1月19日の記者会見で、平井デジタル担当大臣が新型コロナ予防接種をマイナンバーで管理すると発言して以降、予防接種を受けるのにマイナンバーカードやマイナンバーの提出が必要になるのでは、という誤解が広がっているようです。
ワクチン接種担当の河野大臣がはっきり国会で説明しているように、ワクチン接種は自治体が発行するクーポン券(接種券)でおこない、マイナンバーカードもマイナンバーも必要ありません(2021年1月26日衆議院予算委員会馬場伸幸委員への答弁等) 。
武田総務大臣も2021年1月26日の衆議院総務委員会で岡本あき子委員の「マイナンバーカードを持っている人とマイナンバーカードを持っていない人でワクチン接種に何か違いがあるのか。カードを持っている方がメリットがあるとか受けやすくなるとか、そういうことにはならないですよね」との質問に、それはないと答弁しています。
政府のQ&Aでも「接種会場でマイナンバーやマイナンバーカードを扱うことはございません。」と明記しています(Q15)。
マイナンバーカードの交付率は2月1日現在25.2%です。カードが必要であれば、大部分の人が予防接種を受けられません。またマイナンバーの記入を求めるなら、かならず本人確認書類(番号のわかる書類と身元確認書類)を提示させることが法律(番号法第16条)で義務づけられています。それでは予防接種が進みません。そんなことはできないのです。
昨年の特別定額給付金のように、緊急事態宣言下にマイナンバーカードの申請に行くような「不要不急」の外出は避けましょう。
●マイナンバーを使わせることが目的と発言
1月19日の記者会見で、平井デジタル担当大臣はマイナンバーの利用について
「今回ワクチン接種に関しては、悉皆性のある国民の唯一のIDであるマイナンバーと紐付けると、間違いが起きないということなので、私の方から河野大臣にマイナンバーを使うことを強く進言したい」
「何のためのマイナンバーなのかということを考えた時に、税と社会保障と災害、その社会保障ということですから、今回使わなくていつ使うんだと私自身は思っています。」
と述べました。
記者会見の最後には、「今日この記者会見で話していることは、非常に異例ですが、全部未確定の話を、今日は自分を追い込む意味で言っています。要するに、マイナンバー担当として、マイナンバーは使えないというような状況だけは避けるという私の強い思いの記者会見だと思ってください。」と発言しています。
ワクチン接種の現場の課題解決ではなく、事前の調整もなしに、マイナンバー制度を使わせたいという強い思いからの発言です。接種開始間近でのこの発言に対して、全国市長会や全国知事会、日本医師会や全国保険医団体連合会から、市町村や医療機関の業務負担増加や混乱を招かない対応を求める意見が相次いでいます。
デジタル庁ができれば、このような「トップダウン」の発言による現場の混乱が多発するのではないかと危惧されます。
●マイナンバー制度ありきがトラブルを生む
このようなマイナンバー制度の普及ありきの姿勢が次々とトラブルを生み、マイナンバー制度への不信感を高めてきました。
2016年1月からのマイナンバーカード交付の大幅遅延トラブルは、普及を焦る国が当初の年1000万枚交付から3カ月1000万枚に計画変更したことが一因でした(下記地方公共団体情報システム機構のカード管理システムの総点検結果参照)。
2017年5月には総務省が、市区町村から事業者に送る「特別徴収税額決定通知書」に、自治体や税理士等からの中止を求める指摘に耳を貸さずにマイナンバーの記載を強行したため各地で誤送付による漏洩が発生し、翌年からの記載を中止しました。この年、地方自治体からのマイナンバーの漏洩は個人情報保護委員会の年次報告によれば220機関270件に及びましたが(41頁)、その多くはマイナンバーを含んだ書類の誤送付・誤交付(17頁)でした。
2020年5月の特別定額給付金の支給では、マイナンバーカードを普及させようと急遽オンライン申請を実施したために、市町村窓口は「三密」状態になり、迅速な給付のはずのオンライン申請が郵送申請より遅くなり市町村は次々とオンライン申請を中止しました。
にも関わらず政府はこれからデジタル庁を設置して、マイナンバー制度の普及と利用拡大、さらに個人情報保護を弱めて利活用を進める再構築をしようとしています。マイナンバー制度の押しつけは止めるべきです。