●バブコメは6月22日まで 早めに提出を
健康保険証の交付義務を削除しようとする省令改正に対して、6月5日に「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようとこのブログで呼びかけて以降、関心が大きく広がっている。締め切り間際は混雑して意見が届かないことがある。早めの投稿を呼びかける。
パブコメはこちらから。提出方法は、共通番号いらないネットのサイト(こちら)や保団連(全国保険医団体連合会)のサイト(こちら)の参照を 。
●保険証廃止は決まっていない
昨年の健康保険法改正で、「資格確認書」の規定が新設された。しかし保険者(健保組合、全国健康保険協会)が健康保険証(「被保険者証」)を交付する義務は省令(施行規則)で規定されているため、省令が改正されるまでは保険証の交付は廃止されていない(詳しくはこちら)。
今回の意見募集(パブリックコメント)は、健康保険法の施行規則からの保険証交付義務の削除などを内容としている。省令改正の公布日は7月上中旬が予定されており、それまでは法的には健康保険証廃止は決まっていない。
他方、国民健康保険法などは法律に保険証交付が規定されており(国保法第9条等)、昨年の法改正で保険証交付の規定は削除され、2024年12月2日以降廃止(=新規交付しない)予定となっている。
とかくパブコメは形式的な手続きと見られがちだが、「政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的」としており(e-govサイト)、行政手続法では提出意見を十分に考慮することが定められている(第42条)。
パブコメ実施中で省令改正されていないにもかかわらず、「12月2日に現行の健康保険証は発行されなくなります」と決定しているかのように断定する厚労省のチラシは、法令を逸脱している。ただちに医療機関から回収・撤去すべきだ。
●オンライン資格確認システムの実施も裁判中
マイナ保険証のためのオンライン資格確認等システムの実施義務についても、裁判で争われている最中だ。
厚労省は厚生労働省令(療養担当規則)により、医療機関に対し2023年4月からの原則義務化を「決定」した。しかし健康保険法70条1項が省令に委任しているのは「療養の給付」であり、被保険者の「資格確認」方法については委任の内容に含まれていない。健康保険法の委任がないにもかかわらず、省令で保険医療機関に対してオンライン資格確認を義務づけているのは、憲法41条に違反し違法かつ無効だ。
現在、保険医1,415人が原告となって、東京地裁で「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」が争われている(こちらを参照)。原告が勝訴すれば、マイナ保険証の利用を医療機関に押し付けることもできなくなる。注目を。
●アメとムチで医療機関にマイナ保険証利用圧力
マイナ保険証の利用率が6%程度で低迷しているため、厚労省は5~7月をマイナ保険証利用促進集中取組月間として、医療機関に圧力をかけてマイナ保険証利用率向上に力を入れている。医療機関の利用状況を調査して、表彰したり、利用率の低い医療機関にメールを送ったりしている。
利用促進すると10~20万円の支援金(報奨金)を医療機関に給付したり、6月からは診療報酬を改訂し初診で80円(歯科60円、調剤40円)の「医療DX推進体制整備加算」を新設した。患者は利用の有無にかかわらず、マイナ保険証のおかげで24円、18円、12円の値上げだ(3割負担の場合)。
利用促進のための問答集(マイナ保険証利用促進トークスクリプト)やチェックリストを配布して、受診者への「説得」に医療機関を駆り立てている。
●マイナ保険証の利用は義務ではない
私たち市民にマイナ保険証の利用を義務付ける法律は、どこにもない。それどころかマイナンバーカードの取得は番号法で任意であり、それは今年12月以降も変わらないことを、政府は何回も言明している。マイナ保険証の利用を強要することは許されない。
しかし政府の圧力によって、一部の薬局で健康保険証では薬がもらえなかったり、マイナ保険証を使わないと診療が後回しにされるなどの異常な事態が報じられている(6月6日報道ステーション等)。
当事者に取材した6月9日の東京新聞のサイトによれば、東京都の40代男性が5月30日、薬をもらおうと都内薬局に処方箋と一緒に現行の保険証を差し出したところ、「マイナ保険証のみの受け付けになります」と言われ保険証を突き返され、Xに怒りの投稿をした。この大手薬局は「マイナ保険証がなくても受付が可能」「誤解を招く説明」と謝罪したが、昨年12月から、全国に約900ある全系列店で薬を処方する際、現行の保険証での資格確認を取りやめていたそうだ。
法令(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第3条)では、薬局が薬を処方する場合、処方箋かマイナ保険証(電子資格確認)か現行の健康保険証かのいずれかで資格確認すれば良いことになっている。たいていは処方箋を示せば薬はもらえる。厚労省も薬剤師会も、問われれば健康保険証で良いと説明している。
●マイナ保険証の優先扱いは差別
またマイナ保険証の利用で優先して受付するのは差別的扱いだ。厚労省が医療機関や薬局にマイナ保険証用の専用レーンの設置を求めている(右図)ために、そのようなことが起きている。
マイナ保険証の方が受付が速くできるから、とか説明されているが、実際はマイナ保険証の方が時間がかかっている。マイナ保険証を推進している日本保険薬局協会でも、カードリーダーの読み取りや本人確認、暗証番号の入力などを行う必要があるため、マイナ保険証の受付率が高い薬局では患者の待ち時間が発生していると指摘しているそうだ(CBnews5月13日)。
●医療機関・薬局・保険者は保険証存続を求めよ
マイナ保険証の利用率は低迷しつづけている。強圧的な普及策をやっても月1%程度しか増えず、5月の利用率も7.73%だ(厚労省サイト)。これで半年後に健康保険証を廃止できるのか。
マイナ保険証のメリットと政府が説明してきたことは、ことごとく事実に反していることが露呈し、厚労省は「医療DXのため」「より良い医療のため」と、繰り返すしかできなくなっている。
マイナ保険証を忌避する患者と厚労省の板挟みになって、医療機関・薬局は望んでもいないマイナ保険証のセールスを強いられ、患者との関係を悪化させている。患者に迫るのではなく、厚労省に対して保険証廃止の撤回を迫るべきだ。
保険者(健保組合、協会けんぽ、国保等)は、健康保険証交付費用の削減を期待していた。しかし協会けんぽの前理事長は、保険証発行費用の年15億円削減や職員の業務量の大幅削減を皮算用していたが、いままで有効期間のなかった保険証の代わりに5年毎に資格確認書の発行が必要になったために余分なコストが発生してしまうと述べている(日経私見卓見6月12日)。
もはや誰にもメリットのない健康保険証廃止は止めるべきだ。厚労省も「医療DX」のイメージを悪くするマイナ保険証の押し付けは止めて、健康保険証とマイナ保険証の選択を市民に委ねればいい。厚労省の言うように、マイナ保険証がより良い医療に資するなら、市民はそちらを選ぶはずだから。
パブコメで「健康保険証廃止するな」の声を集中し、保険証廃止のための健康保険法施行規則改正を止めさせよう。そして国民健康保険法等を改正し健康保険証交付の規定を復活させて、健康保険証を存続させよう。