個人情報保護措置を崩す
マイナンバー法改正案

●番号法の改悪案を国会提出
●制度のあり方を変える改悪案の内容
●マイナンバーの利用「範囲」を拡大
●法律による利用・提供の制限をなし崩しに
●利用や提供の歯止めがなくなる
●有識者からも法改正に懸念の声が
●最高裁判決からも許されない改正案

●番号法の改悪案を国会提出 

 2023年3月7日、政府は番号法改正案を閣議決定し、国会に提出した。4月にも審議が始まろうとしている。共通番号いらないネットは、3月14日、マイナ保険証の強制と番号法改悪に反対する院内集会を開催した。

  集会決議

●制度のあり方を変える改悪案の内容

 この改正案は、いままでの改正が利用事務の拡大であったのに対して、利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに、個人情報保護措置とされていたマイナンバーの利用・提供の法律に定める原則を崩すなど、マイナンバー制度の仕組みそのものを変える今までにない改正になっている。
 デジタル庁による「法案概要」では、今回の法改正は
[1]マイナンバーの利用範囲の拡大
[2]マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し
[3]マイナンバーカードと健康保険証の一体化
[4]マイナンバーカードの普及・利用促進
[5]戸籍等の記載事項への「氏名の振り仮名」の追加
[6]公金受取口座の登録促進(行政機関等経由登録の特例制度の創設)
がポイントとなっている。

    テジタル庁資料 法案「概要」

●マイナンバーの利用「範囲」を拡大

 「法案概要」の1では、改正案では法の理念として、社会保障制度、税制及び災害対策の3分野以外の行政事務もマイナンバーの利用の促進を図ることをうたっている。
 現行法では第3条(基本理念)2で、社会保障・税・災害の分野は利用の促進他の行政分野や行政以外の国民の利便性向上になる分野は利用の可能性を考慮して進めることになっていた。
 それが改正案では「その他の行政分野」が、「利用の可能性を考慮」から「利用の促進」に変わる。

【現行法】第三条2 個人番号及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、行政運営の効率化を通じた国民の利便性の向上に資することを旨として、社会保障制度、税制及び災害対策に関する分野における利用の促進を図るとともに、他の行政分野及び行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない。
   ↓ ↓ ↓
【改正案】第三条2 個人番号及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、行政運営の効率化を通じた国民の利便性の向上に資することを旨として、社会保障制度、税制、災害対策その他の行政分野における利用の促進を図るとともに、行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない。

●法律による利用・提供の制限をなし崩しに

 「法案概要」の2では、マイナンバーの利用と提供(情報連携)の法定主義をなし崩しに緩和しようとしている。
 現行法では、マイナンバーを利用できるのは法9条により別表第一に列挙する事務と自治体が条例で規定する事務のみであり、情報提供ネットワークシステムを使って情報連携できるのは法19条8・9により別表第ニに列挙する事務と個人情報保護委員会規則で認めた自治体の事務に限定されている。
 それを改正案では、第9条の別表第一に列挙されている利用事務に「準じる事務」として省令で定める事務を「準法定事務」として、法律に規定がない事務も行政の判断で国会に図ることなくマイナンバーの利用を可能にする。
 それとともに法19条を改正し、情報連携事務を限定列挙した別表第二を廃止して、別表第一(改正後は単に「別表」)による主務省令で利用を認めている「特定個人番号利用事務」であれば、行政機関等の判断で情報提供ネットワークシステムを使って提供できるようにしようとしている。

●利用や提供の歯止めがなくなると

 番号法が成立した2013年の国会審議では、個人番号の利用範囲あるいは提供範囲は、番号法で社会保障・税・災害と限定的に書いているので、警察や公安でのマイナンバー制度の利用は想定していない、と説明されていた(参議院内閣委2013年5月21日向井政府参考人)。
 自衛官募集業務について、DMを送る対象者を絞り込む際の情報収集にマイナンバー制度を使うことはないかと質問された際には、「社会保障、税、災害対策の分野で利用されるものでありまして、自衛官の募集の分野では利用することはできないものだと承知をいたしておりまして、自衛官の募集につきまして、現在のところマイナンバー制度を利用する予定はございません。」と中谷防衛大臣は答弁していた(参議院安保特別委2015年9月2日)。
 利用を3分野に限定する番号法の規定が、これら利用拡大を防ぐ歯止めとなっていた。
 政府はマイナンバー制度が「安心・安全」である根拠の一つとして、マイナンバーの利用範囲・情報連携の範囲を法律に規定し目的外利用を禁止していることを、私たちにも国会でも説明し、裁判でも主張してきた(下図)。その前提が崩れていく。

法制審議会戸籍法部会2017年10月20日参考資料3マイナンバー制度について

●有識者からも法改正に懸念の声が

 この法改正は、デジタル庁が設置した「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で検討されてきた。
 2022年11月29日の第7回WGでは、デジタル庁の示した法改正事項に対して、有識者から「何かよく分からない間に利用範囲を広げたように伝わらないように」「便利になるから、ということだけで拡大するのではなく、国民の理解を得ることが不可欠」「なぜ歯止めが必要なのかというのは、幾つか懸念があった名寄せリスクですとか、いわゆる国民の情報が全て一元管理されるのではないかというリスクに対する答えだったということは忘れないでいただきたい」などの懸念が示されていた(議事録)。
 デジタル庁が提出した法改正の資料(11頁 下図)でも、「新たに追加されるマイナンバー利用事務や情報連携の状況について事後監視のあり方についても検討が必要か。」との記載がされているが、「事後監視」についての説明はされていない。個人情報保護の役割を果たせていないことがマイナンバー違憲訴訟で指摘されている個人情報保護委員会に、監視を委ねることはできない。
 そもそも「どこまでマイナンバーによるひも付けが広がってしまうのか」との不安に対して法律で明確に制限するための規定であり、「事後監視」すれば済む話ではない。

「マイナンバー法の改正事項」(2022年11月29日第7回WG資料)

●最高裁判決からも許されない改正案 

 この改正案が閣議決定された2日後の3月9日、最高裁は全国8カ所で争われているマイナンバー制度を憲法違反として利用差止等を求めた訴訟のうち、九州・仙台・名古屋訴訟を先行して棄却する判決を下した。大阪訴訟は最高裁に上告中であり、東京・神奈川・金沢訴訟はまだ高裁判決も出ていない段階での異例の最高裁判決だった。
 最高裁判決は争点であった憲法13条のプライバシー権について、15年前(2008年3月6日)の住基ネット最高裁判決と同じく「みだりに第三者に開示又は公表されない自由」と解し、情報化の進展に対応した自己情報コントロール権を認めなかった。また指摘してきた現実に起きている問題事例(いらないネットリーフ12参照)を検証せずに、法の規定をなぞるだけで漏洩や目的外利用等の「危険性は極めて低い」と判断するなど不当な判決だった。
 しかしこの最高裁判決でも、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、芋づる式に外部に流出したり、不当なデータマッチングによって、個人情報がみだりに第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得ると認め、番号法が利用範囲を社会保障・税・災害対策に限定し、提供を制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ認めていること等を、合憲理由の一つとしていることに注視しなければならない。
 政府が番号法改正で行おうとしているのは、これら個人情報保護措置をなし崩しにすることであり、この最高裁判決に照らしても認められるものではない。

2023年3月9日最高裁判決 第1(抜粋)
第1 2(2)個人番号及びその利用範囲イ(抜粋)
「番号利用法は・・・(利用することができる)上記一定の事務の範囲を、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定している。」(3頁)
第1 2(3)特定個人情報の提供に関する規制(抜粋)
「番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し(同法19条)、その禁止が解除される例外事由を同条各号で規定している。」(9頁)

2023年3月9日最高裁判決 第2 1(2)(抜粋)
「・・・前記第1の2(2)イのとおり、番号利用法は、個人番号の利用範囲について、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定するとともに、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由を一般法よりも厳格に規定している。
 さらに、前記第1の2(3) 及び(5)イのとおり、番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し、制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ、その提供を認めるとともに、上記例外事由に該当する場合を除いて他人に対する個人番号の提供の求めや特定個人情報の収集又は保管を禁止するほか、必要な範囲を超えた特定個人情報ファイルの作成を禁止している。
 以上によれば、番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等は、上記の正当な行政目的の範囲内で行われているということができる。」(9頁)

2023年3月9日最高裁判決 第2 3(抜粋)
「もっとも、特定個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が多数含まれることになるところ、理論上は、対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能であるため、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、これらの情報が芋づる式に外部に流出することや、不当なデータマッチング、すなわち、行政機関等が番号利用法上許される範囲を超えて他の行政機関等から特定の個人に係る複数の特定個人情報の提供を受けるなどしてこれらを突合することにより、特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得るものである。
 しかし、番号利用法は、前記第1の2(2)イ及び(3)のとおり、個人番号の利用や特定個人情報の提供について厳格な規制を行うことに加えて、前記第1の2(5) 及び(6)のとおり、特定個人情報の管理について、特定個人情報の漏えい等を防止し、特定個人情報を安全かつ適正に管理するための種々の規制を行うこととしており、・・・・」(10頁)

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