マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (3)

 健康保険証の廃止に対して世論は「反対」「延期」が大多数で、マイナ保険証は依然トラブルが続いて医療現場は困っている、それでも政府は12月2日に健康保険証の新規発行を終了する方針を変更しようとしない。
 そんな状況を打破するために、9月以降、様々な団体と力を合わせて反対の声をさらに広げ盛り上げようと努めてきた。

 マイナンバー制度反対連絡会は私たちと同様にマイナンバー制度がスタートした2015年から、個人参加中心の私たち共通番号いらないネットに対して、番号制度の廃止を求める全労連、東京地評、土建労組、自治労連などの労働組合や、全商連(全国商工団体連絡会)、税経新人会などの団体によって活動してきた。
 マイナンバー制度反対連絡会主催の健康保険証廃止を阻止するための一連の行動に、10万人を超える医師・歯科医が加盟する保団連(全国保険医団体連合会)などの医療団体、中央社保協や高齢期運動連絡会障全協(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会)などの社会保障団体とともに私たちも参加してきた。
・10月9日 デジタル庁・厚生労働省抗議行動
・10月24日 国会前屋外集会
・11月7日 省庁要請行動~日比谷野音集会~銀座デモ
・11月28日 一日行動(保団連院内集会~国会正門前行動~厚労省・デジタル庁抗議行動)
 11月7日の日比谷野音集会~銀座デモは、私たちも広く参加を呼びかけ、日比谷野音を埋める2300名以上の参加があった(集会の模様は保団連こばと通信で)。

 監視社会に反対する取り組みを従来からともに行ってきた「秘密保護法」廃止へ!実行委員会・共謀罪NO!実行委員会とともに、国会審議に向けて院内集会や国会前行動に取り組んできた
・10月1日 能動的サイバー防御と健康保険証廃止に反対する市民の集い(オンライン配信はこちら
・11月6日 国会前行動、院内集会「警察の市民監視や情報収集は違法!ー大垣警察市民監視事件裁判から学ぶ」(オンライン配信はこちら
 また「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の10月1日臨時国会開会日行動、11月11日国会開会日行動、12月19日議員会館前行動などで発言してきた。

 2024年9月27日に行われた自民党総裁選挙の結果を受けて、10月1日第1次石破政権が誕生後、10月9日衆議院を解散し、10月27日投票の結果自民・公明が過半数割れし、11月11日第二次石破政権が少数与党政権として発足した。
 立憲民主党は前国会に議員立法で提案していた健康保険証廃止の延期を求める法案を、第215回国会(特別会)に改めて提案し、11月13日衆議院地・こ・デジ特別委員会に付託された(議案審議経過情報はこちら)。

立憲民主党提案の法案(要綱)
衆法 第215回国会 1
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案

一 被保険者証の廃止に関する改正規定の施行期日の改正(番号利用法等改正法附則第一条新第五号及び新第一条の二関係)
 1 番号利用法等改正法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律(令和五年法律第四十八号)をいう。)のうち、被保険者証の廃止に関する改正規定の施行期日を「公布の日〔令和五年六月九日〕から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日〔令和六年十二月二日〕」から「公布の日から起算して一年六月を経過した日以降において別に法律で定める日」に改めること。

 2 1の「別に法律で定める日」については、医療保険各法等の規定による電子資格確認による被保険者及び被扶養者(以下「被保険者等」という。)であることの確認が安全かつ確実に行われるための環境整備の状況、被保険者等が療養を受ける際の医療保険の被保険者証等の利用の状況、医療保険の被保険者証等の廃止が高齢者及び障害者をはじめとする被保険者等に支障を及ぼさないようにするための施策の策定の状況、医療保険の被保険者証等の廃止に関する国民世論の動向その他の事情を勘案して検討し、その結果に基づいて定められるものとすること。

二 施行期日等  (附則等関係)
 1 この法律は、公布の日から施行すること。
 2 その他所要の規定の整理を行うこと。
※ 法案はこちら

 私たちは11月28日の第216回国会(臨時会)開催日に、法案審議が付託された衆議院地・こ・デジ特別委の委員を議員会館に訪問し、下記の要請を行った。


 
 

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (2)

 厚労省は2024年5月24日から6月22日まで、健康保険法の省令から健康保険証の交付義務を削除するための意見募集(パブリックコメント)を行った。私たちは「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようと呼びかけた(こちら参照)。
 このパブコメでは、当初、7月上中旬に結果を公表し省令改正を行う予定になっていたが(概要参照)、1カ月以上遅れて8月30日に結果が公表された(こちら)。寄せられた53,028件もの意見のほとんどは、改正内容に反対する意見だった。
 公表された結果一覧は、現行の被保険者証は継続するべき、マイナンバーカードと被保険者証の一体化に反対、高齢者等の通院では顔認証は負担が大きい、資格確認書の交付条件である「電子資格確認が受けられない状況」に本人の意思によりマイナンバーカードの交付を受けていない場合や登録を解除した場合も含まれることを明示的に規定すべき、資格確認書は被保険者の申請によらずに保険者が交付する義務を負うべき、などの意見で埋めつくされている。

 しかし厚労省はこの反対の声を受け止めず、8月30日、健康保険証の交付義務を削除する省令改正を行った(令和六年厚生労働省令第百十九号:行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令)。
 同日、厚生労働省保険局長名で公布通知が各都道府県知事、各指定都市市長、地方厚生(支)局長、都道府県後期高齢者医療広域連合長、社会保険診療報酬支払基金理事長、全国健康保険協会理事長、健康保険組合理事長宛に発出されている(令和6年8月30日保発0 8 3 0 第1号)。

 私たちはこのような厚労省に対して、2024年9月26日、福島みずほ参議院議員事務所を通して
・健康保険証廃止反対の意見が多いことや、マイナ保険証の利用率が低いことを、どう考えているのか?
・マイナ保険証の利用登録解除は、いつから、どのようにおこなうのか?
・「資格確認書」の交付対象を広げるべきではないか?
・医療保険資格が正しく表示されないトラブルは、12月までに解決できるのか?
・マイナ保険証でも、他人が成りすますことはできるのではないか?
・マイナ保険証が一因となって医療機関が閉院していることを、調査し対策しているか?
などのヒアリングを行った(こちら参照)。
 なお同日総務省に対しても、携帯電話契約時の本人確認にマイナカードの公的個人認証しか認めなくすると報じられていることに対するヒアリングを行っている(回答はこちら)。

 厚労省の回答は、いらないネットのサイト(要旨はこちら、質疑内容はこちら)で報告している。またヒアリングの模様は「こばと通信 -声を上げる市民」の協力によりこちらで見ることができる。
 厚労省はパブコメに寄せられた意見は省令改正に反対する内容が圧倒的に多かったことを認めつつ、「より良い医療の提供のためにマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」ため省令改悪を見直す考えがないことを回答した。
 ただ寄せられた意見を無視はでぎず、今後は指摘された不安を解消するための宣伝を行っていくと説明した。実際10月24日以降新聞各紙に下記広報を掲載するなど、マイナ保険証がなくても資格確認書で受診できることや健康保険証も最大1年間利用できることなど、それまでのマイナ保険証の利用促進一辺倒を若干修正した宣伝を行うようになった。
 市民の声が、政府の姿勢を変えさせた。

マイナ保険証有効登録数
(デジタル庁ダッシュボード11月30日時点)


 しかしマイナ保険証利用促進に比べ宣伝量は圧倒的に少ない。また10月28日から可能になるマイナ保険証の利用登録解除(10月9日厚労省事務連絡参照)について、ヒアリングでは周知すると答えながらまったく触れないなど、「不安解消」にはほど遠い内容だ。
 実際12月2日から健康保険証が使えなくなると誤解して、市区町村窓口にマイナンバーカードの申請が押し寄せ(総務省公表資料)、マイナ保険証登録が増加した。人々を不安に駆り立てることで利用促進を図る、こんな手法でどんなデジタル社会を作ろうというのだろうか。

 なおこのヒアリングでは、最近政府がマイナ保険証を促進する理由として「健康保険証では成りすましがある」と強調していることに対してマイナ保険証でも「技術的には」成りすましが可能と認め、また医療機関・薬局は患者にマイナ保険証利用を勧める義務はないと認めるなど、注目すべき回答があった。

 「資格確認書」の交付やマイナ保険証の利用登録解除は、保険者(健保組合、協会けんぽ、自治体=国保・後期高齢者医療、共済組合、国保組合等)が行うことになり、保険者の姿勢が重要になる。
 一部の健保組合では、2024年度入社した新人に健康保険証を交付せずマイナ保険証の手続きを義務づけた(日経2024年9月25日)とか、資格確認書の有効期限を3カ月にして有効期限内にマイナ保険証の手続きを催促したり、資格確認書をマイナカードの紛失や子の出生によりマイナ保険証が取得できない場合のみ発行すると案内している例(東京新聞2024年11月19日)が報じられている。
 そこで加入者約4000万人の最大の保険者である協会けんぽ(全国健康保険協会:健保組合に加入していない企業の従業員対象)に対し、9月30日次の質問書を送り、10月12日までの回答を求めた(いらないネットのサイトに掲載)。
 また公立学校共済組合に対して、全国学校事務労働組合連絡会議(略称「全学労連」)が9月13日に提出した要請書も、いらないネットのサイトに掲載している。

協会けんぽへの質問項目(全文はこちら
(1)「資格情報のお知らせと加入者情報」について
(2)「資格確認書」について
(3)マイナ保険証の利用登録解除について
(4)マイナ保険証のトラブルへの対応について

 しかし協会けんぽからは期日をすぎても回答も連絡もなく、協会けんぽ本部を訪問するなど再三求めた結果、すでに質問した事項が実施されはじめた12月3日にやっと回答がメールで送られてきた(回答の経過と回答内容はこちら)。政府は「国民の皆様の不安には迅速に応え、丁寧に対応する」(11月30日石破首相所信表明)と繰り返しているが、その実態がこの遅延だ。
 
 「資格情報のお知らせ」は、券面で保険資格情報がわからないマイナ保険証の利用登録者を対象に送ることになっていた。マイナ保険証を登録していない加入者は、券面で保険資格がわかる「資格確認書」が交付されるので、本来必要がない。ところが協会けんぽは9月から全加入者に送付している。なぜ全加入者に送っているのか、9月26日のヒアリングで厚労省は「なぜ協会けんぽが全加入者に送っているかわからない」と回答していたが、協会けんぽからは厚労省の指示(令和6年1月9日付事務連絡)にしたがい送ったと、矛盾する回答があった。

 「資格確認書」については「加入者に安心して医療機関を受診していただきたいとの考え」で有効期限を4年から5年の範囲で設定しているとの回答があった。厚労省は加入者を不安にさせる一部の健保組合の不当な対応を是正させるべきだ。

 マイナ保険証の利用登録解除については、早期に回答を得て周知したかったが、実施後の回答になった。当初はまずコールセンターに連絡しないと解除申請用紙が送付されなかったが、保団連が再三要望した結果、12月1日から申請書類がウェブサイトからダウンロードできるようになった(保団連医療ニュース参照)。私たちは申請の提出先が勤務先になると提出しにくくなることを心配したが、加入している協会けんぽ都道府県支部にて受付することになっている。
 なおマイナ保険証の利用登録解除をする際には、下記の申請書を提出するとともに、あわせてマイナ保険証の代わりになる「資格確認書交付申請書」を提出する必要があるので注意が必要だ(詳しくは協会けんぽサイト参照)。

協会けんぽの利用登録解除申請書(協会けんぽサイトより)

 

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (1)

 多くの市民や医療・介護の関係者等の反対にもかかわらず、政府は2024年12月2日、健康保険証の新規交付を終了した。共通番号いらないネットは8月31日の「どうなる保険証 どうする私たち」集会の論議を受けて、健康保険証の廃止阻止に向けて3ヶ月間全力で取り組んできた。
 新規交付は終了したが、健康保険証は有効期限まで最長1年間利用できる。マイナ保険証の利用率は11月末でも18.52%に低迷している。
 私たちは1月以降も
・健康保険証をなくすな! 健康保険証を使おう!
・マイナ保険証の押し付けを許さない!
・マイナ保険証を登録解除して資格確認書を使おう!
と訴え続けるとともに、今後の取り組みを検討することにしている。
 この間の取り組みと現状を概観する。

 8月31日「どうなる保険証 どうする私たち」集会では、医療や地方自治体、保険者の立場から問題提起を受けた。(当日の資料やビデオはこちら
 マイナ保険証に対しては、保団連(全国保険医団体連合会)による大規模な調査活動と、加盟する各地の保険医協会による医療現場からの問題指摘によって、厚労省が説明してきたマイナ保険証のメリットが実現できていないことが明らかになってきた(5月以降のトラブル調査報告はこちら)。
 医療機関では効率化するはずの窓口事務は、かえって手間がかかり患者とのトラブルが起きている。マイナ保険証で正確な医療保険資格を確認できるはずが、表示の誤りが多発して健康保険証を使って確認している。地域医療を長年支えてきた診療所では、経済的負担やセキュリティ確保への不安からシステム導入を機に廃業するところもでている。
 高齢者・障害者・施設入所者・DV等被害者などにとっては、マイナンバーカードの取得・利用・管理そのものが困難だ。「誰一人取り残さないデジタル化」のはずが、申請が必要なマイナ保険証や「資格確認書」では保険医療から排除されかねないことが浮き彫りになってきた。

 その一方、12月2日の健康保険証新規交付終了が迫る中で、マイナンバーカードの実務を担うとともに国民健康保険や後期高齢者医療制度の保険者でもある地方自治体や、資格確認書交付やマイナ保険証の登録解除の実務を行う保険者への取り組みが重要になってきた。
 そこで集会では「地方自治体から健康保険証の存続の声を」のアピールを作成し(こちらを参照)、

・政府に対して健康保険証利用の存続・延長を求めること
・マイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられることを住民に周知すること
・保険者として資格確認書の交付やマイナ保険証の登録解除を確実に行うこと

などの取り組みを地方自治体に訴えた。
 その後私たちは、自治体議員の研究会(こちら)や首都圏各地の学習会で問題提起を行ってきた。

 なお同じく8月31日には「地方自治と地域医療を守る会」によるシンポジウム「マイナカードと保険証の一体化による実害を考える」も開催され、自治体からの問題提起もされた(当日の模様はこちら)。当日の議論は弁護士JPニュース(こちら)で紹介されている。

 9月2日には木村真豊中市議・高木隆太高槻市議・難波希美子能勢町議の呼びかけで、各地の自治体議員200名以上が連名で総務・デジタル・厚労の各大臣に対し、「現行の健康保険証の廃止・マイナ保険証への一本化を強行しないよう求める申し入れ」を行った。
 現行保険証とマイナ保険証の併用を続けるとともに、12月以降も手元にある健康保険証は有効期限まで使えることや、資格確認書で保険診療を受けることができることなどの周知・広報を求めた。
 しかし厚労省・デジタル庁の担当者は、「マイナ保険証は医療DXのパスポートとしてより良い医療を可能にするもので、このメリットを早期に最大限発揮するため12月2日からマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」「マイナ保険証への移行は、マイナカードを持たない人も含め全ての人が安心して確実に保険診療が受けられるよう対応する」という説明に終始した。

 自治体からは健康保険証の存続等を求める意見書が、共通番号いらないネットの調査で2024年11月15日現在、自治体の1割を超える213議会から国に提出されている(自治体や意見書概要はこちら)。

 政府は12月以降も最大1年間健康保険証が使えるとか、マイナ保険証がなくても「資格確認書」で保険診療が受けられると言いながら、もっぱらマイナ保険証の利用促進ばかりをPRしてきた。2024年10月から開始予定とされたマイナ保険証の登録解除については、政府・保険者からほとんど宣伝もされなかった。
 そのため、12月からマイナ保険証がないと保険診療が受けられなくなる、との誤解が広がっていた。
 私たちは緊急の取り組みとして、「マイナ保険証はなくても大丈夫!」と訴えるチラシを作成し、各地での配布を訴えた(こちらからダウンロード)。

  ↑ マイナ保険証チラシNo1(2024年9月16日発行)
  ↑ マイナ保険証チラシNo2(2024年10月25日発行)


 チラシの裏面には8月31日集会の資料「これで安心!12月からどうなる保険証?あなたどうすれば?」を掲載し、マイナ保険証の所持の有無など一人一人の状況に応じて、マイナ保険証の登録解除、健康保険証新規交付終了、健康保険証の有効期限終了や失効、そして来年12月の健康保険証の利用終了の時期に応じて、どのようにすればマイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられるかを説明した。

 共通番号いらないネットでは、毎月新宿駅南口で宣伝活動を行ってきた。活動の模様は「こばと通信 -声を上げる市民」の協力によってユーチューブで公開されている。
 今年は各地の団体とも協力しながら、5/19横浜駅7/21新橋駅9/29中野駅10/27王子駅11/17蒲田駅などにも宣伝活動を広げ、また健康保険証廃止に賛成・反対のシール投票なども行ってきた。


 

「健康保険証の存続を」の声を地方自治体から

 厚労省サイトより利用率

 政府が健康保険証の交付を終了しようとしている12月2日まで、あと3ヶ月に迫ってきました。
 マイナ保険証の利用は低迷し、政府が5月から7月まで「マイナ保険証利用促進集中取組月間」を設定してさまざまな利用率向上策を実施しても、利用率は毎月1~2%しか増えず、7月の利用率は11.13%にとどまっています。
 その一方で政府が医療機関等にマイナ保険証の利用をゴリ押しした結果、健康保険証を示しても薬を処方しないなどのトラブルが相次ぎ、厚労省も「健康保険証を受け付けずマイナ保険証の提示を求めることは適切でない」と注意喚起する事態になっています(こちら参照)。

 改めて述べるまでもなくマイナンバーカードの申請は任意であり、マイナンバーカードの所持を前提とするような施策は番号法違反です。
 国民皆保険制度のもとでマイナ保険証に一元化しようとする政府は世論の批判を受けて「資格確認書」が新設され、さらに申請によらず交付するなど修正を加えていますが、「資格確認書」はあくまで当面の措置で健康保険証の代わりにはなりません。

社会保障審議会医療保険部会第166回(2023年8月24日)資料2

 医療機関では、マイナ保険証導入の負担も一因となって閉院が発生し、地域医療に悪影響が出ています。政府はひも付け誤りは解消したとしますが、保険資格が正しく表示されない状態は続いています。その一因として会計検査院は今年5月15日に、医療保険関係情報の登録の遅延が解決していないことを報告しています(「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」59頁~ 下図参照)。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、市町村国保等)にとっては、新たに資格確認書を交付する事務や費用の負担がのしかかっています。施設等は、利用者のマイナンバーカードの取得・更新・管理に困っています。利用者にとっても、マイナ保険証は健康保険証では不要な申請・更新が必要で、資格確認書の交付の遅れや漏れが心配されています。
 健康保険証を存続した方が合理的であることは、誰の目にも明らかです。

 社会保障審議会医療保険部会第179回(2024年6月21日)資料1より

 マイナ保険証が利用されないのは、「情報漏洩が不安」「健康保険証の方が使いやすい」などの理由です。政府がメリットとしてあげる「医療情報の閲覧でより良い医療がうけられる」に対しても、逆に使いたくない理由として「病歴や薬歴を明かしたくないため」と答える人が少なくありません。
 日弁連が2023年11月14日の意見書で指摘するように、マイナ保険証はプライバシー保護に問題があるためです。

 自治体は、住民福祉の増進を図るために地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。政府の姿勢に追従することなく、マイナンバーカードの所持を任意とする番号法を踏まえて、健康保険証の存続と住民の不安の解消のため、以下[1]~[3]の取り組みを行ってください。

[1]政府に対して、健康保険証利用の存続・延長を求めてください。

 共通番号いらないネットの調べでは、2024年8月6日現在、全国自治体の1割を超える少なくとも184の地方議会が健康保険証の存続等を求める意見書を国に提出しています。(意見書の概要は こちら に掲載)。
 健康保険証廃止に懸念を示す首長も出ています。2022年10月の河野デジタル大臣記者会見以降に意見書が採択されなかった自治体も改めて現状を直視し、健康保険証の存続や、住民理解が得られない現状で健康保険証の交付終了をしないよう、政府に求めてください。

[2]マイナ保険証を利用せずに保険診療が受けられることを、住民に周知してください。

 政府は「マイナ保険証の利用を基本とする」として利便性ばかり宣伝し、利用しない場合の保険診療について積極的に周知していません。その結果、マイナ保険証を希望しない住民や利用困難な住民は、12月以降の保険診療がどうなるのか不安を募らせています。
 マイナ保険証を利用しない場合の保険診療方法や、10月に開始予定のマイナ保険証の利用登録解除手続きについて、住民が不安を感じないよう積極的に広報してください。
 またマイナ保険証を登録していても、マイナ保険証での受診等が困難な高齢者、障害者等「その他保険者が必要と認めた方」には、保険者に申請すれば資格確認書が交付され受診できることを周知してください。

保団連サイト「12月以降に資格確認書(=現行の健康保険証)がもらえる人」より

[3]資格確認書の交付やマイナ保険証の登録解除を確実に行ってください。

 地方自治体は国民健康保険や後期高齢者医療の保険者です。政府が健康保険証の廃止を強行した場合、住民(被保険者)の保険診療を確実に保障しなければなりません。
 厚労省は資格確認書の切れ目のない交付のために、必要なシステム改修等を実施して対象者に以下の対応をするよう保険者に求めています。

A.マイナンバーカードを取得していない方、健康保険証の利用登録をしていない方
 オンライン資格確認等システムから対象者情報を月次で受け、申請不要で資格確認書を交付
B.マイナンバーカードの健康保険証利用登録を解除した方
 解除申請を受けて申請者に資格確認書を交付するとともに、対象者情報をオンライン資格確認等システムへ連携
C.電子証明書の更新を失念した方、マイナンバーカードを返納した方
 オンライン資格確認等システムから対象者情報を月次(返納者情報は日次)で受け、対象者に資格確認書を申請不要で交付
※カード返納者に対しては、返納手続の際に保険者への資格確認書の申請を併せて案内

 社会保障審議会医療保険部会第176回(2024/3/14)資料4より

 しかし岩手県や長野県の保険医協会が県下の自治体にアンケート調査を行ったところ、
・国保加入でマイナ保険証登録者の、有効期間や電子証明書の失効時期を把握していない
・マイナ保険証の利用登録解除のシステム構築について、「まだ検討していない」「国の財政支援が分からず検討できない」「他システムとの連携で改修が難しい」「内容が複雑すぎて見通しがたたない」
などの回答がありました。
 またマイナ保険証登録者以外には申請なく交付することになっている資格確認書について、「申請があった方のみに送付する」とした自治体や、送付対象者の把握が困難なためか「全加入者に送付」とした自治体も少なからずありました。
※岩手県の調査(5月20日~5月31日 33自治体) 集計結果
※長野県の調査(5月13日~7月19日 77市町村)調査結果
 現行の健康保険証は、12月2日以降も最大1年間利用可能ですが、転居・転職等により失効します。「資格確認書」の切れ目のない速やかな交付のために、必要なシステム改修や事務執行の体制を整備するとともに、整備が困難な場合は健康保険証廃止の延期を求めてください。

保団連サイト「マイナ保険証の登録解除が可能に―2024年10月申請受付開始」より
  詳しくは、いらないネットサイト

携帯電話取得も銀行口座開設もマイナンバーカードが必要に?!

●マイナンバーカードなしでは生活できなくなる?
●「国民を詐欺から守るための総合対策」の内容
●マイナカードの普及・利用の推進を狙う
●携帯電話取得ではすでにマイナカードを強要
●総務省有識者会議では「非電子的方法」の存置も
●マイナンバーカードがない人はどうするのか?
●カード情報読取アプリの問題点
●マイナカードは誤交付や不正取得が発生

 2024年6月18日、犯罪対策閣僚会議が「国民を詐欺から守るための総合対策」を公表した。
 特殊詐欺やロマンス詐欺などの増加を理由に、
・携帯電話取得等や預貯金口座開設の際の本人確認を、非対面(オンライン)ではマイナカードの公的個人認証に原則一本化し、対面(窓口)でもマイナカード等のICチップの情報の読み取りを義務付ける
・マッチングアプリ事業者に対しアカウントの開設時に公的個人認証サービス等による厳密な本人確認を求める
など、マイナンバーカードの所持を前提とするような対策が打ち出されている。
 メディアやSNSではもっばら携帯電話の取得が話題になっているが、預貯金口座の開設でもマイナンバーカードの利用を求めている。生活に欠かせない携帯電話や銀行口座でマイナンバーカードの利用が必須になれば、マイナンバーカードの所持を任意とする番号法に反することになる。
 詐欺対策は誰もが望むが、だからといって携帯電話が取得できなくなったり口座が開設できなくなれば、社会生活が営めなくなり本末転倒だ。マイナンバーカードによらない確認方法を残す必要がある

 「国民を詐欺から守るための総合対策」では、3「犯罪者のツールを奪う」ための対策として、(1) 犯罪者グループ等が用いる電話に関する対策(19頁)と、(2) 預貯金口座等に関する対策(21頁)で、以下の同じ対策が書かれている。なお4「犯罪者を逃さない」ための対策(2) マネー・ローンダリング対策でも、3(2) と同じ対策が再掲されている(25頁)。

犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。
対面でもマイナンバーカードのICチップ情報の読み取りを犯罪収益移転防止法及び携帯電話不正利用防止法の本人確認において義務付ける。
また、そのために必要なICチップ読み取りアプリ等の開発を検討する。さらに、公的個人認証による本人確認を進める。

 このような対策は昨年から打ち出されていた。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、(3)マイナンバーカードの普及及び利用の推進 ⑤ 様々な民間ビジネスにおける利用の推進の中で、以下が書かれていた。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(携帯電話不正利用防止法)に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証等を送信する方法や、顔写真のない本人確認書類等は廃止する。対面でも公的個人認証による本人確認を進めるなどし、本人確認書類のコピーは取らないこととする。」(54頁)

 非対面は今回の対策と同じで、対面が「公的個人認証による本人確認を進める」から、マイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りの義務付けに変わっている。ちなみに6月21日閣議決定の本年度の「重点計画」では、犯罪対策閣僚会議の対策と同じ内容が「重点政策一覧」の[No.1-36]として記載されている。
 犯罪対策として今回の対策は必要だという評論が多いが、そもそもマイナンバーカードの普及・利用推進のための民間ビジネスでの利用推進として書かれているように、犯罪対策を利用したマイナカードの普及を意図していた。
 政府は健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化すると脅せば、みなマイナカードを所持すると期待していた。しかしマイナポイントが終了するとマイナカードの新規申請は激減し(下図参照)、カード保有率は74%(6/30現在)と低迷し1/4は所持していない。マイナ保険証の利用率は医療機関・薬局に強要や利益誘導をしても、5月末で7.73%にとどまる。そこでマイナカードの普及のさらなる策として、本人確認での利用の強要を考えているのではないか。

デジタル庁「自治体向けマイナンバーカードご参考資料」(2024年3月6日更新)より

 携帯電話では、すでに昨年からマイナンバーカードがないと取得が困難になっている。
 2023年春、携帯電話3社は相次いで本人確認書類として健康保険証などの取り扱いを終了した(NTTドコモ2023年5月24日以降終了=3月22日発表、KDDI2023年5月31日終了=5月9日発表、ソフトバンク2023年6月13日終了=5月31日発表)。
 終了後の本人確認書類について各社若干の違いはあるが、マイナンバーカード(個人番号カード)や運転免許証等(運転免許証、障がい者の手帳、パスポート、在留カードなど)がサイトに記載され、運転免許証等を取得できない市民にとっては、マイナンバーカードの提示が求められている。
 共通番号いらないネットは、2023年8月17日に携帯電話3社に対して質問・要望を送付
1) マイナンバーカード等を利用しない場合の契約等の手続きを保障すること
2) マイナンバーカード等を所持・利用しない場合の契約方法について、サイトやパンフレット等に掲載するとともに、販売店に周知すること
を求めた。
 各社より回答があった。NTTドコモは、マイナンバーカードの取得を強制するものではなくサイト記載の書類以外での申込は問い合わせを、と回答したが、KDDI(au)は、サイト記載の本人確認書類の提出がない場合は契約手続きを受けられないと回答した。KDDIに対しては10月27日にマイナンバーカード等を所持・利用しない場合の契約方法を検討するよう求める要望を送付したが、回答はなかった。
 ただこれらは各事業者の判断によるもので、携帯電話不正利用防止法の施行規則では健康保険証等も本人確認書類として現在も認められている。2023年9月28日の省庁ヒアリングで総務省は、以下の説明(要旨)をしている。

 制度上、携帯電話不正利用防止法という特殊詐欺対策の法律があり、契約時の本人確認義務があり、確認書類として使用可能なものは施行規則に記載されている。この中に健康保険証は現在も定められており、省令上は現在も本人確認書類して認められているが、省令では「使用することが可能な本人確認書類」を定めており、この全部を使わなくてはいけないということにはなっていない。各事業者でリスクを判断して、どの本人確認書類を使うか判断すると理解している。質問の気持ちはよくわかるので、今の意見は意見として承って検討したい。

 総務省は今年2月に「ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会」を設置し、「不適正利用対策に関するWG」で携帯電話不正利用防止法の本人確認方法の見直しを検討しているが、なぜか検討結果が出る前(6/18)に犯罪対策閣僚会議が対策を示した。
 6月20日の「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」では、非対面・対面ともに電子的な確認の義務化を見直しの方向としているが、犯罪対策閣僚会議の対策にはない「例外的な確認方法としての非電子的な確認方法の存置」も書かれている。また見直しスケジュールとしては、本年度中に省令改正のパブコメを行い、来年度から再来年度にかけて十分な準備期間を確保したうえで施行となっている。

「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」より

 犯罪対策閣僚会議の総合対策では、非対面の本人確認手法はマイナンバーカードの公的個人認証に「原則として」一本化、対面ではマイナンバーカード「等」のICチップ情報の読み取りを義務付けとなっていることで、例外や他の方法も認められるのではないかという「期待」も言われている。しかし「例外」を極小化してマイナカードを押し付ける手法は、マイナ保険証のゴリ押しで経験済だ。
 河野デジタル大臣は6月25日の記者会見で、取得が義務ではないマイナンバーカードの実質義務化ではないか、マイナンバーカードを持っていない人に対してどのように対処する予定かとの質問に対して、次のように答えている。

「対面の場合、今までも、マイナンバーカードあるいは免許証、在留カード、そうしたものを提示いただいておりました。今までは券面で確認していただいておりましたが、ICチップの読み込みを義務化しようということです。券面を提示するか、提示されたもののICチップを読み込むかということで、本人確認を厳格にしようということですので、特に今までと変わることは利用者側からはございません。本人確認の書類を提示していただいて、お店の方に券面の確認だけでなく、ICチップの読み込みを義務化するだけですので、利用者側からは本人確認書類を提示していただくということで変わったことはありません。
(問)マイナンバーカードでなくてもいいということですか。
(答)マイナンバーカードあるいは免許証、在留管理カードというものを対面の場合には提示していただくということになります。 

 また松本総務大臣も6月25日の記者会見で、次のように答えている。

「非対面契約においては、原則としてマイナンバーカードの公的個人認証に一本化してまいります。(中略)対面契約におきましても、本人確認書類のICチップ情報の読み取りを義務付けること、的確な本人確認を行っていくことで、先ほど申しましたように不正な契約を防止し、犯罪につながる不正な契約を防止してまいりたいと思っております。
 マイナンバーカードをお持ちいただいてない場合でも、ICチップ付きの本人確認書類として、例えば運転免許証、在留カードもご利用いただける方針で検討させていただいております。
 具体的な本人確認方法、移行時期については、有識者会議において引き続き検討を進めておりまして、今年度中に、省令改正案をお示しすることができるように議論を進めてまいりたいと思っております。

 対面の場合はマイナンバーカード以外にICチップを内蔵している運転免許証や在留カードも認める方針と答えているが、これでは運転免許証や在留カードを持てない人はマイナンバーカードしか選択肢がない。
 しかも運転免許証は本年度からマイナカードとの「一体化」がはじまり、在留カードは6月14日に成立した入管法改正でマイナカードと一体化することになっている。いずれもマイナ保険証と違い、一体化するか否かは任意となっているが、今後の運転免許証の取扱いは改正法の施行状況を見ながら検討すると河野デジタル大臣は答弁(衆議院本会議令和5年4月14日)しており、在留カードについても河野大臣は「在留外国人が住所の届け出をする際に、確実に一体化した在留カードを申請していただくための仕組みについても措置」するよう2024年3月19日の関係省庁連絡会議で求めるなど、いつまで任意性が保障されるかわからない。
 マイナカードによらない「非電子的な確認方法」を、明確に存置すべきだ
 なお現行の携帯電話新規契約時の本人確認方法は、以下のようになっている。

「不適正利用対策に関するWG中間とりまとめ(案)」より

 政府や「識者」は目視確認という不完全な方法でなく、確実なマイナカードのICチップに記録されている電子的情報の利用を推奨している。そのため現在J-LIS(地方公共団体情報システム機構)で配布しているパソコン用の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」(ICカード化した運転免許証も読取可能)に加えて、スマホ利用のアプリを開発するとしている。
 今年6月の番号法改正で、マイナカードの券面記載から性別がやっと削除されたが、ICチップには記録され読み出し可能になっている。現在の「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」では、券面の性別も表示されるようになっており、この表示のままアプリを配布すれば券面から性別を削除した意味がなくなる。
 今年から欧州デジタルID規則(eIDASⅡ)によりEU各国に導入された欧州デジタルIDウォレットのように、本人の意思で必要な個人情報だけを必要なところに提供できるという、個人のデータ主権を保障すべきだ
 また在留カードや特別永住者証明書のICチップ記録情報について、出入国在留管理庁が2020年から誰でもダウンロード可能で配布している「在留カード等読取アプリケーション」は、外国人監視に市民を動員するものだと批判をうけている。法令等で確認が認められている行政機関や事業者だけが、確認を認められている項目だけを読取可能にする必要がある

 たしかに偽造はICチップ情報の読取で防げるだろう(現時点では)。しかしマイナカードの成りすまし取得は、ICチップ読取では防げない。マイナカードなら安心と思うのは危険で、複数の確認方法の併用をリスクに応じて利用すべきだ。
 マイナカードの別人への交付や成りすまし取得は、少数だが(氷山の一角?)発生している。
 今年3月29日、総務省はマイナカードを別人に交付したことによりマイナポイントを別人に付与した事案が3件あることを公表した昨年9月の私たちのヒアリングでは、総務省は令和5年度に4団体4件で別人に交付していると答えている。
 2022年から23年にかけて、マイナポイントのためにマイナカード申請が殺到した時期には、連日のように別人の写真に取り違えてマイナカードを交付したことが報じられ、23年6月には総務省が誤交付防止のチェックリストを自治体に通知している。
 マイナカードの誤交付は2016年1月の交付開始以降続いており、事故事例を精力的に立証したマイナンバー違憲差止の神奈川訴訟では、2016年2月29日に栃木県塩谷町、2016年4月26日岡山県倉敷市、2019年11月29日川崎市高津区、2020年2月7日福岡県筑後市、2020年5月22日神奈川県南足柄市などの事例が書証で提出されている。

 誤交付だけでなく、意図的な成りすまし不正取得も発生している。
 2016年8月に報じられた埼玉県熊谷市の例では、親族名義のカード申請書を不正入手し自分の顔写真を貼ってマイナカードを申請してだまし取った。市役所は親族と住所が同じで年齢も似ていたために同一人と信じて交付したとされている。
 2017年11月に報じられた東京都江戸川区の例では、フィリピンに出国した男性が死亡後、男性になりすまして住民票の住所を自分の家に変更し自宅に届いた書類を使って自分の写真で申請している。
 2021年6月には埼玉県ふじみ野市で、知人男性に成りすまして自身の顔写真でマイナンバーカードを不正取得し、新型コロナウイルス対策の特別定額給付金をだましとった男が逮捕。
 2023年2月には新潟市で、長野県在住の男性が「個人番号カード交付通知書・電子証明書発行通知書兼照会書」の回答書を偽造し、新潟市在住者(故人)の身体障害者手帳の顔写真部分を偽造した物も用意し容疑者の顔写真が添付された偽のマイナンバーカードの交付を新潟西区役所で受けて逮捕。
 2023年9月には新潟県上越市で、インターネット上のマイナンバーカード交付申請サイトで何らかの方法で入手した他人の『マイナンバーカード交付申請書』に記された申請書IDと自身の顔写真を登録し、他人名義の個人番号カードを不正に取得し逮捕などが報じられている。
 さらに2023年10月には、架空の人物の戸籍を取得し正規の手続きでマイナカードを作成した女性が警視庁に逮捕されている。
 これらはたまたま別件によって発覚しており、他にも事例は起きていると思われるが、政府は不正取得事例の全体状況を公表していない(把握していない?)。マイナンバーカードの前身の住基カードでは、不正取得と防止対策のイタチゴッコを完全には防止できなかった(「マイナンバーは監視の番号」緑風出版102頁~参照)。マイナカードのICチップ読取を絶対視することはできない。

保険証廃止は決まっていない!薬局はマイナ保険証強要するな

 健康保険証の交付義務を削除しようとする省令改正に対して、6月5日に「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けようとこのブログで呼びかけて以降、関心が大きく広がっている。締め切り間際は混雑して意見が届かないことがある。早めの投稿を呼びかける。
 パブコメはこちらから。提出方法は、共通番号いらないネットのサイト(こちら)や保団連(全国保険医団体連合会)のサイト(こちら)の参照を 。

 昨年の健康保険法改正で、「資格確認書」の規定が新設された。しかし保険者(健保組合、全国健康保険協会)が健康保険証(「被保険者証」)を交付する義務は省令(施行規則)で規定されているため、省令が改正されるまでは保険証の交付は廃止されていない(詳しくはこちら)。
 今回の意見募集(パブリックコメント)は、健康保険法の施行規則からの保険証交付義務の削除などを内容としている。省令改正の公布日は7月上中旬が予定されており、それまでは法的には健康保険証廃止は決まっていない
 他方、国民健康保険法などは法律に保険証交付が規定されており(国保法第9条等)、昨年の法改正で保険証交付の規定は削除され、2024年12月2日以降廃止(=新規交付しない)予定となっている。
 とかくパブコメは形式的な手続きと見られがちだが、「政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的」としており(e-govサイト)、行政手続法では提出意見を十分に考慮することが定められている(第42条)。
 パブコメ実施中で省令改正されていないにもかかわらず、「12月2日に現行の健康保険証は発行されなくなります」と決定しているかのように断定する厚労省のチラシは、法令を逸脱している。ただちに医療機関から回収・撤去すべきだ。

 マイナ保険証のためのオンライン資格確認等システムの実施義務についても、裁判で争われている最中だ。
 厚労省は厚生労働省令(療養担当規則)により、医療機関に対し2023年4月からの原則義務化を「決定」した。しかし健康保険法70条1項が省令に委任しているのは「療養の給付」であり、被保険者の「資格確認」方法については委任の内容に含まれていない。健康保険法の委任がないにもかかわらず、省令で保険医療機関に対してオンライン資格確認を義務づけているのは、憲法41条に違反し違法かつ無効だ。
 現在、保険医1,415人が原告となって、東京地裁で「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」が争われている(こちらを参照)。原告が勝訴すれば、マイナ保険証の利用を医療機関に押し付けることもできなくなる。注目を。

 マイナ保険証の利用率が6%程度で低迷しているため、厚労省は5~7月をマイナ保険証利用促進集中取組月間として、医療機関に圧力をかけてマイナ保険証利用率向上に力を入れている。医療機関の利用状況を調査して、表彰したり、利用率の低い医療機関にメールを送ったりしている。
 利用促進すると10~20万円の支援金(報奨金)を医療機関に給付したり、6月からは診療報酬を改訂し初診で80円(歯科60円、調剤40円)の「医療DX推進体制整備加算」を新設した。患者は利用の有無にかかわらず、マイナ保険証のおかげで24円、18円、12円の値上げだ(3割負担の場合)。
 利用促進のための問答集(マイナ保険証利用促進トークスクリプト)やチェックリストを配布して、受診者への「説得」に医療機関を駆り立てている。

社会保障審議会医療保険部会第177回(2024年4月10日)資料1

 私たち市民にマイナ保険証の利用を義務付ける法律は、どこにもない。それどころかマイナンバーカードの取得は番号法で任意であり、それは今年12月以降も変わらないことを、政府は何回も言明している。マイナ保険証の利用を強要することは許されない。
 しかし政府の圧力によって、一部の薬局で健康保険証では薬がもらえなかったり、マイナ保険証を使わないと診療が後回しにされるなどの異常な事態が報じられている(6月6日報道ステーション等)。
 当事者に取材した6月9日の東京新聞のサイトによれば、東京都の40代男性が5月30日、薬をもらおうと都内薬局に処方箋と一緒に現行の保険証を差し出したところ、「マイナ保険証のみの受け付けになります」と言われ保険証を突き返され、Xに怒りの投稿をした。この大手薬局は「マイナ保険証がなくても受付が可能」「誤解を招く説明」と謝罪したが、昨年12月から、全国に約900ある全系列店で薬を処方する際、現行の保険証での資格確認を取りやめていたそうだ。
 法令(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第3条)では、薬局が薬を処方する場合、処方箋かマイナ保険証(電子資格確認)か現行の健康保険証かのいずれかで資格確認すれば良いことになっている。たいていは処方箋を示せば薬はもらえる。厚労省も薬剤師会も、問われれば健康保険証で良いと説明している。

 またマイナ保険証の利用で優先して受付するのは差別的扱いだ。厚労省が医療機関や薬局にマイナ保険証用の専用レーンの設置を求めている(右図)ために、そのようなことが起きている。
 マイナ保険証の方が受付が速くできるから、とか説明されているが、実際はマイナ保険証の方が時間がかかっている。マイナ保険証を推進している日本保険薬局協会でも、カードリーダーの読み取りや本人確認、暗証番号の入力などを行う必要があるため、マイナ保険証の受付率が高い薬局では患者の待ち時間が発生していると指摘しているそうだ(CBnews5月13日)。

 マイナ保険証の利用率は低迷しつづけている。強圧的な普及策をやっても月1%程度しか増えず、5月の利用率も7.73%だ(厚労省サイト)。これで半年後に健康保険証を廃止できるのか。
 マイナ保険証のメリットと政府が説明してきたことは、ことごとく事実に反していることが露呈し、厚労省は「医療DXのため」「より良い医療のため」と、繰り返すしかできなくなっている。
 マイナ保険証を忌避する患者と厚労省の板挟みになって、医療機関・薬局は望んでもいないマイナ保険証のセールスを強いられ、患者との関係を悪化させている。患者に迫るのではなく、厚労省に対して保険証廃止の撤回を迫るべきだ。
 保険者(健保組合、協会けんぽ、国保等)は、健康保険証交付費用の削減を期待していた。しかし協会けんぽの前理事長は、保険証発行費用の年15億円削減や職員の業務量の大幅削減を皮算用していたが、いままで有効期間のなかった保険証の代わりに5年毎に資格確認書の発行が必要になったために余分なコストが発生してしまうと述べている(日経私見卓見6月12日)。
 もはや誰にもメリットのない健康保険証廃止は止めるべきだ。厚労省も「医療DX」のイメージを悪くするマイナ保険証の押し付けは止めて、健康保険証とマイナ保険証の選択を市民に委ねればいい。厚労省の言うように、マイナ保険証がより良い医療に資するなら、市民はそちらを選ぶはずだから。
 パブコメで「健康保険証廃止するな」の声を集中し、保険証廃止のための健康保険法施行規則改正を止めさせよう。そして国民健康保険法等を改正し健康保険証交付の規定を復活させて、健康保険証を存続させよう。

「健康保険証なくすな」の声をパブコメで届けよう

 厚生労働省は5月24日、健康保険法などの省令(施行規則)から、健康保険証を交付しなければならないとする規定を削除する意見募集(パブリックコメント)をはじめた。
 昨年(2023年)6月2日に健康保険法等の改正が成立し、資格確認書の新設は規定されたが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。つまり今年12月2日から健康保険証の発行を終了することは、法律的にはまだ決まっていない

例:健康保険法施行規則第47条(被保険者証の交付)
 協会(=全国健康保険協会)は、厚生労働大臣から次に掲げる情報の提供を受けたときは、様式第九号による被保険者証を被保険者に交付しなければならない

 今回、この省令を改正し、被保険者証(健康保険証)の交付義務の規定を削除しようとしている。
 意見の募集期間は令和6年5月24日(金)~6月22日(土)(必着)となっている。「健康保険証をなくすな」の声を、パブコメで政府に集中しよう。
※パブコメ(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案(仮称)に関する御意見の募集について」)のサイトはこちら。 

 省令改正案の概要によれば、改正内容
 (1)健康保険法施行規則
 (2)船員保険法施行規則
 (3)国民健康保険法施行規則
 (4)高齢者の医療の確保に関する法律施行規則
の、被保険者証に係る規定を削除するとともに、資格確認書の申請方法及び記載事項を定め、被保険者の資格に係る情報の通知に係る規定を新設する等となっている。

 その他、(3)国民健康保険法施行規則の一部改正では、法改正で保険料を滞納している世帯主が住所を有する市町村又は組合は、保険料納付の勧奨及び当該保険料の納付に係る相談の機会の確保その他厚生労働省令で定める保険料の納付に資する取組を行ってもなお納付しない場合に特別療養費を支給することとされたことに伴い、当該保険料の納付に資する取組を定める等、所要の規定の整備する。

 経過措置として(1)(2)の施行の際、現に交付されている被保険者証については、この省令の施行日から起算して1年間はなお従前の例によることとするとともに、(1)(2)の施行のために必要な行為は、施行日前においても行うことができるとなっている。
 省令改正の公布日は令和6年7月上中旬(予定)、施行期日は令和6年12 月2日だ。

 意見の提出方法は、
(1) 電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームを使用する場合(こちら
 「パブリック・コメント:意見募集案件」における各案件詳細画面の「意見募集要領(提出先を含む)」を確認の上、意見入力へのボタンをクリックし、「パブリック・コメント:意見入力」より提出
(2) 電子メールを使用する場合
(3) 郵送する場合
 〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2
 厚生労働省保険局国民健康保険課企画法令係宛て
となっている。詳しくは意見募集要領を参照。

 昨年9月28日、共通番号いらないネットは福島みずほ参議院議員事務所を通じて、厚労省などにヒアリングを行った(ヒアリング内容の報告はこちら)。
 その際、厚生労働省からは健康保険証の廃止について以下の説明を受けている。省令改正できなければ、保険証の交付は続けざるを得ない。

(質問)
 番号法関連法で6月2日成立した健康保険法改正では、資格確認書の新設は規定されているが、健康保険証の交付義務は省令事項のため法律上は規定されていない。
(1) 法改正で健康保険証の廃止が決定したとの説明がされているが、その法的根拠を明らかにされたい。

(回答要旨)
 国民健康保険法や高齢者の医療の確保に関する法律には、被保険者証の交付自体が定められており、2023年6月2日成立の番号法関連の法改正の中て、その規定を法律から削除している。
 健康保険法では、被保険者証の交付を法律ではなく省令(施行規則)で規定しているので、健康保険法に基づく健康保険証に限れば、まだ法律上の措置はなされていない
 仮に省令改正をしなかった場合には、国保や高齢者は施行日を定めて廃止されるが、健康保険法だけ交付が残りつづけることになる。 

 マイナポイントで利益誘導した結果、マイナンバーカードの保有数は9200万枚余、人口比の保有率は約73.7%になった(2024年4月30日時点総務省サイト)。しかし2023年3月までにほぼ全ての住民に保有させるという政府方針は、達成できなかった。
 そのうちマイナ保険証の利用登録をしているのは7254.8万人、マイナカード保有者の78.5%となっている(2024年4月30日時点デジタル庁ダッシュボード)。
 ところが医療機関窓口でマイナ保険証を利用したのは、わずか6.56%しかいない。93%以上は健康保険証を提示している(2024年4月、下記厚労省資料参照)。マイナ保険証登録をしている大部分の人は、利用せずに健康保険証を提示しているのが現実だ。

2024年5月15日社会保障審議会(医療保険部会)厚労省資料1

 政府は健康保険証が使われないのは医療機関が利用を勧めないためだと曲解し、今年に入ってから医療機関に対してマイナ保険証の利用率による支援金や診療報酬加算、窓口でのマイナ保険証利用の勧誘マニュアルや勧誘状況の調査など利用促進策を次々と示している(下図)。河野デジタル大臣は保険証の提示を求める医療機関を「密告」するよう、自民党国会議員に文書を送って物議をかもした。
 このような強圧的な「利用促進」により利用率は今年になり増えたが、しかし毎月1%程度の微増にとどまっている。
 マイナ保険証が利用されないのは、健康保険証より不便で、依然として保険資格の誤表示など誤りが続き、健康情報の自己情報コントロールが保障されず個人情報の扱いに不安を抱いているからだ(いらないネットのリーフ13参照=こちらからダウンロード)。この現実を直視し、制度設計を見直さないかぎり、患者はマイナ保険証を利用したいとは思わない。

2024年1月19日社会保障審議会(医療保険部会)厚労省資料1

 政府は利用促進策の一つとして、医療機関で右記のチラシを配布・掲示するよう求めている。しかし保険者(健保組合、協会けんぽ)に健康保険証の交付を義務付けている省令は、まだ改正されていない(現在パブコメ中)。
 まだ決まっていないにもかかわらず「本年12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」という記載は誤りだ。厚労省はこのチラシの掲示・配布を中止し、謝罪・回収すべきだ。

今国会の番号法改正の問題点

   法案概要より抜粋

 2024年4月19日の衆議院本会議で、マイナンバー法の改正を含むデジタル社会形成基本法等の一部改正法案の、河野デジタル大臣による趣旨説明が行われ、地・こ・デジ特別委(地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会)で審議が予定されている。
 3月5日に閣議決定され第213回国会に提出されたこの法案の中で、マイナンバー法の改正は3点ある(デジタル庁サイト)。
 共通番号いらないネットは、地・こ・デジ特別委の委員に下記の要請をおこなった。

 改正案の1点目は、マイナンバー情報総点検を踏まえ、マイナンバーと個人情報の紐付け誤りの再発防止のために、デジタル庁(内閣総理大臣)が特定個人情報の正確性の確保のための必要な支援をおこなうというものだ。
 しかし昨年(2023年)次々と明らかになった一連の紐付け誤りを引き起こした原因は、政府(デジタル庁)の性急なマイナンバー制度の推進にある。たとえば昨年10月10日に情報システム学会マイナンバー制度研究会が発表した『「マイナンバー制度の問題点と解決策」に関する提言』では、紐付けのためには作業開始前に住所表記のゆらぎはどこまでを同一とみなすかなどの名寄せ基準を作成し、その後に名寄せ作業を実施することが必須であったにもかかわらず、「マイナンバー制度では、マイナンバーカードの普及を急がせ過ぎたため、前述したような名寄せ基準が曖昧なままの状態で 、名寄せ作業を開始してしまった。」(3頁)ことが原因と指摘している。
 デジタル庁は、このような性急なマイナンバー制度推進を、さらに性急に推進しようとしている。マイナ保険証を利用すると、保険資格が誤って表示されるなどのトラブルが続いているにもかかわらず(全国保険医団体連合会のサイト参照)、今年12月にあくまで健康保険証を廃止しようとしていることはその一例だ。

 さらに昨年9月20日には、個人情報保護委員会が公金受取口座の誤登録による漏えいの発生に対して、デジタル庁に番号法や個人情報保護法にもとづく指導を行っている。その中ではデジタル庁が公金受取口座の誤登録の責任は市区町村がマイナポイント申請支援窓口を正しい手順で行わなかったことが原因と責任転嫁してきたことに対して、責任は市町村ではなくデジタル庁にあると指摘している。
 「デジタル庁に対する特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律及び個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」では、「誤登録の直接原因となった端末操作の実施場所が市区町村であったとしても、公金受取口座情報が漏えいした場合は、デジタル庁の保有個人情報の漏えい(個人情報保護法第68 条第1項)に該当する。」(7頁)と指摘し、「職員及び担当管理職に、デジタル庁の保有する特定個人情報及び保有個人情報の漏えいであるとの意識が欠如していた」(11頁)などデジタル庁の組織的安全管理措置の改善をも求めている。
 デジタル庁はこの指導に対して2023年12月6日に「改善状況報告書」を提出しているが、漏えい発生の責任はとっていない。河野デジタル大臣は公金受取口座の誤登録に対して、2023年8月15日記者会見で閣僚給与を3カ月分自主返納すると発表したが、それは庁内の情報共有体制が不十分で報告されるまで時間がかかって初動が遅れたということに対してにすぎない。
 マイナ保険証のトラブルが続いているのに健康保険証を予定通り廃止すると言っているデジタル庁が、「マイナンバーと個人情報の紐付け誤りの再発防止のために、特定個人情報の正確性の確保のための必要な支援」など行うことなどできるのだろうか。法改正の前にトラブルが解消するまでマイナ保険証の利用を医療機関に押し付けず、健康保険証廃止の延期を表明することが必要だ。

 改正案の2点目は、マイナンバーカード(個人番号カード)の記載事項から性別を削除し(第二条第七項)、代わりに個人番号利用事務等実施者は、性別に係る情報を利用している事務等のために個人番号の提供を受ける場合は、個人番号カードのICチップに記録された性別に係る情報を電磁的方法により確認する措置をとらなければならない(第十六条本人確認の措置)というものだ。
 そのために、「次期個人番号カードタスクフォース最終とりまとめ」(2024/3/18)では、「ICチップに記録した性別の情報を必要な者が負担なく読み出すことができるよう、スマホ等により個人情報保護に配慮しつつ、使いやすい UI で読み取ることができるアプリを国が開発し、無償で配布する」としている。
 マイナンバーカードの券面に性別を記載することに対して、私たちは番号法制定時から反対し、マイナンバー違憲差止訴訟でも性同一性障害者らの人格権侵害を指摘してきた。券面からの削除は遅きに失したとはいえ改善だ。しかしその代わりにICチップに記録する券面情報をスマホなどで容易に読み取れるアプリが、誰にでも配布されれば券面から削除した意味はなくなる。
 アプリを性別情報の利用が必要な個人番号利用事務等実施者に限定して配布し、利用事務を限定して確認できる仕組みにすることが必要で、どのような個人情報保護措置をとるのか国会審議の中で明らかにされなければならない。

 3点目は、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載可能にし、スマートフォンだけでマイナンバーカードと同様にマイナンバー法上の本人確認ができる仕組みを設けるというものだ。
 すでに2021年のデジタル社会形成整備法案で、ICチップに搭載しているマイナカードの機能のうち電子証明書については、スマートフォンに搭載する電子証明書として「移動端末設備用電子証明書」が創設されていた。マイナカードの所持が前提で、マイナカードの署名用電子証明書を用いてオンラインで発行申請し、署名用・利用者証明用を一人一つずつ発行可能で、個人番号カード用電子証明書と紐付けて管理する。ただ利用できるのはアンドロイドのスマホのみで、日本で利用者の多いiPhoneでいつから利用できるか目途はたっていない。

デジタル改革関連法案について」(2021年3月26日デジタル・ガバメント分科会資料1より)

 今回の法案は、マイナンバーカードのICチップに記録している券面情報(住所・氏名・生年月日・性別・マイナンバー・顔写真)と電子証明書が一体化した「カード代替電磁的記録」を新設し、個人番号利用事務等実施者が行う本人確認の措置で「カード代替電磁的記録」の提供を受けて確認を行えるようにするものだ。個人番号カード保有者は申請によりスマホに搭載するカード代替電磁的記録の発行を受けることができる。それにより、現在は顔写真等を添付して行わなければならない電子申請が、カード代替電磁的記録の送信だけで可能になる。

「マイナンバーカードの普及・利活用拡大」(デジタル庁)より

 便利になるようだが、スマホを紛失したり盗難にあった場合に、本人に成りすまして手続きをされる危険性が増大する。またスマホを機種変更などで廃棄する際に初期化だけでは電子証明書が残ってしまうため、スマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンの利用をやめるときは、利用者が電子証明書を失効させることが義務づけられている(デジタル庁サイト参照)。
 このようなリスクだけでなく、電子証明書の利用が広がる中で、電子証明書の発行番号(シリアル番号)を使って個人情報が紐付けされていくリスクに関心が高まっている(朝日新聞2023年5月2日等)。政府は官民のID(個人識別番号)と電子証明書の発行番号との紐付け利用の拡大に力を入れている。マイナ保険証のためのオンライン資格確認等システムや、マイナポイントのためのマイキー・プラットフォームはその一例だ。
 電子証明書の発行番号は本来電子証明書の管理のための番号で、電子証明書が5年毎に更新されると番号が変更されるが、公的個人認証の電子証明書を管理するJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)が新旧の発行番号の紐付けサービスをはじめたために、あたかも個人を識別する番号のように利用することが可能になっている。ただこの紐付けについては、2022年に500件以上の重複が発生しマイナポイントが複数回申し込まれるトラブルが発生していた(2023年9月28日のいらないネットの総務省ヒアリング参照
 今年4月から政府がはじめたマイナンバーカードを使った「デジタル認証アプリ」に対しては、誰がどのサービス利用において認証したかの情報がデジタル庁に記録蓄積されることで、プライバシー侵害になるのではないかとの指摘がされている(日経コンピュータ2024年3月7日号)。
 電子証明書の利用拡大のまえに、まず個人情報保護のための法的規制を検討すべきだ。

マイナ保険証にどう立ち向かうか? 動画の資料はこちら。

−−リーフレットNo.13を題材に−−東京・渋谷区■2024.3.16(土)13時30分〜

集会案内(いらないネットの集会告知ページ)

集会資料はこちらをクリック→ パワポ。 こちらは、資料のURL ↓

http://www.jca.apc.org/activist/wp-content/uploads/2024/04/20240316siryou_mainahokensyou.pdf

動画のURLは ↓
https://www.youtube.com/watch?v=sL7PsDN1PF0&t=3259s

マイナンバー制度を問う
日弁連の取り組みを紹介

●日弁連、マイナ保険証に意見書を提出
●プライバシー保障に問題があるマイナ保険証
●2月3日埼玉弁護士会学習会

 「マイナンバー制度を再考する」
●2月10日愛知弁護士会シンポジウム
 「問題だらけのマイナ保険証を斬る!」
●「日本のデジタル社会と法規制」出版

●日弁連、マイナ保険証に意見書を提出

 日弁連(日本弁護士連合会)は昨年(2023年)11月14日、「マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書」を取りまとめ、関係機関や自治体に提出した(意見書はこちら参照)。
 意見書では、
*マイナ保険証への一本化は、マイナンバーカードの「任意取得の原則」に反する
*マイナ保険証の取得・管理が困難である人を置き去りにしている(申請手続をしないと取得できない、介護施設入居者等にとって対応困難、紛失時の再発行に時間と手間がかかる、保険資格証明手段や本人確認手段を喪失させる、資格確認書のプッシュ型配布など政府の対応策の不合理性)
*マイナ保険証未取得者に医療費負担格差をつける不合理性
*政府のあげるマイナ保険証の利便性の不合理(重複投薬防止等の利点は現実と齟齬、システム化に対応できない医師の廃業等)
*マイナ保険証はプライバシー保障との関係で問題がある
*現場に過度の負担を押し付けているマイナンバーカード
などの問題点を指摘し、

1 政府は、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続するべきである。

2 政府は、マイナンバーカードの利活用については、カードを取得しない自由を保障するとともに、カードの取得を希望する者に対してプライバシーを最大限保障し、さらに、地方自治体等の意向を踏まえて現場に過度の負担をかけないようにするべきである。

と求めている。

●プライバシー保障に問題があるマイナ保険証

 指摘されている医療や介護現場での問題等は、保団連(全国保険医団体連合会)や各地の保険医協会などの実証的な調査により指摘されている(こちら参照)。
 ここでは市民・患者にとって看過できないプライバシー保障の不備についての日弁連の指摘を紹介したい。

(1) 診療・薬剤情報、特定健診情報等との結合が当然の前提とされている
 マイナ保険証を使ったオンライン資格確認等システムでは、医療機関等は医療保険資格情報だけでなく、他院での薬剤情報や受診歴と手術情報も含む診療情報、特定健診等情報を見ることができる(こちら参照)。なお閲覧可能な情報は、今後の「医療DX」によってさらに拡大が予想される。
 医療機関が閲覧する際には、患者本人の同意が必要とされている。しかしそもそもマイナ保険証と診療・投薬情報、特定健診情報等との結合が当然の前提とされ、本人がこれに同意しない手続がなく、患者の自己情報コントロール権が保障されていない。医療機関も、センシティブ情報である診療情報等の結合自体を拒むことができない。
 診療・薬剤情報、特定健診情報等との包括的連携を拒む手続が保障されていない現在のマイナ保険証のシステムは、プライバシー保障に欠ける。

  厚労省資料(令和4年1月)より

(2) オンライン資格確認時に説明なしの同意を求めるシステム
 医療機関等がマイナ保険証で診療情報等を閲覧する際には、本人の同意が必要とされている。しかしその同意は、医師からその情報を閲覧する必要性等について何も説明を受けないうちに、受付窓口でカードリーダーを操作する際に求められる。患者は自らの治療のために医師との信頼関係の中で自らの状態を情報提供しているが、このような形式的同意ではこの信頼関係も損なう。
 さらに同意は、薬剤情報、特定健診等情報、診療情報の3区分で行われ、それぞれについて一括して過去数年分の情報が提供される。例えば腕の怪我の治療に際して、その治療とは関係のない1年前に性病にかかって服用した薬についての情報まで一括して提供するよう求められるのであり、患者は提供範囲の選択ができないシステムとなっている。
 このことについては法改正の国会審議でも、障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会の家平参考人からは「特に難病や内部疾患、精神障害者などからは、見られたくない個人情報が医療を受けるときにいつも見られてしまうことへの懸念や不安の声が多く寄せられています」と指摘されている(2023年5月17日参議院地デジ委)。
 医療DXによる医療情報の共有についての質問にも、家平参考人は「よく懸念されているのが、やっぱり障害とか疾患による差別というか、今まで長年そういう状況が続いてきているというのは、障害者にはたくさんあると思うんですね。そういう中では、例えば精神疾患だとかいう場合に、例えば歯医者に行くというときに、そういう関係のない情報まで、医療情報まで見られるということについての懸念だとか、そういうことが、知られたくない情報まで知られるんじゃないかと。しかも、そこの受付の人も含めてそういう情報が閲覧するというようなことになりかねないんじゃないかというのはいろいろありますし、それは障害者側にもストレスと、精神的苦痛にもなりかねないし、やる側、医療の側にもそういうことはあるんじゃないかなというふうに思う」と答えられている
 自己の医療情報にかかる「コントロール権」をないがしろにするシステムであるといわなければならない。

(3) マイナンバーカードの多目的利用とプライバシー保障
 国は利便性を重視して、マイナポータルで閲覧できる情報をどんどん増加させている。しかし、閲覧できる情報が多くなるということは、マイナンバーカードとパスワードが第三者の手に渡れば、なりすましによりマイナポータルにアクセスされ、極めて広範なプライバシーに関する情報を不正閲覧されてしまうなど様々な危険に直面させられる可能性が生じる。

●2/3市民学習会「マイナンバー制度を再考する」

 マイナンバー制度そのものが持つ問題点、さらにはマイナンバーカードの利用場面の拡大によって生じる私たち一人ひとりの権利侵害の可能性について、多彩な講師をお招きして、様々な角度からみなさまと学んでいきたい。

日時 2024年2月3日(土)午後6時00分~(開場17時45分)
場所 さいたま共済会館 601・602号室
   (埼玉県さいたま市浦和区岸町7丁目5-14)
費用 無料
定員 200名(先着順)
講師 稲葉一将 名古屋大学教授 
   實原隆志 南山大学教授  
   長久保宏美 東京新聞デジタル編集部編集委員
共催 埼玉県保険医協会・埼玉弁護士会・日本弁護士連合会
チラシ こちら 
※当日はYou Tubeによる配信を予定 URL: https://saitama-hokeni.com/
埼玉弁護士会   https://www.saiben.or.jp/event/001311.html
埼玉県保険医協会 https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-01-21/

●2/10シンポ「問題だらけのマイナ保険証を斬る!」

第1部 基調講演「マイナ保険証の先に何があるか?」
講師:斎藤貴男氏(ジャーナリスト)
第2部 パネルディスカッション
 パネリスト 斎藤貴男氏
       杉藤庄平氏(愛知県保険医協会理事・歯科医師)
       加藤光宏(愛知県弁護士会情報問題対策委員会委員長)
 コーディネータ 新海 聡(愛知県弁護士会情報問題対策委員会委員)
日時 2024年2月10日(土) 13:30~16:00
開催方法 Zoomウェビナーによるオンライン開催
申込方法 以下のURLまたはチラシのQRコードから申込フォームにアクセスし、必要事項をご記入の上、お申し込みください。
 ■ウェビナー事前登録URL
 https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_MecyhbLOTqyN-PYY9Momig
参加費 無料
  どなたでもご参加いただけます。
主 催:愛知県弁護士会
協 力:愛知県保険医協会
お問合せ 愛知県弁護士会
  名古屋市中区三の丸1-4-2
  ☎052-203-4410(平日9:00~17:00)
 https://www.aiben.jp/about/katsudou/jyouhou/news/2024/01/210.html

●「日本のデジタル社会と法規制」出版

 日弁連は2022年9月29日、第64回人権擁護大会シンポジウムの第2分科会「デジタル社会の光と陰~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~」を開催した
 このシンポジウムの内容を紹介した「日本のデジタル社会と法規制-プライバシーと民主主義を守るために」が2023年10月出版された(花伝社、2750円税込)。
 日弁連は2010年、「デジタル社会における便利さとプライバシー~税・社会保障共通番号制、ライフログ、電子マネー~」をテーマに、第53回人権擁護大会第2分科会を開催している。2010年は「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」が設置され、マイナンバー制度構築が開始された年だ。「日本のデジタル社会と法規制」の第3章では、その後のマイナンバー制度の利用拡大や日本のデジタル化の経過を概観しながら、デジタル庁の「包括的データ戦略」がめざす「行政自身が国全体の最大のプラットフォームとなる」デジタル化政策の問題点やプライバシー保護の欠如がコンパクトにまとめられている。

 昨年2023年、マイナンバー制度は大きな転換期を迎えた。マイナンバーの利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに法改正によらずに利用や提供を拡大可能にする番号法の改正、2019年から推進してきた全国民に2023年3月までにマイナンバーカードを所持させる政策の失敗、マイナ保険証等のひも付け誤りなど制度の欠陥の露呈、健康保険証廃止に対する反対とマイナ保険証に対する市民の忌避の広がり、その一方でマイナンバーカードの次期個人番号カードへの転換の検討開始、など(こちら参照)。
 デジタル化政策の中で、マイナンバー制度は発足当初とは異なる展開をはじめている。本書はこの変貌しつつあるマイナンバー制度に、市民がどのように対していくかを検討する素材として最適だ。第2分科会の基調報告書(423頁、PDF10.5MB、こちらからダウンロード)の第3編では、本書第3章についての詳しい説明がされており、さらに理解を深めることができる。

第1章 二〇一〇年以後のデジタル社会の進展
第2章 顔認証システム、AIによる情報処理、フェイクニュース
パネルディスカッション①デジタルプラットフォーマーに対し、世界はどのように取り組んでいるか
第3章 政府が目指しているデジタル社会とは?
コラム①地方自治体における個人情報保護をめぐる問題点
パネルディスカッション②我が国のデジタル化はどうあるべきか
第4章 プライバシー権保障のための仕組み
コラム②主権者の幸福に資するデジタル社会とは?

 なお2010年の第53回人権擁護大会第2分科会の基調報告書も、こちらからダウンロードできる。またその報告も「『デジタル社会のプライバシー-共通番号制・ライフログ・電子マネ-』」(航思社2012年2月、本体3,400 円+税)が出版されている。

マイナンバー反対!廃止をめざすネットワーク。別途HPもあります。