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第139号(2002年9月28日発行)

南進する米軍と沖縄

 九月十二日付シンガポール発共同電に「米中枢同時テロを契機に、米国の東南アジア回帰が始まった。テロとの戦いの前線基地として、約二億人のイスラム教徒を抱える同地域の戦略的重要性が増したためだ。」とある。

  米国政府は、まずフィリピンに手を着けた。本年一月末、沖縄からミンダナオ島に派遣された米軍は、フィリピン軍との合同軍事演習「バリカタン02―1」の開始式を行なった。ブッシュ大統領による「悪の枢軸」発言の直後である。

 この比米合同軍事「演習」の目的は、「イスラム過激派」とされるアブサヤフの掃討で、九月二十日付マニラ発共同電によれば、フィリピン軍とアブサヤフとの戦闘が続いていたバシラン島に、ミンダナオ島経由で投入された米兵は千二百人規模、作戦は七月末に終了した。八百人いたアブサヤフは二百四十人にまで激減したという。

 沖縄から送られた米工兵は、緊急時に使用可能な約一キロの滑走路をバシラン島に建設した。同島には今も米兵が駐留し、米軍機が沖縄から飛来している。しかも、ブッシュ政権のフィリピンへの軍事介入はさらに続く。

  〈フィリピン軍は九月十七日、ルソン島で十月十一日―二十六日にかけて米海兵隊と合同軍事演習を行うと発表した。この演習は両国軍が十月から来年六月まで行う長期演習の第一弾となる。パンパンガ州の元米軍クラーク基地跡などルソン島中南部で実施。米側からは沖縄などから海兵隊約六百人、フィリピン側からは陸、空軍の約四百人が参加する。〉(九月十九日付マニラ発『共同』)

 アロヨ比大統領は九月五日、「対テロ戦争はいわゆるテロリストだけでなく、政治的主張に基づく団体も対象になる」と宣言した。フィリピン共産党の軍事組織、新人民軍の政治力と軍事力は、アブサヤフの比ではないにもかかわらず、米軍は新人民軍掃討作戦をいよいよ開始する。このままでは、ベトナム侵略戦争の悪夢がフィリピンで繰り返される。

 フィリピンのアロヨ政権やマレーシアのマハティール政権、シンガポールの独裁政権など抑圧的な東南アジアの政権は、ブッシュ政権の反「テロ」戦争に便乗して、国内の治安弾圧を強化している。そういう反「テロ」陣型を利用して、ブッシュ政権が、フィリピンの次に狙いを定めているのは、インドネシアである。

 米国政府は、東チモールでの人権抑圧を理由に停止したインドネシアへの軍事援助を再開し、国軍の強化をめざしている。その目的は、人口の約八割がムスリム(イスラム教徒)であるインドネシアが、米国を狙う「テロ組織の温床」になることを阻止することである。だがメガワティ政権は、国内イスラム勢力の反発を恐れて、対「テロ」戦に消極的である。それゆえ米国は、大統領が直接電話するなど圧力をかけ始めている。メガワティ政権が協力しないなら、米軍が乗り込む気なのだ。

 そういう筋書きの背後には、米国支配層のエネルギー戦略がある。ブッシュ政権がイラクを攻撃すれば、中東情勢が不安定になり、中東からの石油輸入が危うくなる。だから石油供給源の多角化をめざして、インドネシアの豊富な石油を視野に入れているのだ。

 圧倒的な軍事力で世界制覇をめざす米国政府の「国家安全保障戦略」(ブッシュ・ドクトリン、九月二十日)によって、沖縄はいよいよ軍事的重要性を高められる。南進する米軍にとって、沖縄はますます重要な出撃・兵站拠点なのだ。    
 (井上澄夫)