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第135号(2002年4月28日発行)

那覇防衛施設局宛 意見書

久保田一郎

   伊江島の「やすらぎの家」南隣りに、久保田一郎さんが建てた赤瓦屋根の建物が目につく。阿波根さんが「カワラヤーはわたしのおうち」といって晩年を過ごされた住居だ。久保田さんは阿波根さんの「人間性・思想・生きざまにひかれ」て独力で建てた。感激した阿波根さんが一九九六年、感謝の気持ちをこめて贈られたのがマジャ(真謝)原の土地。久保田さんは「反戦地主というよりはむしろ『平和地主』」だという。
  以下はこの土地の強制使用に対して、久保田さんが防衛施設局に提出した意見書だ。


 私の所有している伊江島・マジャ原の土地は、伊江村川平・阿波根昌鴻氏が所有される土地の一筆を贈与されたものであります。
 以下、基地使用のためには協力出来ない理由を申しのべます。

 このかけがえの無い土地のもつ、特筆すべき、一農民の心情と経過は公的には一九八五年九月二六日、「沖縄米軍基地強制使用裁決取り消し訴訟出張尋問」裁判での原告阿波根氏の本人尋問で明記されており、意見書では割愛いたしますが、今般特別措置法による土地使用作業を進められるに当たり、当局諸氏並びに日本政府関係者に是非、この裁判記録を御一読願いたいと切望するものであります。

 愛する自然豊かな伊江島の地に、「働きながら学ぶ農民学校」を作ろうと、遠大な目標を立て、稼ぎの大半を黙々と投入して土地を買い集められ、その面積は四万坪にも達しています。

 土地台帳の、苦労に苦労をして求められた筆数の多さを拝見すれば、氏の目標の実現への執念が明白に物語っています。

 防潮林を植え育て、設備の八〇%まで完成していた矢先、沖縄戦で全部焼かれ、戦争で敗れた後今度は米軍による銃剣とブルトーザーで完全に破壊され、取り上げられ、立ち入る事さえ出来ない。そこが氏の汗と希望のしみ込んだマジャ原の土地であります。

 私は他県に住み、この土地の所有に当り、一滴の汗も流しておりませんが、書物を通じて阿波根さんの人間性、思想、生きざまに引かれ、度々島を訪れ、沖縄戦の実相を学びつつひるむ事なく平和を創り出す仕事に自然体で立ち向かわれる氏と一緒に作業を手伝ううちに、或る時、「必ず平和の世が来る。土地も返って来る。この広々とした土地に、仕事で疲れた内地の仲間達が滞在して、ゆっくり心をいやせるような家を建てなさい」と、想像もしない命の基である土地の贈与の話をいただいたのでした。

 私利私欲とは無縁に生き、大切なかけがえのない一人息子を沖縄戦で殺されても屈する事なく、一〇〇年の生涯の大半をこの夢に託された偉業を、私たちは時間はかかっても実現すべき絆を有しています。そのためには「基地のない伊江島」を実現せねばならず、国の強制使用に協力する事は出来ません。

 去った二〇世紀は戦争に明け暮れた世紀でした。二一世紀こそ、人類が戦争という暴力から訣別して宗教、人種、文化等の違いを認め合い、信じあ合い、助け合って生きられるような未来であって欲しい。限られた地球上に生きる多くの人々の国境を超えた願望であり、悲願だと考えます。
 しかし今日の超大国アメリカの国家戦略は、日を追う毎に過激に危険になっていき、それに追随する日本政府の現状に私は異をとなえる者であります。

 圧倒的強力な軍事力行使によって、一時期軍事的制圧を得たとしても、何の罪とがもない弱い立場の人々が犠牲になり続けます。決して人間の望む平和の世は実現しない。

 私はテロ行為にも反対です。勿論、戦争と呼ぶ国家テロを許す事は出来ません。「暴力は次なる暴力を生む。」 人間社会の歴史の中で繰り返された事実を、今こそ学ぶべきです。

 日米安全保障条約、地位協定に従い土地を提供し、その土地から米軍が敵とした国に向かって、どこへでもただちに軍事行動が始まる。私達土地をもつ者も加害者の一味になるのです。

 伊江島に阿波根さんが作られた反戦平和資料館に「広島に原爆を落した国よりも、落させた国の責任は重い」とあります。

 私たちはあやまった戦争を教訓として、非軍事・平和国家を宣言した日本国憲法の理念を基本に生きぬく姿勢こそ、わが国の未来のあるべき方向であると私は信じるものです。

 沖縄の米軍基地を徐々に整理縮小してゆく事こそが急務であると考えます。
 以上の理由により、土地の提供に協力する事は出来ません。

    二〇〇二年二月四日
             久保田一郎
 那覇防衛施設局 御中