「マイナンバー制度」カテゴリーアーカイブ

「より良い医療」を理由に
マイナ保険証を強要できるか

<目次>
●健康保険証廃止の前提条件を検討
●メリットを感じないマイナ保険証
●「より良い医療」のためなら選択制を
●広がる医療・健診・介護情報の共有
●DV等対象者や機微な診療情報の取扱い
●自己情報コントロールの保障がない

 2月17日(2023年)、「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」は「中間とりまとめ」を公表した。これを受けて、マイナカードを持たない人への無料の「資格確認書」の発行や「特急発行・交付」の仕組み、1歳未満への顔写真がないカードの交付、対面での本人確認が難しい場合の代理人への交付などが報じられている。またそれ以外にマイナンバーカードから住所、性別、マイナンバーの記載を削除する方向で検討という、マイナカードのあり方も変える報道もある。

●健康保険証廃止の前提条件を検討

 昨年10月13日に河野デジタル大臣が2024年秋に健康保険証を廃止すると記者会見したが、廃止には前提条件があることを当ブログで指摘してきた。この検討会はその条件に対応するためにデジタル大臣、総務大臣、厚労大臣を構成員とし、昨年12月6日に第1回が行われ検討課題(案)を示したあと専門家WGで検討してきた。
 専門家WGの議事概要も2月17日に公表されているが、デジタル庁統括官を座長に総務省・厚労省の担当局長、医師会、歯科医師会、薬剤師会、健保連、国保中央会を構成員に、昨年12月22日23日に高齢者、障害者などの関係団体からヒアリングを行っていた。
 「中間とりまとめで具体化に至らなかった事項については、最終とりまとめに反映できるよう検討する」と記されているように、ヒアリングでは多くの課題が指摘され、その解決策を国は示すこともできなかったにもかかわらず、わずか2回(2月7日、16日)のWGで拙速にもまとめを公表したことに政府の焦りが感じられる。

●メリットを感じないマイナ保険証

 「中間とりまとめ」は冒頭、マイナンバーカードと健康保険証一体化の意義として、マイナ保険証のメリットを並べている。しかしメリットが感じられていないことは、政府の調査でも明らかになっている。
 昨年12月2日~12日の調査では、マイナンバーカードの健康保険証利用を申し込んだ理由の実に89.1%は「マイナポイントがもらえるから」であり、「利用できるから」14.3%、「メリットを感じたから」11.6%を大きく上回っている。昨年8月26日~9月2日の調査結果も同様だが、マイナ保険証を利用できる医療機関は増えているのにメリットを感じる人はさらに減っている。政府のメリット論の破綻は明らかだ。
 実際、マイナ保険証のメリットと言われていることに対しては、さまざまな疑問がある一方で、危険性も指摘されている(当ブログ「やっぱり負担増になるマイナカード保険証」参照)。

  2023年1月15日スペースエフ緊急学習会資料より

●「より良い医療」のためなら選択制を

 メリット論の説得力のなさを悟ったのか、最近政府は「データに基づいたより良い医療を受けるため」ということを強調している。マイナ保険証を利用することで、薬剤服用歴や特定健診(俗に言うメタボ健診)のデータ、さらに昨年9月からは受診した医療機関で他の医療機関の診療情報も見ることができるようになったことを、より良い医療を受けられると言っている(厚労省資料参照)。
 医療機関での閲覧は本人同意が必要となっているが、医師から閲覧を求められて患者が拒めるか、カードリーダーで「同意」を押すときに仕組みをどこまで患者が理解しているか、疑問だ。
 診療情報等を医師に提供することにメリットを感じる場合もあるだろうが、知られたくない情報が伝わるデメリットを感じる場合もあるだろう。閲覧を希望しない患者にまでマイナ保険証の利用を押しつけるのは、人権侵害ではないか。医療機関側はより多くの情報を欲するだろうが、そのために患者が受診をためらうようになっては元も子もない。少なくともマイナ保険証の利用は選択制にして、望まない患者には保険証を交付すべきだ。

 実際、オンライン資格確認の本格運用が始まった2021年10月から2022年12月までで、マイナンバーカードを使って資格確認した件数は4,941,102件だが、患者が医療機関の閲覧に同意したのは特定健診等情報が818,606件、薬剤情報が2,168,971件となっている(社会保障審議会医療保険部会2023年1月16日第162回資料1より)。閲覧は特定健診等が約16%、薬剤情報でも約44%しかなく、閲覧を望まない患者が少なくないことが推測できる。
 ちなみに同時期にオンライン資格確認は約7億件利用されているが、マイナカードによるものは約495万件、保険証によるもの約6億件、一括照会によるもの約9,200万件となっている。マイナカードを使わなければ健診情報等は閲覧できないが、閲覧できない場合でもオンライン資格確認を導入している医療機関で受診すると支払い(加算、下表参照)が増える。大部分の閲覧していない患者から、「より良い医療」を理由に加算を取るのはボッタクリだ。

●広がる医療・健診・介護情報の共有

 政府は医療DXとしてオンライン資格確認等システムを拡充して「全国医療情報プラットフォーム」をつくり、特定健診や服薬情報だけでなく電子カルテや自治体の健診、介護情報など医療・健康・介護情報全般を医療機関が閲覧できるようにしようとしている(「骨太の方針2022」32頁)。

「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム第1回2022年9月22日資料1より
2022年11月17日院内集会 神奈川県保険医協会藤田理事資料より

 共有情報が広がると、閲覧に同意するとどのような情報が医師に伝わるかわからなくなり、医師と患者の信頼関係を損なうことも出てくるだろう。医療情報の利活用によって産業振興につながることを期待してこのような共有を進めることは、医療者の職業倫理にも反する。

●DV等対象者や機微な診療情報の取扱い

 オンライン資格確認等システムの導入に向けて厚労省が検討した資料では、DV対象者の情報や機微な診療情報の取扱いをどうするかが検討課題となっていた。

オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)104頁

 DV被害者等のマイナ保険証利用にあたっては、オンライン資格確認等システムの開始によりDVや虐待等の被害者の情報が加害者に閲覧されると身体・生命の危険につながるため、本人が「自己情報提供不可フラグ」の設定をすることを自治体は呼びかけている(たとえば船橋市和光市京都市いわき市瀬戸市浜松市松前町羽村市港区等)。
 機微な診療情報(精神科、婦人科等)については、受診履歴が第三者に知られることが心理的負荷やストレスにつながるため、現在は医療費の通知に記載しない扱いになっていることをふまえて、本人の申請により保険者が「自己情報提供不可フラグ」を設定するとなっている。

オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)106頁

●自己情報コントロールの保障がない

 しかしフラグを設定すると「機微な診療情報項目だけではなく、情報全体を閲覧不可とする」扱いになる。健診・服薬・診療情報を医療機関が閲覧できるのがマイナ保険証のメリットだとすると、DV等被害者や機微な診療を受けている人は、マイナ保険証のメリットを享受できないという差別的扱いを受けることになる。また医療機関等に対しては、フラグを付けていることによって、DV等被害者や機微な診療を受けているということのカミングアウトを強いられる。
 誰もが、個々の診療内容毎に、誰に対して、どんな情報を提供するか、さらにはどんな情報をシステムに記録するか、決められる仕組みになっていれば防げる問題だ。マイナ保険証(オンライン資格確認等システム)も、マイナンバー制度も、このような自己情報コントロール権を保障する仕組みになっていない。
 マイナンバー制度の開始時には「医療分野等の特に機微性の高い医療情報等の取扱いに関し、個人情報保護法又は番号法の特別法として、その機微性や情報の特性に配慮した特段の措置を定める法制を番号法と併せて整備する」ことになっていた(「社会保障・税番号大綱」55頁)。そして「社会保障・税番号大綱」では、マイナンバー制度によって実現すべき社会として「国民の権利を守り、国民が自己情報をコントロールできる社会」もあげていた(5頁)。
 マイナ保険証や医療DXを進める前に、まず自己情報コントロール権を保障する法整備をすべきだ。

マイナ保険証はいらない!
マイナカードは義務ではない

 河野デジタル大臣が2022年10月13日の記者会見で突然、2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目ざすと表明して以降、「マイナカード、事実上の義務化」などと報じられていることの影響で「マイナンバーカードを申請しなければいけないのだろうか」という疑問が寄せられている。
 2022年11月9日の当ブログでも書いたように、マイナンバーカードの所持は義務ではない。健康保険証廃止でもそのことは変わらないと政府も明言しており、あわててマイナンバーカードを申請する必要はまったくない。マイナカードの普及率は6割程度だ。これからも健康保険証を使おう。

●マイナカードの所持は義務にならない

 番号法第16条の二で、個人番号カード(マイナンバーカード)は「政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき」発行されることになっている。申請するかしないかは、個人の自由だ。
 総務省は「取得を義務付けるべきではないか」の問いに「マイナンバーカードは、本人の協力のもと、対面での厳格な本人確認を経て発行される必要があるが、カード取得を義務付ければ、この本人の協力を強要することとなり、手法として適当でない。」と答え(経済財政諮問会議の国と地方のシステムワーキング・グループ(2019年3月15日第17回)その考えは今も変わらないとしている。
 公務員へのカード取得強要が社会問題になったときにも、総務省は取得は義務なのかの問いに「マイナンバーカードは、本人の意思で申請するものであり、(公務員に限らず)取得義務は課されておらず、取得を強制するものではない」(総務省自治行政局公務員部福利課の令和元年9月20日付「地方公務員等のマイナンバーカードの一斉取得の推進に関するQ&A」)と説明していた。

●健康保険証廃止=マイナカード義務化ではない

 マイナ保険証を審議した第210回国会でも、政府は繰り返し「マイナンバーカードの取得は義務ではない」と明言し、健康保険証が廃止されてもそれは変わらないと答弁している。
 2022年10月20日参議院予算委では河野デジタル大臣が、マイナンバーカードを保険証として利用しても「以前と同様、申請に応じて、求めに応じてマイナンバーカードを交付する、その状況には変わりはございません」と述べ、そうはいっても保険証を廃止するということはほぼ義務化に近いので本来は法改正すべきではないかとの質問に、「法改正は必要ございません」と答えている。
 10月27日の衆議院総務委では、デジタル庁審議官が「マイナンバーカードはマイナンバー法におきまして、国民の申請に基づき交付されるものであるというふうに書いてございます。この点を今回変更しようとするものではございません。」と説明し、厚生労働省大臣官房審議官は「マイナンバーカードは国民の申請に基づき交付されるものでございまして、今回のマイナンバーカードと健康保険証の一体化、これはこの点を変更するものではないと承知しております。したがいまして、今回の取組によりまして、マイナンバーカードの保有が義務づけられるものではございません。」と説明している
 2022年10月28日の衆議院内閣委では、次のようなやりとりがされている。

○委員
 河野大臣が今般、マイナンバーカード保険証の実質義務化を前倒し実施する方針を示されたその意図
○河野国務大臣
 マイナンバーカードは、申請に応じて交付をするというところは変わっておりませんので、義務化ではございません。
○委員
 今、義務ではないとおっしゃいましたが、実質的には義務のように感じてしまう国民も多いかと思うんですね。反対される方の中で多いのが、マイナンバーカード取得は任意ではないのかということですね。マイナンバーカードの取得自体が、そもそもが任意であるのか義務であるのか、政府としての明確な御答弁を
○村上政府参考人(デジタル庁統括官)
 マイナンバーカードは、対面に加え、オンラインでも確実な本人確認ができる最高位の身分証であり、安全、安心なデジタル社会のパスポートということではございますが、先ほど大臣からも御答弁申し上げたとおり、その取得は本人の意思で申請するものであり、国民の皆様に取得義務は課されておらず、取得を強制するものではないということでございます。
○委員
 であれば、国民皆保険の我が国で、現行の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化するということは、実質のマイナンバーカード取得義務化となり、法の趣旨に反することにはならないか
○村上政府参考人 
 マイナンバーカードは、趣旨、繰り返しになりますが、国民の申請に基づき交付されるものでございます。この点につきましては、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に当たっても変更することはございません。したがって、マイナンバーカード保有を義務づけるということを申し上げているものではないということでございます。

●健康保険証廃止には前提条件がある

 「2024年秋に健康保険証廃止」だけがクローズアップされ、あたかも決定した既定方針であるかのように思われているが、10月13日の記者会見の内容をよく見る必要がある。
 記者会見で河野大臣は、岸田首相の指示で9月29日から河野大臣が議長の関係省庁の連絡会議で検討し首相に報告した内容を発表している。つまり河野大臣の「独走」ではなく岸田首相の指示によること、閣議決定を経ていない関係省庁の会議の結果、ということだ。
 そこで「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に向けた取組」について、以前の閣議決定を前倒しして、
①訪問診療、あんま、鍼灸などにおいてマイナンバーカードに対応するための補正予算の要求
②マイナンバーカードの取得の徹底
③カードの手続き・様式の見直し

の3点の検討を行った上で、2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指すと発表した。
 つまり①~③という前提条件をクリアして、はじめて保険証廃止を目指すことができる。
 さらに2022年10月24日の衆議院予算委員会で岸田首相は、2024年秋の後にマイナンバーカードを取得しない人はどうすればいいのか、資格証明書(窓口でまず十割全額自己負担して後でお金が振り込まれる)のように窓口全額負担になるのか、との質問に対し、保険証に代わる保険診療を受けられる制度を用意するという第④の条件を答弁している

条件④ 岸田首相答弁
 政府としては、マイナンバーカードを普及させ、そして、令和六年秋に健康保険証の廃止を目指すことといたしておりますが、何らかの理由によって取得ができない方取得されない方、こうしたことについては、保険料を納めておられる方については、一旦全額を負担していただくようなことはなく保険診療を受けられること、これは当然のことであると思います。そのための準備を進めるよう、担当大臣が今調整を進めている次第であります。・・・保険料を納めておられる方は、その仕組み(=資格証明書)ではなくして保険診療を受けられる、こうした制度を用意しますということを申し上げています。

 この①~④の条件がクリアできないと保険証廃止はできない。②マイナンバーカードの取得の「徹底」というが、カードの取得は義務ではなく、市民がマイナンバーカードと健康保険証の一体化などにメリットを感じて自ら取得しないかぎり「徹底」はされず、保険証は廃止できない。
 さらにマイナ保険証を使うためのオンライン資格確認等確認システムが全ての医療機関で整備されなければ保険証の廃止はできないが、中医協(中央社会保険医療協議会)の2022年8月10日の答申では、現在紙レセプトでの請求が認められている保険医療機関・保険薬局については、オンライン資格確認導入の原則義務付けの例外としている。
 また12月23日の中医協では、離島・山間や建物の制約でオンライン資格確認に必要な電気通信回線(光回線)が整備されていない医療機関等は、回線が整備されるまで延期とされている。そもそもオンライン資格確認の運用を開始している医療機関等は、2023年1月29日時点でも44.7%にとどまっている(医科診療所は32.7%、歯科診療所は36.1%)。

●閣議決定を覆す記者会見の内容

 政府は2022年6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」で、マイナンバーカードと健康保険証の一体化について、2024年度中の「保険証発行の選択制の導入」と保険証の「原則廃止希望すれば保険証は交付)」という方針を決めていた。

 オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す(診療報酬上の加算の取扱いについては、中央社会保険医療協議会において検討)。
 2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す(加入者から申請があれば保険証は交付される)。(「骨太の方針2022」32頁)

 河野大臣は閣議決定の前倒しだと言うが、決定と記者会見とは内容が異なる。閣議決定を4カ月でひっくり返したわけだだが、その理由は説明はされていない。6月にはじめたマイナポイントで思ったほど健康保険証利用登録が増えないため、焦って健康保険証廃止を表明したことがうかがわれる。
 なお「保険証発行の選択制の導入」とは、現在は健康保険法施行規則(省令)の47条等で、保険者(協会けんぽ、健保組合等)には被保険者証を被保険者に交付することが義務付けられているが、これを選択制にするということだ。その結果保険証の有料化や期間の短い保険証などの問題が起きる可能性があり、選択制にするなら少なくとも保険証希望者に不利益や差別が生じないようにすべきだ。

●保険証廃止を表明してから条件整備を検討

 ①~④の条件をクリアするために、デジタル大臣を議長とする「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」が2022年12月6日から開催されている。河野デジタル大臣、松本総務大臣、加藤厚生労働大臣を構成員としているが、実質的な検討は村上デジタル庁統括官を座長とする専門家ワーキンググループで行い、第2回の検討会は専門家ワーキンググループの検討状況を踏まえて検討することになっている。廃止を表明してから課題を検討するという泥縄だ。
 この検討会の検討事項として、以下の事項をあげている。

マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会における検討事項(案)
(1)特急発行・交付の仕組みの創設等について
 ・特急発行・交付の対象者(新生児、紛失、海外からの入国など)
 ・発行・交付に要する期間のさらなる改善
(2)代理交付・申請補助等について
 ・代理交付を幅広く活用できるようにするための柔軟な対応、申請補助・代理での受取等を行う者の確保等の具体的な促進方法等
(3)市町村による申請受付・交付体制強化の対応
 ・出張申請受付等の拡大など効率的な実施方法等
(4)紛失など例外的な事情によりマイナンバーカード不所持の場合の取扱い
 ・不所持の場合の資格確認の方法
 ・子どもや要介護者等におけるマイナンバーカードの取り扱いについて
(5)保険者の資格情報入力のタイムラグ等への対応
 ・資格変更時のオンライン資格確認システムへの入力のタイムラグ
※その他、保険証廃止後のオンライン資格確認における実務上の課題
 ・発行済の保険証の取扱い
 ・災害時、システム障害時の対応
▼法律改正が想定される事項
(1)番号法
 ① 乳幼児の写真
(2)国民健康保険法等
 ① 資格の取得や喪失の事実関係、資格確認に必要な事項の証明に関する規定の整備
 ② 滞納対策の仕組み、滞納者への通知等に関する規定の整備
 ③ 保険証廃止に伴い不要となる規定の削除、これらに伴う技術的改正

●容易ではない保険証廃止の課題解決

 これら検討課題にはいずれも問題があり、果たして2024年秋までに解決するか検証しなければならない。
 (1)特急発行・交付の仕組みの創設が必要というのは、保険証であればすぐに発行できるが、マイナ保険証にするとマイナンバーカードの発行に1~2か月かかるため、紛失時・新生児・入国者等の受診に支障が出るためだ。
 寺田前総務大臣は10月27日の衆院総務委員会で「紛失等により速やかにこのカードを再発行する必要がある場合は、市町村の窓口で申請をすれば、長くても十日間程度でカードを、現実、取得をすることができる」ように取り組むと答弁しているが、その具体的方法は語っていない。紛失等がなくても、マイナカードは10年ごとに更新が必要で、その時の受診はどうするのか。
 市町村で発行していた住基カードでは即日交付も可能だったが、マイナンバーカードはJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)で発行しているためどうやって期間短縮するのだろうか。仮に十日間程度に短縮できても保険証よりは不便だ。

 (2)代理交付・申請補助等については、マイナンバーカードは「最高位の身分証」(牧島前デジタル大臣の弁)として自治体職員が対面で本人確認して交付することになっている。それを自治体職員の対面での本人確認が困難な施設入所や寝たきりの高齢者について、高齢者施設の施設長やケアマネジャーが自治体職員に代わって本人確認することを可能にするという検討だ(2022年12月6日読売オンライン)。
 高齢者や「障害者」の代理申請をどうするかは重要な課題で、現在でも本人が病気や身体の障がい、その他やむえない理由により交付場所に来るのが難しい場合は代理人にカードの受け取りを委任できる扱いがされている。だがここで言われているのは、全住民にマイナカードを保有させるという目標達成のために、普及の支障となっている本人確認の水準を下げるという話だ。
 カードを普及させるためという理由で本人確認を緩めていけば、成りすまし取得の可能性を高め、「最高位の身分証」として信用されなくなる事態も起こりうる。

(3)市町村による申請受付・交付体制強化の対応というが、すでに昨年、マイナンバーカードの交付率によって地方交付税に差をつけるという話が出て以降、市町村は国の方針に怒りを感じながらも交付税を減らされないためにカード申請を増やそうと出張受付などで忙殺されている。これ以上、どのような強化を求めようというのだろうか。

(4)紛失など例外的な事情によるマイナンバーカード不所持の場合の取扱いについては、そもそも課題の立て方が問題だ。マイナンバーカードの申請は任意であり、保険証として登録し利用するかどうかは自由だ。それをあたかも「紛失など例外的な事情」がなければ所持しているハズだとするような課題設定しているのはおかしい。検討するのであれば岸田首相が答弁しているように、「取得ができない方取得されない方」の扱いとすべきだ。
 「例外的な事情」も紛失だけでなく、例えば自身が病気で通院できない場合に親族等他人が代わりに処方箋や薬を受け取りにいく際に、マイナ保険証を顔認証で利用することはできず暗証番号を入力する必要がある。当ブログの「またやるのかマイナポイント(3) 危険なマイナポイントとカード」などで指摘してきたように、マイナンバーカードと暗証番号がセットになれば、マイナンバーで管理している世帯・税・健康・福祉・子育て・雇用など膨大な個人情報を他人が本人に成り済まして閲覧したりすることが可能になる。マイナンバーカードと暗証番号をいっしょに持ち歩いて紛失したり他人に委ねたりすればこの危険性が増大するが、どう対策するのか。

(5)保険者の資格情報入力のタイムラグ等への対応という検討課題は、これが課題にあがっていることのおかしさを感じるべきだ。
 政府はマイナンバーカードの健康保険証利用のメリットの一つとして、就職・転職・引越をしても新しい健康保険証を受け取るのを待たずにすぐ医療機関にかかれることをあげてきた。ところが保団連(全国保険医団体連合会)が昨年8月に行った実態調査では、オンライン資格確認を導入した医療機関で、登録データの不備や更新の遅れというデータ上のトラブルが多発していることが明らかになっている。そのため患者が提出した正しい保険証を無効と判断してしまうことも起きている。このタイムラグへの対応が検討課題に上がっているのは、国もこのトラブルを認識しているからだ。
 マイナ保険証を使用するためのオンライン資格確認は、下図のように保険者から資格情報を社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が共同で設置した「オンライン資格確認等システム」に登録し、それを医療機関で読み出して確認する仕組みだ。保険者からの登録が遅れれば直近の資格情報が確認できない。

      厚生労働省のサイトより

 じつは保険者からの登録が遅れることは、以前からわかっている。市区町村では退職して国保に加入する場合、本来は情報提供ネットワークシステムで照会することで本人が健康保険資格喪失証明書などを提出しなくても手続ができることになっているが、照会対象となる情報の登録に時間がかかっているために情報連携(情報照会)が即時に行えず、必ず健康保険資格喪失証明書など届出に必要な書類を持参するように周知してきた。
 この問題が解決しないと、オンライン資格確認より保険証を受け取る方が早くなる場合も出てくる。

(6)番号法の改正事項として乳幼児の写真が上がっている。乳幼児(5歳まで?)は顔写真を不要にしたり、出生届の提出と同時にマイナンバーカードの手続きを完了させることが検討されるようだ(2022年11月1日朝日)。しかしマイナンバーカードが顔写真付きの身分証明書であることは、成りすましの防止のための本人確認手段というマイナンバー制度を成り立たせる根幹的な仕組みだ。普及のためにその前提を変えてしまっていいのだろうか。

●失敗した全住民へのマイナカード普及策

 政府は2019年6月4日、2023年3月末に「ほとんどの住民がカードを保有」を想定する「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」を決めた(下図)。「骨太の方針2021」では、それを「想定」ではなく「目指す」方針とした。
 政府はもともとマイナンバーカードの普及はめざしていたものの、マイナンバーカードの所持はマイナンバー制度において必須の要件ではなかったため、全住民に所持させることは想定していなかった。それがマイナンバーカードに内蔵されている電子証明書の発行(シリアル)番号を、法的な規制の厳しいマイナンバーの代わりに本人識別に利用して、民間も含めたさまざまなデータベースのIDと連携することを利用拡大の柱に据えたために、全住民に所持させる方針に転換した。
 しかし2023年1月末時点でもマイナンバーカードの交付率は60.1%しかない。約2兆円をかけたマイナポイント第二弾で2万円の餌で釣ったものの、9500万人分を予算化したにもかかわらず健康保険証登録は4392万人でマイナンバーカード所持者の約58%、公金振込口座登録は3750万人でカード所持者の49.8%と、予算の半分も利用されていない(デジタル庁ダッシュボード1月29日時点)。健康保険証登録も公金振込口座登録も、政府の調査で登録理由の88%は「マイナポイントがもらえるから」で、登録した人もメリットを感じていない。政府のマイナカード普及方針は失敗した。

デジタル・ガバメント閣僚会議(第6回)2019年12月20日資料1

●マイナカードの全住民所持方針の撤回を

 2022年10月13日の記者会見は、マイナンバーカードの利便性の強調やマイナポイントという利益誘導などの「アメ」ではこれ以上の普及は困難と判断し、マイナンバーカードを所持していないと生活に困るぞという「ムチ」による脅しに転換したことを意味する。その手段として、国民皆保険制度のもとで私たちの健康に不可欠な健康保険証を人質に使っている。
 岸田首相は、「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポート」と繰り返しているが、このような脅しで所持させたカードを「パスポート」とするデジタル社会は誰一人取り残さない監視社会だ。政府は諸悪の根源である「全住民にマイナンバーカードを所持させる」方針を撤回し、失敗した最大の理由である市民のマイナンバー制度に対する不安に応えて制度を再検討すべきだ。

マイナ保険証はやっぱり危険
デジタル庁回答のごまかし(1)

●命を人質にマイナカード普及を図る政府

 デジタル庁は11月8日、「よくある質問:健康保険証との一体化に関する質問について」をサイトに掲載した(⇒こちら)。河野デジタル大臣によれば、10月13日の記者会見で「2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と発表して以降、約5千件の質問や不安がデジタル庁のサイトに殺到しているために、代表的な7件の質問に答えたそうだ。
 連日メディアでも取り上げられ、多くの芸能人も発言するなど関心が高まっている。国民皆保険制度の日本で、健康保険証がなくなるということは生命にかかわる大問題であり、関心が集まるのは当然だ。にも関わらず、政府が曖昧な説明に終始していることでますます不安が強まるとともに、命を人質にマイナンバーカードの普及を図ろうとする政府への怒りも広がっている。
 11月17日には、保険証廃止反対!オンライン資格確認・マイナンバーカード強制反対!緊急院内集会が、衆議院第2議員会館多目的会議室で行われる(⇒詳しくはこちら)。

 松野官房長官は10月13日午後の記者会見で、情報流出が怖いといった国民の「漠然とした不安」を払拭するため、カードの安全性についてしっかり広報していくと答えている。しかしマイナ保険証の危険性は「漠然とした不安」ではない。いままで政府が説明してきたマイナンバー制度の危険性を翻して、安全神話をまき散らしても市民の信頼は得られない。

●「マイナンバーカードの取得は任意」と明言

 デジタル庁のQ1では、「マイナンバーカードの取得は任意だと思っていましたが、必ず作らなければいけないのでしょうか」の問いに、「マイナンバーカードは、国民の申請に基づき交付されるものであり、この点を変更するものではありません。また、今までと変わりなく保険診療を受けることができます。」と明言している。
 10月13日の記者会見以降「マイナカード事実上の義務化」などと報じられ、マイナカードを所持しないと保険診療が受けられなくなるかのような世論づくりがされている。市区町村の窓口には「義務になるなら今のうちに」とばかりにマイナカードの申請が増えているそうだ。「義務化」と誤解して振り回されるのはやめよう。

 このような報道がされる原因は、政府の意図的に曖昧な説明にある。河野デジタル大臣は10月13日の記者会見で、記者の再三の「カード所持の義務化なのか」の質問に、「しっかり取得していただくのが大事」「ご理解をいただけるように、しっかり広報していきたい」など、はぐらかした答えに終始した。その一方で、保険証廃止のためにはマイナカードの取得の徹底が必要とも説明していた。申請は任意で所持は自由であるマイナカードの取得を、なぜ「徹底」などと言えるのか、説明もなかった。
 Q1では「紛失など例外的な事情により、手元にマイナンバーカードがない方々が保険診療等を受ける際の手続については、今後、関係府省と、別途検討を進めてまいります」と書いているが、マイナカードの所持は任意であり、持たない理由は自由だ。あたかも「紛失など例外的な事情」がなければマイナカードを所持するのが当たり前であるかのような説明は、取得義務はないとの説明と矛盾する。

●マイナカード所持は義務ではない

 改めて述べるまでもないが、番号法第16条の二では個人番号カード(マイナンバーカード)は「政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき」発行されることになっており、政令で住所地市町村長は申請者に出頭を求めて個人番号カードを交付することになっている。申請するかしないかは、個人の自由だ。
 総務省は経済財政諮問会議の国と地方のシステムワーキング・グループ(2019年3月15日第17回)で、「取得を義務付けるべきではないか」の問いに「マイナンバーカードは、本人の協力のもと、対面での厳格な本人確認を経て発行される必要があるが、カード取得を義務付ければ、この本人の協力を強要することとなり、手法として適当でない。」と答え、その考えは今も変わらないとしている。
 公務員へのカード取得強要が社会問題になったときにも、総務省は取得は義務なのかの問いに「マイナンバーカードは、本人の意思で申請するものであり、(公務員に限らず)取得義務は課されておらず、取得を強制するものではない」(総務省自治行政局公務員部福利課の令和元年9月20日付「地方公務員等のマイナンバーカードの一斉取得の推進に関するQ&A」)と説明していた。

●マイナカードの所持は「必須」ではない

 マイナンバーカードは法令で定められた事務でマイナンバーの提供を受ける際に、成り済まし犯罪防止のために義務付けられている本人確認の措置の手段として作られた。番号法16条本人確認の措置で「提供をする者から個人番号カードの提示を受けることその他その者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置をとらなければならない」となっているように、その他の方法(例えば運転免許証+通知カード)も認めており所持は必須ではない。
 マイナンバー制度の設計にかかわった石井夏生利中央大教授は、朝日新聞のインタビューでその趣旨をこう説明している。

 「もともとマイナンバー制度をつくるときにカードがなくてもいいように制度をつくっています。カードの取得を制度運用の条件にすると、取得しない人が制度から漏れてしまい、国民全員に割り振られる番号制度の趣旨を実現できなくなります。また、個人情報保護の面でも国民からの不安がぬぐえないと考えられていました。さらに、カードをつくるには、本人確認のために行政の窓口に来てもらう必要もあります。そういったもろもろの事情があり、カードを必須にはしませんでした」
 「ですので義務化に動くとなると、取得を任意としていた前提が崩れることになります。カードは必須ではないと言っていたのに変えてしまうわけですから」

 番号法制定の際の国会答弁でも、担当の甘利大臣はマイナンバーカードについて、自分自身を証明することの必要性というのはそれを持っている本人の利便性にかかわることであり、国としてこれを持っていなければけしからぬとか、罰するとか、そういうものではありませんと答えていた
 マイナンバーカードの所持を全ての人に「徹底」するということは、マイナンバー制度の前提を根本から変えることを意味する。なぜ全ての人が所持する必要があるのか、政府は説明していない。

●マイナカードはデジタル社会のパスポート?!

 岸田首相や河野大臣は、マイナカードはデジタル社会のパスポートだとか入り口だとか繰り返している。どうやら政府の目指すデジタル社会は、国内版パスポート=マイナカードを持ち歩かないと生活できなくなる社会のようだ。
 2021年のデジタル改革6法の国会審議で平井元デジタル担当大臣は、デジタル改革関連法案が描く社会像は、デジタルの活用によって国民の一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会であり、誰一人取り残さない人に優しいデジタル化だ、と説明し、「デジタル社会に参画することは国民の義務ではない」「マイナンバーカードを始めデジタルを全く活用しない生活様式を否定しているものではありません」「個人がデジタル機器を利用しない生活様式や選択も当然尊重されるもの・・・・・・国民にデジタル化を迫るものではない」などと答えていた。
 しかし岸田政権の目指しているのは、国民にデジタル化を迫り、デジタル機器を利用しない選択は許さず、マイナンバーカードを活用しない生活様式を否定する社会のようだ。マイナカードを所持しない人を排除しようとする社会のどこが「誰一人取り残さない 人に優しいデジタル化」なのか。デジタル監視は嫌だというニーズは選べず、自己情報をコントロールできるという幸せは実現されない社会だ。
 マイナカードを国内版パスポートにすることで何を企んでいるのか、政府はまず明らかにすべきだ。

 

やっぱり負担増になる
マイナカード保険証

●マイナカード保険証の自己負担見直し

 8月3日に当ブログの「マイナポイントはマイナスポイント?」で、マイナポイントに釣られてマイナンバーカードの保険証登録をすると、受診時の患者負担が増えることを書いた。
 2022年8月10日の中医協(中央社会保険医療協議会)は、問題になっていたこの患者自己負担額の見直しを答申した。見直しによりマイナ保険証を利用した方が患者負担が少なくなると説明しているが、そもそもオンライン資格確認等システムを利用しない医療機関で受診すれば患者負担はゼロだ。
 政府はマイナンバー制度が「国民の利便性の向上」とか「(行政の)効率化」に役立つと説明してきたが、国民の負担を増やし現場の仕事を非効率にすることがここでも示されている。にもかかわらず政府はマイナ保険証(オンライン資格確認システム)の実施を見直すこともなく、来年3月までにすべての医療機関に「導入原則義務付け」し押しつけようとしている。
 医療機関と患者の負担を増やすだけのオンライン資格確認の義務化撤回!
 マイナ保険証の押しつけ反対!
 目先のポイントに釣られて、マイナポイントで健康保険証登録するのは止めよう。

●マイナ保険証を利用すると増える負担

 2022年4月から医療機関を受診した際に、新たに「電子的保健医療情報活用加算」を払わなければならなくなった。マイナ保険証(健康保険証登録したマイナンバーカード)で受診すると、初診で7点(3割負担では21円)、再診4点(同12円)、調剤は月1回3点(同9円)などが余分にかかる。
 さらにマイナ保険証を使わずに健康保険証で受診しても、オンライン資格確認等システムを導入している医療機関を利用するだけで初診で3点(同9円)払わなければならない。一方、オンライン資格確認等システムを導入していない医療機関(診療所の8割以上が未導入)で受診すれば、支払いは必要ない。

 なぜこのような加算が導入されたかといえば、国のオンライン資格確認等システム導入の補助金では、システムの導入経費や回線費用など毎月の維持費に足りなかったからだ。8月10日の中医協の資料によれば「過半数以上の病院が事業額の上限を超過している」状態で、下図のように導入費用の補助を増額するとされた。

    2022年8月10日中医協資料 総-8-3

 オンライン資格確認等システムの導入には、想定を超える費用がかかっている。この費用を患者と保険者(健康保健組合、協会けんぽ、国保等)に負担させようと、厚生省が導入を進めたこの加算に対し、政府・デジタル庁はマイナンバーカードの普及やマイナポイント申請の支障になると危惧した。
 案の定、世論はこの加算新設に反発した。負担金額が増えることだけでなく、政府がこの加算をまったく市民に説明せずに「マイナ保険証はお得、便利」と宣伝している姿勢にも怒りがぶつけられた。医療機関側には加算を算定できると宣伝しているにもかかわらず、だ(【厚生労働省】診療報酬の加算を算定できます!(4/27更新))。中医協の資料でも「マイナ保険証を持参していても点数が高くなることを知って同意を得られない場合がある」ことが紹介されている。

 あわてた政府は、2022年6月7日閣議決定の「骨太の方針2022」(32頁)で、
・オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付ける
・導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す(診療報酬上の加算の取扱いについては、中央社会保険医療協議会において検討)
・2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指す
・オンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す(加入者から申請があれば保険証は交付される)
と決定した。

●見直してもマイナ保険証で負担が増える

 2022年8月10日に中央社会保険医療協議会が答申した見直しが下図だ。
 中医協答申では「電子的保健医療情報活用加算」は廃止し、10月から「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」を新設するとした。新たな加算は
1.オンライン資格確認等システムを導入した医療機関で初診を行うと、マイナ保険証を利用しなくても4点(3割負担で12円)、調剤は6月に1回3点(同9円)を加算
2.マイナ保険証を利用した初診では2点(同6円)、調剤は6月に1回1点(同3円)を加算
となっている。
 マイナ保険証を利用した方が負担が少なくなるという形を作ったが、しかしそもそもオンライン資格確認等システムを導入していない医療機関で受診すれば、自己負担は無しだ。

2022年8月10日中医協資料 総-12-2

●無理な導入義務化の押しつけ

 「導入しない医療機関で受診すれば自己負担は無し」では導入が広がらないと見越して、政府は導入の義務付けしようとしている。中医協は8月10日の総会で、加算の見直しは「令和5年4月より、保険医療機関・保険薬局に、オンライン資格確認等システムの導入が原則として義務付けられること等を踏まえ」たもの、と説明している(資料総-12-1)。そして「医療DXの基盤となるオンライン資格確認の導入の原則義務付け」を答申した(答申附帯意見、診療報酬点数表-医療歯科調剤、令和5年4月1日施行の療養担当規則-保険医薬局高齢者医療)。
 「療養担当規則」は保険診療はこれに基づいて行わなければならないとされるもので、国会審議などを経ずに厚労大臣の省令・告示で変更ができる。厚労省は、療養担当規則に違反をすることは保健医療機関・薬局の指定の取り消し事由となりうると説明している。オンライン資格確認に患者も医療機関もメリットを感じていないことを厚労省は分かっており、「メリットがあるから」では導入が進まないから脅して導入を進めようというわけだ。
 答申はこの規則を次のように改正することを求めている。

(1)1.保険医療機関及び保険薬局は、患者の受給資格を確認する際、患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合は、オンライン資格確認によって受給資格の確認を行わなければならない
(1)2.現在紙レセプトでの請求が認められている保険医療機関・保険薬局については、オンライン資格確認導入の原則義務付けの例外とする
(1)3.2以外の保険医療機関及び保険薬局は、患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合に対応できるよう、あらかじめ必要な体制を整備しなければならない
(2)保険医療機関及び保険薬局はオンライン資格確認に係る体制に関する事項を院内に掲示しなければならない

 しかし8月10日の中医協に示された資料でも、7月31日時点のオンライン資格確認等システムの運用開始施設は26.1%しかない。とくに医科診療所は17.5%、歯科診療所は18.1%だ。導入から利用開始まで数カ月かかることを考えれば、来年4月から利用を義務化することは無理だ。答申の附帯意見でも「令和4年末頃の導入の状況について点検を行い、地域医療に支障を生じる等、やむを得ない場合の必要な対応について、その期限も含め、検討を行うこと」と、期限の変更を示唆している。

●医療現場は導入義務化撤回を求めている

 医療現場、とくに開業医からは下記のように、窓口や機器のトラブル対応やセキュリティ対策、マイナンバーカードの取扱いの不安など負担が増える一方で、メリットが見えないことから導入を望まない意見が多く、導入が義務化されると閉院など地域医療に悪影響が出ることも指摘されている。
全国保険医団体連合会 オンライン資格確認2023年4月からの原則義務化は撤回を
神奈川県保険医協会政策部長談話「受診を阻害し、医療現場を混乱させる健康保険証の廃止に反対する」(2022/7/22)
東京保険医協会「オンライン資格確認システム導入義務化撤回を求める医師署名にご協力ください」(公開2022年08月23日)
東京歯科保険医協会経営管理部長談話 「オンライン資格確認システムの導入は自由意思に任せるべき―義務化は撤回を―」(2022年8月23日)

     全国保険医新聞 2022年9月5日2面

知られたくない健康情報が伝わる不安

 政府はオンライン資格確認等システムの利用で加算をつけ患者負担を増やす理由として、医療DXの推進により国民が医療情報の利活用による恩恵を享受するから、と説明している。薬剤情報や特定健診情報などを医療機関が閲覧して、より良い医療を受けられるとの理由だ。
 しかし逆に患者にとっては、知られたくない健康情報が医師に伝わる不安もある。厚労省のオンライン資格確認等システムの検討の中では、機微な診療情報(精神科・婦人科等)の取扱いについて、受診履歴が第三者へ知られることが心理的負荷やストレスにつながることから、現行の保険者(健保組合等)の運用では「医療費のお知らせ」に記載しない扱いになっていることが課題とされ(オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)104頁)、対応方針案として
• 加入者本人が情報閲覧を制御するインターフェイスが現時点で存在しないため、加入者自身の申請により(※)、医療保険者等がフラグの設定をする。
• フラグ設定した加入者の情報は機微な診療情報項目だけではなく、情報全体を閲覧不可とする
ことが検討されていた。
 ところが検討結果(オンライン資格確認等システムに関する運用等に係る検討結果について(令和3年4月版)156頁)では、医療機関が「薬剤情報や特定健診情報といった個人情報を取得する際には、その都度、顔認証付きカードリーダー等で本人からの同意を取得するため、特段の規程の改正は不要」となっている。

 しかし「同意を取得」するからいい、と言えるだろうか。医師と患者の関係の中では、かかりつけ医から同意を求められて拒むことは躊躇する。今であれば診察の中で相互の信頼関係に基づいて必要に応じて患者が説明しているが、オンライン資格確認等システムの閲覧ではどんな情報が医師に伝わっているかもわからない。
 閲覧可能な健康情報は投薬内容や特定健診情報から拡大し、2022年9月11日からは受診歴や診療行為名などの診療情報も閲覧可能になる。後述のように将来は「全国医療情報プラットフォーム」が作られ、電子カルテや自治体の健診情報など介護情報をふくむ医療全般の情報を閲覧可能にしようとしている。
 中医協の資料(9-10頁)では、本格運用の始まった昨年10月から今年6月までで、マイナカード保険証により約120万件の資格確認が行われているが、その中で特定健診情報の閲覧に同意したのは125,113件と1割、薬剤情報の閲覧に同意したのは3割しかない。閲覧を望まない患者は少なくない

 さらに加算によって、同意しないことが難しくなる可能性がある。中医協資料 総-12-2では、患者に対して薬剤情報や特定健診情報その他をオンライン資格確認等システムで取得・活用して診療等を行うことが、加算をつけられる施設の要件とされているからだ。理屈上は患者が閲覧に同意しなければ加算の根拠がなくなる。医療機関から同意を求める圧力が強くなるだろう。閲覧による情報取得を強めるために、初診時の問診票の標準的項目に、オンライン資格確認等システムで確認可能な処方されている薬や特定健診の受診歴を新たに追加する予定となっている。

●DV被害者の情報が伝わる危険

 「オンライン資格確認等システムに関する運用等に係る検討結果について(令和3年4月版)」では「DV被害者については、マイナンバーカードが不正に加害者である家族に使用されて情報が閲覧されることがないよう、本人からの申請により保険者が自己情報提供不可フラグ、不開示該当フラグ等を設定し、中間サーバーへ連携することにより閲覧を制限する。」(20頁)とされ、課題と対策が検討されている(136-139頁)。
 いくつかの自治体では、オンライン資格確認システムの開始によりDVや虐待等の被害者の情報が加害者に閲覧される危険性があることに注意喚起をしている(たとえば船橋市京都市瀬戸市浜松市松前町羽村市和光市港区等)。

    和光市参考資料

●患者にとってメリットはあるか

 マイナカード保険証による患者のメリットとして、医療・健康情報の閲覧の他に、転職などで保険者が変わっても健康保険証として継続して使えるということが言われる。
 しかし医療保険等への加入・変更の届出は引き続き必要で、新しい保険証が手元にとどく数日間が短縮されるだけだ。マイナカード保険証だから届出が不要と誤解して使用していると、かえって誤った保険請求が発生し医療機関や保険者では過誤請求の事務が必要になる。保険者の入力・情報登録が遅れれば、その間マイナカード保険証は使えない。

 また限度額適用認定証がなくても窓口で高額療養費の限度額以上の一時的な支払いが不要、とメリットを強調している。
 高額療養費とは一カ月の医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分があとで保険者から払い戻される制度だ。所得により限度額が変わり、例えば住民税非課税世帯では35,400円、標準的な世帯では57,600円、所得が高額の世帯では所得に応じて限度額が設定されている。限度額適用認定証を保険者から受け取り医療機関に提出すれば、窓口で限度額までの支払いで済むが、それがマイナカード保険証であればオンライン資格確認システムをから限度額情報を入手できるので、限度額適用認定証を事前に用意しなくてもいいという話だ。
 つまりオンライン資格確認等システムを使うと、大まかな所得水準が(本人同意により)医療機関に伝わる。入院等で多額の医療費がかかるときに病院等に限度額を伝えることはしても、近所のかかりつけ医等に所得水準が伝わるのは抵抗があるのではないか。しかもこの限度額情報の提供のために、社会保険診療報酬基金と国保中央会で運営するオンライン資格等確認システムに限度額情報=所得区分情報を記録することになっている。

 様々な医療費の減額制度のための医療証が、オンライン資格確認等システムを使えば不要になるということも言われるが、自立支援医療、指定難病、養育医療、子ども医療費、ひとり親家庭等の医療費助成では、引き続き各受給者証の医療機関窓口への提出が必要だ。
 訪問看護や柔道整復・はり灸按摩の施術で健康保険を使用する場合は、マイナカード保険証は使えない。
 生活保護の医療扶助については2023年中の利用開始の準備が進められているが、そのためにはマイナカード保険証の利用が原則とされ、弱い立場にある生活保護受給者に対して、申請は任意とする番号法に反したマイナンバーカード所持の実質義務化が押しつけられようとしている。

 医療機関窓口の混雑が緩和するとも説明しているが、医療機関からは窓口対応やトラブルで大変との意見が出されている。
 しかもマイナカード保険証を使うと、受診のたびに毎回提示が必要だ。現在も原則は受診のたびに健康保険証を見せることになっているが、月初めに見せるだけというのが一般的だ。それがマイナカード保険証になると、特定健診等情報や薬剤情報の閲覧のために受診の際に毎回同意をする必要があるため、必ず受診のたびに提示が必要になる(マイナポータルよくある質問No3652)。
 不便だからとマイナカード保険証の利用を取り消そうとしても、一度登録すると取り消すことはできない(マイナポータルよくある質問No3570No5085)。

 結局患者にとっても、マイナカード保険証のメリットは乏しく、むしろデメリットがある。にもかかわらず加算で高い医療費を取られるのは納得できない。
 8月10日の中医協資料でも、7月31日現在のマイナカード保険証の利用登録はマイナンバーカード交付者の26.2%に止まる。マイナンバーカードの交付率が人口比45%程度なので、人口の1割強しか登録していない。昨年10月から6月までのオンライン資格確認の利用状況では、マイナカード保険証を利用したのはわずか0.5%で、ほとんどは健康保険証を利用している。
 中医協の答申では、加算について算定状況や導入状況を踏まえて患者・国民の声をよく聴き検討することが附帯意見とされているが、マイナカード保険証の利用そのものを患者・国民の声をよく聴いて見直すべきだ。

●マイナカード保険証は医療DXのため

 医療機関にとっても患者にとってもメリットが不明でデメリットがあるマイナカード保険証を、なぜ政府は1兆8千億円もの税金をつかってマイナポイントで推進するのか。なぜ医療機関に無理な導入義務づけをしたり、マイナンバーカードの取得強要をするのか。
 導入義務化等を方針とした2022年6月7日閣議決定の「骨太の方針2022」(32頁)では、同時に「全国医療情報プラットフォームの創設」や「電子カルテ情報の標準化等を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。そのため、政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置するとしている。
 中医協答申が「医療DXの基盤となるオンライン資格確認の導入の原則義務付け」とはっきり述べているように、政府にとって患者や医療機関のメリットは表向きの理由で、医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)の基盤としてマイナカード保険証を押しつけようとしている。
 「全国医療情報プラットフォーム」とは「オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォーム」だ(「骨太の方針2022」注143)。あらゆる医療・健康・介護情報を共有・交換して利活用することが目指されている。

●置き去りにされた個人情報保護

 マイナンバー制度の構築のためにまとめられた「社会保障・税番号大綱」(2010年6月30日)では、医療分野の情報の機微性に応じた特段の法制度の整備がうたわれていた(55頁)。

第4 情報の機微性に応じた特段の措置
 社会保障分野、特に医療分野等において取り扱われる情報には、個人の生命・身体・健康等に関わる情報をはじめ、特に機微性の高い情報が含まれていることから、個人情報保護法成立の際、特に個人情報の漏洩が深刻なプライバシー侵害につながる危険性があるとして医療分野等の個別法を検討することが衆参両院で付帯決議されている。
 今般、番号制度の導入に当たり、番号法において「番号」に係る個人情報の取扱いについて、個人情報保護法より厳格な取扱いを求めることから、医療分野等において番号制度の利便性を高め国民に安心して活用してもらうため、医療分野等の特に機微性の高い医療情報等の取扱いに関し、個人情報保護法又は番号法の特別法として、その機微性や情報の特性に配慮した特段の措置を定める法制を番号法と併せて整備する

 しかしそれから10年以上たった「骨太の方針2022」でも「医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる」と述べているように、個人情報の保護は置き去りにして利活用ばかり進められてきた。このような政府の姿勢が、マイナンバー制度とマイナンバーカードへの不信を生んでいる。
 河野デジタル大臣でさえ「若干、邪道」と言うマイナポイントでの利益誘導と、マイナカード保険証の導入義務化という「アメとムチ」で押しつける政策は止めるべきだ。

マイナポイントは
マイナスポイント?!

マイナポイント第2弾にはご注意を!

 6月30日に本格開始したマイナポイント第2弾は、一カ月がすぎた。1兆8千億円という巨額の税金を投入して、9月末までにマイナンバーカードを申請した人を対象に、
(1)マイナンバーカード新規取得者等に最大5000円相当
(2)マイナンバーカードの健康保険証利用申込者に7500円相当
(3)公金受取口座登録者に7500円相当
のポイントを付与するというものだ。
  第二弾で新たに始まった健康保険証登録と公金受取口座登録には注意が必要だ。マイナンバーカードの利用にはさまざまな危険があることを、いらないネットのリーフ11で指摘している。マイナポイントに便乗した詐欺にも、消費者庁と総務省が注意喚起をしている。
 目先のポイントを「お得」と言っているだけでは、政府の誘導にのせられてしまう。

 https://www.soumu.go.jp/main_content/000823110.pdf

●健康保険証利用の登録で自己負担が増える

 マイナンバーカードの健康保険証利用を登録すると、4月から窓口での負担額が増えている(3割負担の場合、初診料で21円、再診で12円、薬の処方で9円など)。オンライン資格確認を利用している医療機関を受診するだけで、初診時に9円の負担が増える。
 厚労省や国は「便利、お得」と宣伝しながら、負担増は市民に伝えようとしていない
 この加算が始まった理由は、国のオンライン資格等確認システム導入の補助金では、医療機関の導入経費や毎月の維持費に足りないからだ。例えば6月23日配信西日本新聞の報道によれば、九州中央病院では国の補助金を利用しても導入経費で約270万円の持ち出しとなり、さらに回線使用料や保守点検などの維持費が年間約24万円の負担で、加算にすがるしかないという。医療機関の負担が大きく導入が進まないために、費用を患者に負担させようという意図だ。
 6月に閣議決定された「骨太の方針2022」でこの加算の見直しをうたっているが、2022年8月2日現在、加算は続いている。費用を患者に負担させるか、医療機関に負担させるか、国が負担するか、国は困っている。費用対効果の疑わしいこのオンライン資格等確認システムは止めるべきだ。

●取り消しのできない利用登録

 しかもマイナポータルのよくある質問をみると、一度健康保険証として利用申込をすると、取り消すことはできないとなっている(No3570)。健康保険証利用の登録削除もできない(No3570)。一生の問題であり、登録する前によく考えるべきだ。またマイナンバーカードを使うと受診のたびに毎回提示して、顔認証か暗証番号を入力して本人確認が必要だ(No3652)。こういうことを、厚労省は積極的に伝えようとしていない。
 マイナンバーカードの健康保険証利用ができる医療機関は1/4で、診療所では17%程度だ(2022年7月24日現在)。国は来年4月から医療機関にシステム導入を原則義務化するとか、保険証の原則廃止を目指すと言っているが、「加入者から申請があれば保険証は交付される」と注記しているように、今後も健康保険証で受診可能で、マイナンバーカードは必要ない。

 公金受取口座登録にも注意が必要だ。公金受取口座は変更や登録削除が可能とされているが(デジタル庁よくある質問)、預貯金口座へのマイナンバーの付番は取り消すことができない(2021.5.11参議院内閣委員会平井大臣答弁)
 2015年の番号法改正で導入された税務調査や社会保障の資力調査のための預貯金口座へのマイナンバーの任意付番と、2021年のデジタル関連法で導入された公金受取口座登録は紛らわしい。しかも2021年のデジタル関連法では、預金保険機構を通して預貯金口座にマイナンバーを一括付番できる預貯金口座管理法もセットで成立した。
 公金受取口座登録を呼び水にして、反発の多い預貯金口座の付番に誘導しようという意図がミエミエだが、一度預貯金口座にマイナンバーを付番すると取り消せない。

●苦戦している?マイナポイント第2弾

    総務省発表

 マイナポイント第2弾は初日に電話が殺到したとか、第1弾では開始5日で78万件だったポイント申請が338万件あったなど、順調にスタートしたかのように報じられている。
 しかし7月4日に総務省が発表した開始5日間の申込み状況では、(1)カード新規取得者等は44万件弱で第1弾の半分程度だ。すでにカードをもっている人が新たなポイント申請をしているばかりで、目的のマイナンバーカードの普及にはあまり役立っていない。
 7月30日のNHK報道では、カードを28日までに取得した人はおよそ80万人で、交付率は第2弾開始前の先月29日から0.6ポイントの伸びにとどまっているということだ。これでは2023年3月までに、ほぼ全ての住民にカードを取得させるという政府目標の達成は不可能だ。
 決済事業者の対応も、第1弾では上乗せポイントを付けて利用者獲得を競い合っていたが、今回はあまり上乗せをしていない。現在対応している決済サービスは97で、前回は対応したものの第2弾から撤退した業者が30もあるということだ(週刊エコノミストonline)。

●交付税を人質に自治体に圧力

 市民や事業者の醒めた反応に反比例して、政府のマイナンバーカード普及策は過激化している。
 6月7日に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想基本方針」(135頁)で、マイナンバーカード交付率が高い自治体ほど地方交付税を増やすことを検討するとしたことに批判が広がっている。自治体からも、財源の不均衡を調整するための地方交付税制度に反し、カード普及の遅れを自治体の責任にするセコイやり方だと批判が相次いでいる。
 これに対して総務大臣が6月21日の記者会見で、普通交付税の減額とかカード普及という政策誘導を意図したものではなく、カード普及によるデジタル化に係る財政需要の増加という観点から検討している、と説明したことで、「デジタル化で経費削減すると言っていたのに、逆に増加するのか」とさらに批判を招いている。
 地方交付税を人質にとって申請を自治体に競わせるのは、マイナンバーカードの申請は任意という法に反するやり方だ。

●市民の声を「聞く力」のない政府

 総務省は交付率や伸び率が平均を下回る自治体625団体を「重点フォローアップ対象団体」として、都道府県に対して知事・副知事など「高いレベル」から直接働きかけるよう要請するとともに、5月から交付率の全国順位を記載した一覧表を提供し始めた。自治体に対しては「カードの安全性に不安がある、利用する場面が少ないといった市民の声を理由に積極的に取り組んでいない」(総務省新型コロナウイルス感染症対策・デジタル化推進等地方連携推進本部第2回2022年6月30日資料3P.4)などと批判しながら、ますます自治体に普及の圧をかけている。
 7月末からは新たなCMや、携帯ショップでのマイナンバーカード申請のサポート、カード未取得の約5500万人にQR付きカード申請書の再送付など、全住民にマイナンバーカードを所持させるというムチャな目標に向けた絶望的な取り組みを強めている。政府に市民の声を「聞く力」はないのだろうか。

 「ものごとが進まないときに必要なのは、真の原因に向き合うことだ。政府がそれを怠り、筋違いの促進策に熱を上げる。あきれざるをえない光景だ。・・・・・・取得が進まないのは、国民がカードの利点を実感できず、個人情報が漏れたり悪用されたりするのではという不安も払拭(ふっしょく)されていないからではないか。根本的な問題の解決こそが求められていることを、政府は心すべきである。」マイナンバー制度の活用を求めてきた朝日新聞も、7月13日の社説でこう訴えざるをえない状況になっている。
 しかし政府がアメとムチの普及策をやらざるをえない状況になっているのは、マイナンバーカードの利便性として力を入れてきた住民票など証明書のコンビニ交付や、マイナポータルを使った子育て施策の電子申請などでは普及が進まなかったためだ。
 今こそ、自己情報コントロール権を保障しない人権侵害のマイナンバー制度の廃止という「根本的な問題の解決」に向けて踏み出すべきだ。

アメとムチで押しつけるな!
危険なマイナンバーカード!

 共通番号いらないネットは6月4日、「これでも必要?マイナンバーカード~持たなくても大丈夫! 返すことも可能!~」集会を行った。集会の資料や映像は、こちらから見ることができる。

●強引な普及と利用拡大をやめよ!と決議

 下記集会決議のように、政府は2023年3月までにほぼ全ての住民にマイナンバーカードを持たせるというムチャな方針を掲げ、6月30日から1兆8千億円もの税金を投じてマイナポイント第二弾を本格実施しようとしている。その一方で「マイナンバーカード利用で健康保険証が廃止される」など、不正確な情報で不安を煽っている。
 私たちが利便性を感じないカードを、なぜ政府は利益誘導や不安を煽って強引に押しつけようとしているのか、集会ではその狙いが様々な視点から明らかにされた。

    決議のダウンロードはこちらから

●変貌し拡大するマイナンバーカードの状況

 集会ではまず「マイナンバーカードをめぐる状況」(資料)が報告された。2023年3月までに全住民に取得させる方針を2019年6月に決めたが、マイナポイントの利益誘導で一時的に申請が増加しても終了するとまた申請は低迷している。そもそもマイナンバーカード(個人番号カード)は、マイナンバー提供時の成り済まし詐欺を防止する本人確認と電子申請など利便性向上を目的としており、取得は任意で「全住民」が所持する必要はなく義務付けはできない
 ところがいま政府はマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」(岸田首相)にしようとして、本来マイナンバー制度の危険性に対する個人情報保護措置の一つとしてつくられたマイナポータルを、逆にマイナンバーで管理する個人情報を民間に提供する仕組みに使ったり、内蔵の電子証明書を管理する発行番号を、規制の厳しいマイナンバーの代わりに民間事業者の顧客管理IDなどとひも付けて個人情報を名寄せする手段に使うなど、導入当初の説明にも法律にもない利用拡大を進めている。

 その結果マイナンバーカードは、健康保険証利用(オンライン資格確認システム)を基礎に医療健康情報を共有したり、学校の教育・健診等の情報を追跡管理したり、運転免許との一体化で警察の利用を可能にしたり、2020年5月に成立した公金給付口座登録と預貯金口座管理の2法により税務調査と福祉の資産調査のための預貯金口座へのマイナンバー付番に誘導したりするなど、分野を超えて個人情報を名寄せし生涯追跡する国民監視に使われようとしている。
 マイナポイントも、総務省が作った法的根拠もない「マイキープラットフォーム」で電子証明書の発行番号とのひも付けにより管理され、将来は自治体からの給付の管理や中国のようなポイントの利用状況で個人を格付けする社会に向かいかねない。

●診療情報の利活用が目的の健康保険証利用

 「医療におけるマイナンバーカード利用」(資料)では、患者にとっても医療機関にとってもデメリットが大きく普及がすすまない健康保険証利用(オンライン資格確認)だが、政府の目的は「データヘルス改革」によって全国医療情報プラットフォームをつくり、医療機関から医療情報を収集共有する利活用にあることが報告された。
 情報共有は医療を行う側からは有用に思えても、患者にとって病歴は「弱み」の面がある。ある医師には話しても他の医療機関には知られたくないことが、これからは知られることになりプライバシーが無い状態になる。

 政府は2023年からオンライン資格確認システムの導入を医療機関に義務付けると言っているが、医療機関では問題点が多い。健康保険証のように窓口で一時預かりすることはできなくなり、受付が混乱する。マイナンバーカードは10年毎、電子証明書は5年毎に更新手続の手間がかかる。紛失等での再発行に2カ月くらいかかり、その間の受診はどうなるのか。スペース的・人的に導入が困難な医療機関は廃業せざるをえなくなる。インターネットに常時接続が必要になり、サイバー攻撃をうけると患者のプライバシーを危険にさらし医療がストップする。
 政府も「原則として」義務化と言っており、最低限医療機関の意思を尊重すべきだ。また「保険証の原則廃止」を目指すと掲げているが、「加入者から申請があれば保険証は交付される」とも注記しており、引き続き健康保険証での受診は可能だ。このシステムでメリットを得るのは誰なのか、十分な議論が必要で、拙速な導入は日本の医療に危機をもたらす暴挙だ。

●教育データ利活用に前のめりな政府

 「教育におけるマイナンバーカード利用」(資料)では、「教育データ利活用ロードマップ」をデジタル庁・文科省・経産省・総務省の連名で公表したように、教育が各省庁の草刈り場となっていることが報告された。教育産業やIT業界が教育データの利活用に力を入れるのは児童生徒の個人情報が金になるからで、神奈川県では高校生にグーグル・アカウントを配布しグーグル・クラスルームを使用するなど外国資本も参入している。個人情報はどこに集められていくのか。

 教育データ利活用のためには「学習者の識別子(ID)」が必要。マイナンバーの利用はあいまいにしているが、学習者IDとマイナンバーカードをひも付けて転校時等の教育データの持ち運びを、閣議決定で検討中だ。学習者IDのもとに学習・健康・体力の履歴や読書情報、奨学金や職業訓練など、思想信条や機微な情報がひも付けられていくことは恐ろしい。経産省の推進するEdTechでは、学習履歴として何回発話や挙手したか、視線や脳波なども取り込んでいくことを検討している。すでにモニターで脳血流を見ながらAIで分析する授業の実証実験を埼玉県でやっている。
 教育データ利用の目的は、「個別最適な学び」と「国民の生涯学習」。同じ教室にいても一人一人バラバラの教材をやっている。学校に行く必要はなくなる。それを「いつでも、どこでも、誰とでも、自分らしく学べる」教育DXと言っている。データは学習者IDでくし刺しされ、生涯積み重なっていく。
 これには個人情報保護上も問題がある。集められる情報は目的外収集でも要配慮個人情報でも集め、不要になった情報の廃棄もされるか不明。収集を拒否したときに、その子に他の子と同等の教育が保障されるのか。プロファイリングや信用スコアリングに使われる危険もある。学習指導要録は5年、学習記録は20年と保存期間が決められているが、学習者IDにひも付けされると忘れたい情報も未来までつきまとう。

●番号法の規制が及ばない個人番号カード利用

 「マイナンバー違憲訴訟とマイナンバーカード問題」(資料)では、まず全国8地裁に提訴したマイナンバー違憲訴訟の現状として、地裁判決はすべて原告の請求を棄却、高裁では仙台・名古屋・福岡で棄却判決があり最高裁に上告、新潟が8月4日判決予定、その他は次回予定が金沢が7月13日、神奈川が7月20日(資料を訂正)、大阪が8月23日、東京は8月24日となっており、いずれも結審が近いことが報告された。

 裁判では自己情報コントロール権や漏えい事例、警察等での利用、個人情報保護委員会の機能不全などの問題を主張しているが、個人番号カードについては東京訴訟で、電子証明書の発行番号が個人番号(マイナンバー)と同等の個人識別符号になっているにもかかわらず、発行番号の利用には番号法の規制が及ばないため規制なく情報連携され民間を含めて利用を広げていることを問題にしている(準備書面)。
 民間のデータベースや国のマイキープラットフォームで個人番号カードの利用履歴が蓄積されるのではないかという点とともに、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)でも利用履歴が蓄積されるのではないかという疑念がある。利用履歴がデータベース化されれば、2008年3月6日の住基ネット最高裁判決が否定した「住基カード内に記録された住民票コード等の本人確認情報が行政サービスを提供した行政機関のコンピュータに残る仕組み」と同等かそれ以上の仕組みが作られることになり、最高裁判決に照らして違憲というべきだ。

●いらないネットリーフレットの活用を

 共通番号いらないネットでは、政府が9月までを「申請促進強化期間」としていることに対して、6月にいらない ! マイナンバーカード街頭キャンペーンに取り組むことを呼びかけている。キャンペーンに向けて、マイナンバーカードの危険性を訴えるリーフレットNo11を発行した(こちらを参照)。
 なお過去のリーフレットでも、マイナンバーカードの危険性を指摘している(過去のリーフ全てはこちらを参照)。
▼リーフNo10(2021年9月発行)こちら
 P2 成立したデジタル監視法はこんなに危険!
    マイナンバーカードが監視のカードに
 P4 今後も健康保険証はそのまま使えます。マイナンバーカードは不要です。
▼リーフNo9(2021年2月発行)こちら
 P2 デジタル庁で国民総背番号制化するマイナンバー制度
    銀行口座と国家資格のマイナンバー管理
    危険なマイナンバーカードのスマホ搭載
 P3 個人情報の保護から個人データの利活用の推進へ
    個人情報を保護するマイナポータルを民間への個人情報の提供に利用
    狙われる教育・医療健康の個人情報
▼リーフNo8(2020年4月発行)こちら
 P2 マイナンバーカードはこんなに危ない!!
    落としても大丈夫?
     マイナンバーの漏えいは防げない!
    なりすまし詐欺はできない?
     すでに他人の不正取得や偽造が発生!
    個人情報は盗まれない?
     紛失・盗難で個人情報が丸見えに!
    住民サービスのためのカード?
     常時携帯させて住民管理に利用!
 P3 手続き面倒・効果不明・将来危険のマイナポイントはNO!
 P4 マイナンバーカードの申請は義務ではない!
▼リーフNo7(2019年9月発行)こちら
 マイナンバーカードはこんなに危険 政府の強引な普及方針をはね返そう! 

誰も取り残さないサイバー監視
サイバー警察局・特捜隊新設!

 警察庁にサイバー警察局を新設する警察法の一部を改正する法律案が、2022年1月28日国会に提出された。国の機関である警察庁の関東管区警察局に全国を管轄するサイバー特別捜査隊を新設し、重大サイバー事案の捜査を行う法案だ。近々審議入りが予定されている(法案概要はこちら)。

追記:2022.2.25(3箇所)

サイバー警察局を新設する警察法改悪案を廃案に!
       3・1院内集会
日時:2022年3月1日(火)12時~13時30分  
会場:衆議院第1議員会館  第1会議室
主催:
警察法改悪反対・サーバー局新設反対2・6実行委員会
  連絡先:小倉利丸(070-5553-5495)
  メール :no-cyberpolice.techcenter@aleeas.com
  詳しくは実行委員会のサイト

サイバー警察局・サイバー特別捜査隊の創設に反対する
  学者・弁護士共同声明   こちらをご覧ください

●(声明)警察法改悪反対、サイバー警察局新設反対

  私たちが日常利用している電子メール、SNSなどによるコミュニケーションを高度な技術力を駆使して捜査対象に据え、戦前の国家警察の反省から生まれた自治体警察の枠組が骨抜きにされようとしているが、個人情報の保護措置は示されていない。
 警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6市民集会の実行委員会は、2月14日反対声明を発表した。声明への賛同を呼びかけている(2.6市民集会の資料等はこちら)。

●政府のデジタル化強要で拡大するサイバー犯罪

 2022年2月10日警察庁は、「令和3年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(速報版) 」を公表した。ランサムウェアによる被害が拡大し、国内の医療機関が標的となり市民生活に重大な影響を及ぼす事案が発生しているとしている。
 政府は昨年5月デジタル改革関連6法を成立させ、行政手続等を原則オンライン化し、全住民にマイナンバーカードを所持させ、誰一人取り残さずデジタル手続の利用を強要しようとしている。住民の個人情報を守ってきた個人情報保護条例の「リセット」や規制緩和によって、個人情報の利活用を推進しようとしている。 昨年10月の「デジタルの日」では「#デジタルを贈ろう」をテーマに、「祖父母にタブレット端末を贈ろう、子どもとプログラミング教室に行こう」などと呼びかけていた。デジタル庁によって国・地方の行政機関の情報を共有できるように標準化し、医療・教育など準公共分野のデジタル化を迫る「重点計画」を昨年12月に決定した。

  そのような中、昨年10月に徳島県つるぎ町立半田病院がランサムウェア攻撃を受け、システムが長期にダウンする被害が発生した医療機関を狙ったサイバー攻撃が多発している。昨年10月に運用開始した「健康保険証とマイナンバーカードの一体化」では、医療機関は健康保険情報を管理するオンライン資格確認等システムへの常時接続が必要になる。多くの医院はセキュリティに不安を抱き、利用機関は1割と低迷しているが(2022年2月6日時点、運用開始施設数11.7%)、政府は2023年3月末までに全ての医療機関で利用するよう迫っている。
 デジタルに不慣れな人や機関を強引にサイバー空間に参入させれば、サイバー犯罪の増加は避けられない。それを理由に「誰も取り残さないサイバーセキュリティ」戦略により市民監視を強化しようとするのがサイバー警察・特捜隊だ。サイバー犯罪の増加を市民や機関の「リテラシー不足」に責任転嫁する「なんでもデジタル化」政策の見直しこそ必要だ。

   サイバーセキュリティ戦略2021概要

●諜報活動と犯罪捜査の境が崩れ市民監視が拡大

 サイバー警察局・特捜隊の新設は、海外からのサイバー攻撃集団に対する国際共同捜査をその必要性の一つとしている。
  2021年9月28日に閣議決定された「サイバーセキュリティ戦略」は、2014年制定のサイバーセキュリティ基本法に基づく3回目の戦略だが、初めてサイバー攻撃の脅威国として中国・ロシア・北朝鮮を名指しし、「同盟国・同志国」と連携した安全保障の観点からの取組強化を求め話題になった。
 サイバー警察局もこのような安全保障戦略の中で、サイバー監視の国際共同オペレーションを進めていこうとしている。サイバーセキュリティ政策会議報告書は、関係国等と連携したサイバー空間の安全確保として、サイバー隊が国の捜査機関として前面に立ち、戦略的に国際捜査を推進すると述べている(30頁)。

 しかし国際刑事警察機構の元サイバーセキュリティ総局長である中谷昇氏が、中国によるデータ収集疑惑とともにNSA(アメリカ国家安全保障局)元職員のスノーデン氏が暴露したアメリカ政府機関による「同盟国」も含む世界的な通信傍受を例に、日本は「(中国・アメリカ)両国のデータ収集対象国となっている可能性は極めて高い、と考えておくのが妥当であろう」と近著(「超入門デジタルセキュリティ」講談社α新書156頁)で指摘されているように、中露北の脅威に偏したサイバー監視は誤りだ。
 安全保障戦略に基づく諜報活動(インテリジェンス)と犯罪捜査という法執行が、サイバー警察局ができることにより重なっていくことに対する懸念は、 警察庁サイバーセキュリティ政策会議でも委員から指摘されていた(第1回8-9頁)。警察庁は、指摘のような懸念が存在することは認識しており国民に誤解が生じないように丁寧に説明を行っていく必要がある、と応じているが説明はない。
 公共空間化したサイバー空間全体を俯瞰した、市民生活の大量監視システムを作らせてはならない。

●警察情報システムが警察庁の共通基盤に一元化

 サイバー警察局新設により、分散していた警察庁内のリソースを一元化し「刑事部門、生活安全部門、交通部門、警備部門など既存の警察部門と連携し、 警察組織全体でサイバー空間・実空間の両者にわたり隙間なく脅威に対処」(警察庁サイバーセキュリティ政策会議令和3年度報告書21頁)しようとしている。
 今国会には、マイナンバーカードと運転免許証を一体化する道路交通法改正案も提出予定だ。2021年12月24日閣議決定の 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、 マイナンバーカードと運転免許証との一体化の実現として、「令和6年度(2024年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する。これに先立ち、警察庁及び都道府県警察の運転免許の管理等を行うシステムを令和6年度(2024年度)末までに警察庁が整備する共通基盤(警察共通基盤)上に集約する」(46頁)とされていた。警察業務のデジタル化(93頁)では、警察情報管理システムを警察共通基盤上に順次共通化・集約化するとなっている。
 「警察庁デジタル・ガバメント中長期計画」は、 主な取組を運転免許業務及び警察情報管理システムの合理化・高度化としている。警察庁・都道府県警察が個別にシステム整備をしデータ標準化がされず連携しにくい現在の警察情報管理システムを、警察庁が共通基盤を整備し、他のシステムとの連携も含めた警察情報管理システム全体の合理化・高度化に取り組むとしていた。
 そのためのアクセンチュアによる「2020年度警察情報管理システムの合理化・高度化に関する調査研究業務調査報告書」では、下図のようにまず運転者管理と相談業務等の一元管理システムを作るが、将来的にはこれら9業務以外も集約する予定とされている(4頁)。

 またこの共通基盤システム上では警察庁及び各都道府県警察のデータはそれぞれ区別された状態で管理し、自都道府県警察以外のデータを許可なく参照及び更新できない仕組みにするが、「ただし、全国共有が可能なデータや警察庁への送受信が必要なデータについては、 警察庁が管理するデータとして一元的に集約を行う」(アクセンチュア報告書5頁)となっている。この具体的なシステムは、報告書では不明だ。

 サイバー警察局は、都道府県警察が捜査など法執行を行うという原則を超えて、国の機関である警察庁がはじめて捜査権限を持つ。それとともに、本来別々の目的で収集され目的外利用・提供をすべきでない都道府県警察の管理する刑事部門の捜査情報、生活安全部門の相談情報、交通部門の運転免許等の情報、警備部門の治安情報を、市民生活の大量監視に利用可能にしようとしている。

●警察保有の個人情報の保護とシステムの透明化を

 今年1月18日名古屋地裁は、無罪となったあとも再犯のおそれなど具体的な必要性を示さないまま指紋やDNA型、顔写真などを警察が保管し続けることを認めず、データの抹消を命じる判決を下した。

 2月21日岐阜地裁は、大垣市の風力発電所建設問題で、県警が収集した住民の氏名、住所、学歴、病歴、活動歴などの個人情報を、中部電力の子会社シーテックに提供したことを違法として損害賠償を命じる判決を下した。収集の違法性を認めない不十分な判決だが、提供については要保護性の高い情報を積極的・意図的に提供しており悪質とまで批判している。(裁判経過については、大垣警察市民監視違憲訴訟の勝利をめざす「もの言う」自由を守る会サイトを)
 警察の個人情報の保管に対しても提供に対しても、厳しい司法の判断が示されている。このような状態でサイバー監視のために警察の保有する個人情報を共有する「警察共通基盤」が作られようとしている。


 マイナンバー違憲差止訴訟では、 番号法が刑事事件捜査等にもマイナンバーで管理する個人情報の提供を認め、警察が必要と認めれば保管・利用でき、個人情報保護委員会の監督が及ばず捜査機関による濫用を防止できないことの合憲性が争点の一つになっているが、捜査名目による個人番号の利用についての 国側の 主張は変遷し曖昧な説明に終始している。
 2021年5月の個人情報保護法改正により、捜査機関が保有する捜査情報に含まれる個人情報の取扱いも個人情報保護委員会の監視対象になったが、国に甘く地方自治体や民間事業者に厳しい今の個人情報保護委員会の姿勢では、捜査機関への監視はまったく期待できない。法律上も個人情報保護委員会と他の行政機関とは上下の指揮命令関係にはないからとして、個人情報保護委員会が他の行政機関に対して法的拘束力のある命令は行えず、民間事業者には拒否すると罰則のある立入検査ができるのに、行政機関に対しては罰則のない実地検査しかできないと国会で答弁されている。これでも「高度の独立性を有する第三者機関」なのか。

 警察における個人情報の取扱いが法的に規制されず、システムも透明性を欠いており、基本的人権の保障が不十分なまま情報が共有され、市民生活の大量監視が防げないサイバー警察局・サイバー特捜隊を新設すべきではない。

またやるのかマイナポイント(3)
危険なマイナポイントとカード

●マイナンバーカードの危険性は「誤解」か

 政府はマイナポイントやマイナンバーカードについて、安全性を強調している。デジタル庁の担当者は、マイナンバー制度やカードが安全ではないという誤解を払拭すると語っているようだ
 しかしマイナンバーカードの危険性は誤解ではない。共通番号いらないネットでは、リーフレットNo8などでマイナンバーカードの危険性を指摘してきた。政府の説明は、自ら語ってきた危険性も曖昧な表現でごまかしながら、なんとかマイナンバーカードを普及させようとするものでしかない。
 このようなことを続けるかぎり、市民のマイナンバー制度に対する不信は払拭されないだろう。そればかりか、このような政府の姿勢はマイナンバー制度の危険性を一層増大させる。リスクを隠すことは最大のリスクだ。

●国に情報が知られないシステムだから安心?

 政府のマイナポイントのサイトでは、「マイナポイントを利用することにより、国に自分の氏名や住所等の個人情報が知られてしまうことはありません。 」「このシステムを通じて総務省や民間企業にマイナンバーが渡ることはなく、キャッシュレス決済サービスで取り扱う個人情報やお買い物情報についても、国が管理、保持できない仕組みとなっています。」と説明している。
 またやるのかマイナポイント(2)で書いたように、マイナポイントは総務省が設置し自治体が運用協議会を作る「マイキープラットフォーム」で、一人一つのマイキーIDとマイナンバーカード内蔵の電子証明書のシリアル番号とをひも付けて管理されている。法的な根拠はなく、当然、個人を特定識別し利用状況を管理できる。
 政府の説明は「マイナンバーは使っていない」というだけのことで、法律で利用が規制されているマイナンバーの代わりに、法律で規制のないマイキーIDと電子証明書のシリアル番号で管理するという、ある意味もっと危ない仕組みだ。「個人情報やお買い物情報」の管理についても、なんの法的規制もない。
 国は下図のように、法律で利用が限定されているマイナンバーの代わり、民間も含め幅広く利用が可能な電子証明書のシリアル番号を、個人の識別・追跡に利用を勧めるという「脱法マイナンバー」的な利用を推進してきた。
  ちなみにマイナンバーも電子証明書のシリアル番号も、生成・管理しているのは地方公共団体情報システム機構(J-LIS)だ。2021年5月に成立したデジタル改革関連法により、J-LISはいままでの地方自治体の共同管理法人から国と地方の共同管理になり、国の関与が強化されている。

    マイナンバー概要資料平成20年5月版より

●マイナンバーを知られることは危険

  マイナポイントのサイト は「 マイナンバーを知られても、他人は悪用できません」などと、無責任な情報をばらまいている。悪用できないなら、なぜマイナンバーの取扱いを厳しく規制しているのか。その規制を守るために事業者も行政機関も自治体も、大変な努力と費用を払っている。「個人番号が悪用され、又は漏えいした場合、個人情報の不正な追跡・突合が行われ、個人の権利利益の侵害を招きかねない。」(個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」)からではないのか。
 マイナンバーを利用する手続で「マイナンバーだけで悪用できない仕組み」と説明しているが、マイナンバーだけが漏洩するということはない。かならずマイナンバーと個人情報が付いた「特定個人情報」が漏洩する。日本弁護士連合会は、その危険性を次のように指摘している。

 個人番号カードの裏面に記載されている個人番号は、悉皆性、唯一無二性を持ち、原則生涯不変の個人識別情報である。・・・・・個人番号が不正利用されれば、個人データが名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険がある。・・・・・個人番号カードを携帯して利用できるとすることで、厳重に管理されるべき個人番号が第三者に知られる危険が大いに高まる(日弁連2021年5月7日「個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」

 「特定個人情報」が知られることの危険性は、マイナンバー制度を中心になって推進してきた向井治紀内閣官房内閣審議官(現デジタル庁参与)も、マイナンバーをいろんな人が知るとプロファイリングの危険性があるから提供を制限している、と国会で説明していた。(2019年5月9日第198回国会参議院厚生労働委員会での説明)

「マイナンバーが個人の名前とかではなくて番号であるがために非常に大量処理しやすいと。したがって、Aさんのマイナンバーをいろんな人が持っているという状態に、合法であれ違法であれ、そういう状態になってしまうとプロファイリングの危険性がございますので、そういうコンピューター処理にならないような状態にするために、大量の、何といいますか、マイナンバーがいろんな人がたくさん知っているという状態にはなってはいけない。 」

 プロファイリングの危険性というのは、たとえばいずれもマイナンバーの利用事務である世帯情報と年金情報と介護保険情報が漏洩した場合、個々の漏洩によるプライバシー侵害に止まらず、個人を正確・迅速に名寄せできるマイナンバーを使って漏洩した個人情報を結合することにより、犯罪者集団が「単身で年金が多い認知症の高齢者」という悪徳商法や振り込め詐欺の対象にしやすい「カモのリスト」を容易に生成できるという危険だ。
 漏洩した個人情報が増えるほど、危険性は加速度的に増大し、被害が出てから止めるのは困難になる。だから私たちは「共通番号」に反対している。

●分散管理だから個人情報はまとめて漏れない?

 マイナポイントのサイト は、マイナンバー制度では情報を「一元管理」する特定の共通データベースを作らないので、そこからまとめて情報が漏れることはないと説明している。
 「一元管理」と「分散管理」というのは国の常套文句だが、国が「一元管理」と言っているのは、個人情報を共通データベースという一カ所に集約するということだ(下図)。何十年前のコンピュータ化の初期ならともかく、今どき一カ所に集約する非効率なデータベースをつくることは、現実にはない。無意味な対比だ。
  個々の行政機関などで分散管理している個人情報を、必要に応じて照会し結合することができるのがマイナンバー制度であり、その情報照会-情報提供を「一元的に管理」する仕組みとして、総務省-デジタル庁が管理する情報提供ネットワークシステムが作られている。

●マイナポータルですべての特定個人情報がわかる

 この仕組みからマイナポータルによって、マイナンバーを付番して行政機関等で管理する個人情報をすべて知ることができる。下図がマイナポータルから取得できる個人情報の主なもので、いずれもプライバシー性の高い情報だ。
 個人情報保護のためには必要な仕組みだが、悪用されるとこれらの個人情報が<だだ漏れ>する危険がある。

デジタル時代における住民基本台帳制度のあり方に関する検討会2021.7.19有識者部会資料2

 かつて向井治紀内閣官房内閣審議官(現デジタル庁参与) も、マイナポータル(旧マイ・ポータル)は極めて危険度が高いと説明していた。

「マイ・ポータルというのは極めて危険度が高いです。逆に言うと自分の情報を全部見ることができてしまうというのは極めて危険度が高いので、そういう意味では代理をする場合でも、やはり一定の非常に高いセキュリティー、あるいは厳格な要件を設けざるを得ないと思っています。(番号制度シンポジウムin鳥取(平成23年11月25日)【議事録】45頁 )

●マイナポータルからの漏洩を防ぐのは自己責任

 マイナポータルは、マイナンバーカードと暗証番号によりアクセスする。カードと暗証番号を取得されてしまうと、他人が成り済ましてアクセスすることは可能であり国はリスクの軽視ではないか、と国会で指摘されたことがある
 マイナンバーカードの暗証番号は、6~16桁一つと4桁3つの計4種を設定する必要がある(下図)。4桁3種は同じでもよいと国は説明しているが(セキュリティ上は分けた方がいいに決まっている)、いずれにせよ記憶しておくのは大変で、番号をメモして持ち歩き、一緒に紛失・盗難することになりがちだ。手続きのために他人に預けることもあるかもしれない。
 それに対して政府(吉川浩民総務大臣官房審議官)は、「そもそも、成り済まし防止のための暗証番号というものは、マイナンバーカードとは別に適切に保管していただくことが前提でございます」と答えていた。仮にマイナンバーカードとともに暗証番号が漏えいしても、24時間365日体制のコールセンターに連絡すればカード機能の一時停止の措置を行うことが可能とも説明している。つまり暗証番号をマイナンバーカードと一緒に持ち歩いたり、すぐに連絡をしない本人の問題だ、というわけだ。
 しかし政府がマイナンバーカードの悪用は困難とか個人情報が漏れることはないとか宣伝している状態では、市民は紛失のリスクを認識できない。それで自己責任というのは、責任転嫁だ。

    マイナンバー概要資料平成20年5月版より

2.6サイバー局新設と
警察法改悪に反対する市民集会

【2022.2.8 発言者レジメへのリンクを追記

●サイバー警察局新設の警察法改正案国会提出

 2022年1月28日、警察法の一部を改正する法律案が閣議決定され、国会に提出された。警察庁にサイバー警察局を新設し、関東管区警察局に全国を管轄するサイバー特別捜査隊を新設する法案だ。
 「誰一人取り残さない」デジタル改革により、すべての人がデジタルによる手続を強いられようとしている。その結果うまれる社会の不正アクセスに対する脆弱性を、「誰も取り残さない」監視の強化によって対処しようとするものだ。
 戦後日本の警察は、戦前戦中の教訓から国家警察を解体し、自治体警察で犯罪捜査を行ってきた。捜査権限があるのは都道府県警察(東京は警視庁)で、国の行政機関である警察庁はその調整をしてきた。今回の法改正で、初めて警察庁が「重大サイバー事案」の捜査など法執行を直接行うことになる大改革だ。

●マイナンバーカードに運転免許一体化法案も

 今国会には、マイナンバーカードに運転免許情報を一体化する道路交通法改正案も提案予定だ。2024年度末に一体化を開始するためということで、警察庁が 警察情報管理システムを「警察共通基盤」上に順次共通化・集約化し、警察庁と都道府県警察のシステム間の連携強化を図ろうとしている。当面は運転免許情報や相談情報を「共通基盤」に一元的に集約するが、将来的には他の業務も集約していくことを予定している。

「デジタル社会の形成に関する重点計画」
         (2021年12月24日閣議決定)
(4)マイナンバーカードの普及及び利用の推進
 ② マイナンバーカードと運転免許証との一体化の実現
 令和6年度(2024年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する。これに先立ち、警察庁及び都道府県警察の運転免許の管理等を行うシステムを令和6年度(2024年度)末までに警察庁が整備する共通基盤(警察共通基盤)上に集約する。(46頁)

国や地方公共団体の手続等の更なるデジタル化に関する具体的な施策
 ② 警察業務のデジタル化
 警察情報管理システムを、警察共通基盤上に順次共通化・集約化しつつ、更なる警察業務のデジタル化を通じて、国民の利便性の向上や負担軽減を図るとともに、行政手続の処理の 効率化と警察情報管理システムの整備・維持に係るコスト削減を図るため、以下の取組を行う。
・運転者管理システムは、令和5年(2023年)1月に警察共通基盤上で一部の都道府県警察において運用を開始し、令和6年度(2024年度)末までには全都道府県警察において運用を開始する。(93頁)    (以下略)

 法制度的にもシステム的にも、警察が大きく変わろうとしている。それが市民生活に何をもたらすか検証し、法改正に反対する集会が行われる。主催者の呼びかけを掲載する。 

https://www.jca.apc.org/shiminren/wp-content/uploads/2022/01/image.png

◆日時:2022年2月6日 14時 (開場:13時30分)
◆会場:文京シビックセンター 4階シルバーホール
 ○アクセス 地下鉄 丸の内線・後楽園駅/三田線・春日駅
 地図:https://www.city.bunkyo.lg.jp/shisetsu/civiccenter/civic.html
●オンライン配信も予定しています。
 https://vimeo.com/event/1709950
◆集会サイト
  https://www.jca.apc.org/shiminren/?page_id=472
●参加費:500円
●オンライン参加の方は以下の振込口座に参加費を振り込んでください。集会終了後一週間ぐらいを目安に振り込んでもらえると助かります。
  振込口座番号 00120-1-90490
  加入者名 盗聴法に反対する市民連絡会
  通信欄に「2.6集会参加費」と明記してください
●会場に来られる場合は、新型コロナ感染予防のため、マスクの着用をお願いします。
●主催:2・6集会実行委員会
・連絡先: 盗聴法に反対する市民連絡会
      hantocho-shiminren@tuta.io
 JCA-NET 070-5553-5495(小倉)

<発言者>
  【2022.2.8発言レジメ追記 クリックすると開きます】
サイバー局新設で市民社会の何が変わる?
 中森圭子(盗聴法に反対する市民連絡会)
デジタル改革と運転免許証・マイナンバーカード一体化
 原田富弘(共通番号いらないネット)
「自衛隊サイバー防衛隊」は何をやろうとしているのか
 木元茂夫(すべての基地に「No!」を・ファイト神奈川)
警察の治安弾圧-治安管理・治安弾圧の現状と課題
 安藤裕子(破防法・組対法に反対する共同行動)
スーパーシティ/スマートシティで進む監視と管理
 内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター<PARC>共同代表)
ほか

  警察庁は新たに「サイバー局」を設置する大幅な組織改革を打ち出しています。サイバー局の新設に伴って、これまで都道府県が担っていた犯罪捜査に対して、国(警察庁)が自ら捜査権限をもつサイバー犯罪対応の専門部隊も新設されます。こうした組織再編は、国内のサイバー犯罪対策だけでなく、海外の捜査機関との連携の強化も意図してのことといわれています。
 すでに2022年度の概算要求で、必要な組織再編や人員などが計上されています。国直轄の捜査機関や局の新設などは、警察法の「改正」が必要となる重要な問題であり、関連する法案などが通常国会に上程されることになります。
 私たちは、警察庁が国直轄の捜査機関を新設することには絶対反対です。インターネットをはじめとする「サイバー」空間は、集会、結社、言論など表現の自由の空間であり、また通信の秘密は憲法で保障された私たちの基本的人権の一部です。「サイバー局」は基本的人権によって保障されたコミュニケーションの権利を掘り崩すことになります。私たちは、捜査機関による私たちのコミュニケーションへの監視・介入を許す警察法の改悪には絶対反対です。
 警察法の改悪とサイバー局の新設は、この間政権が強引に推し進めてきたデジタル監視社会化の一環です。デジタル庁やサイバー関連の法・制度改悪、マイナンバーのなしくずし的な利用拡大、自治体レベルでの強引な「デジタル」化、子どもをターゲットにしたデジタル管理教育、自衛隊のサイバー戦争関連部隊の増強など、改憲とも連動した動きであることを見逃すわけにはいきません。本集会では、これらがもたらす新たな監視社会体制について、様々な角度から、問題点を探り、サイバー局新設と警察法改悪反対のアクションの第一歩にしたいと考えています。

● 警察法の一部を改正する法律案

 改正案は、警察庁のサイトに掲載されている。
   要綱(63KB)
  案文・理由(118KB)
  新旧対照表(164KB)
  参照条文(180KB)
  参考資料(112KB) ※以下の概要図

        警察法改正案概要

またやるのかマイナポイント(2)
法的根拠のない危うい利用

●そもそもマイナンバーカードって何?

 連日のテレビCMや新聞の一面広告などで、政府は「そろそろ、あなたもマイナンバーカード」などとマイナンバーカードの宣伝普及に躍起だ。
 そもそもマイナンバーカード(番号法の正式名称は「個人番号カード」)は、マイナンバーを記入・提出する際に番号だけで本人確認するとアメリカ等のように成り済まし詐欺が横行するのを防ぐための本人確認を目的に作られた。
 あわせて内蔵するICチップに券面情報やオンライン申請等に使う電子証明書を記録するとともに、条例や政令で定めた事務にICチップの空き容量を使用できると説明していた(電子証明書は記録しないことも可能)。法律に規定された利用は下図のようなものだ。
 マイナンバーカード以外の本人確認手段もあり(たとえば番号通知カードと運転免許証)、全住民に所持させる必要はなく希望者が申請するカードだ。それが2019年6月の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」により、2023年3月までに全住民に所持させる強引な普及策が進められている。

    マイナンバー概要資料(2015年2月版より

「マイナンバーカードはデジタル社会の基盤」!?

 いま、マイナンバーカードの役割は、当初の目的から大きく広がり変化している(下図参照)。岸田首相はマイナポイント予算2兆円は無駄だと問われて、マイナンバーカードはこれから社会全体のデジタル化を進める上でインフラ基盤となる大切な存在であり、利便性を高めることによって是非普及をし社会全体のデジタル化をしっかり進めていきたい、と国会答弁していた。
 しかしこれらの利用拡大は法律の根拠があいまいなものが多く、市民がマイナンバーカードに不気味さを感じるのは当然だ。マイナンバーカードがなければ行政サービスが受けられないようなデジタル社会を作るべきではない。宣伝に血道をあげるまえにどういう利用をするのか、そのリスクへの対応をどう措置するのか、法律で明確にすべきだ。

    マイナンバー概要資料(2020年5月版より

●マイナポイントを管理する仕組みは?

 たとえばマイナポイントは、総務省が作り2017年9月から運用開始しているマイキープラットフォームの、「自治体ポイント管理クラウド」で管理している。マイキープラットフォームは「マイキーID」という一人一つの番号で管理するデータベースで、マイナポイントの申請=マイキーIDの設定だ。
 マイナポイントだけでなく自治体の図書館など公共施設の利用者カード、学習講座などの受講者カード、健康体操やボランティア事業などへの参加記録なども、マイキーIDにひも付けて管理するようになっており、たとえば図書館カードとして32自治体で利用されている
 マイキープラットフォームの利用にはマイナンバーカードが必要で、内蔵のICチップに記録されている「電子証明書」の発行番号(シリアル番号)とマイキーID、そして利用する各事業の利用者番号をひも付けて管理することで、マイナンバーカードをカードリーダーにかざせば本人識別しデータ管理できるようになっている(下図参照、JPKIとは公的個人認証サービス)。

      マイキープラットフォーム構想の概要

●法律に根拠のない危ないマイナポイント

 マイナポイントを管理するマイキープラットフォームは、マイナンバーを使用しないため番号法上の利用事務にはなっておらず、番号法に利用の規制は書かれていない。管理している個人情報について、図書の貸出し履歴や物品の購入履歴等の情報は保有できないと説明されているが、法的な担保はなく行政の姿勢次第だ。
 マイキーID設定時に利用者との契約もなく、情報がどう管理され提供されるか、利用者にはわからない。地方自治体によってマイキープラットフォーム運用協議会が作られているが、「マイキープラットフォーム及び自治体ポイント管理クラウド利用規約」にも個人情報の保護について何の記載もない。
 2019年1月に Tカードなどのポイントカードの情報が知らないうちに警察に提供されていたことが報じられ問題になったように、マイキープラットフォームの利用情報は重要な個人情報だ。
 漏洩や提供だけでなく、自治体が利用情報を住民のプロファイリングに使う虞れもある。中国でポイントサービス等の利用情報を使って、個人を信用システムでランクづけしようとしているのは有名な話だ。マイナポイントも目的は「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を作ることだ(下図参照)。

「マイナポイント」を活用した消費活性化策について( 2019年9月30日 総務省 マイナポイント施策推進室 )

●マイナポイントの仕組みは合憲か?

 国はマイナンバー制度への「国民の懸念」を防ぐために、住基ネット最高裁合憲判決(平成20年3月6日)を踏まえた個人情報保護措置を講じるとしていた(下図参照)。この「懸念」について、マイナンバー違憲差止・東京訴訟で国は、「主観的な不安感」ではなく客観的な危険性だが個人情報保護措置により具体的危険性ではない、と弁護団の求釈明に対して回答していた。
 この住基ネット最高裁判決では、住基ネットを違憲とした大阪高裁判決(平成18年11月30日)が、カード(住基カード)の利用を住基ネットの具体的危険の一つと判断したことに対して、以下のように否定して合憲とした。

 (大阪高裁判決は)住民が住基カードを用いて行政サービスを受けた場合,行政機関のコンピュータに残った記録を住民票コードで名寄せすることが可能であることなどを根拠として,住基ネットにより,個々の住民の多くのプライバシー情報が住民票コードを付されてデータマッチングされ,本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され,利用される具体的な危険が生じていると判示する。 しかし・・・・・
  システム上,住基カード内に記録された住民票コード等の本人確認情報が行政サービスを提供した行政機関のコンピュータに残る仕組みになっているというような事情はうかがわれない。・・・・・(判決文12頁)

 マイナポイントの個人情報を管理するマイキープラットフォームでは、マイナンバーカードを使った個人データをマイキーIDや電子証明書の発行番号(シリアル番号)を使って名寄せ(データマッチング)することができる。その危険性を防ぐ法的な規定もない。これで合憲と言えるのだろうか?

マイナンバー概要資料( 内閣官房社会保障改革担当室 )平成26年2月版