意 見 書
沖縄県収用委員会 御中
2000年10月25日
沖縄県中頭郡読谷村字波平174番地
被収用者(地権者) 知 花 昌 一
沖縄県浦添市城間2丁目4番17号
被収用者(地権者) 古波藏 豊
上記地権者らは、那覇防衛施設局平成12年9月6日付申請の「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」(以下、「米軍用地収用特措法」という)に基づく裁決申請事件について、土地収用法第43条に基づき次のとおり意見を述べる。
第一 (本案の主張を始めるにあたって)貴収用委員会の役割と使命について
一 収用委員会は、「公共の利益の増進と私有財産との調整を図る」(土地収用法第1条)ことを基本的任務とするものであり、そのための各種の権限を行使するものであるが、このような収用委員会の任務と権限は準司法的なものであり、委員会は独立してその職権を行わなければならない(同法第51条2項)。すなわち起業者、被収用者いずれの立場にも偏ったものであってはならないことは勿論のこと、第三者からの不当な干渉、影響を受けてはならず、国の意向や時々の政治状況に左右されることがあってはならない。
すでに貴収用委員会は、1996年3月29日申請、同年6月6日受理の裁決申請事件及び明渡裁決申請事件のいわゆる地籍不明土地に関し、起業者の立場に偏することなく、公平・中立の立場に立った審理を行い、1998年10月19日、那覇防衛施設局長の申請を却下する極めて正当な判断を下している。私たちもこれを高く評価するものである。
二 収用委員会は起業者の主張のみを偏重してはならず、土地所有者の主張にも十分耳を傾けなければならない。
具体的には、
1 土地所有者及び代理人が公開の場において意見陳述する機会(同法第63条1項)を十分に与えること
2 土地所有者から申請のある参考人、鑑定人については積極的にこれを採用し、審問すると同時に土地所有者及びその代理人からの審問の機会をも十分に与えること(同法第63条4項、第65条1項)
3 本件で使用裁決されようとしている米軍基地の利用状況がどうなっているのか、どの土地がどのような利用のされ方をしているのか、実際に調査し(同法第65条1項)、必要な情報を起業者側に求めること等である。改めて強調するものであるが、右のような審理に関する権限は、貴委員会が専権的に有し、かつ行使をなすべきものであって、他のいかなる権力からも不当な干渉を受けるものであってはならないのである。
貴委員会がその独立性・中立性を最後まで維持され、公平・妥当な判断をされることを心より願うものである。
第二 本件裁決申請は、以下に述べる点から却下されなければならない。
本件裁決申請は、2000年6月27日、総理府布告第35号及び36号をもってなされた土地の使用認定に基づくものである。
収用委員会は、使用認定を前提としつつも、使用認定に「明白かつ重大な瑕疵」が存する場合には、使用認定の拘束力を否定することができるものと解されるものであり(小澤道一著・逐条解説土地収用法改訂版(上)534ページ以下)、少なくともこのような瑕疵が存在するか否かについては審査権を有しているのである。
そして、本件での使用認定は次に述べるとおり憲法に違反するものであり、同認定には土地利用に関する適法性、合理性を著しく欠くものとして「明白かつ重大な瑕疵」が存するのである。
一 本件使用認定の憲法違反性
1 沖縄を含むわが国内への米軍の駐留は、憲法第9条の厳禁する陸海空軍その他の戦力の保持に当たるものである。従って、米軍の駐留を許した日米安全保障条約及び地位協定は、この意味において憲法違反であり、その実施を目的とする米軍用地収用特措法も憲法に違反する。よって、米軍に供するための本件各土地の使用認定は憲法の前文及び第9条に違反する。
2 憲法第29条は、土地所有権等の不可侵性を保障し、正当な補償のもとに、公共のために用いる場合にのみ、その権利の制限を許している。米軍のために土地等の財産を強制使用することは、「公共のために用いる」場合に当たらない。従って、米軍の用に土地を提供することを目的とする米軍用地収用特措法は、憲法第29条1項及び3項に違反した無効なものであり、同法を適用してなした本件各土地の使用認定は違憲である。
3 米軍用地収用特措法は、権利保護の手続が不十分であり、適正手続を保障した憲法第31条に違反する。とりわけ、1997年4月23日に改訂されかつその後地方分権推進法をもって再改訂されたいわゆる「改訂特措法」は、収用委員会の裁決を経ることなく内閣総理大臣の使用認定、裁決申請、担保提供等の一方的行為がなされれば、地権者に事前の告知・聴聞の機会を与えることなく強制使用が可能となり、またこれに対し、その適法性を争う手段も全く欠いたものであり、現在の強制収用法制の枠組みをはるかに越えたものであり、その違憲性は明白である。
二 「適正且つ合理的」の要件の不存在
米軍用地収用特措法第3条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが、適正且つ合理的であるときは、この法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用することができる」と定め、米軍用地収用特措法による収用のためには、「駐留軍の用に供するための土地等を必要とする場合」のほかに、「当該土地を米軍用地として供することが適正且つ合理的」な場合でなければならないと明記している。すなわち、米軍用地収用特措法による土地の使用認定(強制使用)は、第一に「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする」との要件と、第二に「土地等を駐留軍の用に供することが、適正且つ合理的であるとき」との要件が必要とされている。
従って、ここでいう「適正且つ合理的」という要件が、単なる「基地の必要性」「安保条約に基づく基地提供義務」と同義語でないことは明らかである。本件使用認定は、日米安保条約上「基地の必要性」があり、「基地提供義務」があるから、即「適正且つ合理的」の要件が備わっているとの立場でなされたものであるが、これは前述のとおり憲法第29条及び31条に違反するだけに止まらず、米軍用地収用特措法が定める「適正且つ合理的」の要件をも欠く違法なものである。
三 沖縄の「土地強奪」の歴史と半世紀を越える「長期使用」の違法性
1 本件各土地を含む沖縄の軍用地は、文字通り「銃剣とブルドーザー」による強奪によって、地主から取り上げられた土地である。
沖縄における広大な軍用地は、その大半が米軍の軍事占領によって強奪されたものであるが、講和条約が発効した後においても、土地接収は強行されている。ここにおける共通の特徴は、米軍武装兵による実力行使という点であった。1953年4月3日の当時真和志村銘苅・安謝の接収、同年12月5日の小禄具志部落の接収、1955年3月13日の伊江村真謝部落の接収、同年3月11日及び7月19日の伊佐浜部落の接収等は、いずれも銃剣と完全武装した米軍によって強行されたものである。
これらの土地強奪は、法的根拠を伴わない違法なものであった。1972年の沖縄復帰後もこのような国際法上も違法な土地の強奪によって奪い取られた土地は住民に返されず、同年の公用地暫定使用法、1977年の地籍明確化法によって強行的な使用は継続された。
2 1982年からは、事実上「死法」と化していた駐留軍用地特別措置法による強制使用がなされたが、それは、これ以前の米軍による違法な強奪を形式的には別の法律で継続させたものである。
そして、その後の1982年からの第一回強制使用裁決、1987年からの第二回強制使用裁決によって、実に、沖縄戦の強奪時から数えると50年以上(半世紀)も、「強制使用」が継続されている。これは、通常の「強制使用」が前提とする一定の区切られた期間の使用ではなく、極めて異常なものである。
今回の強制使用手続は、右強制使用がようやく終える2001年4月以降も、再び土地を強制的に使用し続けようとするものであり、その期間の異常な長さは、もはや土地所有権を完全に奪うにも等しいものと言わざるを得ない。そして右に述べた土地「強奪」の歴史をもあわせ考慮するならば、本件での使用認定は憲法第29条3項に違反し、かつ駐留軍特措法の適正かつ合理的な利用の要件に、明白かつ重大に違反する違法がある。
四 強制使用の必要性の不存在
地主の意に反して、半世紀を越える異常な長期間の「強制使用」である以上、本件土地を米軍用地として提供すべき必要性は、極めて高度なものでなければならないが、本件各土地にはその必要性がない。
第三 違法な手続
土地収用法第47条本文によれば、「その他この法律の規定に違反するときは収用委員会は、裁決をもって申請を却下しなければならない」ところ、本件裁決申請書には以下の違法がある。
一 本件物件調書は、土地収用法第37条所定の土地所有者等の立会いがなく、その署名押印なき無効な調書である(内閣総理大臣の代理署名押印にも瑕疵がある)。
二 本件裁決申請書添付の土地調書及び物件調書、同調書添付の各図面は、本件使用認定の告示前に作成されたものであり、告示後における土地調書及び物件調書の作成を義務づけた土地収用法第36条、同第37条に違反する違法な調書、図面である(添付図面には作成日付の記入のないものもある)。
三 右調書及び図面の記載内容は現状及び土地の位置境界、面積形状等が真実の権利関係を反映しない不正確なものである。
四 内閣総理大臣のなした裁決申請書等の公告縦覧手続には違法がある。
第四 本件各土地についての「必要性」「適正且つ合理的」の要件の不存在
一 沖縄県中頭郡読谷村字波平前原567番の土地について
1 同土地は、被収用者知花昌一の父知花昌助の所有であったが、1994年6月1日、被収用者知花昌一が贈与を受け、その所有権を取得したものである。
2 同土地は、米海軍安全保障グループ(NSGA)の管理する「楚辺通信所」の施設用地の一部として、航空機、船舶及びその他の軍事通信の傍受施設として使用され、通信の傍受、コンピューター分析を任務としていたが、日米特別行動委員会(SACO)で、2000年を目処に返還する合意がなされた。これに伴い、1997年4月23日付の米国海軍省、海軍作戦本部長名で、同施設における通信保全群活動を廃止する旨の決定がなされ、同年9月10日、同施設において右安全保障グループの解任式が行われている。右解任式以降は、同施設は米民間会社に運営が委託され、施設本来の任務は殆ど果たしていない。
3 同土地については、1996年3月29日付で那覇防衛施設局長から権利取得裁決申請及び明渡裁決の申立てがなされ、1998年10月19日、沖縄県収用委員会はこれを認める裁決をなしている。右裁決によると、権利取得の時期は1998年9月3日とされ、土地の使用期間は2001年3月31日までとなっている。右裁決において、使用の期間が2001年3月31日までとされたのは、起業者自身が、使用の期間を権利取得の日から10年間とした当初の裁決申請を、日米特別行動委員会(SACO)の2000年返還の合意を受けて、わざわざ2001年3月31日までと変更したものであった。
4 以上の経過からみても、同土地に対する本件使用の認定は、米軍基地として使用する必要性も、適正且つ合理性もないものであり、米軍用地収用特措法第3条の要件を欠く違法な処分であることは明らかである。
二 沖縄県浦添市字城間西空寿1556番1の土地について
1 同土地は、稲福静の所有であったところ、1988年2月8日、被収用者古波藏豊が売買によりこれを取得した土地である。
2 同土地の存する牧港補給地区は、キャンプ・キンザーとも呼ばれ、浦添市の西部、国道58号線と東シナ海に挟まれた細長い平地で、施設の面積は約275万平方メートルといわれている。
3 同施設には、第3海兵遠征軍の三本柱の一つ、第3軍役務支援軍の殆どの部隊、約2000人が駐留し、海兵隊の補給整備、医療などの任務を果たしている。
4 第3軍役務支援軍は、海兵隊の戦闘員に分類されており、前線における戦闘支援を本来の任務としている。安保条約第6条は、「・・・アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することが許される」と規定しており、土地等を使用する主体は、あくまでも「陸軍」、「空軍」、「海軍」の三軍に限定されているのであるから、右「三軍」に該当しない「海兵隊」の使用のための強制使用は、「必要性」の要件を充足しない。
5 米軍用地収用特措法の目的は、その第1条において「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定を実施するため、日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊(以下、「駐留軍」という)の用に供する土地等の使用又は収用に関し」と定められており、同条に掲げられている地位協定は、その第2条において「合衆国は相互協力及び安全保障条約第6条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される」と定めている。そして、安保条約第6条は、駐留軍の駐留目的が「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことにあることを明らかにしている。
このように、駐留目的が「日本国の安全に寄与し」、「極東における国際の平和及び安全に寄与する」ものと限定されていることから、日本国及び極東以外の国際の平和及び安全に寄与するために使用される施設は、右駐留目的を逸脱するものである。
ところが、牧港補給地区の施設区域を含め在沖米軍基地は、太平洋、インド洋は無論のこと、中東に関する戦時の拠点ともなっており、もはや安保条約第6条の極東条項を超えて使用されていることは明らかであり、従ってかかる目的のために同土地を強制使用することは、必要性、適正且つ合理的要件を欠き、許されない。
第五 結論
以上述べたとおり、本件裁決申請は、その前提となる使用認定処分が憲法に違反するものであり、且つ「必要性」、「適正且つ合理的」の要件を欠く違法なものであり、またその手続においても違法なものであるから、直ちに却下されるべきである。