●命を人質にマイナカード普及を図る政府
デジタル庁は11月8日、「よくある質問:健康保険証との一体化に関する質問について」をサイトに掲載した(⇒こちら)。河野デジタル大臣によれば、10月13日の記者会見で「2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と発表して以降、約5千件の質問や不安がデジタル庁のサイトに殺到しているために、代表的な7件の質問に答えたそうだ。
連日メディアでも取り上げられ、多くの芸能人も発言するなど関心が高まっている。国民皆保険制度の日本で、健康保険証がなくなるということは生命にかかわる大問題であり、関心が集まるのは当然だ。にも関わらず、政府が曖昧な説明に終始していることでますます不安が強まるとともに、命を人質にマイナンバーカードの普及を図ろうとする政府への怒りも広がっている。
11月17日には、保険証廃止反対!オンライン資格確認・マイナンバーカード強制反対!緊急院内集会が、衆議院第2議員会館多目的会議室で行われる(⇒詳しくはこちら)。
松野官房長官は10月13日午後の記者会見で、情報流出が怖いといった国民の「漠然とした不安」を払拭するため、カードの安全性についてしっかり広報していくと答えている。しかしマイナ保険証の危険性は「漠然とした不安」ではない。いままで政府が説明してきたマイナンバー制度の危険性を翻して、安全神話をまき散らしても市民の信頼は得られない。
●「マイナンバーカードの取得は任意」と明言
デジタル庁のQ1では、「マイナンバーカードの取得は任意だと思っていましたが、必ず作らなければいけないのでしょうか」の問いに、「マイナンバーカードは、国民の申請に基づき交付されるものであり、この点を変更するものではありません。また、今までと変わりなく保険診療を受けることができます。」と明言している。
10月13日の記者会見以降「マイナカード事実上の義務化」などと報じられ、マイナカードを所持しないと保険診療が受けられなくなるかのような世論づくりがされている。市区町村の窓口には「義務になるなら今のうちに」とばかりにマイナカードの申請が増えているそうだ。「義務化」と誤解して振り回されるのはやめよう。
このような報道がされる原因は、政府の意図的に曖昧な説明にある。河野デジタル大臣は10月13日の記者会見で、記者の再三の「カード所持の義務化なのか」の質問に、「しっかり取得していただくのが大事」「ご理解をいただけるように、しっかり広報していきたい」など、はぐらかした答えに終始した。その一方で、保険証廃止のためにはマイナカードの取得の徹底が必要とも説明していた。申請は任意で所持は自由であるマイナカードの取得を、なぜ「徹底」などと言えるのか、説明もなかった。
Q1では「紛失など例外的な事情により、手元にマイナンバーカードがない方々が保険診療等を受ける際の手続については、今後、関係府省と、別途検討を進めてまいります」と書いているが、マイナカードの所持は任意であり、持たない理由は自由だ。あたかも「紛失など例外的な事情」がなければマイナカードを所持するのが当たり前であるかのような説明は、取得義務はないとの説明と矛盾する。
●マイナカード所持は義務ではない
改めて述べるまでもないが、番号法第16条の二では個人番号カード(マイナンバーカード)は「政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき」発行されることになっており、政令で住所地市町村長は申請者に出頭を求めて個人番号カードを交付することになっている。申請するかしないかは、個人の自由だ。
総務省は経済財政諮問会議の国と地方のシステムワーキング・グループ(2019年3月15日第17回)で、「取得を義務付けるべきではないか」の問いに「マイナンバーカードは、本人の協力のもと、対面での厳格な本人確認を経て発行される必要があるが、カード取得を義務付ければ、この本人の協力を強要することとなり、手法として適当でない。」と答え、その考えは今も変わらないとしている。
公務員へのカード取得強要が社会問題になったときにも、総務省は取得は義務なのかの問いに「マイナンバーカードは、本人の意思で申請するものであり、(公務員に限らず)取得義務は課されておらず、取得を強制するものではない」(総務省自治行政局公務員部福利課の令和元年9月20日付「地方公務員等のマイナンバーカードの一斉取得の推進に関するQ&A」)と説明していた。
●マイナカードの所持は「必須」ではない
マイナンバーカードは法令で定められた事務でマイナンバーの提供を受ける際に、成り済まし犯罪防止のために義務付けられている本人確認の措置の手段として作られた。番号法16条本人確認の措置で「提供をする者から個人番号カードの提示を受けることその他その者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置をとらなければならない」となっているように、その他の方法(例えば運転免許証+通知カード)も認めており所持は必須ではない。
マイナンバー制度の設計にかかわった石井夏生利中央大教授は、朝日新聞のインタビューでその趣旨をこう説明している。
「もともとマイナンバー制度をつくるときにカードがなくてもいいように制度をつくっています。カードの取得を制度運用の条件にすると、取得しない人が制度から漏れてしまい、国民全員に割り振られる番号制度の趣旨を実現できなくなります。また、個人情報保護の面でも国民からの不安がぬぐえないと考えられていました。さらに、カードをつくるには、本人確認のために行政の窓口に来てもらう必要もあります。そういったもろもろの事情があり、カードを必須にはしませんでした」
「ですので義務化に動くとなると、取得を任意としていた前提が崩れることになります。カードは必須ではないと言っていたのに変えてしまうわけですから」
番号法制定の際の国会答弁でも、担当の甘利大臣はマイナンバーカードについて、自分自身を証明することの必要性というのはそれを持っている本人の利便性にかかわることであり、国としてこれを持っていなければけしからぬとか、罰するとか、そういうものではありませんと答えていた。
マイナンバーカードの所持を全ての人に「徹底」するということは、マイナンバー制度の前提を根本から変えることを意味する。なぜ全ての人が所持する必要があるのか、政府は説明していない。
●マイナカードはデジタル社会のパスポート?!
岸田首相や河野大臣は、マイナカードはデジタル社会のパスポートだとか入り口だとか繰り返している。どうやら政府の目指すデジタル社会は、国内版パスポート=マイナカードを持ち歩かないと生活できなくなる社会のようだ。
2021年のデジタル改革6法の国会審議で平井元デジタル担当大臣は、デジタル改革関連法案が描く社会像は、デジタルの活用によって国民の一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会であり、誰一人取り残さない人に優しいデジタル化だ、と説明し、「デジタル社会に参画することは国民の義務ではない」「マイナンバーカードを始めデジタルを全く活用しない生活様式を否定しているものではありません」「個人がデジタル機器を利用しない生活様式や選択も当然尊重されるもの・・・・・・国民にデジタル化を迫るものではない」などと答えていた。
しかし岸田政権の目指しているのは、国民にデジタル化を迫り、デジタル機器を利用しない選択は許さず、マイナンバーカードを活用しない生活様式を否定する社会のようだ。マイナカードを所持しない人を排除しようとする社会のどこが「誰一人取り残さない 人に優しいデジタル化」なのか。デジタル監視は嫌だというニーズは選べず、自己情報をコントロールできるという幸せは実現されない社会だ。
マイナカードを国内版パスポートにすることで何を企んでいるのか、政府はまず明らかにすべきだ。