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第118号(2000年11月28日発行)

 【連載】 「思いやり予算」違憲訴訟・東京 (一〇)

      関西控訴審・東京一審とも原告敗訴

 関西の高裁判決(九月二八日)につづき、東京の一審判決(一一月一七日)も原告敗訴となった。一三日に代理人に連絡、四日後に判決言渡しとは、あまりにも唐突な幕切れ。よほど判決に自信がなかったものと見える。訴訟事務局による集会の設定はおろか、原告全員への連絡もままならず、裁判官の思惑通り(?)傍聴者は三〇名ほど。しかも、言渡しは主文を読むだけの一瞬で終了したため、遅れてきた人々は判決には立ち会えなかった。被告側代理人は姿も見せず。何とも日本の司法を象徴する判決言渡しであった。

 判決文六〇頁余のうち約半分は原告のリスト、さらに、原告・被告双方の主張部分が残りのほとんどを占め、裁判官の判断部分はわずか三頁(以下に掲載)。その内容たるや、原告の主張に対して何ら具体的に応えることなく、「憲法前文、九条及び一三条によって……平和的生存権が法的に保護された個別具体的な権利ないし利益として保障されていると解することはできず」、さらに「憲法及び法令によって……納税者基本権が法的に保護された具体的な権利ないし利益として保障されていると解することはできない」と、従来の判決をただ踏襲したもの。大阪高裁の判決もひどいものだったが、今回はそれに輪を掛けて読み応えのない内容だ。傍聴者の一人が、「憲法って軽いんだね」とつぶやいたが、まさに三人の裁判官にとって、憲法、特に前文は全くのお飾りなのだろう。

 毎日新聞は、「吉戒修一裁判長は、思いやり予算と呼ばれる駐留経費の負担を適法と判断した」と報じたが、判決では、「原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却する」とし、原告側が具体的事実で指摘した駐留経費負担の違憲性については全く判断をしていない。「憲法上、個々の国民は、国費の支出の在り方や当否については、その有する選挙権の行使ないしその他の政治的活動を通じて関与していくことが予定されている」から、裁判所に訴えてもむだだという。これでは、議会で過半数を占めたら、どんな不法な支出も可能になる。裁判官は自らの存在を否定したことに気づいていないのか。

 この判決に合わせるように、(いや、判決が合わせた?)、米軍駐留経費に関する新たな特別協定が一七日、参院本会議で与党三党や民主党、自由党などの賛成多数で可決、承認された。反対は、共産党と社民党。日米合同委員会では横田基地の滑走路補修のために日本側が四九億円の支出に合意し(時事・一一月一七日)、「思いやり予算」で建設された横田基地内米軍住宅の空き室を民間人に賃貸する計画も有るという(星条旗新聞・一一月二五日)。なんと嘗められていることか。ふがいない裁判官の存在が、この状況に一役買っていることは紛れもない事実だ。判決後の報告会では、当然ながら納得できないという意見が続出し、控訴することに決定。第二幕が始まる。今後ともご支援よろしくお願いします。 
     (M) 


平成一二年一一月一七日 判決言渡し

平成一〇年(ワ)第五三八八号損害賠償請求事件(以下、「甲事件」という。)、同年(ワ)第一○九一九号損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)

平成一二年七月二八日口頭弁論終結

判       決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主       文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事 実 及 び 理 由
(中略)
 五 争点
1     原告らが侵害されたと主張する平和的生存権及び納税者基本権が損害賠償により法的保護を与えられるべき権利ないし利益であるといえるか否か。
2     本件予算の作成、議決及び執行が国家賠償法一条一項の適用上違法となるかどうか。
3     本件予算の作成、議決及び執行が違憲違法であるか否か。

第三 争点に対する判断
 一 争点1について
1 平和的生存権について
 原告らは、憲法前文、九条及び一三条が国民に対して平和的生存権を保障しているところ、被告による本件予算の作成、議決及び執行により原告らの右権利が侵害された旨主張するので、以下、検討する。
 まず、憲法前文は、その第二段において、全世界の国民が「平和のうちに生存する権利」を有することを確認する旨規定しているが、そもそも憲法前文は、我が国の憲法の理念、基本原則等を宣言したものであり、そこから直ちに法的効果や法的拘束力が生じるものではなく、憲法本文の各条項の解釈の指針、基準を示すに止まるものと解するのが相当である。したがって、憲法前文から、原告らの主張する個々の国民が有する個別具体的な実定法上の権利としての平和的生存権を導き出すことはできない。
 次に、憲法九条は、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使を放棄し、戦力を保持せず、国の交戦権を認めない旨規定しているが、右規定の文言から明らかなように、同条は、戦争等の放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認について国民及び国を拘束する規定であるというべきであり、これを国民の権利を保障する規定であると解することはできない。したがって、憲法九条から、原告らの主張する前記の平和的生存権を根拠付けることはできない。
 また、憲法一三条に原告らの主張する平和的生存権の根拠を求めるとしても、同条は、個人の尊厳といわゆる幸福追求権を宣言したに止まり、また、その規定上、平和的生存権に関する文言も存しないから、同条から原告らの主張する個別具体的な実定法上の平和的生存権を導き出すことはできない。
 したがって、憲法前文、九条及び一三条によって原告らの主張する平和的生存権が法的に保護された個別具体的な権利ないし利益として保障されていると解することはできず、他に、憲法及び法令上、右の平和的生存権を保障していると解することができる規定は見当たらない。
 2 納税者基本権について
 また、原告らは、憲法により保障された原告らの納税者基本権が被告による本件予算の作成、議決及び執行により侵害された旨主張するので、以下、検討する。
 憲法八三条は、国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを公使しなければならないとして、財政国会中心主義の原則を規定し、憲法八四条は、租税の新設及び変更は、法律によることを必要とする租税法律主義の原則を規定し、憲法八五条は、国費を支出するには国会の議決に基づくことを必要とするとして、憲法八三条の財政国会中心主義の原則を支出面において具体化することを規定し、憲法九八条一項は、憲法の最高法規性を規定し、さらに、憲法九九条は、公務員の憲法尊重擁護義務を規定しており、これらの規定からすれば、租税の賦課徴収及び国費の支出は、憲法及び法令に適合していなければならないということができる。
 しかしながら、そのことから、原告らの主張する、個々の国民において、その納めた租税が国及びその機関により憲法及び法令に適合する正当な目的のために相当な対象について妥当な額が支出されるべきことを被告(国)に対して要求する権利が認められると解することはできない。
 すなわち、前記のとおり、憲法は、国費を支出するには国会の議決に基づくことを必要とすることにより、国費の支出に関する民主的統制は、国民の代表者で構成される国会を通じてこれを行うべきであるという間接民主主義の制度を採用しているところである。したがって、憲法上、個々の国民は、国費の支出の在り方や当否については、その有する選挙権の行使ないしその他の政治的活動を通じて関与していくことが予定されているというべきであり、憲法は、国費の支出を伴う国のすべての施策について、個々の国民が納税者たる資格に基づいて直接にその是正を求めることができるような直接民主主義的な制度ないし権利を予定し、これを保障しているものと解することはできない。そして、他に、個々の国民に対し右のような具体的権利ないし利益を付与する旨の法令も存在しない。
 したがって、憲法及び法令によって原告らの主張する国民の納税者基本権が法的に保護された具体的な権利ないし利益として保障されていると解することはできない。
 3 そうすると、原告らが被告による本件予算の作成、議決及び執行により侵害されたと主張する平和的生存権及び納税者基木権は、いずれも損害賠償により法的保護を与えられるべき権利ないし利益であるということはできない。
 二 以上によれば、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

 東京地方裁判所民事第三八部

    裁判長裁判官    吉戒修一
     裁判官    伊藤 繁
     裁判官    園部直子