地質調査・海象調査の作業計画および同参考資料(写真集を含む)に対するコメント
土 屋  誠 (琉球大学理学部)

 以下に4項目(1. 2. 3. 4)の記述をしましたが、今回の依頼に直接関わるのは、1と2です。3と4は参考までにお読み下さい。

1. 一般的コメント
 本計画は、「目的」の項に明確に示されているように普天間飛行場代替施設の建設に伴う検討である。代替施設は埋め立て工法によって行うこととされ、かつ建設場所が複雑な地形であるとされていることから、本計画は設計に先立って諸情報を得るために行うもの解釈できる。

 従って、このコメントはボーリング調査の後、引き続いて行われるであろう代替施設建設に関する諸手続き、およびその工事の環境に対する影響を気にしながらのコメントも含まれることになり、単にボーリング調査のみに関するコメントとはなり得ないことをご了解いただきたい。

 全般的に環境に対する配慮、工夫がされた計画であると言える。しかしながら幾つかの点で情報が不十分であったり、より慎重に考えるべき点があると思われるので以下に示す。

 本計画は、対象水域に広がるサンゴ礁のうち、礁池、礁原、礁縁、礁斜面を広範囲に含んでいる。写真集をみると、以前は良好なサンゴ群集が発達していたと考えられる地点が多いことが明白である。写真から判断する限り、63カ所のうち、半数は、以前(おそらく1998年の白化が起こる前)サンゴが高被度で生息していたと判断できる。白化による攪乱が大きかったので、現在は生存している群体は少ないかも知れないが、これらの場所は潜在的には良好なサンゴ礁と判断すべきである。すなわち長期間必要ではあろうが、美しいサンゴ礁の回復の可能性が十分にあるところが対象になっていることに注意すべきである。

 また写真からのみの判断ではあるが、これだけの広範囲の調査にもかかわらずサンゴが少ないという印象を受けた(他の水域では、攪乱を受け、サンゴが少なくなったと言っても、もう少し多く生息している)。また海藻・草類以外の生物も少ないように思われる。これが1998年以降繰り返し起こっている白化現象の影響であるとすれば、本水域のサンゴ礁生物たちは環境変動あるいは人為的撹乱に対して極めて敏感であること、ひとたび大きな撹乱を受けた場合、回復にはかなり長期間を要する脆弱なサンゴ礁であるという特徴を有する可能性がある点に十分に配慮すべきである。


2. 具体的コメント
 【2ベージ】
1)地質調査地点
 63カ所の調査地点の設定にあたっては、専門家の助言も得て「必要最小限とすべく検討した」と記述されている。また、参考資料には「護岸構造決定に最低限必要な調査の精度を確保」と示されているが、いずれも根拠は示されていない。どのような根拠で「63」という数字を決めたのかについて説明していただくとよい。
 
2)海象調査(5ページとも関連)
 どのような理由でこれらの場所を調査箇所として選定したか示していただくと理解が深まる。
 
 【3ページ】
 63カ所のボーリング調査を「水深等に応じた4つの調査区域」に分けたことが示されているが、「水深等」の「等」とは何を含んでいるか不明確。
 
 【4ベージ】
 足場の設置に関しては詳細に述べられているが、この工事をするためにその周囲にどのような影響が出るか、又は出ないか、について言及し、出ると予測される場合にはさらにその範囲について示すことが必要。
 
 【5ベージ】
 海外調査についての場所、機器について示されているが、調査時期については示されていない。波浪の影響は、風向、季節、台風など多様な要困に影響を受けるので、年間を通した状況が把握できるよう工夫されたい。
 
 【6ページ関係(特にサンゴ礁生物について)】
 サンゴ礁生態系に対する影響について配慮する場合、なぜ「サンゴ海草藻場Jのみを対象とされたのか不明。また資料には海藻の中でも、特にサンゴモを抽出してデータを示しておられるが、その意図は何か示すべきであろう。

 サンゴ礁は多様な生物が複雑な関わりを維持しながら暮らしている生態系であることに注意されたい。すなわちサンゴ礁には、本計画書、あるいは資料に示されていない生物も多く生息しているのである。砂底には潜って生活している動物が多い。又岩陰に潜んでいる動物も多い。水中には魚類が多いはずである。これらの生物の生息状況の情報は写真撮影だけでは得られない。そのような生物の調査は行われたのか?

 近年、大きな攪乱を受けた沖縄のサンゴ礁ではあるが、ここ2、3年で、ミドリイシ類の幼群体が多く観察できるようになっているが、この水域ではどうであろうか。写真からは判断できないので情報が欲しい。もし多くの幼群体が存在する場所であればサンゴ礁の回復に配慮しなければならない。

 すでに述べたようにサンゴ礁は多様な生物が共存している複雑な生態系であり、それぞれの生物がその中で何らかの役割を果たしていると考えられる。「礁Jを形成する役割は、サンゴ、サンゴモ、有孔虫などが担つている。成長速度や炭酸カルシウムの生産量はそれぞれ異なり、また同グループ内でも種によっても差があると考えられるが、これらの中でサンゴモはセメント的な役割を果たしており、その役割は大きい。サンゴモ類は分布域が広く、かつ繁茂しやすい性質を持っているので、「専門家」は狭い範囲の消失(例:本ボーリング調査による影響)はサンゴモ類全体に対する影響は小さいという表現をされたと予想する。これは理解できないわけではない。広いサンゴ礁域においてボーリング調査を行う場合、その足場設置を含めて、調査や工事の影響を可能な限り抑えることが工夫されるべきである。換言すれば、どのような狭い範囲の工事であつても環境に対する影響は大小の差はあつたとしても必ず出るものである。
 
 【8ベージ】
平成12年度「珊瑚・藻場捕足調査」の図で「白い部分」はどめような区域であるのか説明がない。

3. 意地悪なコメント
 本作業計画では、「珊瑚影響面積は概ねなし(8ページ)」と考えられている。これが他の主要な生物についても同様であれば生物に十分な配慮されているものと考えられる。

 この論理は引き続き計画されている埋め立て工事についても適用されるのであろうか?そこでは明らかに潜在的に良好なサンゴ礁と考えられる広大な自然が消滅するが、その場合でも従来の環境アセスメントのように、「調査検討の結果、自然環境に対する影響は少ない」という結論が出てくるとすれば、そこではどのような議論をすべきか悩むところである。
 
4. 根本的問題
 1)私は、このような作文をする場合、「自然環境に対する影響は小さいJという表現はすべきではないし、表現できるものでもないと考えている。「どうしても工事をしなければならない」という状況は生じうるであろうが、その際には「自然環境を犠牲にして工事をする」ことを認識すべきであると強く思う。「自然環境に対する影響が小さいので問題ない」という理由を構築して工事を進める今までの方法は改めるベきである。

 現在の環境アセスメントは、総じてこのような「環境に対する影響が小さいので開発を認める」という結論を導く形になっているが、この結論と自然が消滅することに矛盾や苛立ちを感じているのは私だけであろうか。

 2)私は、現存するすべての自然を保全するのが良いと考えている。また可能な限り再生にも力を注ぐべきであるとも考えている。しかしながら一方で自然を犠牲にしてまでも作らなければならない必要なものが存在することも理解している。開発行為を企画する立場の方々は、自然の重要性を訴える声を真摯に受け止めるべきである。両者のバランスを如何に図るかが重要であり、私たちはそのための方法を見つけることに努力すべきである。

 3)開発工事の計画が策定されたならは自然環境に最大限配慮して計画を進めることは当然のことである。またその実行までに、あるいは実行の途上において自然環境に対する配慮の面で大きな問題が生じた場合、計画の回避、断念を含めて真摯に検討する態度を持ちたいものである。