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誇りと心意気と濃密なコミュニティ
「西陣のイメージを一言で表すと」という質問に対して、私は「おっちゃん」と答えた。宇多野ユースホステル主催の「西陣界隈あ・るっきんぐ」の案内役としてお話させていただいたときのこと。主に他府県から来られた方々に西陣を紹介するときになぜかその言葉がヒットした。西陣には、「ものづくり」や「着物」、「職住一体」などというキーワードが思い浮かぶ。どれも正しいのだが、すべてではない。今の私にとっては、「おっちゃん」がそれを包含にしたイメージを持っていた。今まで、ものづくり塾を通じて多くのひととつながりを作ってきた中で出会った 50代、60代のおっちゃんこそが今の西陣を支えていると知った。その基盤の底力を感じてきた。
西陣のおっちゃんは声がでかいことは前回のエッセイでも紹介した。それだけでなく、話が長いことも特長。近所でちょっと会ったりすると、そのまま話し込んでしまう。ちょっとご近所さんのところに行って、話したり...そうして、西陣の街の空気をつくってきた。ひとりひとりのおっちゃんの濃い話と、長い話は、そのコミュニティの基盤となり、強固な信頼関係を構築し、地域ぐるみのビジネスを支えてきた。

この秋、ものづくり塾などの活動で、西陣のまちあるきの案内役を3度も務める機会があった。
訪れる人は京都市内のほかの地域から来られる方もいれば、他府県のケースもあった。年齢も学生からかなり年配の方まで、さまざまだった。
彼らとともに、西陣の名所、定番スポットでの解説などをするだけでなく、西陣織の各工程の工房を訪れ、職人の方のお話をお伺った。
熱く自分の工程を理解してもらおうと思いを語る職人さん、淡々と深みのある話をしてくださる職人さん、すごく謙虚で笑顔の絶えない職人さん...さまざまだったが、みな話し好きで、楽しく話を聞かせていただいた。
参加者のみなさんは、またとない機会を逃してはなるまい、と興味深げに職人さん方の話に聴き入っていた。
こんなにも熱心に話を聴きに来られる方がたくさんおられるのかと少し驚いた。

そして、直に職人の方とじっくり話すことができ、みな満足げに西陣をあとにした。
上っ面だけの観光ガイドではなく、普段は足を踏み入れることのできない領域で、ディープな人間関係の中にひとときだけでも自分の身を置いてみて、新しい発見をしていったに違いない。
西陣にはまだまだ宝が詰まってる。もっと、多くの人にこの街を訪れてもらい、幾世紀にもわたって培われた文化を感じ取って欲しい。
そんな思いを、まちあるきの案内文として私が西陣の魅力を凝縮して文章に綴った。

京都でもっとも代表的な伝統産業の西陣織。
5〜6世紀ごろに大陸から伝わった絹織物が起源といわれてます。
それから十数世紀にもわたり、西陣地域の人たちによって絶えず技術革新が進められることで、「西陣」の名を不動のものにしました。西陣織の技術や品質は日本のみならず、全世界でも最高水準ともいわれています。

世代を越えて継承されてきたものは技術だけではありません。
西陣織では、多くの職人がさまざまな工程を分業し、ひとつのものを作り上げていきます。職人どうしが互いを尊重しあいながら、厳しい時代も西陣を支えてきました。苦楽をともにし、「職住一体」で生きていくという「西陣文化」なるものも育んできました。

職人どうしの濃密なコミュニティと、織物の品質に自ら誇りをかけた彼らの心意気は、今に生きる私たちにきっと何かを気付かせてくれることでしょう。
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2002.11.26.