「健康保険証の存続を」の声を地方自治体から

 厚労省サイトより利用率

 政府が健康保険証の交付を終了しようとしている12月2日まで、あと3ヶ月に迫ってきました。
 マイナ保険証の利用は低迷し、政府が5月から7月まで「マイナ保険証利用促進集中取組月間」を設定してさまざまな利用率向上策を実施しても、利用率は毎月1~2%しか増えず、7月の利用率は11.13%にとどまっています。
 その一方で政府が医療機関等にマイナ保険証の利用をゴリ押しした結果、健康保険証を示しても薬を処方しないなどのトラブルが相次ぎ、厚労省も「健康保険証を受け付けずマイナ保険証の提示を求めることは適切でない」と注意喚起する事態になっています(こちら参照)。

 改めて述べるまでもなくマイナンバーカードの申請は任意であり、マイナンバーカードの所持を前提とするような施策は番号法違反です。
 国民皆保険制度のもとでマイナ保険証に一元化しようとする政府は世論の批判を受けて「資格確認書」が新設され、さらに申請によらず交付するなど修正を加えていますが、「資格確認書」はあくまで当面の措置で健康保険証の代わりにはなりません。

社会保障審議会医療保険部会第166回(2023年8月24日)資料2

 医療機関では、マイナ保険証導入の負担も一因となって閉院が発生し、地域医療に悪影響が出ています。政府はひも付け誤りは解消したとしますが、保険資格が正しく表示されない状態は続いています。その一因として会計検査院は今年5月15日に、医療保険関係情報の登録の遅延が解決していないことを報告しています(「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」59頁~ 下図参照)。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、市町村国保等)にとっては、新たに資格確認書を交付する事務や費用の負担がのしかかっています。施設等は、利用者のマイナンバーカードの取得・更新・管理に困っています。利用者にとっても、マイナ保険証は健康保険証では不要な申請・更新が必要で、資格確認書の交付の遅れや漏れが心配されています。
 健康保険証を存続した方が合理的であることは、誰の目にも明らかです。

 社会保障審議会医療保険部会第179回(2024年6月21日)資料1より

 マイナ保険証が利用されないのは、「情報漏洩が不安」「健康保険証の方が使いやすい」などの理由です。政府がメリットとしてあげる「医療情報の閲覧でより良い医療がうけられる」に対しても、逆に使いたくない理由として「病歴や薬歴を明かしたくないため」と答える人が少なくありません。
 日弁連が2023年11月14日の意見書で指摘するように、マイナ保険証はプライバシー保護に問題があるためです。

 自治体は、住民福祉の増進を図るために地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。政府の姿勢に追従することなく、マイナンバーカードの所持を任意とする番号法を踏まえて、健康保険証の存続と住民の不安の解消のため、以下[1]~[3]の取り組みを行ってください。

[1]政府に対して、健康保険証利用の存続・延長を求めてください。

 共通番号いらないネットの調べでは、2024年8月6日現在、全国自治体の1割を超える少なくとも184の地方議会が健康保険証の存続等を求める意見書を国に提出しています。(意見書の概要は こちら に掲載)。
 健康保険証廃止に懸念を示す首長も出ています。2022年10月の河野デジタル大臣記者会見以降に意見書が採択されなかった自治体も改めて現状を直視し、健康保険証の存続や、住民理解が得られない現状で健康保険証の交付終了をしないよう、政府に求めてください。

[2]マイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられることを、住民に周知してください。

 政府は「マイナ保険証の利用を基本とする」として利便性ばかり宣伝し、利用しない場合の保険診療について積極的に周知していません。その結果、マイナ保険証を希望しない住民や利用困難な住民は、12月以降の保険診療がどうなるのか不安を募らせています。
 マイナ保険証を利用しない場合の保険診療方法や、10月に開始予定のマイナ保険証の利用登録解除手続きについて、住民が不安を感じないよう積極的に広報してください。
 またマイナ保険証を登録していても、マイナ保険証での受診等が困難な高齢者、障害者等「その他保険者が必要と認めた方」には、保険者に申請すれば資格確認書が交付され受診できることを周知してください。

保団連サイト「12月以降に資格確認書(=現行の健康保険証)がもらえる人」より

[3]資格確認書の交付やマイナ保険証の登録解除を確実に行ってください。

 地方自治体は国民健康保険や後期高齢者医療の保険者です。政府が健康保険証の廃止を強行した場合、住民(被保険者)の保険診療を確実に保障しなければなりません。
 厚労省は資格確認書の切れ目のない交付のために、必要なシステム改修等を実施して対象者に以下の対応をするよう保険者に求めています。

A.マイナンバーカードを取得していない方、健康保険証の利用登録をしていない方
 オンライン資格確認等システムから対象者情報を月次で受け、申請不要で資格確認書を交付
B.マイナンバーカードの健康保険証利用登録を解除した方
 解除申請を受けて申請者に資格確認書を交付するとともに、対象者情報をオンライン資格確認等システムへ連携
C.電子証明書の更新を失念した方、マイナンバーカードを返納した方
 オンライン資格確認等システムから対象者情報を月次(返納者情報は日次)で受け、対象者に資格確認書を申請不要で交付
※カード返納者に対しては、返納手続の際に保険者への資格確認書の申請を併せて案内

 社会保障審議会医療保険部会第176回(2024/3/14)資料4より

 しかし岩手県や長野県の保険医協会が県下の自治体にアンケート調査を行ったところ、
・国保加入でマイナ保険証登録者の、有効期間や電子証明書の失効時期を把握していない
・マイナ保険証の利用登録解除のシステム構築について、「まだ検討していない」「国の財政支援が分からず検討できない」「他システムとの連携で改修が難しい」「内容が複雑すぎて見通しがたたない」
などの回答がありました。
 またマイナ保険証登録者以外には申請なく交付することになっている資格確認書について、「申請があった方のみに送付する」とした自治体や、送付対象者の把握が困難なためか「全加入者に送付」とした自治体も少なからずありました。
※岩手県の調査(5月20日~5月31日 33自治体) 集計結果
※長野県の調査(5月13日~7月19日 77市町村)調査結果
 現行の健康保険証は、12月2日以降も最大1年間利用可能ですが、転居・転職等により失効します。「資格確認書」の切れ目のない速やかな交付のために、必要なシステム改修や事務執行の体制を整備するとともに、整備が困難な場合は健康保険証廃止の延期を求めてください。

保団連サイト「マイナ保険証の登録解除が可能に―2024年10月申請受付開始」より
  詳しくは、いらないネットサイト