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沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック
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『一坪反戦通信』
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 第172号(2005年10月28日発行)

「記憶の戦争」最前線・西原町


 那覇から北東に向かって、なだらかな起伏を繰り返す道を走り続け、緑あふれる丘の連なりの谷間に開けた場所に出ると、白い瀟洒な建物が見えてくる。開館から一年たった西原町立図書館だ。

 図書館創設に際し、同町在住の思想家・新川明氏の蔵書が寄付された。「新川明文庫」として整理・目録作りが進められており、戦後沖縄の抵抗文化運動の貴重な資料が多数含まれていると目され公開が待たれている。本年3月には「新川明シンポジウム」が同図書館で開催され、第一部では新川明に高良勉(詩人)がその半生を訊く対談、第二部では屋嘉比収(沖縄思想史)の司会のもと「反復帰論」を現在から捉え返す仲里効(『EDGE』編集長)の講演、さらに目取真俊(作家)、新城郁夫(沖縄文学)による新川論が提起され、つめかけた大勢の聴衆は、沖縄戦後史の再考、復帰運動の再審、沖縄自立/独立の今日的課題を共有した。

 こうしてその出発を祝福されたかにみえた図書館が、いま大きく揺れている。新垣正祐町長(04年10月就任)による「大砲設置」問題だ。昨年暮れに同町幸地の教会建設現場(旧日本軍陣地壕跡)で発見された155ミリ榴弾砲を「平和教育の教材として」図書館前の広場に設置する、というのだ。計画を知った町民の反対運動にもかかわらず、議会の承認を根拠に住民説明もなく強行されて、現在の図書館前庭には、ピカピカに磨き上げられ修復された大砲が砲身を訪れる者に向け、その威容を誇っている。

 町施政方針演説で新垣町長は「あの忌まわしい沖縄戦の悲劇を忘れることなく、「命どぅ宝」を後世に語り継ぎ、平和な社会建設に努めていく」ために大砲を設置し、「生きた教材として平和教育に活用し、町民の平和意識の高揚及び恒久平和の実現をめざ」すと語ったが(西原町議会会議録)、普天間基地移設に関して辺野古推進を主張する同町長の言う「平和」とはいったい何であるのか、その内実は厳しく問わねばならない。

 「平和」と言い、「命どぅ宝」と言いながら強行される大砲設置。小泉総理は「平和を祈願し」靖国参拝を行い、「平和のために」米軍再編・日米安保強化は図られる。戦場の記憶の収奪、横領、書き換えがすすむなか、この大砲設置騒動は、町政の問題として矮小化されることなく、深く幅広い問題提起として受け止めてほしい。

 設置されてしまった大砲の意味を、「平和」という言葉の空洞化に抗い脱軍事社会を目指す側から、いかに変えていけるだろうか? いま図書館周辺のいたるところに「大砲よりも本を」「大砲は人殺しの道具」と訴える手作りの看板がたてられている。町民は「平和教育を考える会」を立ち上げ、9月24日に「平和教育を考える集い」を、吉浜忍(沖縄近代史)、金城実(彫刻家)を講師に迎えて中央公民館で行った(図書館集会室の使用を申請していたが却下された)。大砲を溶かして平和のモニュメントに再生する案の提起や、住民の約半数を失った激戦地・西原町の戦跡フィールドワークなど、創意工夫をこらした〈本当の平和教育〉を地域でうみだす方途がねばり強く模索されている。

 また「比嘉春潮顕彰碑建立期成会」が進めていた同碑を図書館敷地内に建てる計画も大砲設置を受けて二転三転しているが、大砲と比嘉春潮顕彰碑は両立するのか、比嘉春潮の思想をもって大砲に対峙せしめるのか、期成会の腹のくくり度も問われていくだろう。

 「平和教育を考える会」は「図書館を考える会」に協力し、大砲設置反対の署名を集めている。署名・問い合わせは沖縄県宜野湾郵便局私書箱123号「署名協力係」まで。 

(会員 O)