反戦地主の生き方に学ぶ
●知花昌一(ちばな しょういち):一九四八年生まれ、楚辺通信所内に約七〇坪の土地を所有。強制使用されているのは祖父の知花平次郎が一九四五年四月一日、上陸米軍に抵抗して撃ち殺されてその場に埋められた土地だと主張。読谷村チビチリガマの集団自決を調査、自決ではなく強制された死だったことを知って、戦争に使われる軍事基地に土地提供を拒否。読谷村議。
●真栄城玄徳(まえしろ げんとく):嘉手納飛行場に四筆の土地を所有(一九六二年に七九歳で亡くなった祖母から相続)。一九八七年の強制使用では公開審理で意見陳述の機会さえ不当にも奪われた。今回の強制使用で土地調書に添付されている実測平面図は、一九四八年の土地所有権申請書にもとづいて作成された図面と違っている、別の土地だと主張。沖教組中頭支部所属。くすぬち平和文化館々主。
●聞き手:I 関東ブロック運営委員。嘉手納共有者。沖縄と本土を振子のように往復。
◆ 今回の判決について
★知花
どういう表現をしていいかわからない。私に対しては一部勝訴ということだったけれど、あとはもう全面的に敗訴になっている。喜べる状況ではない。
私は「象の檻」三八九日間の不法占拠の問題と、収用委員会が裁決するまでの期間は無条件に暫定使用ができるとしたこと、しかも三八九日前の過去に遡って適用するとした改悪米軍用地特別措置法は違憲であるとして提訴したわけです。それに対して判決は、占有権原もないまま不法占拠したことについては裁判所も言い逃れをすることができなかった。だが「国家賠償法によって補償」せよと言っているだけです。従来の米軍用地特措法は土地収用法を準用しており、地主の抗弁権を保障し、事前補償が前提となっていたが、暫定使用の適否に関しては収用委員会が裁決できるから、地主の抗弁の機会がなくても違法ではない、使用の事後補償も適正である、とされた。遡及して適用したことに関してもそんなに触れていない。まったく残念な結果であり、当然控訴することになる。
★真栄城
知花さんのものなどは、国の過失について一応認めたというようなことを言ってはいるけれども、米軍用地収用特措法の違憲性については合憲といっていますよ。一九七〇年には反戦地主が公用地暫定使用法は違憲なんだと明示せよと訴えた。その法律が時限立法だったということで、法の有効期限が終わってその訴えは那覇地裁で取り下げられた。そして今度の裁判でも違法ではないんだということを言いきった訳です。個々の財産権は憲法で保障されているけれども、しかしその憲法で保障されている財産権も安保条約によってふみにじるという状況があるわけです。日本は憲法の上に安保条約がある。すべてアメリカの意のままに行われていることが明らかになった。収用委員会の権限もまったく剥奪されている。収用委員会がやるべきこともすべて剥奪していった経緯がある。そういうところにもって行く国の意図はなにかということをしっかり押さえなければいけない。私たちはずっと言ってきたけれども、米軍用地収用特措法の改正なんていうものは有事のための法制だと思う。そういう位置付けで私たちはずっと見てきた。国は防衛に関することにたてつく者は許さない、これに口は挟ませないぞという意図があるだろうと考えています。私たちは国との対決の接点におかれているのではないかと思います。
★知花
法律ができて遡及したことによって事前の権利が制限されることは違法であるけれども、法律ができてもその前に適用されたとしても、私たちの権原がそのままだったらいいという訳のわからない判決ですね。
座っている人に対して法律を作って、今座っているんだからこの法律を適用しても、この人は何の害も被らないからいいよというような形になっている。
◆ 四七九、六七一円。その金額では知花さんにたかってみんなで飲むわけにはいかないですね。
◆ 今回の判決では、特措法について憲法判断をしていますか。
★真栄城
違憲ではないということはいっている。憲法判断は最高裁にいくと思う。憲法の条項のみの判断というより、むしろ私たちが米軍用地収用特措法によって、どういう立場に置かれているのか、どういう被害を被っているのか、そういう具体的なものがわからないと、やっぱり何も見えてこないと思うんですね。そういうことにはまったく触れてない。米軍用地収用特措法そのものが憲法に抵触しないというようなことで片付けている。その中で暮らしている私たち、生きている沖縄の人たち、そこには言及していないですよね。これだけたくさんの基地をかかえ、安全の問題とか、日常的な生命の危険とか、そういうことを感じながら生きているわけです。そういうことを考えるときに、では沖縄の人たちは本当に安全で健康で文化的な生活状況の中で生かされているのか、ということがでてこない訳です。本当はそうではないのですから。たとえばひとつだけとってみても今回のテロ以降の風評被害とか言っていますが、風評ではなく、まったく事実なんだと誰もが知っていますよね。沖縄が危ないということで、たくさんの観光客が来なくなっているわけです。ああいう事態なんかは、いったい原因としては何なのかということをつきとめていくことが大事なんだけれど、この判決ではそういうことはまったく考えようとしていない。
★知花
立法府の法律を制定したものを追認する形で、言い方をひねくり回して判決を出しているという感じですね。
★真栄城
今の裁判官の限界というのが、弁護士のみなさんの見解ですね。
◆ 遡って適用したのは知花さんの件だけだと判決で言っているのでしょうか。
★知花
遡ってとかはいっていませんね。三八九日間は使用権原なしに占有したからお金を払うからね、それだけです。だから国家賠償するからと。遡及して適用することは違法であるということまでは言っていないですね。
◆ そういう意味では今日の前段集会の話でもありましたが、反戦地主会を結成して、日本に復帰していく中で、日本の法律との闘いというのはずっと続いてきたわけですよね。反戦地主として闘いつづけてきたお二人は今日の判決をどう感じましたか。
★知花
裁判は何回もやりながら、結局判決が出る前に強制使用期間が終わったため取り下げて、ちゃんとした判決は一回も出されることはなかった。今回が初めてですね。期待もありました。
★真栄城
今日どんな判決がでるのだろうということは、今朝は少し考えていたんです。今日の段階でこういう形であっさりとまとめられて結論としてでたということに、ちょっとむなしさを感じます。というのは憲法論議、安保条約との関係をまったく抜きにしているわけですよ。先ほどもちょっとでたんですが、憲法より安保を優先するという沖縄の実態について、これを無視したという感じがします。じゃあ、沖縄の土地に住んでいる一三〇万県民の、人権を含めて命や暮らしとかそういうものはいったいどうなるのか、ということを考えるんです。
★知花
私はマスコミの取材も受けて、自分の気持ちとしてもそうだけど、間違いなく私の件に関しては勝つという確信を持っていました。それは当然であるし、いかに司法が腐り切っていても、遡及して適用することに対して違法ではないという判決をだすなんてことはしないだろうと思っていました。そこまでやってしまうと法律家としての理性とか良心を含めて剥ぎ取られる状態ですよね。だからそこまではしないだろうという思いがあって、勝つという確信はありました。米軍用地収用特別措置法に関しては適正手続きとか国側は主張していますが、これに関してもこれまで憲法上の権利を剥奪しているから、その判断に関しては裁判所もこれを考慮する判決になるんじゃないかということを思っていました。けれど判決内容を見ると追認ということで、立法府でだされた法律を裁判官が違憲審査という権限を行使して、憲法判断まで踏み込んでやるようなことまでやりきれてない。むしろ追認する形で理由を探して認めていくということが行われています。司法の腐りきった状況が明示されています。私は反戦地主になってまだ六年くらいにしかならないから、反戦地主の闘いと苦しさ、そして何回裁判を起しても結論を得ることができなかった、その反戦地主の人たちの苦労を直接は体験していない。そういった意味では今回の判決は淡々と受け止めたという形です。結果的には僕の一部勝訴がふっとんでしまうようなひどい判決だと思っています。
◆ 裁判が終わったということで、これは控訴して続くとは思いますが、沖縄全体の反戦地主に対する支持の空気というのが以前と比べてどうでしょうか。県政が代わったり、労働組合が連合に走ってしまって、こういうことをあまり取り上げなくなってきたり、そういう状況の中であなた方ひとりひとりはどういうことにポイントを置いて、これから闘っていこうと考えていますか。大変難しい質問ですが、是非お聞かせください。
★真栄城
今までの形をずっと続けていく闘い以外ないんじゃないですか。謝花さんもおっしゃっていましたが、五六年間仮にも平和であり続けた、日本が戦場にならなかった、日本の若者が戦地に送られなかったということは、阿波根さんや有銘さんを含めた先輩たちの闘いがあったからだと思います。かろうじて憲法そのものも改悪を止めていたからだと思うんですね。だけど現在の状況を見ると今の中核になるべき世代が、それを食い止めるための作業をどの程度やっていくかがよく見えないのです。二〇世紀は戦争と破壊の世紀であったとよく言われる訳ですが、だけど私は必ずしも戦争と破壊だけの時代ではなかったと思います。新しい時代を作る、戦争に反対する勢力がいた。その部分も一生懸命闘った世紀だと思います。だけどその頃はそういう勢力が、戦争をする勢力に押しやられて行った結果だったと思うんです。今私たちもそういうしのぎ合いをしている時期だと思ったりします。今の大人たちが次の世代につなぐものが何なのか、それは平和だと思います。平和はすべての前提だと思います。文化にしても経済活動にしてもすべての前提が平和だと思います。それがなくなったらすべてがなくなるわけです。今までやってきたことを自分たちの立っているポジションでしっかりと作業を続けてきて、それを次の世代に繋げる、それが私たちの勤めだろうと、そう思います。だから何をポイントにと言われましたが、今までどおりをゆっくり緻密に、みんなと一緒に力を合わせてやっていくしかないんじゃないかと思っています。
★知花
反戦地主は法律があるからないからと、支援があるからないからと、そういう理由でやってきた訳ではなくて、自分の生き方として、戦争につながる米軍基地に自分たちの土地を提供しないということでやってきたわけですから、これからもそれを闘っていきます。日本政府がありとあらゆる手立てを尽くして私たちの土地を基地にがんじがらめにしていくという政策をやってきて、司法もそれを追認するような形としてあって、私たちの意のままにならないということは確かにあるけれども、しかしそれだからといって、はいそうですかと首(こうべ)をたれるということは一切ないし、これからも絶対にない。今までやってきたように淡々と、生活の中で、反戦ということを貫くということしかない。自分たちの行き方としてその意思を貫いていくということで、人とのつながりができて、盛り上がりもでてくるのではないか、と思っています。
★真栄城
私たち反戦地主は有効な手段があるわけですよ。国にたてつくひとつの武器を持っている訳です。土地という武器です。これをひとつの武器に据えて、国と対決しているわけですね。いろいろな闘いの方法があり、切り口があるわけです。自分の切り口をしっかりと持って挑むということ、それがとても大事なことだと思います。そういう人たちが縦じゃなくて横断的なつながりができたときに、闘いというものはもっと大きく広がっていくだろうと思います。負けませんよ。
★知花
負けるということは僕らが落胆し、反戦地主をやめることです。そうじゃない限り負けませんよ。
(本文敬称略、聞き手・テープおこしはI)
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