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第108号(2000年1月28日発行) |
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「思いやり予算」違憲訴訟・東京 (六) 本号では、「思いやり予算」に関する最近の動きと、昨年末(十二月十四日)に開かれた第九回口頭弁論の報告をする。危惧していたY2Kがらみの大規模原発事故なども起こらず二〇〇〇年が明けたが、年始早々、瓦防衛庁長官は渡米し、周辺事態法施行後初めての日米防衛首脳会談でコーエン国防長官と安保体制の強化を確認し合った。報道によると、会談では「思いやり予算」の減額も話題になったようだ。 新聞報道を読むと、「思いやり予算」については一般に誤解があることがわかる。ここでもう一度、在日米軍駐留経費の日本側負担と「思いやり予算」との関係をはっきりさせておく必要があるだろう。この点は第九回口頭弁論で原告側が提出した反論の重要部分でもある。以下、主要三紙から関連記事の一部を引用する(注1、下線筆者)。 読売新聞(一九九九年十二月三十日)/在日米軍経費思いやり予算、協定見直しに着手へ
毎日新聞(二〇〇〇年一月四日)/「思いやり予算」新協定交渉開始へ
朝日新聞(二〇〇〇年一月六日)/思いやり予算を削減の意向/瓦防衛庁長官が米側に表明
つまり、三紙ともに在日米軍駐留経費の日本側負担そのものが「思いやり予算」とも読める表現を使っている。しかし、後述のように在日米軍駐留経費の日本側負担はいわゆる「思いやり予算」の二倍半にものぼっているのだ。 「思いやり予算」違憲訴訟と呼ばれている本件は、実際には、在日米軍駐留経費の日本側負担全体を問題にしている。在日米軍の駐留を支える経費の日本側負担によって、憲法上有している主権者たる地位や平和的生存権及び租税負担者の基本的権利から生ずる法益が侵害されていることに対する損害賠償請求訴訟である。「思いやり予算」は、在日米軍駐留経費のうち日米地位協定によって本来米軍側負担であるべき経費を日本側が負担している部分をさす。地位協定は日本が在日米軍に施設と区域を提供することを定めているが、その他の経費は米側が負担することになっているからである。よく知られているように、何ら根拠となる条約や法律もなかったこの支出を金丸信防衛庁長官(当時=一九七八年)が「思いやりが根拠」と説明したことからこう呼ばれるようになった(注2)。 米軍への支出そのものが憲法に違反し、その中でも地位協定に規定のない「思いやり予算」の支出を特に問題としているわけである。 表1に在日米軍駐留経費の日本側負担の内訳を示す。この表から、『毎日』の記事にいう負担総額(四六三〇億円)は、防衛施設庁分のみであることがわかる。被告・国は昨年一〇月十九日提出の準備書面(一)で、原告らの主張している在日米軍維持費には「実際に支出されていない提供普通財産の借上げ料試算分を含んだものであり、これを除く平成一〇年度の支出は約四七四九億円にすぎない」と反論しており、『毎日』は国の解釈そのままであることがわかる。われわれ原告側は、第九回口頭弁論に提出した準備書面(注3)で、財政法などを根拠に反論を加えるとともに、在日米軍維経費に「提供普通財産の借上げ料試算分」を含めた多数の文献があることを記した。その中には、金丸信の著作(注2)や米国防総省の議会報告(注4)なども含まれる。『毎日』の記事にある「駐留経費の四分の三にあたり、金額、負担割合ともに米国の同盟国の中でトップだ 」はこの米議会報告をもとにしたものだと思われるが、米議会報告では予算に計上されない「間接費用」(つまり提供普通財産の借上げ料試算分など)も負担総額に含めている。この記事は日本政府のいう負担総額と米議会報告にある負担総額とを混同していると思われる。
さらに問題なのは、施設整備費が地位協定に基づく負担だとする『朝日』の記事である。これは、被告・国側の主張に沿った解釈ではあるが、われわれはこれに対しても準備書面において次のように反論した(準備書面から一部引用)。 日米地位協定は、第二条において「施設・区域の提供と返還」を、第三条において「施設・区域に関する合衆国の権利と義務」を、第二十四条において「経費の負担」について、それぞれ規定している(注5)。日米地位協定第二条条一項(a)には、「[施設及び区域]には、当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む」と書かれている。「現存の」設備、備品及び定着物が含まれるのである。対応する英文(注6)が「existing」を使っていることから、「すでに存在する」つまり「既存の」と解釈する以外にない。「施設・区域を使用する時点で存在する」(政府見解、注7)などという恣意的な解釈をする余地は、この日英両文を読む限り、全くない。その解釈では、「現存の(existing)」とあえて限定を加える意味がないことになる。地位協定第二十四条二項によって、「日本国は、第二条及び第三条に定めるすべての施設及び区域並びに路線権をこの協定の存続期間中合衆国に負担をかけないで提供」する事になるが、施設及び区域に含まれるものは現存(既存)の設備等だけであるから、移設費用を、ましてや新設費用を日本側が負担することは地位協定の規定に反する行為である。 準備書面では、この解釈を補完するさまざまな資料を挙げてある。ぜひ原文をお読みいただきたい。 労務費や水光熱費の一〇〇%負担や「訓練移転費」の負担などを盛り込んだ現行の特別協定は二〇〇〇年度に期限切れとなる。その改定交渉が始まったわけであるが、「瓦長官が日本側の財政事情の悪化を理由に負担削減を求めたのに対し、コーエン長官は、米議会に米軍の日本駐留を説得する材料としての高負担の維持を要請し」(『読売』一月九日、傍点筆者)、「米側はさらに部隊・装備の維持費や修理費の一部負担を求める構えを見せており、交渉では「思いやり予算」額が増えなくても米軍がある程度、使途を自由にできる「柔軟性」の確保を目指す」(『毎日』一月四日)と伝えられている。 二〇〇〇年度の予算案では、防衛庁の概算要求にある「思いやり予算」が大蔵省によって初めて削られ、一九九九年度より二・八%(七五億円)減の二六〇三億円(契約ベース)とすることで決着した。しかし、これは一部を先送りにしたにすぎず、しかも、SACO関係経費は一四〇億円であり前年度より一九億円増加している(表2に日本側負担の推移を示した。金額は歳出ベースであり、契約ベースとは若干異なる)。さらに、この予算案には、普天間飛行場移設関連の費用(北部振興費として十年で一〇〇〇億円、建設費一兆円、年間維持費二〇〇億円ともいわれる)は盛り込まれていないことに注意しなくてはならない。
コーエンが言うように、日本の負担は「米議会に米軍の日本駐留を説得する材料」である。言い換えるならば、日本の負担がなければ米議会に対して米軍の日本駐留を説得できないということになる。 さて、裁判の進行であるが、第九回口頭弁論においても、被告・国側は結審を執拗に求めたが、裁判長は「事実関係を争いのない形にしたい」として、被告に原告側反論に対する再反論を求めた。被告は時間がかかることを理由に再反論を望まなかったが、結局、二月末までに再反論を提出することになった。原告側は被告の反論を待って、証人の陳述書を用意する。次回は三月二十一日午後一時から、東京地裁第七一三号法廷にて。名護への新たな基地建設を阻止するためにも、米軍への支出を絶つ必要がある。ぜひ傍聴を!
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