、全国学校事務労働組合連絡会議(略称「全学労連」)が9月13日に提出した要請書も、いらないネットのサイトに掲載している。

協会けんぽへの質問項目(全文はこちら
(1)「資格情報のお知らせと加入者情報」について
(2)「資格確認書」について
(3)マイナ保険証の利用登録解除について
(4)マイナ保険証のトラブルへの対応について

 しかし協会けんぽからは期日をすぎても回答も連絡もなく、協会けんぽ本部を訪問するなど再三求めた結果、すでに質問した事項が実施されはじめた12月3日にやっと回答がメールで送られてきた(回答の経過と回答内容はこちら)。政府は「国民の皆様の不安には迅速に応え、丁寧に対応する」(11月30日石破首相所信表明)と繰り返しているが、その実態がこの遅延だ。
 
 「資格情報のお知らせ」は、券面で保険資格情報がわからないマイナ保険証の利用登録者を対象に送ることになっていた。マイナ保険証を登録していない加入者は、券面で保険資格がわかる「資格確認書」が交付されるので、本来必要がない。ところが協会けんぽは9月から全加入者に送付している。なぜ全加入者に送っているのか、9月26日のヒアリングで厚労省は「なぜ協会けんぽが全加入者に送っているかわからない」と回答していたが、協会けんぽからは厚労省の指示(令和6年1月9日付事務連絡)にしたがい送ったと、矛盾する回答があった。

 「資格確認書」については「加入者に安心して医療機関を受診していただきたいとの考え」で有効期限を4年から5年の範囲で設定しているとの回答があった。厚労省は加入者を不安にさせる一部の健保組合の不当な対応を是正させるべきだ。

 マイナ保険証の利用登録解除については、早期に回答を得て周知したかったが、実施後の回答になった。当初はまずコールセンターに連絡しないと解除申請用紙が送付されなかったが、保団連が再三要望した結果、12月1日から申請書類がウェブサイトからダウンロードできるようになった(保団連医療ニュース参照)。私たちは申請の提出先が勤務先になると提出しにくくなることを心配したが、加入している協会けんぽ都道府県支部にて受付することになっている。
 なおマイナ保険証の利用登録解除をする際には、下記の申請書を提出するとともに、あわせてマイナ保険証の代わりになる「資格確認書交付申請書」を提出する必要があるので注意が必要だ(詳しくは協会けんぽサイト参照)。

協会けんぽの利用登録解除申請書(協会けんぽサイトより)