軍用地を生活と生産の場に!
沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック
http://www.jca.apc.org/HHK
東京都千代田区三崎町2-2-13-502
電話:090- 3910-4140
FAX:03-3386-2362
郵便振替:00150-8-120796

『一坪反戦通信』
毎月1回 28日発行 一部200円 定期購読料 年2,000円

 第151号(2003年11月28日発行)

平成15年11月27日 第一小法廷判決

平成15年(オ)第129号、平成15年(受)第141号 工作物収去土地明渡等請求事件

 要旨:
 1 駐留軍用地について使用裁決手続が進行している間の暫定使用を認める駐留軍用地特措法の一部改正法の規定は、憲法29条に違反せず、憲法31条の法意にも反しない 
 2 上記暫定使用前の土地の所有者等の通常受ける損失を補償する旨の駐留軍用地特措法の一部改正法の規定は、無権原占有による損害の賠償を対象とするものである

内容:
 件名 工作物収去土地明渡等請求事件 (最高裁判所 平成15年(オ)第129号、平成15年(受)第141号 平成15年11月27日 第一小法廷判決 棄却)
 原審 福岡高等裁判所那覇支部 (平成14年(ネ)第6号)

主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人らの負担とする。

理    由

 第1 事案の概要
 1 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「特措法」という。)は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(以下「日米地位協定」という。)を実施するため、日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊(以下「駐留軍」という。)の用に供する土地等の使用又は収用に関し規定しているところ、特措法の一部を改正する法律(平成9年法律第39号。同年4月23日施行。以下「平成9年一部改正法」という。)は、本則に15条から17条までの3箇条を加えて、いわゆる暫定使用について新たに規定し、その附則(以下「附則」という。)2項から5項までにおいて、経過措置を定めている。

 2 原審が適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 (1) 被上告人は、上告人Aの父Bが所有する原判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件第1土地」という。)について、同人との間で賃貸借期間を昭和51年4月1日から平成8年3月31日までの20年間とする賃貸借契約を締結し、これを駐留軍の用に供するため使用してきたところ、上告人Aは、平成6年6月1日にBから本件第1土地の贈与を受けてその所有権を取得し、同契約上の賃貸人の地位を承継した後、被上告人に対し、賃貸借期間満了後は本件第1土地の返還を求める旨の意思を表示した。

 (2) 被上告人は、上告人A以外の上告人らが所有し又は共有する原判決別紙物件目録記載2から11までの各土地(以下「本件第2土地」と総称する。)について、使用期間を昭和62年5月15日から平成9年5月14日までの10年間とする、特措法14条の規定により適用される土地収用法47条の2の規定による使用裁決に基づき、これを駐留軍の用に供するため使用してきた。

 (3) 那覇防衛施設局長は、本件第1土地及び本件第2土地について、上記の賃貸借期間又は使用期間の満了後も特措法により引き続き駐留軍の用に供するため使用する目的で、内閣総理大臣に対し、特措法4条の規定に基づく使用認定の申請をし、平成7年5月9日、内閣総理大臣の特措法5条の規定に基づく使用認定を受け、平成8年3月29日、特措法14条の規定により適用される土地収用法39条1項、47条の2第3項の規定による裁決の申請及び明渡裁決の申立てをした。

 (4) 本件第1土地については、上記の賃貸借期間の末日までに必要な権利を取得するための上記の手続が完了しなかったため、被上告人は、平成8年4月1日以降、その占有権原を失い、同日から後記の暫定使用が開始された日(平成9年4月25日)の前日までの間(以下「本件無権原占有期間」という。)、権原を有しないで、本件第1土地を占有した。
 那覇防衛施設局長は、平成9年一部改正法の施行に伴い、附則3項所定の本件無権原占有期間中の本件第1土地の使用によって上告人Aが通常受ける損失の補償について、附則4項本文の規定に基づき、上告人Aとの間で協議をしたが、協議が成立しなかったため、附則5項の規定に基づき、沖縄県収用委員会に対し、土地収用法94条2項の規定による損失の補償の裁決を申請し、同委員会は、平成10年5月19日、損失補償額を47万9671円と定める旨の裁決をした。上記損失補償額は、上告人Aが受けた賃料相当の損害の額に相当する。那覇防衛施設局長は、同年6月19日、上告人Aに対し、上記損失補償額相当の補償金を提供したが、上告人Aがその受領を拒否したため、同月22日、これを供託した(以下、この供託を「本件供託」という。)。

 (5) 那覇防衛施設局長は、平成9年一部改正法の施行に伴い、本件第1土地につき、平成9年4月24日を第1回として、附則2項、特措法15条1項の規定による損失補償のための担保の提供をし、翌25日から附則2項後段に規定する暫定使用を開始した。
 沖縄県収用委員会は、本件第1土地について、平成10年5月19日、前記裁決の申請及び明渡裁決の申立てに基づき、権利取得の時期を同年9月3日、使用期間を同日から平成13年3月31日まで、土地及び土地に関する所有権以外の権利に対する損失補償額を111万4230円、平成9年4月25日から平成10年9月2日までの期間(以下「本件第1土地暫定使用期間」という。)に係る暫定使用による損失補償額を64万3111円と定める旨の使用裁決(権利取得裁決及び明渡裁決)をした。
 那覇防衛施設局長は、同年7月17日、上告人Aに対し、上記暫定使用に係る損失補償金を支払い、上告人Aは、これを受領した。

 (6) 本件第2土地については、その使用期間が満了する前に平成9年一部改正法が施行されたので、那覇防衛施設局長は、上告人A以外の上告人らに対し、使用期間満了前の平成9年5月9日を第1回として、附則2項前段、特措法15条1項の規定による損失補償のための担保の提供をし、使用期間の末日の翌日(同月15日)から附則2項前段に規定する暫定使用を開始した。
 沖縄県収用委員会は、前記裁決の申請及び明渡裁決の申立てに基づき、本件第2土地のうち、一部の土地(原判決別紙物件目録記載8から11までの各土地)については、平成13年10月30日、権利取得の時期を同年12月14日、使用期間を同日から平成15年9月2日までとし、暫定使用期間(平成9年5月15日から平成13年12月13日までの期間)中の暫定使用による各損失補償額を定める旨の使用裁決(権利取得裁決及び明渡裁決)をし、その余の土地(原判決別紙物件目録記載2から7までの各土地)については、平成14年1月22日、権利取得の時期を同年5月9日、使用期間を同日から平成15年9月2日までとし、暫定使用期間(平成9年5月15日から平成14年5月8日までの期間)中の暫定使用による各損失補償額を定める旨の使用裁決(権利取得裁決及び明渡裁決)をした(以下、上記各暫定使用期間を「本件第2土地暫定使用期間」と総称する。)。

 3 本件は、(1) 上告人Aが、被上告人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、本件第1土地につき、@本件無権原占有期間中の違法占有に係る損害賠償(賃料相当損害金、慰謝料及びこれに対する遅延損害金並びに弁護士費用)、並びに、暫定使用の根拠となる附則2項及び特措法15条が憲法29条、31条、39条及び41条に違反することを理由として、A本件第1土地暫定使用期間中の違法占有に係る損害賠償(慰謝料及びこれに対する遅延損害金)及びB国会議員の違法な立法行為に係る損害賠償(慰謝料及びこれに対する遅延損害金)の支払等を求め、(2) 上告人A以外の上告人らが、被上告人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、本件第2土地につき、暫定使用の根拠となる附則2項及び特措法15条が憲法29条、31条及び39条に違反することを理由として、@本件第2土地暫定使用期間中の違法占有に係る損害賠償(賃料相当損害金、慰謝料及びこれに対する遅延損害金)及びA国会議員の違法な立法行為に係る損害賠償(慰謝料及びこれに対する遅延損害金)の支払を求める事案である。

 第2 上告代理人新垣勉、同伊志嶺善三、同阿波根昌秀、同仲山忠克、同三宅俊司、同池宮城紀夫、同吉田健一、同神田高、同松島曉、同西晃、同大久保賢一、同中村博則、同我那覇東子、同内藤功、同太田隆徳、同長野真一郎、同河野豊、同篠原俊一、同梅田章二、同平山敏也の上告理由第1点について

 1 所論は、附則2項及び特措法15条に規定する暫定使用は、憲法29条3項にいう「公共のために用ひる」に該当しない旨主張する。
 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安全保障条約」という。)6条、日米地位協定2条1項の定めるところによれば、我が国は、日米地位協定25条に定める合同委員会を通じて締結される日米両国間の協定によって合意された施設及び区域を駐留軍の用に供する条約上の義務を負うものと解される。我が国が、日米安全保障条約に基づく上記義務を履行するために必要な土地等を所有者との合意に基づき取得することができない場合に、当該土地等を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であることを要件として(特措法3条)、これを強制的に使用し、又は収用することは、条約上の義務を履行するために必要であり、かつ、その合理性も認められるのであって、私有財産を公共のために用いることにほかならないものというべきである(最高裁平成8年(行ツ)第90号同年8月28日大法廷判決・民集50巻7号1952頁参照)。
 そして、駐留軍の用に供するため所有者若しくは関係人との合意又は特措法の規定により使用されている土地等で、これを引き続き駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であるとの要件(特措法3条)に該当すると内閣総理大臣が認定したものにつき、防衛施設局長がその使用期間の末日以前に特措法14条の規定により適用される土地収用法39条1項、47条の2第3項の規定による裁決の申請及び明渡裁決の申立てをしたが、当該使用期間の末日以前に必要な権利を取得するための手続が完了しない場合において、その手続の完了に必要な期間に限って、引き続きこれを使用することができるものとすることも、上記の条約上の義務を履行するために必要であり、かつ、その合理性も認められるのであって、私有財産を公共のために用いることに該当するものというべきである。
 所論は、土地等の使用が憲法29条3項にいう「公共のために用ひる」の要件に該当するためには、収用委員会等の中立公正な機関によって当該土地等を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であることについて事前に判断された場合、又は暫定使用をすることにつき緊急性が存する場合に限られる旨主張する。
 しかしながら、当該土地等を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であるか否かの判断、すなわち、特措法3条所定の要件を満たすか否かの判断は、我が国の安全と極東における国際の平和と安全の維持にかかわる国際情勢、駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程度、当該土地等を駐留軍の用に供することによってその所有者や周辺地域の住民などにもたらされる負担や被害の程度、代替すべき土地等の提供の可能性等諸般の事情を総合考慮してされるべき政治的、外交的判断を要するだけでなく、駐留軍基地にかかわる専門技術的な判断を要するものであることから、その判断は、特措法5条の規定により、内閣総理大臣の政策的、技術的な裁量にゆだねられているものというべきである(前記大法廷判決参照)。したがって、上記の点について収用委員会等の他の機関による事前の判断を経ることを要し、これを経るか又は緊急性が存しなければ憲法29条3項にいう「公共のために用ひる」の要件に該当しない旨の論旨は、独自の見解であって、採用することができない。
 以上の点は、前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

 2 所論は、附則2項及び特措法15条の規定による暫定使用に伴う損失の補償が、事前の補償を行うものではないので、憲法29条3項にいう「正当な補償」に該当しない旨主張する。
 そこで、上記暫定使用に伴う損失の補償に係る関係規定をみるに、附則2項及び特措法15条1項の規定による土地の暫定使用をするためには、防衛施設局長が、あらかじめ損失の補償のための担保を提供することが必要であり(同項)、この担保の提供は、暫定使用の期間の6月ごとに、あらかじめ自己の見積もった損失補償額に相当する金銭を供託して行うものとされ、その見積額は、当該土地の暫定使用前の直近の使用に係る賃借料若しくは使用料又は補償金の6月分を下回ってはならないものとされており(同条2項)、防衛施設局長は、土地所有者等の請求があるときは、損失の補償の内払として担保の全部又は一部を取得させるものとしている(同条4項)。また、暫定使用によって土地所有者等の受ける損失の補償については、暫定使用の時期の価格によって算定しなければならず(特措法16条1項)、収用委員会は、明渡裁決をする場合には、併せて暫定使用による損失の補償を裁決しなければならない(同条2項)。そして、明渡裁決において定められた当該土地等の明渡しの期限までに補償金の払渡し又は供託がされないときは、明渡裁決は、その効力を失う(特措法14条、土地収用法97条、100条2項)。
 憲法29条3項は、補償の時期については何ら規定していないのであるから、補償が私人の財産の供与に先立ち又はこれと同時に履行されるべきことを保障するものではないと解すべきである(最高裁昭和23年(れ)第829号同24年7月13日大法廷判決・刑集3巻8号1286頁参照)。そして、上記関係規定が定める暫定使用及びこれに伴う損失の補償は、その補償の時期、内容等の面で何ら不合理な点はないから、憲法29条3項に違反しないものというべきである。このことは、上記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

 3 以上のとおりであるから、附則2項及び特措法15条の各規定は、憲法29条に違反するものではない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

 第3 同上告理由第2点について
 所論は、附則2項及び特措法15条が、暫定使用の権原の発生につき、土地の所有者等に対し、事前の告知、弁解、防御の機会を与えていない点で憲法31条に違反する旨主張する。
 行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に憲法31条による保障の枠外にあると判断することは相当ではないが、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解すべきである(最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)。
 附則2項及び特措法15条に基づく暫定使用は、その定める一定の要件に該当する場合には、新たな行政処分を介在させずに、当然に同条1項所定の認定土地等につき暫定使用の権原が発生することを定めたものであり、行政処分による認定土地等の所有者の権利利益の制限を定めたものではない。しかしながら、上記の法理は、行政処分による権利利益の制限の場合に限られるものではなく、広く行政手続における憲法31条の保障に関するものであって、その趣旨は、上記暫定使用の権原の発生を定めた上記各規定と憲法31条の保障との関係においても、妥当するものと解すべきである。
 このような見解に立って、上記暫定使用についてみるに、@上記暫定使用は、既に駐留軍の用に供されている土地等を引き続き駐留軍の用に供するため、必要な権利を取得するための手続がその使用期間の末日までに完了しない場合に、その手続の完了に必要な期間に限って、従前からの使用の継続を認めるにすぎないものであること、A上記暫定使用は、我が国が負っている前記の条約上の義務の不履行という事態に陥ることを回避するために必要な措置として定められたものであること、B上記暫定使用は、引き続き駐留軍の用に供するためその使用について特措法5条の規定による内閣総理大臣の認定がされていることをその要件の一つとしているが、この認定は、土地の所有者又は関係人の意見書等を添付した上でされた防衛施設局長の認定申請に基づいて行われるものとされており(特措法4条1項)、土地の所有者又は関係人には当該土地等を引き続き駐留軍の用に供することについての意見を述べる機会が与えられていることが明らかである。
 以上の諸点にかんがみると、上記暫定使用の権原の発生を定めた上記各規定が憲法31条の法意に反するということはできない。このことは上記大法廷判決及び前記平成8年8月28日大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

 第4 同上告理由第3点について
 所論は、附則2項及び特措法15条は、上告人Aが有していた所有権に基づく本件第1土地の明渡請求権及び上告人A以外の上告人らが有していた使用期間の末日の翌日を始期とする所有権に基づく本件第2土地の明渡請求権を、事後的に消滅させるものであり、憲法29条に違反し、憲法39条に規定する法の不遡及の原則に違反する旨主張する。
 附則2項及び特措法15条に基づく暫定使用は、平成9年一部改正法の施行後に、その定める一定の要件を満たした場合に、同法施行後の一定の時点(附則2項前段の場合は「当該使用期間の末日の翌日」、同項後段の場合は「当該担保を提供した日の翌日」)を起点として将来に向かって発生するものであり、遡及効を定めたものではないから、上告人らの法の不遡及の原則に違反する旨の上記違憲主張は、その前提を欠くものである。また、上告人らは、上記暫定使用が憲法29条に違反するとも主張するが、上記暫定使用が憲法29条に違反しないと解すべきことは、前記のとおりであり、論旨は、いずれも採用することができない。

 第5 同上告理由第4点について
 所論は、附則の2項後段、3項から5項までの各規定が上告人A所有の本件第1土地のみを適用対象とする個別的法律であり、憲法41条に違反する旨主張するが、上記各規定は、平成9年一部改正法施行の際の経過措置を一般的に定めたものであり、本件第1土地を対象に選定して法的規制を定めるものではなく、法律としての一般性、抽象性を欠くものでないことは、上記各規定の表現、内容に照らして明らかであるから、論旨は、その前提を欠き、採用することができない。
 第6 上告代理人新垣勉、同伊志嶺善三、同阿波根昌秀、同仲山忠克、同三宅俊司、同池宮城紀夫、同吉田健一、同神田高、同松島曉、同西晃、同大久保賢一、同中村博則、同我那覇東子、同内藤功、同太田隆徳、同長野真一郎、同河野豊、同篠原俊一、同梅田章二、同平山敏也の上告受理申立て理由第1点の3について
 所論は、本件無権原占有期間中の本件第1土地の使用によって上告人Aが受けた損害(賃料相当損害金)の賠償請求権は、那覇防衛施設局長がした本件供託によっては消滅しない旨主張する。
 那覇防衛施設局長は、附則3項所定の本件無権原占有期間中の本件第1土地の使用によって上告人Aが通常受ける損失の補償について、附則4項本文の規定に基づき、上告人Aとの間で協議をしたものの、協議が成立しなかったため、附則5項の規定に基づき、沖縄県収用委員会に対し、損失の補償に関する裁決を申請し、同委員会は、平成10年5月19日、損失補償額を47万9671円と定める旨の裁決をし、那覇防衛施設局長は、同年6月19日、上告人Aに対し、上記損失補償額相当の補償金を提供したが、上告人Aがその受領を拒否したため、同月22日、本件供託をしたことは、前記のとおりである。
 附則3項は、平成9年一部改正法の施行日において従前の使用期間が満了しているにかかわらず必要な権利を取得するための手続が完了していない土地等の暫定使用を開始した場合において、従前の使用期間の末日の翌日から暫定使用を開始した日の前日までの間の当該土地等の使用によってその所有者及び関係人が通常受ける損失を補償することを定めているが、その補償すべき損失の原因となる「当該土地等の使用」は、使用期間が満了し、占有権原を喪失した後の無権原占有期間中の使用であることにかんがみると、同項に基づく損失の補償は、無権原占有による損害(賃料相当損害金等)の賠償を対象としていると解するのが相当である。
 してみると、上記裁決及び本件供託は、上記のとおり、本件無権原占有期間中に本件第1土地の使用によって上告人Aが通常受ける損失を補償するために行われたものであり、この通常受ける損失は、その間の賃料相当損害金に等しいものであるから、上記裁決及び本件供託により、上告人Aが受けた損害(賃料相当損害金)の賠償請求権は消滅したものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎)