「マイナンバー制度」カテゴリーアーカイブ

デジタル庁下のマイナンバー制度
2・8院内集会

2月9日、デジタル庁関連法案の閣議決定がおこなわれます。
国民背番号制と本人同意なき個人情報の民官共同利用を狙うデジタル庁関連法の制定に反対しましょう。
参加できない方、オンライン配信をおこないます。下記からご視聴ください。
https://youtu.be/5GLBmG-NxlU

2・8「デジタル庁下のマイナンバー制度」院内集会

●日時 2月8日(月)13時30分〜15時30分
●会場 衆議院第二議員会館第4会議室
●お話 原田富弘さん(共通番号いらないネット)
    「デジタル庁下のマイナンバー制度」
       -「利用拡大から「再構築」へ!」
    ほか
●共催 共謀罪NO!実行委、秘密保護法廃止!実行委
●連絡先 080-5052-0270(宮崎)
詳しくは主催者サイト⇒こちら

「デジタル庁下のマイナンバー制度-利用拡大から再構築へ!」
  資料(クリックすると矢印が出てページがめくれます)
    ※集会で使用した資料に更新しました(2021.2.8)

0597d2e48ee343a183a781c1d4f9fc56

●資料のダウンロードはこちらをクリック

●2.8 国会前行動、院内集会の報告はこちらから

10万円給付金失敗の二の舞に
コロナ予防接種に番号利用?

●マイナンバー制度の利用にこだわれば・・・・・・

 昨年4月20日、共通番号いらないネットは「新型コロナ対策に便乗したマイナンバー制度の利用に反対する」声明で、 政府が給付金支給にマイナンバー制度の利用を検討していることに対して「マイナンバー制度の利用にこだわれば、かえって円滑な給付はできなくなる」と指摘した。
  しかし政府は、一人10万円の特別定額給付金の支給を利用してマイナンバーカードを普及させようと、 5月1日からマイナンバーカードを使ったオンライン申請を始めた。マイナンバーカードが普及しておらず電子証明書の更新も始まっている中で行った結果、カードの交付申請や電子証明書の手続きなどで役所の窓口に殺到し、迅速な給付のはずが郵送申請よりも遅くなるという事態を招き、市区町村は次々とオンライン申請を中止するに至った
 政府はこの誤りを反省せず、「デジタル対応が可能となっているにもかかわらず、実運用するための準備不足や、対面・書面を前提とした行政運営により、デジタルが活用されず、迅速な給付等に支障が出た」(「世界最先端デジタル国家創造宣言」5頁)などと自治体に責任転嫁していた。

●コロナ予防接種はマイナンバー活用の試金石?

 この誤りがまた繰り返されようとしている。
 1月19日の記者会見で、平井デジタル改革相(マイナンバー制度担当)は突然、新型コロナウイルスのワクチン接種の管理にマイナンバーを活用すべきだと述べた。報道によれば、「誰にいつ何をうったかを確実に管理するのはマイナンバーしかない」とか「マイナンバーは個人を特定する唯一の番号。それにワクチンをひもづけるのは当然の考えだ」「マイナンバーを使うと間違いが起きない。今回使わなくていつ使うのか」などと主張したようだ。
 「どのようにマイナンバーとひもづけ、管理するかはこれから考えるべき」とも発言しているようで、ワクチン接種の実務を踏まえた発言ではなく、 マイナンバー制度を使わせたいということからの主張だ。
 すでに昨年暮れから準備してきた厚労省も自治体も困惑していると報じられている。ワクチン接種の情報管理にマイナンバーを活用することに関し、全国市長会はワクチン接種を担当する河野太郎行政改革相に、「自治体の事務が増えることは非常に困る」との懸念を伝えている。それでもシステム導入をしようとしているようで、短期間の大規模なプロジェクトに混乱を生じることが心配される。
 「マイナンバー活用の試金石」とか「マイナンバーの効果や意義を知ってもらう機会になる」(毎日新聞1月27日) などという意図で、ワクチン接種を利用すべきではない。特別定額給付金の失敗が、「マイナンバーシステムをはじめ行政の情報システムが、国民が安心して簡単に利用する視点で十分に構築されていなかった」(「骨太の方針2020」15頁)ことを知らしめたことを思い起こすべきだ。

●すでに予防接種事務にマイナンバーは利用

 実は、すでに予防接種事務にマイナンバー制度は利用可能になっている。
 マイナンバーを利用できる事務は番号法の別表第1とその省令に、情報提供ネットワークシステムを利用できる事務は別表第2とその省令に列挙されているが、予防接種は2013年に番号法ができた当初から、利用事務として別表第1の10に載っていた。なお予防接種事務にマイナンバーを利用できるのは市区町村長または都道府県知事であり、国は利用できない。
 さらに2015年9月に成立した番号利用拡大法で、予防接種の実施に関する情報を情報提供ネットワークシステムで提供することが加わり(下図)、転居前の接種履歴を照会できるようになっている(別表第2の16)。このときあわせて特定健診の管理にマイナンバーを利用することも加わり、マイナンバー制度の開始前にもかかわらず、当初は利用しないことになっていた医療健康情報に利用が広がることへの懸念が指摘されていた。

IT総合戦略本部マイナンバー等分科会第8回(2015年2月16日)資料2

 情報提供ネットワークシステムは2017年7月18日から試行運用が、同年11月13日から本格運用が開始されている。新型コロナのワクチン接種については、2020年12月9日に予防接種法6条の臨時予防接種とする法改正が施行され、マイナンバー制度の利用が可能となっている。

  「接種記録について」(2019年12月23日厚労省資料)

●実際のマイナンバー制度の利用状況は?

 しかし実際に予防接種事務でマイナンバー制度がどのように利用されているかは、厚労省も把握していない (毎日新聞1月27日) 。昨年12月11日にまとめられた「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」が、 既に情報連携が開始されている事務における実施の徹底や、マイナンバー法上は情報連携が可能だが未だ開始していない事務における対応を求めているように (24頁) 、情報提供ネットワークシステムは想定したほどには使われていない。
 1月9日の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」学習会の検討資料18~20頁で紹介しているように、年金事務など大量の照会が発生する事務で利用件数は増えているが、単発で処理する事務ではあまり利用されていないのではないかと思われる。
 また予防接種事務では、厚労省が情報連携の本格運用開始に当たっての留意事項を通知しているように、医療機関に委託して実施しているために接種状況の確認に一定の時間を要し、転入者が転入した直後に情報連携を行っても正しい情報が得られないため、従前どおり母子健康手帳等により予防接種履歴を確認することを求めている。このようなタイムラグは、その他の事務でも発生している。
 情報提供ネットワークシステムは一般に思われているほど効率的ではなく、自治体間で電話で問い合わせた方が早いということもある。

 横浜市の例「特定個人情報保護評価書(予防接種事務)」より

●どうマイナンバーを使おうとしているか

 新型コロナのワクチン予防接種は2月下旬から医療従事者に、4月以降高齢者への接種開始が予定されている。実施が迫っているが、マイナンバーをどう使おうとしているかは明らかではない。
 1月26日の衆議院予算委員会では、ワクチン接種担当の河野大臣は「接種の業務そのものにマイナンバーカードは必要ない。自治体が発行するクーポン券、接種券でやる」と答弁し、ワクチンの配送等を管理する厚労省の「ワクチン接種円滑化システム」(V-SYS)と自治体の予防接種台帳を連携する新システムを一から作ると報じられていた

 1月29日の日経新聞によれば、自治体ごとの接種台帳ではなく住民基本台帳を基盤にマイナンバーを活用した全国共通の一元化システムをつくり、接種の際は自治体から送られた接種券(クーポン券)を接種会場で提示し、免許証など本人証明を示し券に記載したQRコードを読み取ってもらう方法だという。免許証など本人証明が必要では、接種会場の混雑に拍車をかける。

  1月28日の参議院予算委員会では、田村厚労大臣は副反応の詳細な状況を把握するために河野大臣が新システムを検討していると答弁した。河野ワクチン接種担当大臣は自治体の接種台帳や厚労省のV-SYSとはまったく別個に、リアルタイムで接種情報を取得したり転居した人を追いかけるシステムを新たに足すかどうかの検討をしていると説明し、自治体の接種台帳をベースとしたシステムには触らないので自治体に迷惑はかけないと答弁した。平井デジタル担当大臣は、早く接種状況を把握するために世界ですでに使われているシステムの中でいいものを導入することを検討中と答弁した。  

       厚労省の自治体への説明資料より

●これからマイナンバーを使うのは無理

 既存の自治体の予防接種台帳とは別に新たな一元的管理システムを作ろうとしているようだが、 国が管理する新たなシステムでマイナンバーを利用するのであれば、番号法の改正が必要だ。

 国の新たなシステムであればもちろん、自治体のシステムとして作るとしても、マイナンバーを付けた個人情報(特定個人情報)を利用するためには特定個人情報保護評価を事前に行う必要がある。これは特定個人情報ファイルの取扱いが個人のプライバシー等の権利利益に影響を及ぼしかねないことを認識し、特定個人情報の漏えいその他の事態を発生させるリスクを軽減させるために適切な措置を講じ、個人のプライバシー等の権利利益の保護に取り組んでいることを事前点検するものだ。実施した「評価書」は各自治体や個人情報保護委員会のサイトで見ることができる。
 新たなシステムを作るのであれば、事前に特定個人情報保護評価が必要だ。既存のシステムに付加する場合でも、「評価書」の重大な変更であり保護評価の再実施が必要になる。対象人員が30万人を超える自治体では、パブリック・コメント(期間は原則1カ月)で意見聴取を実施し、個人情報保護審議会等で第三者点検を実施する必要がある。遅くともプログラミングの開始前に完了することが原則だ (個人情報保護委員会の概要資料参照) 。

特定個人情報保護評価について(概要版)」 (個人情報保護委員会)

 さらに自治体が情報提供ネットワークシステムの利用を変更する場合は、情報連携の対象となるデータを規定する「データ標準レイアウト」を修正しなければならないが、この改版は年1回7月となっている。事前に正しく連携されるか団体間でのテストなどが必要だ。国による新しいシステムなら、情報提供の仕組みを作るだけでなく、連携用のデータ標準レイアウトも作らなければならない。

 高齢者向け接種では2月に接種券の印刷などを行い、3月中旬に郵送するための準備が進んでいる。この時期に新たに一元的な管理システムを作ることの是非の検証も必要だが、それにマイナンバーを利用するなどというのは現実的ではない。日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)を試す(日経新聞1月29日朝刊)ために、人命のかかったワクチン接種を利用するなどというのはとんでもない。

デジタル庁で再構築される
マイナンバー制度の危険

●デジタル庁なんていらない! 1・18院内集会開催

 国会開会日の1月18日、 共謀罪NO!実行委員会と「秘密保護法」廃止へ!実行委員会の主催(共通番号いらないネットも賛同)で、デジタル庁なんていらない! 1・18院内集会が行われ、ライブ配信を含め約350名が参加した。海渡弁護士(共謀罪対策弁護団)と共通番号いらないネット(原田)より発言。伊藤岳参議院議員、逢坂誠二衆議院議員、福島みずほ参議院議員から挨拶を受けた。
 海渡弁護士からは、首相直属で作られるデジタル庁の集約した情報が内閣官房の内閣情報調査室を介して警察と共有される可能性が否定できず、公安警察や自衛隊情報保全隊、公安調査庁などの活動を監視する政府から独立した機関を、アメリカ、ドイツ、オランダなどの制度を参考に作る必要を訴えられた。
 共通番号いらないネット(原田)からは、 政府は普及・利用が行き詰まっていたマイナンバー制度をコロナ禍を利用した「ショック・ドクトリン」で抜本改善(再構築)しようとワーキンググルーブ(WG)報告をまとめ、それがデジタル改革関連法案になっていることを紹介し、あわせて個人情報保護条例が国基準化によって有名無実化しようとしていることを報告した。

●J-LISの国管理化で迫る「国民総背番号制」

 住基ネットができた際に「国民総背番号制ではない」と政府が説明した根拠の一つが「地方公共団体共同のシステムであり国が管理するシステムではない」ということだった。しかしWG報告やデジタル改革関連法案では、その「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」を国と地方の共同団体の管理に変え、国(デジタル庁・総務省)が目標設定や計画認可し、改善措置命令に違反すると理事長を解任するなど、事実上、国管理化しようとしている。
 地方公共団体情報システム機構は、住基ネットの全国センターやマイナンバーの生成、マイナンバーカードの交付システム、公的個人認証(電子証明書)、そして情報連携用の 全住民の最新の住民データを保管する「中間サーバープラットフォーム」を設置するなど、住民情報を一手に管理している(下図)。そこが国管理化されれば、公安機関の不正アクセスや警察の捜査関係事項照会などによって、 海渡弁護士の指摘のように住民情報を警察と共有する不安が高まる。

         J-LIS案内パンフ(2頁)

●プライバシー保護から個人情報の提供拡大へ

 住基ネットに反対していた民主党政権下で構想されたマイナンバー制度は、住基ネットへの市民の強い反対や最高裁判決を受けて、それなりにプライバシー規制やセキュリティを意識した仕組みとして作られてきた。
 しかし自民党政権や経済界は、プライバシーに配慮しすぎたために利用が広がらないと見なして、デジタル庁の下でマイナンバー制度を再構築し個人情報の官民共同利用を進めようとしている。

 行政機関間の情報連携の仕組みである情報提供ネットワークシステムの利用の徹底を求めるとともに、社会保障・税・災害の3分野以外への利用拡大やマイナンバーを使わない事務への利用に広げ、さらに情報連携の仕組みそのものを抜本的に見直そうとしている。
 民間との間では、本来マイナンバーで管理・提供される自分の情報を確認するという個人情報保護のために作られたマイナポータル(番号法では「情報提供等記録開示システム」)を、マイナンバーで管理する個人情報を民間等に提供する仕組みとして利用し、個人・官・民をつなぐ「情報ハブ」にしようとしている。
 いま政府が力を入れているのは、マイナンバーカードに内蔵(任意)の電子証明書の発行番号(シリアル番号)を、 利用に規制のあるマイナンバーの代わりに個人を識別特定するIDとして転用し、官民のデータベースのIDとリンクさせる利用だ。マイナポイントも健康保険証利用もこの仕組みを使っている。そのためにマイナンバーカードを全住民に所持させようとしているが、必要な保護措置は講じられていない。
 さらにあらゆる行政手続をスマホから可能にするため、電子証明書をスマホで利用できるようにしようとしているが、マイナンバーカードを使った初期設定が必要だ。スマホと電子証明書のシリアル番号による個人識別がむすびついて、一人一人の生活と行動を監視するツールになる。

●2025年までにデジタル庁が作ろうとしている社会

 デジタル庁は、マイナンバー関連システムや電子証明など「社会のデジタル化の基盤」となるシステムを関係省庁から移管して、個人を識別する番号に関する総合的・基本的な政策の企画立案やマイナンバー制度の利用や情報提供ネットワークシステムの設置・管理などを一括して行うことになっている。権限と予算と人員を集中して、トップダウンでシステムの再構築をすることが目的だ。
 さらにクラウドサービスの利用環境である「(仮称)Gov-Cloud」を整備し、政府システムだけでなく準公共分野(医療、教育、防災等)や地方自治体、独立行政法人の情報システムなどで活用し、自治体の業務システムを標準化・共通化するなど「ガバメントネットワーク」を整備しようとしている。
 このようなデジタル庁によって2025年までに、官民でデータをシームレスで共有化するため庁内連携・団体間連携・民間との対外接続に対応する「公共サービスメッシュ」という情報連携基盤を作ろうとしている。
 マイナンバー制度は、制度発足時に説明されていた姿からは似つかないものに変貌をとげようとしている。

    ワーキンググルーブ報告 有識者提出資料より

院内集会で使用した説明資料は以下のとおり

※資料のダウンロードはこちらから

「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」学習会開催

 2020年12月11日、デジタル・ガバメント閣僚会議のマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループが、第6回会合で報告「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて」をまとめました。
 その内容は「骨太の方針2020」がマイナンバー制度を「国民が安心して簡単に利用する視点で十分に構築されてこなかった」と認めたことを受けて、「普及」や「利用拡大」でなくデジタル庁のもとで「抜本的な改善」と称する再構築をしようとするものです。

●J-LISを国の管理機関にして「国民総背番号制」に

 たとえば、地方公共団体が共同で運営してきた「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」を、新たに国と地方の共同団体の管理に変え、デジタル庁と総務省で共管し、デジタル大臣と総務大臣が目標設定・計画認可し、改善措置命令に違反するとJ-LIS理事長を解任するなど、事実上、国管理化しようとしています。
 J-LISは住基ネットの全国センターやマイナンバーの生成、マイナンバーカードの交付システム、(10万円の定額給付金のトラブルで有名になった)公的個人認証(電子証明書)、そして全住民の最新の住民データを保管する「中間サーバープラットフォーム」を設置するなど、マイナンバー関連の個人情報を一手に管理しています。
 かつて国会で住基ネットを新設する住基法改正が審議された際に、当時の小渕首相は、住基ネットは地方公共団体共同のシステムで国が管理するシステムではなく、したがって国民に付した番号のもとに国があらゆる個人情報を一元的に収集管理するという国民総背番号制とは異なる、と答弁していました(1999年6月10日衆議院地方行政委員会)
 国管理化されれば、まさに国民総背番号制度です。

●官民で個人情報の共有を一気に拡大

 マイナンバー制度の目的である情報連携についても、 低調な情報提供ネットワークシステムの利用の徹底を迫るだけでなく、社会保障・税・災害という3分野以外での利用に広げ、「情報連携に係るアーキテクチャーの抜本的見直し」など制度の作り替えをしようとしています。
 さらにもともとはマイナンバーで管理・提供されている自分の情報を確認するという個人情報保護のために作られたマイナポータルを、逆にマイナンバーで管理する個人情報を民間などに提供する仕組みとして利用し、デジタル政府・デジタル社会における個人、官、民をつなぐ「情報ハブ」にしようとしています。

●電子証明書を使った「脱法マイナンバー

 昨年12月16日の日経新聞がマイナンバー制度を使った小中学生の成績・履歴データ化の管理を報じて、学校の成績がマイナンバー制度で管理されて一生ついてまわるのかと話題になりました。今回の「報告」に「学習者のID とマイナンバーカードとの紐付け等、転校時等の教育データの持ち運び等の方策」も入っています。
 この管理に利用されるのがマイナンバーカードに内蔵の電子証明書です。電子申請などに使われる電子証明書を、その本来の目的と異なり、電子証明書の発行番号(シリアル番号)を個人を識別特定するIDとして利用し学習者のIDとひも付けて管理しようとするものです。今回の「報告」では、さまざまなデータとのひも付けを計画しています。
 マイナンバー制度をつくるためにまとめられた「社会保障・税番号大綱」 (47頁) では、 電子証明書のシリアル番号について住民票コードと同様の告知要求制限を設けるなど保護措置を検討することになっていましたが、保護措置も講じられないまま、政府は規制の多いマイナンバーのかわりに 「民間も含めて幅広く利用が可能」などと「脱法マイナンバー」として利用を広げようとしています。

● 1月18日からの国会で一挙に法改正目論む

 このようなマイナンバー制度の再構築が、デジタル庁やデータ戦略などと一体となって、1月18日からの国会に法案提出されようとしています。

 共通番号いらないネットでは、この急な「抜本改善」の動きについて、1月9日に緊急に学習会を行いました。以下は、学習会の資料です。
 学習会の様子はYouTubeで見ることができます(ここをクリック)。

88eb8f3f8ba81864940dc457769f3cad-2

付番義務付けは見送られたが、
問題だらけの預貯金口座付番案

●預貯金口座へのマイナンバー付番の案が提示

 11月27日、デジタル・ガバメント閣僚会議のマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ第5回に、預貯金口座付番についての内閣官房の案が示された。メディアが口座へのマイナンバーひも付けの義務化は見送りと報じているように、国民が番号を金融機関に告知する義務は規定しないとしている。
 口座への付番義務付けなどできないことは、私たちもこのブログや10月24日の学習会などで指摘してきたし、メディアも指摘し、政府の事務方トップの向井治紀番号制度推進室長も11月4日にマイナンバー・口座ひもづけ「義務化へ罰則は無理筋」と講演していた。
 義務付けについては、自民党PT提言は政府に全口座への付番義務づけの検討を求め、高市前総務大臣は振り込み用の一人一口座の付番義務づけを主張するなど、自民党内でも意見が分かれていたが、自民党の義務化への執念をとりあえず断念させたのは世論の勝利だ。

●問題だらけの内閣官房の口座付番案

この会議の配布資料は
 資料1: 内閣官房説明資料(PDF/1,033KB)
 資料2: 事務局説明資料(非公表)
となっており、なぜか「事務局説明資料」が非公開だ。 公開されている内閣官房の資料が「イメージ」であることを考えると、具体的な制度設計が煮詰まっていないと思われるが、内閣官房説明資料をみるかぎりでも問題だらけで、義務化されなかったからよかったでは済まない。

 今回政府がやろうとしているのは、国民が自らの判断で、公金受取のための口座登録と、保有する口座へのマイナンバー付番の同意を行うことにより、
(1)様々な給付金を、簡単 な手続で受け取れるようにする
(2)災害時・相続時に、通帳を紛失したり、口座がわからなくても、口座の所在を確認できるようにする
ことだ。

そのための制度として
(1)マイナンバー付きの公金受取口座を国に登録する制度を創設する。
(2)相続の発生や災害に備え 、あらかじめ口座へのマイナンバーの付番の同意を得たうえで、預金保険機構が、本人の既にマイナンバー付番された口座以外の口座に付番する サービスを創設する 。
(3)相続発生時、災害時に、本人がマイナンバーを提示すれば 、マイナンバーで付番しておいた口座の所在を確認できる制度を創設する。
としている。

          図はすべて内閣官房説明資料より

●給付遅れは振込口座情報の申告のためか?

 制度をつくる理由として内閣官房説明資料では
「今般の新型コロナウィルス対策の給付金においては、個人が振込口座情報を申告する必要があったため、申請者や、確認作業を行う職員の負担となり、迅速な給付のボトルネックとなった。また、マイナンバーを利用することができず、照合作業が非効率なものとなった。」
と、振込口座申告が迅速な給付のボトルネックになったと説明している。

 しかし一人10万円の特別定額給付金の給付の混乱の主要な原因
1)マイナンバーカードが普及せず、電子証明書やマイナポータルが知られていない中での、安易なオンライン申請の推奨
2)2016年のマイナンバーカード交付などたびたびトラブルを起こしている地方公共団体情報システム機構のシステムの準備不足
3)現場の事務を知らない内閣府が急ごしらえで作ったオンライン申請システムによる市町村の過重な事務負担
だった。

 政府も2020年7月17日閣議決定の「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、特別定額給付金の課題として
「申請だけでなく給付に至るまでの手続全体のデジタル化、マイナンバーの活用に係る制度的制約、マイナンバーカードの普及等の課題がある。
 また、デジタル対応が可能となっているにもかかわらず、実運用するための準備不足や、対面・書面を前提とした行政運営により、デジタルが活用されず、迅速な給付等に支障が出たケースもある。」(5頁)
と述べていて、振込口座の申告のことは特に書いていない。

●マイナンバーを利用できず非効率になったのか?

 また今回の内閣官房説明資料では、
「マイナンバーを利用することができず、照合作業が非効率なものとなった。」
と書いているが、上記「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、デジタル対応が可能となっているにもかかわらず、準備不足等でデジタルが活用されず迅速な給付等に支障が出たと、自治体の「デジタル対応」の遅れに責任転嫁するようなことを書いている。

 これは具体的には、オンライン申請に使う電子証明書のシリアル番号によって照合作業を可能にしたのに対応できなかった自治体がある、ということだ(「住民行政の窓」(日本加除出版)2020年7月号 内閣官房番号制度担当室笹野参事官の「マイナポータルを通じた特別定額給付金のオンライン申請について」参照)。
  このような個人識別特定に電子証明書のシリアル番号を使うことには疑義があるが、マイナンバーを利用できなかったから照合作業が非効率になったという内閣官房説明資料は、この説明とも矛盾する。

 問題の原因を正しく認識(反省)しなければ、間違った対策になる。

●どこで口座ひも付け情報を管理するのか

 マイナンバー付きの公金受取口座を国に登録する制度を創設するということだが、どこがどのようにマイナンバーと口座情報のひも付けデータを管理するのか。
 公金受取口座の登録の仕組みについて、内閣官房説明資料では下図だけを示しているが、マイナポータルのところに公金受取口座情報となっている。 向井番号制度推進室長は11月4日の講演で「マイナポータルに登録をしてもらう」と言っている。マイナポータルを使って登録するだけなのか、マイナポータルで口座情報を管理するのか、まったく意味が異なる。制度設計が不明だ。

 マイナポータルはセキュリティ上の理由もあり、表示した情報は利用者参照後に自動的に消去するなどあくまで一時的な個人情報の置き場とされている( 「情報提供等記録開示システムの運営に関する事務全項目評価書 」p.7-9(2015年5月個人情報保護委員会Webサイトで公開、現在は更新されこの図は載っていない)参照 )。
 もしマイナポータルで公金受取口座情報を継続的に記録することになると、マイナンバーの制度設計の大きな変更になり、マイナンバー制度の危険性が増大する。

●どうやって登録口座情報を更新し利用するか?

 さらにいらないネットの10月24日学習会でも論議されたように、
・最新の口座登録情報へメンテナンスをどの機関がどのように行うか
・登録口座情報と本人が申請書に記載した口座情報が異なる場合、かえって余計な照合事務が増える
などの課題がある。

 現在、休眠口座も含むが一人平均10口座くらい持っている。そのどれを公金振込先口座とするかは、さまざまな事情による。年金等の振込口座と普段使いの口座を分けている人も多いだろうし、この夏のドコモ口座による預貯金の流出事件を受けて、リスク分散のために口座を分けた人もいるだろう。 給与振込手数料軽減のために、転職するたびに勤務先から口座を指定されて開設している人もいる。
 振込先口座は常に変わると思わなければならず、 「一生ものの口座を登録する」(高市前総務大臣発言)などということはできない。最新の振込先口座を確認し更新していないと、誤った給付につながる。メンテナンスの仕組みが重要だ。

 また今回の内閣官房案のように多目的に使おうとすると、各給付で指定している口座のどれを「公金受取口座」として登録するかが問題だ。 公金受取口座を一本化すると、リスク分散ができなくなるなど日常生活に支障がでる場合もある。
 また緊急時給付金の申請に記載した口座と、公金受取口座が相違した場合、かえってその照合・確認に時間がかかることになる。事務の円滑化にも誤入力の 減少にもならない。

●口座情報だけでなく、さまざまな個人情報を照合

 内閣官房説明資料の2頁の図では、 緊急時給付金はじめ幅広い公金を番号(マイナンバー)利用事務として、給付金等の申請の際に情報提供ネットワークシステムを介して所得、世帯、各種資格、各種給付実績などの個人情報を国や自治体から提供することになっている。
 マイナンバーにしろ電子証明書のシリアル番号にしろ、個人を特定するもので世帯情報はわからない。今回の特別定額給付金のような世帯単位の給付では使えない代物だ。そのため世帯関係などの確認のために、給付金等を申請するたびに情報提供ネットワークシステムを使って個人情報が提供され、個人情報を丸裸にすることが計画されている。

  いまでも情報連携の対象事務として法定されている手当や生活保護等の給付要件確認のために情報提供ネットワークシステムの利用は可能だが、情報提供ネットワークシステムでは、一件一件照会先機関と照会事務を入力して提供を受けることになる。
 特別定額給付金のような短期集中で大量の事務を処理する真っ最中に、いちいち情報提供ネットワークシステムに照会する作業をしていては、さらに事務が遅れる(パンクする)ことになる。

●金融機関に「国民に番号の提供を求める義務」

 内閣官房説明資料の3頁の図にあるように、「国民が番号を金融機関に告知する義務」は規定しないことになっている。

 ただ現在は
「金融機関はガイドライン(全銀協作成)により、番号の取得に向けて、預貯金口座付番の案内を行うことが期待されているものの、対応は各金融機関の判断に委ねられている。」
のが、新たに
「金融機関が口座開設時等に国民に番号の提供を求める義務を規定する」
に変わる。
 現在でも金融機関窓口でのマイナンバー提供についてのトラブルが絶えないが、金融機関側に提供を求める義務を規定することで確実にマイナンバー提供の圧力は強まり、トラブルは増加する。

●業務拡大する預金保険機構の悪用をどう防ぐか?

 内閣官房説明資料では預金保険機構の機能を拡大し
・金融機関やマイナポータルにマイナンバーを登録すると、預金保険機構を介してその他の金融機関の口座にも付番 (3頁図)
・相続時に金融機関で法定相続人の確認とマイナンバーカードによる本人確認をすると、預金保険機構が各金融機関に口座があるかを調べてマイナポータルで回答(下図)
となっている。

 11月28日の朝日新聞では、
「預金保険機構が各金融機関に同一人物の口座がないかを探し、マイナンバーとひもづける。同機構は金融機関の破綻(はたん)時に、口座情報を集めて名寄せする仕事などを担っているが、法律で業務範囲を広げる方向だ。」
と報じているが、同一人物かどうかをどうやって調べ確認するのか不明だ。
 誤って別人を認識したり、同一人物を別人に認識したり、ということをどうやって防ぐのか。そもそも氏名、住所、生年月日等の照合では正確に同一人物か確認できないから、というのがマイナンバー付番の理由であり、これでは矛盾している。

 このように金融機関口座データを集約する機関になる預金保険機構は、サイトを見ると、金融機関破綻時の預金者保護(ペイオフ)だけでなく、不良債権回収・責任追及や特定回収困難債権の買取り、休眠預金等活用法などの仕事もしている。
 金融機関破綻時の預金者保護については、2015年番号利用拡大法で預金保険機構がマイナンバーを利用可能になっているが、それはペイオフ時にマイナンバーを付番してある口座の名寄せのためだ。
 預金保険機構の業務が拡大すると、不良債権回収など目的外に口座情報の照会などを不正利用することをどうやって防止するのか、あらたな口座付番の危険性が生まれる。

●給付のための口座はどうあるべきか

 振込口座の確認は、特別定額給付金の迅速な給付に手間取った主要な原因ではないが、中にはオンライン申請でも郵送申請でも口座記載内容と資料の不整合が原因になったケースもあった。
 共通番号いらないネットは、マイナンバー制度に反対するさまざまな個人・団体のゆるやかな連絡会で、給付方法の代案を示すような集まりではないが、 10月24日学習会での議論を紹介する。

 迅速に給付したというアメリカ等と同様に給付するためには、企業が源泉徴収-年末調整を行う 日本の仕組みをやめて、アメリカ等と同様に皆が確定申告するようにして、国税当局が還付金口座を把握していればできる(10月24日学習会の山崎資料)。
 しかしそうすると企業にやらせている税の事務を国税庁・税務署がやらなければいけなくなるため、政府はやろうとしない。

  急ぎ問われているのはコロナ禍での今後の緊急の給付(あるかわからないが)の仕方であり、であれば市区町村が特別定額給付金と同様の給付を行うのが現実的だ。そうすると特別定額給付金の給付のときに使用した口座情報を、一定期間(コロナ禍が落ち着くまで)限定で市区町村に登録し、再度の給付の際の確認資料にする、という方法が考えられる。マイナンバーとのひも付けは必要ない。
 特別定額給付金の際も、受取口座が住民税等の引落しや児童手当等の受給に現に使用している口座であれば、市町村がすでに口座情報を把握しているので挙証資料として口座の写しを添付しなくていいことになっていた

 重要なのは、誰に何を給付するかという制度設計だ。ひとり親世帯臨時特別給付金などでは、すでに対象者も口座もわかっているので本人申請不要で給付されている(コロナ禍で収入が減少したなどの人は申請)。
 何にでも使える給付口座の登録をと考えると、結局、中途半端で使えない口座になってしまう。

●石川県の給付金詐欺事件の全貌を明らかに

 給付の仕組みの検討にあたって、重要なことが何点かある。
 まず7月に明らかになった、 石川県能登町で発生した特別定額給付金のオンライン申請の詐欺事件の詳細を公表し、再発防止策を明らかにすることだ。
 このブログの
 (1)マイナンバーカードを使った オンライン申請でなりすまし
 (2)オンライン申請システムの不備が、なりすましの原因?
で、当時明らかになった情報で事件の概要を紹介してきた。
 続報として11月25日に金沢地裁で懲役2年6月、執行猶予4年の判決が言い渡されたことを、NHKニュース毎日新聞が報じている

 すでに裁判になり捜査中ではないのに、国も町もこの事件について公表していない。なぜ成り済まし申請で給付が可能だったのか、申請システム(マイナポータル)にどのような欠陥があったのか、その詳細を明らかにし再発防止策が公表されないかぎり、ふたたび同様にオンライン申請をすることなど許されない。

●困窮している人に給付できる仕組みに

 特別定額給付金のもっとも重大な問題は、給付が「遅かった」ことではなく、もっとも困窮している人たちに給付できなかったことだ。住民登録が給付要件とされたために、自治体の努力で柔軟な扱いがされたとはいえ、最終的に住民登録がない「ホームレス」の人等が給付を受けられなかった。
 また世帯単位の給付にこだわったため、DV被害者等を危険に晒した。個人単位の給付でなければならない。
 これらの問題の解決策こそ、国は真っ先に検討すべきだ。

 マイナンバー制度は、住民登録-住基ネットを基礎に作られている。政府のデジタル化方針で、マイナンバーの申請やマイナンバーカードの所持が給付の要件になれば、ますます給付から排除されていく人が出てくる。マイナンバー制度は「真に手を差しのべるべき者」を見つけ出して給付を充実するという名目ではじまったが、むしろ選別・排除の道具になりかねない。

●システムづくりには現場の知恵を

 特別定額給付金のオンライン申請を中止する市町村が相次いだ中で、マイナンバーカードを使わずに電子申請ができる「郵送ハイブリッド」と呼ぶ方式を工夫した兵庫県加古川市の事例が話題になったように、給付事務の実際のわからない国の役人が考えるより、実務のわかる自治体の創意工夫に学んだ方が効果的だ。
 加古川市のシステムはサイボウズの『kintone』により作られたとのことだが、サイボウズの青野慶久代表取締役は
「加古川市が上手くいったのは、担当職員の方が、申請する人がどこで間違える可能性が高いのかを、あらかじめ把握していたことだと思います。・・・現場の担当者の方が、ユーザーの目線に立ってシステムを作る、これが最も大事なんだと思います」
指摘している
 特別定額給付金は、マイナンバーカードを普及させる思惑により、4月20日に給付が決定し5月1日からオンライン申請を受け付けるという無理な日程を強いられた。システム作りをした内閣府を責めるのは酷な面があるが、この轍をくりかえさないよう、現場が作業しやすい仕組みを考えるべきだ。

●内閣官房案での法案提出はやめよ!

 今後のスケジュールは、2020年度(2021年度?)に法案を提出して、2021~2022年度に施行準備をして、2021年度から緊急時の給付事務へのマイナンバー利用開始を想定し、2022年度途中から口座登録を開始するとしている。この工程では、当面しているコロナ禍での給付には間に合わない。
 このような案で仕組みを作れば、ますます現場は混乱させられる。預貯金口座にマイナンバーを付番するという思惑に振り回されずに、現実的な給付の仕組みを考えるべきだ。

11/21 集会資料
2020.11.21なんでもデジタル庁ですすめていいの? ナンバー制度の際限なき拡大に反対する集会

<a href=”https://www.homepage-tukurikata.com/hp/link.html“>集会の案内URLは、以下です。</a> 2、3日中に、簡単な報告をアップします。

以下、pdf が2枚あるものは、サムネイルの方をクリックすると、大きく開きます(DLも可能)。1枚のものは、その場で開きます。

報告者

●1)報告 宮崎俊郎:デジタル庁構想下のマイナンバー制度の拡大に反対する

201121_DeditalCYO_Miyazaki

●2)報告 吉田章:医療のデジタル化の狙いは何か

201121_IryouDedital_nerai_Yosida

●3)報告 外山喜久男:教育のデジタル化の狙いは何か 

●4)報告 原田富弘:自治体の個人情報保護条例の共通ルール化


● 4)学習会資料:自治体の個人情報保護条例の共通ルール化

●5)報告 井上和彦:訴訟の進行状況

201121_SuitSchedule_Inoue

お金で釣らなければ普及しない「マイナンバーカード」って何?

●マイナンバーカードの普及に躍起の政府

 誕生した菅政権が最重要課題として、デジタル庁を新設しマイナンバーカードの普及促進を一気呵成に進めることを表明したことで、マイナンバーカードの普及と利活用が焦点になっている。

 武田総務大臣は10月27日の閣議後記者会見で、都道府県知事と市区町村長宛てに、マイナンバーカードの普及拡大に向けた一層の取組を要請する大臣書簡を送ったことを発表した。12月にはカードの未取得者8000万人程度にQRコード付きの交付申請書を改めて送ることが報じられている
 書簡では「申請促進」と「交付体制の強化」の両面から取組を強化するため、政府の広報や未取得者へのQRコード付き交付申請書の個別送付に呼応して、商業施設等での出張申請受付や申請サポートを積極的に実施すること、申請数の倍増を前提に交付窓口や人員の増強や土日交付の更なる実施を行うための市町村の交付円滑化計画の改訂などを要請したとのことだ。

 さらに10月30日の総務大臣閣議後記者会見では、各種団体や民間企業などに更なる普及を働きかけるべく、副大臣、政務官、事務方による「マイナンバーカード普及促進チーム」が発足し、各種団体や企業などに直接訪問するなどの取組を推進するとしている。
 この取組を報じた共同通信には1日で200件以上のコメントが寄せられているが、ほとんどが政府の取組を批判するものだった。いわく「運転免許証や保険証と一体化したらこわくて持ち歩けない」「セキュリティが万全と言う金融機関の個人情報でさえじゃじゃ漏れの今、秘密漏洩があった時に誰が責任をとるか」「支配欲と悪意による管理社会に活用されるだけ、国民はわかっている」「政府が行うデジタルは不具合続きで信用が置けない」「カード普及にいくら税金使ったのか、費用対効果を公表して」「作成するメリットが無いので作らないだけ」「携帯電話を買う際に身分証明にマイナンバーカード出したけど断られた」「裏面のマイナンバー表示をやめてほしい。そうしないと持って歩けない」「カード1枚の発行に4ヶ月もかかってはどうしようもありません」「住基カード持ってた、二の舞になりそう」「無理矢理作らせようとする姿勢に引いてしまい余計に作りたくなくなる」「なぜ企業に依頼するのか? 国民は企業の奴隷ではない」等々。

●低迷が続いたマイナンバーカードの交付

 2016年1月に交付が始まったマイナンバーカードは、 番号通知カードと一緒に申請書が送られて申請しなければいけないと誤解されたためもあり、当初は2016年3月までに約1千万枚の申請があった。
 そのため申請しても受け取りにこない住民も多く、2017年9月2018年2月に横浜市で保管していた交付前のマイナンバーカードの紛失事件が発覚し、総務省は督促しても90日受け取りにこないカードは廃棄する通知を2017年10月18日に出す状態だった(新型コロナ流行で扱いは修正)。
 その後は毎月20~30万枚程度の交付と低迷していた。低迷の理由は内閣府の世論調査によれば、取得する必要が感じられなかったことと個人情報の漏えいや紛失・盗難の心配が大きい。

●行き詰まっていたマイナンバーカードの普及策

 政府はマイナンバーカードを使った証明書類のコンビニ交付や子育て事務の電子申請を利便性の目玉として、マイナンバーカードを普及させようとしてきた。しかしどちらも普及は頭打ちになっている。

  コンビニのマルチコピー機で証明書(住民票の写し、印鑑登録証明、税、戸籍等)を交付できる市町村は、政府が財政支援を続けても2020年11月1日現在で761市区町村と半分にも満たない。費用対効果が疑問視されているためだ。
 比較的普及した都市部の市区町村では、コンビニ交付の代わりに従来あった証明書自動交付機が撤去された結果、逆に役所の窓口に来所する住民が増えて「進む証明書交付機の撤去 進まぬ個人番号カード交付 窓口混み「本末転倒」」(東京新聞2018年12月28日朝刊)という状態になった。

 自動交付機を廃止して不便にすることで、コンビニ交付に移行させてマイナンバーカードを取得せざるをえないようにしようという、「利便性向上」とは逆行する政策だ。
 子育て事務の電子申請も普及が広がらない(「新型コロナ危機に便乗してデジタル変革推進の骨太方針」の「 ●対面業務は、住民と行政の貴重な接点 」参照)。

●2023年3月までにほとんどの住民がカード所持!?

   デジタル・ガバメント閣僚会議
   (2019年9月3日第5回資料1

 普及に焦る政府は、2019年6月4日のデジタル・ガバメント閣僚会議で「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」を決定した。
 2023年3月までにほとんどの住民のカード保有を目指して、マイナポイントとマイナンバーカードの健康保険証利用を中心にマイナンバーカードの普及を図ろうとしている。
 そのために公務員に2020年3月までにマイナンバーカードを申請するよう強く迫ったり、自治体に「交付円滑化計画」の策定を求めたりしてきた。しかし2020年3月末でも交付枚数2033万枚、交付率16%に低迷し、公務員の申請・取得率も国家公務員が58.2%、地方公務員一般職が34.8%にとどまっていた。

●お金がらみで増えるマイナンバーカードの交付

 そんなマイナンバーカードの交付が、最近増加している。
 総務省は2020年3月から、毎月1日時点の交付状況を公表している(右図参照)。申請から交付まで1ヶ月以上かかることを考慮すると、5月1日開始の特別定額給付金のオンライン申請と7月1日開始のマイナポイント申込みが、申請増加の理由であることがわかる。

 27億円の税金を使って連日テレビでマイナポイントやマイナンバーカードのCMが流されている。10月下旬には新聞折り込み広告で、マイナンバーカード交付申請書付きのマイナポイントチラシまで配布している。なりふり構わずに5000円を餌に普及させようとしている。
 しかし10月1日現在のマイナンバーカードの交付率は20.5%、交付枚数は26,105,646枚にとどまる。来年3月末に利用終了のマイナポイントは、4000万人分の予算にもかかわらず10月25日までに約800万人しか申し込んでいない。いずれも政府の目標には、遠く及ばない。

●マイナンバーカードは何のために作られたか?

(マイナンバー概要資料2015年11月版

 そもそもマイナンバーカード(個人番号カード)は、「番号の付番」と「情報連携」とともにマイナンバー制度に不可欠な「本人確認」の仕組みとして作られた。
 政府はアメリカの社会保障番号などのように番号の記入だけで手続きを可能にすると、他人が成りすまして口座を作ったり還付金を詐取したりする事件が多発すると説明し、マイナンバーの記入の際には成りすましを防ぐため、本人確認(身元確認と番号確認)の書類の提示が番号法第16条で義務化された。
 マイナンバーカードはその本人確認用に作られた(番号法逐条解説34~37頁参照)が、本人確認は通知カード+免許証など他の書類でもできるので、マイナンバーカードがなくても支障はなく、すべての住民に保有させる必要はない。

 ところが政府は、デジタル化推進のためにマイナンバーカードを普及させようと、通知カードの発行を2020年5月25日に廃止し「個人番号通知書」の送付に変えた。「個人番号通知書」は番号確認の書類としては使えない。これも利便性を低下させることで、マイナンバーカードの取得を強いる政策だ。
 なおすでに所持している通知カードは、氏名や住所等の変更がなければそのまま番号確認書類として使い続けることができる

●本来の目的と違うマイナンバーカードの利用拡大

 今、菅政権がデジタル化の要としてマイナンバーカードの普及促進を一気に進めようとしているのは、この本来の目的であるマイナンバー記入の際の「本人確認」とは違う利用のためだ。

 マイナンバー概要資料(内閣府・内閣官房)2020年5月版より

  この説明図のうち顔写真付き身分証以外の利用拡大は、すべてマイナンバーカードのICチップ(半導体集積回路)に内蔵されている公的個人認証制度の電子証明書(の発行番号=シリアル番号)を、マイナンバーの代わりに個人の識別特定に利用するものだ。
 マイナンバー制度を作ったときの説明とはまったく違う利用拡大が進められているが、その仕組みはあまり周知されていない。

 5月に一人10万円の特別定額給付金のオンライン申請が話題になるまでは、マイナンバーカードの電子証明書といわれても、税申告でe-Taxを利用している人以外は何のことかわからなかったのではないか。
 マイナンバーカードの取得理由の大部分は、上記内閣府の世論調査を見ても「顔写真付き身分証明書が必要」「会社や役所からマイナンバーの提示を求められたから」で、電子証明書の利用とは関係なかった。

●公的個人認証サービスの「電子証明書」って何?

 公的個人認証とは簡単に言うと電子的な印鑑登録・印鑑証明の仕組みで、一人一つの電子証明書を発行することで電子署名を行い 、本人であることの認証と改ざんの防止をする仕組みだ。
 2002年12月に住基ネットの利用拡大とともに「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」が成立し、2004年1月29日から公的個人認証サービス (JPKI)が始まった。
  電子証明書の失効情報を住基ネットから提供し、電子証明書の格納を住基カード・マイナンバーカードに限定することで、住基ネットと密接に関係づけられているが、住基ネットと公的個人認証制度は別の制度だ。当初は別の組織が管理していたが、マイナンバー制度の開始とともに今は両方とも地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が管理している(地方公共団体情報システム機構パンフレット参照)。

  電子証明書の有効期間は5年間(発行日から5回目の誕生日まで)で、原則10年間のマイナンバーカードの有効期間と異なる。2016年1月からマイナンバーカードの交付が始まっているため、今年2020年から電子証明書の更新が始まっている。そのタイミングで特別定額給付金のオンライン申請を実施したために、さらに混乱を招いた。
 なお電子証明書をマイナンバーカードに入れるかどうかは選択できる。電子証明書の悪用が心配なら、申請の際に電子証明書不要の欄にチェックを入れると電子証明書は内蔵されず、「顔写真付き身分証明書」としてだけ使うことができる。電子証明書は、必要になれば後から追加で内蔵できる。

●マイナンバー制度開始で利用者証明用が新設

 もともとは電子申請の際の本人証明と改ざん防止に使う「署名用電子証明書」だったが、マイナンバー法の成立とともに公的個人認証法が改正され、民間利用が可能になるとともに、新たにネットでログインする際などに本人であることの証明のみに使う「利用者証明用電子証明書」が新設された。

「公的個人認証サービスの民間拡大について」(2014年3月27日総務省資料)より

●電子証明書のシリアル番号の脱法的利用

 問題は、電子証明書の管理のための発行番号(シリアル番号)を、個人を識別特定するコードとして転用しようとしていることだ。政府の説明資料(下図)を読むと、マイナンバーは法令で利用が規制されているので、その代わりに利用が限定されず幅広く使える電子証明書の発行番号を使おう、という「脱法的意図」が感じられる。
 マイナンバー制度の元となった「社会保障・税番号大綱」では、「公的個人認証サービスの電子証明書のシリアル番号について、住民票コードと同様の告知要求制限を設けることとし、当該シリアル番号の告知要求制限の具体的な方法その他の保護措置についても引き続き検討していく」(47頁)となっていたが、保護措置も明らかでないまま利用が拡大している。
 このような利用拡大をされると、不安が募るばかりだ。

   マイナンバー概要資料2020年5月版より

 電子証明書の発行番号は、5年毎に電子証明書を更新すると変わるため、そのままでは個人の生涯にわたる追跡管理には使えない。そのため発行番号を世代管理して追跡可能にする仕組みを、地方公共団体情報システム機構が「利用者証明用電子証明書の新旧シリアル番号の紐づけサービス」 として提供している(「オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)」109~110頁参照)。
 詳しくは若干説明が古くなっているが、 2016年7月13日に行われた共通番号いらないネットの学習会 「マイナンバー(共通番号) 不安だらけの情報連携」の
 6 公的個人認証・個人番号カードを使った情報連携
 7 公的個人認証を使った情報連携の問題点
を参照してほしい。

●「マイナンバーとカードの混同」キャンペーンの危険性

マイナンバー概要資料2020年5月版26頁

 政府は盛んに「マイナンバーとマイナンバーカードの混同」を問題にしている。
 その意図は、説明(右図)に滲み出ているように、「マイナンバーのことは怖くても、マイナンバーカードは怖がらずに取得してほしい」ということだ。
 しかしそう宣伝する政府が、マイナンバーカードの電子証明書の発行番号をマイナンバーの代わりに個人識別に使うという「混同」をしている。この混同をカモフラージュしたいというのが、キャンペーンの意図だろう。

●マイナンバーカードは安全ではない

 マイナンバーカードの「危険性」については、共通番号いらないネットのリーフレットNo8の2頁で、
 ・落としても大丈夫?
   マイナンバーの漏えいは防げない!
 ・個人情報は盗まれない?
   紛失・盗難で個人情報が丸見えに!
 ・なりすまし詐欺はできない?
   すでに他人の不正取得や偽造が発生!
 ・住民サービスのためのカード?
   常時携帯させて住民管理に利用!  
などを指摘している。

 政府は「マイナンバーカードの安全性は万全」と宣伝しているが、「マイナンバーを見られても悪用は困難」と、困難だというだけで「悪用できない」とは言っていない。
 政府の担当者は、マイナンバーそのものが他人に知られても「直ちに」被害は受けないが、マイナンバーを多くの人が知ってしまう状態になるとプロファイリングの危険性があるから提供を制限している、と説明してきた。(たとえばマイナンバーカードの保険証利用を審議した2019年5月9日第198回国会参議院厚生労働委員会での 向井治紀内閣官房内閣審議官の説明)

 マイナンバーカードの不正取得や偽造の発生例やマイナポータルから個人情報が漏えいする危険性については、7月9日のスタッフブログ「マイナンバーカードを使った オンライン申請でなりすまし」で紹介した。
 政府は「なりすましはできません」と言うが、すでにマイナンバーカードを使って他人になりすまして、銀行口座を作ったりオンライン申請で特別定額給付金を詐取する事件が発生しているのだ。
 お金で利益誘導しなければ普及しないようでは、マイナンバーカードの制度設計は失敗している。

※2020年11月8日追記

10月24日学習会資料
「マイナンバーと銀行口座の紐付け」は何を狙っているのか

 2020年10月24日、共通番号いらないネットは、「「マイナンバーと銀行口座の紐付け」は何を狙っているのか」の学習会を行いました。

  共通番号いらないネット事務局の原田富弘さんより、議論の素材として「預貯金口座へのマイナンバー付番論議の経過と状況」 を説明し、つづいてコメンテーターの山崎秀和さん(共通番号制を考える会・静岡)から「マイナンバー制度と口座番号の紐付け義務化 その狙いを明らかにし、法律の成立を阻止するために」のコメントをいただき、検討しました。

 以下、当日の資料です。また共通番号いらないネットのyoutubeチャンネルに 、当日の様子がアップされています。あわせてご覧ください。

一番上の「201024_Harada_Shiryou」が、原田富弘さん(共通番号いらないネット事務局)

続く5本が、山崎秀和さん(共通番号制を考える会・静岡)の資料です。

サムネイルの方をクリックすると、ファイルが開きます。

新型コロナ危機に便乗して
デジタル変革推進の骨太方針

●異例の内容となった骨太の方針2020

 7月17日、骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)2020が閣議決定された。2001年に小泉政権下で作成されて以降、新自由主義的改革の司令塔として民主党政権下で一時中断しながら毎年閣議決定されてきた「骨太の方針」だが、今年の方針は今までとは異質の内容になっている。
 冒頭、「現下の情勢下では政府として新型コロナウイルス感染症への対応が喫緊の課題であることから、・・・記載内容を絞り込み、今後の政策対応の大きな方向性に重点を置いたものとしている」と注記されているように、 一言で言えば「コロナ危機をチャンスとして社会全体のデジタル変革( DX =デジタルトランスフォーメーション)へ」ということに特化した方針だ 。骨太の方針の目的ともいえる基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標の記載が消えてしまったことにも、その特異さが現れている。

 そのDXの基盤(インフラ)としてマイナンバー制度(マイナンバーや法人番号、公的個人認証JPKI ・電子証明書)が位置づけられ、マイナンバー制度の抜本的改善を図る工程表を年内に策定する予定になっている(17頁)。
 次期通常国会に行政デジタル化の包括法案「デジタルガバメント改正法案(仮称)」を提出するとの報道もされている。包括一括法では個々の問題点の検討が不十分なまま強行される危険が高いため、早急な検討が必要だ。

●コロナ危機を好機としてデジタル社会変革を加速

 共通番号いらないネットは、 4月7日に緊急事態宣言とあわせて閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」 に対して、「新型コロナ対策に便乗したマイナンバー制度の利用に反対する」声明を発表した。
 この緊急経済対策は、「Society 5.0の実現を加速していくためにも、まさに、今回の危機をチャンスに転換し、政府としてワイズ・スペンディングの考え方の下、デジタル・ニューディールを重点的に進め、社会変革を一気に加速する契機としなければならない」(33頁)と書かれているように、皆がコロナ禍で苦しんでいる時に、それを好機とみてデジタル社会変革に利用しようとするものだった。
 私たちはこのコロナ・ショックドクトリンというべき政府の対策に対し「さまざまなデジタル情報と、個人の正確な追跡とデータマッチングを可能とするマイナンバー制度とが結合すると、まさに民主主義の危機が現実化する。私たちは、このような危機を招きかねない新型コロナ対策に便乗したマイナンバー制度の利用やマイナンバーカードの普及に反対する。」と声明で訴えた。
 骨太の方針2020や同日に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」は、このような惨事に便乗して政府と企業の求める社会変革を反対や懸念を押し切って一気に推進しようとするショックドクトリンを、国家方針として宣言するものだ。

デジタル変革を一気に進め「新たな日常」を実現

  3章構成の骨太の方針2020は、第1章「新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来に向けて」で、「今回の感染症拡大で顕在化した課題を克服した後の新しい未来における経済社会の姿の基本的方向性として、「新たな日常」を通じた「質」の高い経済社会の実現を目指す。」(3頁)としている。
 しかし新型コロナ流行で顕在化した、病床削減や保健所統廃合により感染症対策が脆弱になっている状況や、 新自由主義的改革によって格差が拡大するなど生活基盤が脆弱化したことなどは、「顕在化した課題」として指摘されていない。

 このような現状認識に基づいて 「社会全体のDXの推進に一刻の猶予もない」 「今般の感染症拡大の局面で現れた国民意識・行動の変化などの新たな動きを後戻りさせず社会変革の契機と捉え、・・・・・・通常であれば10年掛かる変革を、将来を先取りする形で一気に進め、「新たな日常」を実現する。」 (5頁)と、切迫した危機意識を強調する。 

●デジタル・ガバメント構築が最優先政策課題

 骨太の方針2020では、社会全体のデジタル化を強力に推進する最優先政策課題としてデジタル・ガバメントの構築を位置付け、行政のデジタル変革の早急な対応を求めている(5頁)。
 デジタル・ガバメント構築については、昨年5月デジタル手続き法が成立し、12月にデジタル・ガバメント実行計画が策定されていた。しかし骨太の方針2020では「行政分野を中心に社会実装が大きく遅れ活用が進んでおらず、先行諸国の後塵を拝していることが明白となった」(5頁)と計画が進まないことを嘆いている。

IT総合戦略本部デジタル・ガバメント分科会2019年7月5日第7回会合 資料3 (内閣官房IT総合戦略室)より

 共通番号いらないネットでは、デジタル手続き法案に対して「マイナンバーカード普及策としてのデジタルファースト法案に反対する声明」を発表し、利便性が少なく市民が望んでいるわけではない「すべての行政手続きの原則オンライン化」がマイナンバーカードの普及策として押しつけられ、その結果個人情報の漏えいや悪用の危険が高まることを指摘していた。
 2018年の内閣府のマイナンバー制度についての世論調査でも、62.2%がオンライン申請のためのマイナポータルを特に利用してみたいとは思わないと回答したように、利用者のニーズに合わないオンライン化が進まなかったのは当然だ。
 国際競争ばかりに目を向けず、利用者目線で考えるべきだ。

●1年間で集中的に行政デジタル変革を断行

 「骨太の方針2020」は、この1年間を集中改革期間としてデジタル変革を推進し、実現状況を進捗管理するとしている。

第3章「新たな日常」の実現
1.「新たな日常」構築の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備(デジタルニューディール)
  デジタル化の推進は、日本が抱えてきた多くの課題解決、そして今後の経済成長にも資する。単なる新技術の導入ではなく、制度や政策、組織の在り方等をそれに合わせて変革していく、言わば社会全体のDXが「新たな日常」の原動力となる。デジタル化の遅れや課題を徹底して検証・分析し、この1年を集中改革期間として、改革を強化・加速するとともに、関係府省庁の政策の実施状況、社会への実装状況を進捗管理する。(15頁)

 ここでいうデジタル化は、過去の延長線上で行政をデジタルにより改善していく「Digitization(デジタイゼーション)」ではなく、デジタルを前提とした新たな社会基盤を構築するという「Digitalization(デジタライゼーション)」(「デジタル・ガバメント実行計画」5頁 2019.12.20)だ。
 DX(Digital Transformation)は、デジタル技術により既存のシステムを破壊的に変革することを含意している。

 そのために「次世代型行政サービスの強力な推進 ― デジタル・ガバメントの断行」として、
・政府全体で様々な行政手続のデジタル化を一気に実現するためデジタル・ガバメント実行計画を年内に見直して各施策の実現の加速化を図る、その際業務プロセスそのものの見直しを含め、できることのみならず、必要なことを全て同計画に盛り込む
・内閣官房に民間専門家と関係府省庁を含む新たな司令塔機能を構築し、マイナンバー制度と国・地方を通じたデジタル基盤の在り方、来年度予算・政策等への反映を含め、抜本的な改善を図るため、工程を具体化する
・関係法令の改正を含めたIT基本法の全面的な見直しを行う
ことにより、社会全体のデジタル化の取組の抜本的強化を図ろうとしている。
 だれもが反対しにくいコロナ感染対策を口実に、住民・利用者を置き去りに短期間で推進されることが危惧される。

●安心して簡単に利用できないマイナンバー制度

 マイナンバー制度については、「今回の感染症対応において、マイナンバーシステムをはじめ行政の情報システムが国民が安心して簡単に利用する視点で十分に構築されていなかったことや、国・地方自治体を通じて情報システムや業務プロセスがバラバラで、地域・組織間で横断的にデータも十分に活用できないなど、様々な課題が明らかになった」(15頁)と述べている。

 私たちはマイナンバー制度に対して、多額の税金を費やしながら目的とされる「国民の利便性の向上」も「行政の効率化」も「公平公正な社会」も実現していないばかりか、数百万件の税情報の違法再委託をはじめとする漏えいが発生している現実や、「見える番号」として官民で流通するマイナンバーの悪用の危険、行政が勝手に個人情報を利用する自己情報コントロール権の侵害、さらに警察等へのマイナンバー付個人情報の提供により監視社会が強化されることなど、さまざまな問題を指摘してきた。
 コロナ対策の10万円給付のオンライン申請の混乱は、このようなマイナンバー制度の利用にこだわったために発生したことも指摘してきた。

 これに対し国はマイナンバー制度の違憲差止訴訟で、番号制度により行政運営の効率化や公正な給付と負担の確保や国民の利便性の向上に資することは明らかだと主張してきたが、骨太の方針2020では「国民が安心して簡単に利用」する視点で構築されていない制度であることを認めてしまった。
 この矛盾をどう説明するのだろうか。

●マイナンバー制度の「抜本的改善」の項目

 骨太の方針2020は、「デジタル・ガバメントの基盤となるマイナンバー制度について、行政手続をオンラインで完結させることを大原則として、国民にとって使い勝手の良いものに作り変えるため、抜本的な対策を講ずる。」(16頁) と述べ、 「マイナンバー制度の抜本的改善」 として以下の項目を列挙している。
 しかし以前から利用拡大策としてあげられていたものが多く、マイナンバー制度の「抜本的改善」といえる内容ではない。「国民が安心して簡単に利用する視点で十分に構築されていなかった」理由を検証する姿勢はない。市民が不安を感じ利便性を感じない制度を、コロナ禍に便乗して行政の都合と国民管理のために強行しようとしている。

▼(マイナンバーカードの保険証利用を基礎にした)健康情報を生涯管理するPHRを、2021年に法制上の対応をし2022年を目途に拡充するとともに、データの医療・介護研究等への活用の在り方を検討
▼ マイナンバーカードの公的個人認証(電子証明書)の活用により障害者割引適用の際に障害者手帳の提示を不要に
▼ e-Tax等について、自動入力できる情報(医療費、公金振込口座等)を順次拡大し、マイナンバーカードの利便性を向上
▼ 在留カードとマイナンバーカードとの一体化について検討を進め、2021年中に結論を得る
▼ 運転免許証について、海外の事例を踏まえつつ、発行手続やシステム連携の在り方等を含めた検討を開始する
▼ 自動車検査証及び自動車検査登録手続についても、マイナンバーカードを活用した手続の一層のデジタル化の推進に向けて、検討を開始する
▼ 各種免許・国家資格、教育等におけるマイナンバー制度の利活用について検討する
▼ 必要に応じて共通機能をクラウド上に構築する
▼ 民間技術を更に積極的に活用してマイナポータルの利便性の向上を図る

▼ マイナンバーカードの手続ができる環境を、マイナポイントを活用した消費活性化策の実施、QRコード付きのカード申請書の再送付などで抜本的に拡充することにより、マイナンバーカードの実効性ある取得促進のスケジュールをできる限り加速する

▼ 国税還付、年金給付、各種給付金(国民向け現金給付等)、緊急小口資金、被災者生活再建支援金、各種奨学金等の公金の受取手続の簡素化・迅速化に向け、マイナポータル等を活用し、公金振込口座設定のための環境整備を進める
▼ 様々な災害等の緊急時や相続時にデジタル化のメリットを享受できる仕組みを構築するとともに、公平な全世代型社会保障を実現していくため、公金振込口座の設定を含め預貯金口座へのマイナンバー付番の在り方について検討を進め、本年中に結論を得る

▼ 関係府省庁は、マイナンバー制度及び国・地方を通じたデジタル基盤の構築に向け、地方自治体の業務システムの早急な統一・標準化を含め、抜本的な改善を図るため、年内に工程を具体化するとともに、できるものから実行に移していく

●対面サービスを否定し100%オンラインへ

 骨太の方針2020は行政手続のオンライン化、ワンストップ・ワンスオンリー化を抜本的に進めるため、関係府省庁が原則として対面申請を不要にし、マイナンバーカードでログインするマイナポータル・ぴったりサービスを原則として全ての市町村が活用してオンライン化を進めることができるよう、導入を早急に促進することを求めている(17頁)。

 オンライン手続きが広がれば、便利になると思われている。しかしそれは現在の対面の手続きにオンライン手続きが付け加わるならば、だ。骨太の方針やデジタル手続き法が求めているのは、オンライン申請を原則化し、 窓口での対面の手続きを原則廃止することだ。
 国会審議では、政府は100%デジタル化を目指し対面の手続きはわずかな例外を除いてなくし、対面の必要な手続き自体の廃止を検討したりSNSで代替することなどを説明してきた。デジタル化に対応困難な人には、デジタル・デバイド対策としてデジタル活用支援員などでサポートして格差が生じないようにすると答弁したが、支援を装った詐欺の危険も指摘されていた。

 ただデジタル手続き法の成立にあたっては、「地方公共団体の業務において窓口における対面業務が市民と接する上で重要な機能を有していることに鑑み、このような機能が損なわれることがないよう配慮すること」は付帯決議(衆議院参議院)されている。

●対面業務は、住民と行政の貴重な接点

 対面業務は単なる機械的業務ではなく、住民の抱える問題と行政の貴重な接点でもある。2019年6月25日に東京地裁で行われたマイナンバー違憲差止訴訟の本人尋問では、マイナポータルによる「子育てワンストップサービス」(ぴったりサービス)の電子申請がなぜ広がらないかを例に、対面の重要さを指摘した(2017年10月から開始したオンライン申請の実施自治体は、下図のように 2年経過して保育39.8%、ひとり親支援21.0%、母子保健38.0%にとどまり、これは本人尋問の書証で提出した2018年12月時点の数値とほとんど変わらない)。

マイナンバー概要資料(令和2年5月版)」49頁

 たとえば母子保健の妊娠届では、子育て不安や児童虐待が深刻化する中で、市区町村は妊娠届の機会をとらえて保健師が面接し子育てサポートの説明や相談に応じることに力を入れており、そのために子育て利用券(商品券)を面接時に配布したりして来所を促している。
 また保育園入園申請も、待機児童問題が深刻な都市部の市区町村では、単に申請書類を受け付けるだけでなく、保育ニードにきめ細かく対応するため時間をかけて対面で説明・相談をしている。
 住民票や国民健康保険や税金など画一的と思われる窓口事務でも、その応対の中で生活の困窮などがわかり福祉事務所など関係機関につながることもある。オンライン申請ではこれらの貴重な機会が失われることを、市区町村は危惧している。

●デジタル社会変革で生命・生活は守れるか

 骨太の方針2020は、「第2章 国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜く」でも、デジタル化による対応を強調している。

 医療提供体制については、感染拡大防止と経済活動の両立のために、検査体制の増強と合わせて、感染者を管理するHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)で情報収集・管理の仕組みを一元化し監視のための保健所の体制を強化するともに、接触アプリなどデジタル監視の普及やG-MIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)で医療提供状況を一元的に管理するなどデジタル活用をあげている。
 他方、公的・公立病院の統廃合など厚労省の進める病床削減計画や医師数の抑制政策の見直し、諸外国に比べて脆弱であることが露呈した集中治療のスタッフの増強など、対人サービスの強化は書かれていない。

 なお医療で「自衛隊の感染症対処能力の更なる向上や感染拡大防止を図る」(10頁)、雇用対策で「自衛隊員の新規採用を積極的に行う」(11頁)、災害対策で「任期制自衛官の退職時の進学支援を含め、様々な事態に対する自衛隊の即応性・強靱化と対処能力の向上を図る」(14頁)など、各所で自衛隊の強化に言及している。

 消費など国内需要の喚起としては、GoToキャンペーンとともに「マイナンバーカード普及やそのためのシステム・体制の充実を図りつつ、マイナポイントを活用した消費活性化策を着実に実施すること等により消費を下支えする」(12頁)としている。
 しかし2019年10月から今年6月まで行われた「キャッシュレス還元」では予算の倍以上の利用があったのに対して、9月1日から利用開始(来年3月まで)のマイナポイントは予定の4000万人の1割しか利用登録していない。マイナンバー制度の利用にこだわる施策は失敗するジンクスにはまりそうだ。
 マイナポイントについて共通番号いらないネットでは、「手続き面倒・効果不明・将来危険」と問題を指摘しマイナポイントなんかいらないと訴えてきた。キャッシュレス還元についても、地域・所得・年齢などによる利用の格差が指摘され、税の使い方としての不公平さが言われてきた。普及すれば生活が守れるわけではない。

●デジタル社会変革で「新たな日常」を実現

 骨太の方針2020の「第3章 「新たな日常」の実現」では、デジタル・ガバメント以外にさまざまな社会全体のDXを挙げている。
 企業のDXとしては、IoT、AI、ロボット、5Gの活用などのほか、新しい生活様式を新たなビジネスチャンスとすべく非対面型ビジネスモデルへの転換を支援するなどとしている。
 働き方改革では、テレワーク等の流れを後戻りさせず導入を支援するとともに就業ルールを整備し、成果型の弾力的な労働時間管理ができるよう裁量時間制について検討を行うとしている。
 初等中等教育では1人1台端末などのGIGAスクール構想を加速し、デジタル化・リモート化を推進しオンライン教育などを早期実現するとともに、ICTを活用した支援、個別最適化された学習計画の作成、教育データの標準化・利活用などをあげている。
 「新たな日常」に向けた社会保障の構築では、医療・介護分野におけるデータ利活用等の推進として、データヘルス改革を推進し患者の保健医療情報を患者本人や全国の医療機関等で確認できる仕組みの稼働や、オンライン診療や電子処方箋システムの普及促進、介護障害福祉分野の人手不足と対面以外の手段を活用する観点からケアプランのAI活用の推進や介護ロボットの導入検討をうたっている。
 「新たな日常」が実現される地方創生として、データ・サービス連携の基盤となる都市OSの開発・実装を加速し「スーパーシティ構想の早期実現」などを書いている。

 いずれもいままでも政府は推進しようとしてきたが課題・問題が指摘され、是非について議論が続いているものだ。それを新型コロナに便乗して「新たな日常」の実現のためにということで一気に推し進めようというのが、骨太の方針2020だ。 

●必要なのは感染症対策で「新たな日常」ではない

 骨太の方針2020では、社会全体のデジタル変革により「新たな日常」を実現することを繰り返し述べながら、「新たな日常」とは何かは説明していない。

 新型コロナウイルス感染症専門家会議は 2020年5月1日の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」 で、 「徹底した行動変容」で新規感染者数が限定的となっても再度感染が拡大する可能性があり、長丁場に備え感染拡大を予防する「新しい生活様式」に移行していく必要があると述べ、2020年5月4日の「状況分析・提言」(9頁) で「新しい生活様式」の実践例を示していた。
 「新しい生活様式」として例示されたのは、 専門家としての医学的な感染予防策の発信を超えて、ソーシャル・ディスタンスやマスクの着用、手洗い、換気、「三密」の回避などにとどまらず、買い物、娯楽、食事、働き方などまさに「箸の上げ下ろしの仕方」にまで介入し、オンラインやテレワーク、電子決済の利用など政府の進めるデジタル社会変革に沿った提言をしていた。

 骨太の方針2020ではさらにそれを「新たな日常」として、社会の仕組みに実装して常態化しようとしている。骨太の方針2020は冒頭、「我々は、時代の大きな転換点に直面しており、この数年で思い切った変革が実行できるかどうかが、日本の未来を左右する」(1頁) と「デジタル・ニューディール」の必要を強調する。

 しかし必要なのは感染症対策であって、「新たな日常」ではない。感染症はいずれは沈静化する。オンラインやテレワーク等は一時的に必要であっても、それをどこまで社会が実装するかは、改めて判断すべきものだ。
 危機によって必要な対策は違う。もし感染症による危機ではなく、自然災害やサイバー攻撃などによる電力や通信システムの途絶として危機が起こっていたら、逆にデジタル依存社会の脆弱性 vulnerability が問題にされていただろう。

 政府が国民の日常生活の有り様を示し、それに向けて「行動変容」を迫っていくような国のあり方を、私たちは第二次世界大戦の反省から否定し、個を尊重する民主主義を守ってきたはずだった。
 それを新型コロナへの不安にかられて「新しい日常」への行動変容=動員と、逸脱へのデジタル監視・相互監視を可能にする社会にしてしまうのか否か、まさに未来を左右する転換点だ。

マイナンバーカードの保険証利用 このままはじめていいのか

 8月7日、厚生労働省は医療機関に対し、マイナンバーカードの保険証利用に使われる顔認証付きカードリーダーの申込み受付を始めた。またマイナポータルを使った健康保険証利用の事前登録のPRも開始した。
 利用登録は7月1日のマイナポイントの申込みの受け付け開始に併せて、一緒に行うことができるようにしている。マイナポイントと保険証利用を目玉に、マイナンバーカードの普及を進めるのが政府の思惑だ。
 しかしマイナンバーカードは10万円の特別定額給付金のオンライン申請で交付申請に押し寄せても、8月1日時点で交付は約2324万枚、普及率は18.2%だ。昨年9月3日のデジタルガバメント閣僚会議で示した交付想定(7月末に3000~4000万枚)には、はるかに及ばない。

●マイナンバーカードを使わなくても受診可能

 マイナンバーカードの保険証利用とは、医療機関等を受診するときに、窓口に健康保険証(被保険者証)の代わりにマイナンバーカードを示せば保険資格確認ができる、という「オンライン資格確認」制度だ。来年3月から運用開始予定だが、マイナンバーカードがなくても従来どおり健康保険証でも受診できるので、心配ない。
 2019年5月の健康保険法等改正により導入が決まった。共通番号いらないネットは、健康保険法等改正の提案に対し「マイナンバーカードの保険証利用に反対する声明」を出している。

 マイナンバーカードを利用する場合は、下図のように事前にマイナポータルを使って「初期設定」をしておく必要がある。そうすると受診の際に医療機関が、保険資格情報等を社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が共同で管理する「オンライン資格確認等システム」に問い合わせる仕組みだ。

マイナンバー 社会保障・税番号制度概要資料令和2年5月版43頁)

●10万円給付金申請を混乱させた電子証明書を利用

  オンライン資格確認等システムへの問合せにはマイナンバーは使わず、マイナンバーカードに内蔵の「公的個人認証サービス」の電子証明書を使う。
 この電子証明書の有効期間は5年間(5回目の誕生日まで)だ。マイナンバーカード交付開始は2016年1月からで、ちょうど今年が5年目だ。そのため一律10万円の特別定額給付金では、オンライン申請しようとして期限切れに気づいたり、 住所・氏名・性別の変更で無効になっていたため、更新手続きで市町村の窓口に押し寄せる騒ぎになった。

  医療機関の窓口でも、初期設定を知らずにマイナンバーカードを持参して、トラブルが起きそうだ。そのため医療機関窓口でも初期設定を可能にする想定だが、 無効になっている電子証明書は市区町村窓口に行かなければ手続きできない。サイトで説明されているような面倒な手続きを、医療機関窓口でどこまで説明できるだろうか。

●マイナンバーカードで必ず受診はできない

 オンライン資格確認は来年(2021年)3月から利用開始予定で、政府は2023年度中に「概ね全ての医療機関等での導入」を目指しているが、医療機関等では導入しなくてもよい。利用するかどうかは医療機関の判断次第だ。導入していない医療機関に受診するときは、従来の健康保険証が必要だ。

 オンライン資格確認を利用するために医療機関は、
  (1)オンライン資格確認に使う端末等の導入
  (2)ネットワーク環境の整備
  (3)レセプトコンピュータ等の既存システムの改修
  (4)セキュリティ対策
を講じる必要がある。収束の見えない新型コロナで疲弊している医療機関等に、余計な負担をかけることになる。開業医からは不安の声があがっている。
 大阪府保険医協会が昨年医療現場を調査した結果でも、窓口でのマイナンバー漏洩やカード紛失のリスク、個人情報が一元把握されていくことへの不安、 保険証にQRコードをつけて読み取れるようにすればいい、などの意見が寄せられている。

医療保険のオンライン資格確認の概要」(令和2年2月厚労省保険局)15頁

●顔認証など2種類のカードリーダー

 医療機関や薬局がオンライン資格確認につかう端末のマイナンバーカードの読み取りリーダーは、2種類ある。

(1)顔認証付きカードリーダー
 マイナンバーカードのICチップに記録されている顔写真データと、撮影した本人の顔を資格確認端末で照合・認証するか、職員が券面の顔写真を目視で確認する。4桁の暗証番号を入力して利用することも可能。
(2)汎用カードリーダー
 マイナンバーカードをかざして本人が4桁の暗証番号を入力。職員の目視確認も可能。

 なおマイナンバーカードではなく健康保険証を提示して、医療機関が健康保険証の記号番号を入力してオンライン資格確認等システムから資格情報を確認することもできる。
 もちろん医療機関は、オンライン資格確認等システムを使わず、従来どおり健康保険証を見て確認してもいい。

●顔認証で本人確認できるように法改正

 オンライン資格確認の実施に向けて、2019年5月のデジタル手続き一括法の中で、利用者証明用電子証明書の4桁の暗証番号入力の代わりに顔認証の利用を可能にする公的個人認証法の改正(「電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律」38条2)が行われた。

 顔認証はマイナンバーカードの券面やICチップに表示・記録されている顔写真データと、撮影した本人の顔とを照合する方法が予定されているが、方法は総務省令で定めることになっており、将来は顔写真データベースとの照合なども行われる可能性もある。
 またマイナンバーカードの民間も含めた利用拡大を政府は推進しており、顔認証の利用も医療機関等でのオンライン資格確認だけでなく、総務大臣の認可で拡大していくことが予想される。

デジタル手続法案について」(2019年3月内閣官房IT総合戦略室)6頁

●消費税を使って顔認証付き端末を無償配布

 政府は1台約10万円する顔認証付きカードリーダーを医療機関や薬局に無償提供し、その他の端末費用も上限を決めて補助することにしている。
 そのためオンライン資格確認の導入を決めた2019年5月の健康保険法等改正に合わせて、「医療情報化支援基金」の創設を決めた。オンライン資格確認と電子カルテの普及のための基金に2019年度300億円、2020年度768億円の予算を組んでいるが、その財源は消費税だ。
 さらに 社会保険支払基金で顔認証付きカードリーダーを一括購入して医療機関等に配布するため、今年の通常国会で地域共生社会の実現のための社会福祉法等の改正をするなど手厚い普及策を行っている。

オンライン資格確認導入の手引き」令和2年8月厚労省保険局11頁

●なぜ熱心に顔認証を利用させようとするのか

 なぜこんなに顔認証の普及に力をいれるのか。医療機関等の窓口で暗証番号を忘れるトラブルを避け、円滑にオンライン資格確認を実施したいということはあるだろう。しかしオンライン資格確認を突破口に、マイナンバーカードや顔認証の利用を拡大する意図もあるのではないか。

 顔認証技術の急速な進歩で、世界中で監視カメラ等の映像と顔写真データベースを照合する監視システムが拡大している。顔認証大国である中国の圧力に抗する香港の若者が、コロナ禍の前から皆マスクをして抗議行動をしていたことは印象的だった。
 顔認証など生体認証は、パスワードやカードなど他の個人識別手段と異なり変更ができないという特徴があり、プライバシー侵害へのいっそうの配慮が必要だ。。
 先日監視カメラ大国イギリスで、警察が捜査のために防犯カメラに「顔認証」の仕組みを導入したのはプライバシー侵害で違法とする判決が出たことが報じられたアメリカでも顔認証データの利用を法律で規制する動きが強まっているが、日本では規制の動きは鈍いまま利用が拡大している。

●レセプト・オンラインシステムの整備も必要

 医療機関等で必要な準備は、カードリーダーなど端末だけではない。オンライン資格確認等システムに照会する際は、診療報酬の請求につかうレセプト(明細書)のオンライン請求ネットワークを活用することになっている。
 しかしレセプトのオンライン請求システムの普及率は昨年1月時点でも約60%で、診療所や歯科医院(普及率17%)では利用していないところも多く、オンライン資格確認のためには新たにネットワーク環境を整備しなくてはならない。
 すでにレセプトのオンライン請求をしている医療機関等も、オンライン資格確認のためには既存システムの改修も必要で、診察時間中は常時インターネットに接続が必要でセキュリティー対策などの負担もかかる。開業医にとって整備の負担は小さくない。

●提供されるのは保険資格だけではない

  「オンライン資格確認【等】システム」となっているように、提供される情報は保険資格だけでなく、薬剤情報や特定健診情報も提供される。
 特定健診とはいわゆる「メタボ健診」で、40~75歳を対象に腹回りのサイズや脂質や血糖などの検査をして、生活習慣病の発症リスクが高いと判断されると特定保健指導を受けることを求められる健診だ。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、市町村等)が身体測定や血液検査の結果や喫煙・飲酒・運動などの生活習慣といった健診情報を管理するが、2015年の番号利用拡大法によりマイナンバーで情報管理し保険者が代わった場合はそのデータを引き継ぐことになった。

 さらにオンライン資格確認導入に合わせて、保険者がオンライン資格等確認システムを管理する社会保険支払基金・国保中央会に健診データを委託し、本人の同意があれば医療機関等にそのデータを提供するとともに、マイナポータルで本人が閲覧できるようにして生活習慣を「行動変容」させようとしている(下図参照)。
 オンライン資格等確認システムは単なる保険資格だけでなく、健診や服薬内容など健康情報も管理するデータベースになっていく 。

医療保険のオンライン資格確認の概要」(令和2年2月厚労省保険局)28頁

●どんないいことがあるのか

 マイナンバーカードの保険証利用について、厚生労働省のチラシでは「どんないいことがあるの?」として5点のメリットをあげている。しかしどれも私たちが受診するときに大して便利にならないばかりか、プライバシーが医療機関等に伝わる不安につながる。

「就職・転職・引越をしても健康保険証としてずっと使える!」というが、「医療保険者への加入の届出は引き続き必要」の注釈付きで、新しい保険証が届くまでの時間が若干短縮する程度だ。マイナンバーカードは10年、電子証明書は5年の有効期間がくると市区町村の窓口に行って更新手続きが必要だ。保険証代わりにマイナンバーカードを使うだけなら、かえって手間だ。

 その他のメリットとして、「限度額適用認定証がなくても高額療養費制度における限度額以上の支払が免除される」がメリットとされている。
 「限度額適用認定証」とは、収入に応じて窓口で支払う自己負担額の上限をランク付けているものだ。自己負担が高額になる入院などの際に手続きをして医療機関に提示することが多いが、マイナンバーカードで通院すると近所のかかりつけ医にも収入レベルが伝わることになる。将来的には自己負担額に関わる障害や難病、精神科通院等の公費負担情報や生活保護(医療扶助)の情報の提供も予定されている。

 また「あなたが同意をすれば、初めての医療機関等でも、今までに使った正確な薬の情報が医師等と共有できる」とあるが、伝えたくないと思う病歴や健診の情報なども伝わることになる。
 同意が前提とされているが、患者の立場では医療機関に同意を求められれば断りにくい。

 医療機関にとっても、負担に見合うメリットがあるか疑問視されている。厚労省が強調しているメリットは、退職などで失効した保険証を提示されたためにレセプト請求しても返戻されて未収金が発生するリスクが減少するということだが、 無資格による返戻件数は厚労省の研究報告書でもわずか0.27%と言われている( 大阪府保険医協会サイトより)。
 患者の薬剤情報や健診情報を見ることができるというメリットも、総務省の実証事業調査では救急時に処置と並行して見ることの困難さや、初診の患者に不信感が生じる心配も医療機関の意見としてあがっていた(第2回健康・医療・介護情報利活用検討会 参考資料7より「ネットワークを活用した医療機関・保険者間連携に関する調査 概要(未定稿)」)。

●目的は医療健康情報の共有と利活用

 メリットの疑わしいマイナンバーカードを使ったオンライン資格確認システムを、政府が 何回も法改正しながら多額の費用を投じて整備しようとしているのは、それが医療情報を健康産業の育成など成長戦略に利活用する基盤になるからだ。
 国民皆保険制度の日本では個人の医療情報を管理しやすく、膨大に蓄積されるレセプト(診療報酬)等の情報を活用して健康産業を育成しようというのが政府の目論見だ。
 2013年6月閣議決定の「日本再興戦略」では、「医療情報の利活用推進と番号制度導入」として「個人一人ひとりが自分の医療・健康データを利活用できる環境を整備・促進し、適正な情報の活用により適切な健康産業の振興につなげるべく検討を進め、国民的理解を得た上で、医療情報の番号制度の導入を図る」(62頁)ことが成長戦略とされ、以後、医療分野で個人を識別管理する番号(識別子)の必要や利活用についての検討が続けられてきた。
 マイナンバー制度がスタートした2015年に厚生労働省の研究会がまとめた報告では、3ステップで医療情報を利活用していくことになっており、そのステップ2のオンライン資格確認がステップ3の医療情報連携や利活用の基盤整備とされている(下図参照)。

医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書概要/参考資料(2015年12月10日)4頁

●個人情報保護を置き去りに利活用推進

 マイナンバー制度をつくるにあたり、医療・健康情報の扱いは課題になっていた。
 マイナンバー制度構築の基になった2011年6月決定の「社会保障・税番号大綱」では、特に医療分野の情報については マイナンバー制度開始時には利用対象とせず、 そのプライバシー侵害性を考慮して特別の立法措置を整備していくことが、下記のように特記されていた。
 しかしその立法措置は講じられないまま、利活用だけが進行している。これでは「国民的理解」は得られない。

第4 情報の機微性に応じた特段の措置
 社会保障分野、特に医療分野等において取り扱われる情報には、個人の生命・身体・健康等に関わる情報をはじめ、特に機微性の高い情報が含まれていることから、個人情報保護法成立の際、特に個人情報の漏洩が深刻なプライバシー侵害につながる危険性があるとして医療分野等の個別法を検討することが衆参両院で付帯決議されている。
 今般、番号制度の導入に当たり、番号法において「番号」に係る個人情報の取扱いについて、個人情報保護法より厳格な取扱いを求めることから、医療分野等において番号制度の利便性を高め国民に安心して活用してもらうため、医療分野等の特に機微性の高い医療情報等の取扱いに関し、個人情報保護法又は番号法の特別法として、その機微性や情報の特性に配慮した特段の措置を定める法制を番号法と併せて整備する。
 なお、法案の作成は、社会保障分野サブワーキンググループでの議論を踏まえ、内閣官房と連携しつつ、厚生労働省において行う。(「社会保障・税番号大綱」55頁)

●レセプト・健診情報の不正利用が発覚

 レセプトの情報は診療報酬の請求のための情報だ。特定健診の情報も、本人が生活習慣病予防のために使う情報だ。それを研究や産業育成のために活用していくことは目的外利用だ。
 しかしすでに政府はレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB) から、ガイドラインによって医療費適正化計画に関連する調査や分析のほか、有識者会議の審査を経て研究目的に第三者提供をしている

 今年5月1日、厚労省はこのレセプト・特定健診データの不正利用の発生を公表した。
 国立精神・神経医療研究センターの山之内芳雄氏主導で、あらかじめ申し出た利用目的以外でデータを利用する利用規約違反があり、レセプト情報等の速やかな返却、複写データの消去、中間生成物の消去及び成果物の公表の禁止、レセプト情報等の提供の無期限禁止や氏名・所属機関の公表の措置がとられた。

 毎年、多数の第三者提供が行われている。ガイドラインでは、レセプト情報等の各情報に該当する患者又は受診者個人の特定(又は推定)を試みないことや、有識者会議が特に認めた場合を除き提供されたその他の個体識別が可能となる可能性があるデータとのリンケージ(照合)を行わないことが定められているが(4~5頁)、私たちにそれを確認する術はない。
 提供先は公益的な機関とされているが、医療情報の利用はそもそも「健康産業の振興」のために推進されてきた。利用が広がれば、不正な利用も増加する。
 利活用の検討は行政・医療関係者・研究者で進められてきた。個人情報保護のための特段の立法措置の整備はもちろんだが、そもそも利活用そのものについて市民・患者の立場からの検証も必要だ。