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西陣の魅力とは
西陣の魅力とはなにか...7月にものづくり塾で西陣会議を開催したときに、参加者のみなさんから、ひとことづつお伺いした。「ものづくりの空気があること」、本物があること」、「職住一体であること」、「コミュニティがあること」、「人間味豊かな方が多い」、「本物のあるまち」などなど...さまざまな意見が聞かれました。

そのとき、私は「和の暮らしが今もいきづいている」と言いました。どんなものが「和の暮らし」であるとはうまく言えないのですが、自分が西陣に抱いている印象を言葉に表すと、その言葉が一番近いように感じました。

でもなんだか、釈然としません。西陣の魅力っていったい何でしょうか?それからしばらくじっと考えていました。町家があることは西陣だけのことではないし、ものづくりをしているのも西陣だけでもない。でも、やっぱり西陣は、それらなくしては語れないのです。「町家」も「職住一体」も「機の音」も、いずれも、私にとっては、西陣での「和の暮らし」を構成する要素として存在していて、それらがいっしょになって、西陣の魅力を醸し出しているのではないでしょうか。

西陣といえばやっぱり、西陣織ですよね。産業構造上、町が持っている一番大きな特長としては、分業体制ができているということではないかと思います。そうすることによって、各々の職人さんが専門性を高めて、完成度の高いものを効率よくつくっていくという産業的なメリットが生まれるのですよね。

大勢のひとでひとつのものをつくっていくわけですから、そのシステムを維持するためには、各工程の職人さんがお互いに蜜に連絡をとりあって、連携していかなければなりません。もちろん、一人でもある工程に携わるひとが欠けてもものができあがりません。その信頼関係の中で、自分の役割を全うしなければならないという責任感を持ち、それが同時に誇りを生んできたのではないでしょうか。そして、職人さん同士はぞれぞれに専門家なわけですから、お互いに尊重しあうことができますよね。西陣の各工房が分業体制を維持するなかで、町ぐるみで、そういった土壌ができてきたのではないでしょうか。

綜絖の職人さんと、機づくりの職人さんとは対等に話しができますし、整経の職人さんと金糸の職人さんについても同じ。ものづくり塾の活動の中で、西陣で取材するなかで、それをひしひしと感じ取ることができました。

そういった横のつながりだけでなく、縦のつながりもあります。同じ工程を担う職人さんの組合があります。また、古くは徒弟制度があり、職人さんから、その子供や弟子へ技術の伝承があります。そこにも非常に親密なコミュニケーションがあります。そのようにして、縦横に強固な関係を持ったひとたちによって、マトリクス型の経営体制が西陣という町全体で構築されてきたと言えるでしょう。

そういった、密なコミュニケーションを他人同士がとっていくなかで、暗黙のルールのようなものができてきますよね。それが今の「西陣の文化」として生きているのでしょう。織物に関する知識だけでなく、相手の職人さんの個性を尊重すること、「お互い様」という意識、近所づきあいをするなかでのひととの関わり方、遊びの節度などなど...そこには、ひとの「和」があり、「和の暮らし」があるのではないでしょうか。

会社勤めしているひとにとっても、別の地域に住んでいるひとにとっても、忘れそうになっていることの本質が、西陣にはまだ残っているように思えます。これからももっと、この町をじっと見つめて、見習うべき探っていきたいと思います。

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2001.11.25.