伊江島だより
1999年1月
一月九日 受賞祝い
高岩さん(映画「教えられなかった戦争」を作った監督)の呼びかけに応じて、ヌチドゥタカラの家の資料整理の手伝いに、伊江島にやってきた。
"仕事は明日から、まずは夕飯"というところへ、前記映画が『キネマ旬報』の一九九八年度ベストテン・文化映画部門で、第一位に選ばれたというファックスが入る。居合わせた四人(高岩さ・松山住反戦主の久田さん・今日ま資料整をされいた厚木の山田さん・そして私)「おめでとうございます」とまずは乾杯。「それにしてもどうして選ばれたんだろう?」「阿波根さんの活動に対する評価じゃないかな?」「映画評論家の方々、今の世の世の中の動きにかなり危機感を抱いて、警鐘として選んだのでは?」「これをテコに、さらに上映運動を拡げなくちゃ」等々。
到着第一夜が、監督の手料理で、監督作品受賞祝いになるとは!
一月七日 阿波根さん、元気
阿波根さん保存の資料蟹理を始める。四〜五〇年分が、山と積まれている。仕事は、とりあえず、それらの目録作りだ。
夕方、隣家・やすらぎの家の謝花さんが帰島される。五日に那覇の病院へ入院された阿波根さんを送って行かれたのだ。症状が重いということではないが陽気も寒く、高齢でもあられるので、胆石の発作が起きた時のことを考えて再入院されたとか。現在視力は落ちているが、聴力は回復し、元気でおられるとのこと。
一月八日 資料室は宝の山
資料室に保存されているのは、主として伊江島土地を守る会の闘いに関わる謄写版刷りの抗議文・陳情書・様々な集会での報告の原稿、日記・手紙、送られてきた機関紙等々、年月をへて変色した更紙等もあるが、中身は生々しい。それらの中から阿波根さん手書きの"生い立ちの記"が出てきた。「読みたい!」と思うがあきらめる。
こうして資料の山に埋まっていると「お酒をやめて、もう少し世の中のことを勉強しなさい」という声が、どこからか闇に聞こえてくるような気がする。お会いした時の阿波根さんは、決してそんなことはおっしゃらないのだが……。
一月九日 垣根を抜けて
目の疲れ休めに、一時間おきぐらいに垣根のほころびを抜けて海岸へ出る。
謝花さんの話では、昔、この海では魚も貝もウニも海藻もイーッパイ採れたが、今は、必要以上の護岸工事や、葉煙草や菊栽培等に使われる農薬の影響が海にも及んでいるのか、収穫は非常に減っているそうだ。
一月一〇日 基地は自然保護?
「今日は日曜で演習は休みだから、基地へ入って阿波根さんの土地から百合の球根を掘ってこよう」と、高岩さんの運転で基地へ向かう。基地の入ロ前に、立看板がある。「演習中立入禁止」と書かれていて、ガードマンらしき男性が出てくる。訳を話したが、「自然保護のため、地元の方の草刈り以外は樹木や球根の持ち出しは禁止されています」と言う。
日曜日に演習=出撃準備? それにしては静か! 伊江島の人たちが、営々と耕してきた農地を焼き払い、あるいは枯葉剤を撒くなどしてきた米軍が自然保護?
帰路、城山に「展望施設」ができたというので寄ってみる。いままでは中段まで登れば西の方もよく見えたのに、馬鹿デカイ建造物がそれを遮っている。
事業名:沖縄米軍基地所在市町村活牲化特別事業(伊江島マリンタウン整備事業)
総事業費:二億七三一○万六千円
国庫(防衛庁)二億四五七九万四千円
簡保融資二七三一万二千円
一月一一日 各地の闘いを結んで
阿波根さんが直接関わった闘い記録の他に、「和音」「陽西」「一羽のつばめ」「良心的軍事費拒否の会」「世界宗教者平和会議」「北富士」「三里塚」「恵庭」等々、各地の様々な運動とのかかわりを裏づける資料が次々と出て来る。高岩さんは、それらの資料を整理して活用するために、反戦資料館の改装と反戦平和的な映画を見られる映写室を作ろうと謝花さん・久保田さんと相談を進めている。年に何回か、合宿で平和学習会をやろうという構想もある。海の良く見える所に、三〇人位はゆっくり泊まれる施設があって、部屋も布団も今は眠っている。
一月一二日 もう一つの夢
仕事は終らないのだが、明日は帰らねばならない。別れの宴で、泡盛が少し余計に入った。その酔いが謝花さんにも移ったのか、楽しい夢を語ってくれた。
「基地をなくして、鶏や山羊を放し飼いにするの。放し飼いで、どこに産んだかわからない玉子を子供たちに探してもらうの。もちろん持ち帰りは自由。何年か前に、やすらぎの家の畑で試みたことがあったけど、子どもたちの目の輝き、すばらしかった」等々。
一月一三日 伊江島を眺める
往路は那覇の泊港から高速船マーリンで本部経由で一時間三〇分。帰路はいつものとおり鈍行バスにし、地図を片手に西海岸を走る。北の海は、手前からエメラルド・グリーン・白い波・紺碧と塗り分けられ、その向こうのタッチュー(伊江島の城山)が一時間余も見え隠れしながら見送ってくれた。
いつもは空っぽの那覇軍港に、迷彩をほどこした輸送車が並んでいたのが気になった。
(O)
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