携帯電話取得も銀行口座開設もマイナンバーカードが必要に?!

●マイナンバーカードなしでは生活できなくなる?
●「国民を詐欺から守るための総合対策」の内容
●マイナカードの普及・利用の推進を狙う
●携帯電話取得ではすでにマイナカードを強要
●総務省有識者会議では「非電子的方法」の存置も
●マイナンバーカードがない人はどうするのか?
●カード情報読取アプリの問題点
●マイナカードは誤交付や不正取得が発生

 2024年6月18日、犯罪対策閣僚会議が「国民を詐欺から守るための総合対策」を公表した。
 特殊詐欺やロマンス詐欺などの増加を理由に、
・携帯電話取得等や預貯金口座開設の際の本人確認を、非対面(オンライン)ではマイナカードの公的個人認証に原則一本化し、対面(窓口)でもマイナカード等のICチップの情報の読み取りを義務付ける
・マッチングアプリ事業者に対しアカウントの開設時に公的個人認証サービス等による厳密な本人確認を求める
など、マイナンバーカードの所持を前提とするような対策が打ち出されている。
 メディアやSNSではもっばら携帯電話の取得が話題になっているが、預貯金口座の開設でもマイナンバーカードの利用を求めている。生活に欠かせない携帯電話や銀行口座でマイナンバーカードの利用が必須になれば、マイナンバーカードの所持を任意とする番号法に反することになる。
 詐欺対策は誰もが望むが、だからといって携帯電話が取得できなくなったり口座が開設できなくなれば、社会生活が営めなくなり本末転倒だ。マイナンバーカードによらない確認方法を残す必要がある

 「国民を詐欺から守るための総合対策」では、3「犯罪者のツールを奪う」ための対策として、(1) 犯罪者グループ等が用いる電話に関する対策(19頁)と、(2) 預貯金口座等に関する対策(21頁)で、以下の同じ対策が書かれている。なお4「犯罪者を逃さない」ための対策(2) マネー・ローンダリング対策でも、3(2) と同じ対策が再掲されている(25頁)。

犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。
対面でもマイナンバーカードのICチップ情報の読み取りを犯罪収益移転防止法及び携帯電話不正利用防止法の本人確認において義務付ける。
また、そのために必要なICチップ読み取りアプリ等の開発を検討する。さらに、公的個人認証による本人確認を進める。

 このような対策は昨年から打ち出されていた。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、(3)マイナンバーカードの普及及び利用の推進 ⑤ 様々な民間ビジネスにおける利用の推進の中で、以下が書かれていた。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(携帯電話不正利用防止法)に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でも公的個人認証による本人確認を進めるなどし、本人確認書類のコピーは取らないこととする。」(54頁)

 非対面は今回の対策と同じで、対面が「公的個人認証による本人確認を進める」から、マイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りの義務付けに変わっている。ちなみに6月21日閣議決定の本年度の「重点計画」では、犯罪対策閣僚会議の対策と同じ内容が「重点政策一覧」の[No.1-36]として記載されている。
 犯罪対策として今回の対策は必要だという評論が多いが、そもそもマイナンバーカードの普及・利用推進のための民間ビジネスでの利用推進として書かれているように、犯罪対策を利用したマイナカードの普及を意図していた。
 政府は健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化すると脅せば、みなマイナカードを所持すると期待していた。しかしマイナポイントが終了するとマイナカードの新規申請は激減し(下図参照)、カード保有率は74%(6/30現在)と低迷し1/4は所持していない。マイナ保険証の利用率は医療機関・薬局に強要や利益誘導をしても、5月末で7.73%にとどまる。そこでマイナカードの普及のさらなる策として、本人確認での利用の強要を考えているのではないか。

デジタル庁「自治体向けマイナンバーカードご参考資料」(2024年3月6日更新)より

 携帯電話では、すでに昨年からマイナンバーカードがないと取得が困難になっている。
 2023年春、携帯電話3社は相次いで本人確認書類として健康保険証などの取り扱いを終了した(NTTドコモ2023年5月24日以降終了=3月22日発表、KDDI2023年5月31日終了=5月9日発表、ソフトバンク2023年6月13日終了=5月31日発表)。
 終了後の本人確認書類について各社若干の違いはあるが、マイナンバーカード(個人番号カード)や運転免許証等(運転免許証、障がい者の手帳、パスポート、在留カードなど)がサイトに記載され、運転免許証等を取得できない市民にとっては、マイナンバーカードの提示が求められている。
 共通番号いらないネットは、2023年8月17日に携帯電話3社に対して質問・要望を送付
1) マイナンバーカード等を利用しない場合の契約等の手続きを保障すること
2) マイナンバーカード等を所持・利用しない場合の契約方法について、サイトやパンフレット等に掲載するとともに、販売店に周知すること
を求めた。
 各社より回答があった。NTTドコモは、マイナンバーカードの取得を強制するものではなくサイト記載の書類以外での申込は問い合わせを、と回答したが、KDDI(au)は、サイト記載の本人確認書類の提出がない場合は契約手続きを受けられないと回答した。KDDIに対しては10月27日にマイナンバーカード等を所持・利用しない場合の契約方法を検討するよう求める要望を送付したが、回答はなかった。
 ただこれらは各事業者の判断によるもので、携帯電話不正利用防止法の施行規則では健康保険証等も本人確認書類として現在も認められている。2023年9月28日の省庁ヒアリングで総務省は、以下の説明(要旨)をしている。

 制度上、携帯電話不正利用防止法という特殊詐欺対策の法律があり、契約時の本人確認義務があり、確認書類として使用可能なものは施行規則に記載されている。この中に健康保険証は現在も定められており、省令上は現在も本人確認書類して認められているが、省令では「使用することが可能な本人確認書類」を定めており、この全部を使わなくてはいけないということにはなっていない。各事業者でリスクを判断して、どの本人確認書類を使うか判断すると理解している。質問の気持ちはよくわかるので、今の意見は意見として承って検討したい。

 総務省は今年2月に「ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会」を設置し、「不適正利用対策に関するWG」で携帯電話不正利用防止法の本人確認方法の見直しを検討しているが、なぜか検討結果が出る前(6/18)に犯罪対策閣僚会議が対策を示した。
 6月20日の「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」では、非対面・対面ともに電子的な確認の義務化を見直しの方向としているが、犯罪対策閣僚会議の対策にはない「例外的な確認方法としての非電子的な確認方法の存置」も書かれている。また見直しスケジュールとしては、本年度中に省令改正のパブコメを行い、来年度から再来年度にかけて十分な準備期間を確保したうえで施行となっている。

「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」より

 犯罪対策閣僚会議の総合対策では、非対面の本人確認手法はマイナンバーカードの公的個人認証に「原則として」一本化、対面ではマイナンバーカード「等」のICチップ情報の読み取りを義務付けとなっていることで、例外や他の方法も認められるのではないかという「期待」も言われている。しかし「例外」を極小化してマイナカードを押し付ける手法は、マイナ保険証のゴリ押しで経験済だ。
 河野デジタル大臣は6月25日の記者会見で、取得が義務ではないマイナンバーカードの実質義務化ではないか、マイナンバーカードを持っていない人に対してどのように対処する予定かとの質問に対して、次のように答えている。

「対面の場合、今までも、マイナンバーカードあるいは免許証、在留カード、そうしたものを提示いただいておりました。今までは券面で確認していただいておりましたが、ICチップの読み込みを義務化しようということです。券面を提示するか、提示されたもののICチップを読み込むかということで、本人確認を厳格にしようということですので、特に今までと変わることは利用者側からはございません。本人確認の書類を提示していただいて、お店の方に券面の確認だけでなく、ICチップの読み込みを義務化するだけですので、利用者側からは本人確認書類を提示していただくということで変わったことはありません。
(問)マイナンバーカードでなくてもいいということですか。
(答)マイナンバーカードあるいは免許証、在留管理カードというものを対面の場合には提示していただくということになります。 

 また松本総務大臣も6月25日の記者会見で、次のように答えている。

「非対面契約においては、原則としてマイナンバーカードの公的個人認証に一本化してまいります。(中略)対面契約におきましても、本人確認書類のICチップ情報の読み取りを義務付けること、的確な本人確認を行っていくことで、先ほど申しましたように不正な契約を防止し、犯罪につながる不正な契約を防止してまいりたいと思っております。
 マイナンバーカードをお持ちいただいてない場合でも、ICチップ付きの本人確認書類として、例えば運転免許証、在留カードもご利用いただける方針で検討させていただいております。
 具体的な本人確認方法、移行時期については、有識者会議において引き続き検討を進めておりまして、今年度中に、省令改正案をお示しすることができるように議論を進めてまいりたいと思っております。

 対面の場合はマイナンバーカード以外にICチップを内蔵している運転免許証や在留カードも認める方針と答えているが、これでは運転免許証や在留カードを持てない人はマイナンバーカードしか選択肢がない。
 しかも運転免許証は本年度からマイナカードとの「一体化」がはじまり、在留カードは6月14日に成立した入管法改正でマイナカードと一体化することになっている。いずれもマイナ保険証と違い、一体化するか否かは任意となっているが、今後の運転免許証の取扱いは改正法の施行状況を見ながら検討すると河野デジタル大臣は答弁(衆議院本会議令和5年4月14日)しており、在留カードについても河野大臣は「在留外国人が住所の届け出をする際に、確実に一体化した在留カードを申請していただくための仕組みについても措置」するよう2024年3月19日の関係省庁連絡会議で求めるなど、いつまで任意性が保障されるかわからない。
 マイナカードによらない「非電子的な確認方法」を、明確に存置すべきだ
 なお現行の携帯電話新規契約時の本人確認方法は、以下のようになっている。

「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」より

 政府や「識者」は目視確認という不完全な方法でなく、確実なマイナカードのICチップに記録されている電子的情報の利用を推奨している。そのため現在J-LIS(地方公共団体情報システム機構)で配布しているパソコン用の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」(ICカード化した運転免許証も読取可能)に加えて、スマホ利用のアプリを開発するとしている。
 今年6月の番号法改正で、マイナカードの券面記載から性別がやっと削除されたが、ICチップには記録され読み出し可能になっている。現在の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」では、券面の性別も表示されるようになっており、この表示のままアプリを配布すれば券面から性別を削除した意味がなくなる。
 今年から欧州デジタルID規則(eIDASⅡ)によりEU各国に導入された欧州デジタルIDウォレットのように、本人の意思で必要な個人情報だけを必要なところに提供できるという、個人のデータ主権を保障すべきだ
 また在留カードや特別永住者証明書のICチップ記録情報について、出入国在留管理庁が2020年から誰でもダウンロード可能で配布している「在留カード等読取アプリケーション」は、外国人監視に市民を動員するものだと批判をうけている。法令等で確認が認められている行政機関や事業者だけが、確認を認められている項目だけを読取可能にする必要がある

 たしかに偽造はICチップ情報の読取で防げるだろう(現時点では)。しかしマイナカードの成りすまし取得は、ICチップ読取では防げない。マイナカードなら安心と思うのは危険で、複数の確認方法の併用をリスクに応じて利用すべきだ。
 マイナカードの別人への交付や成りすまし取得は、少数だが(氷山の一角?)発生している。
 今年3月29日、総務省はマイナカードを別人に交付したことによりマイナポイントを別人に付与した事案が3件あることを公表した昨年9月の私たちのヒアリングでは、総務省は令和5年度に4団体4件で別人に交付していると答えている。
 2022年から23年にかけて、マイナポイントのためにマイナカード申請が殺到した時期には、連日のように別人の写真に取り違えてマイナカードを交付したことが報じられ、23年6月には総務省が誤交付防止のチェックリストを自治体に通知している。
 マイナカードの誤交付は2016年1月の交付開始以降続いており、事故事例を精力的に立証したマイナンバー違憲差止の神奈川訴訟では、2016年2月29日に栃木県塩谷町、2016年4月26日岡山県倉敷市、2019年11月29日川崎市高津区、2020年2月7日福岡県筑後市、2020年5月22日神奈川県南足柄市などの事例が書証で提出されている。

 誤交付だけでなく、意図的な成りすまし不正取得も発生している。
 2016年8月に報じられた埼玉県熊谷市の例では、親族名義のカード申請書を不正入手し自分の顔写真を貼ってマイナカードを申請してだまし取った。市役所は親族と住所が同じで年齢も似ていたために同一人と信じて交付したとされている。
 2017年11月に報じられた東京都江戸川区の例では、フィリピンに出国した男性が死亡後、男性になりすまして住民票の住所を自分の家に変更し自宅に届いた書類を使って自分の写真で申請している。
 2021年6月には埼玉県ふじみ野市で、知人男性に成りすまして自身の顔写真でマイナンバーカードを不正取得し、新型コロナウイルス対策の特別定額給付金をだましとった男が逮捕。
 2023年2月には新潟市で、長野県在住の男性が「個人番号カード交付通知書・電子証明書発行通知書兼照会書」の回答書を偽造し、新潟市在住者(故人)の身体障害者手帳の顔写真部分を偽造した物も用意し容疑者の顔写真が添付された偽のマイナンバーカードの交付を新潟西区役所で受けて逮捕。
 2023年9月には新潟県上越市で、インターネット上のマイナンバーカード交付申請サイトで何らかの方法で入手した他人の『マイナンバーカード交付申請書』に記された申請書IDと自身の顔写真を登録し、他人名義の個人番号カードを不正に取得し逮捕などが報じられている。
 さらに2023年10月には、架空の人物の戸籍を取得し正規の手続きでマイナカードを作成した女性が警視庁に逮捕されている。
 これらはたまたま別件によって発覚しており、他にも事例は起きていると思われるが、政府は不正取得事例の全体状況を公表していない(把握していない?)。マイナンバーカードの前身の住基カードでは、不正取得と防止対策のイタチゴッコを完全には防止できなかった(「マイナンバーは監視の番号」緑風出版102頁~参照)。マイナカードのICチップ読取を絶対視することはできない。