【劣化ウラン研究会声明】

核実験実施発表に対する声明

10月9日、朝鮮民主主義人民共和国による核実験実施の声明に対して、核はもちろん、放射能兵器の廃絶を願う劣化ウラン研究会としては到底認めることが出来ませんので、次の通り声明文を発表します。

2006年10月12日

 10月9日午前10時35分頃、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮と表記する)はかねてからの宣言通り、朝鮮半島北東部の地下実験施設において、核爆発実験を行ったと発表した。朝鮮中央通信が同日12時に「安全に核実験を実施し、成功した」と報じたことからも、成功したかどうかは不明ながらも、核爆発を引き起こそうとした実験を行ったこと自体は、事実と見て良いであろう。
 このような暴挙には強い怒りと悲しみの感情を持つ。断固抗議をし、直ちに核兵器並びに核兵器につながるあらゆるシステムを放棄し、核拡散防止条約と6者協議の場に復帰するよう求める。

核兵器を持たせたもの

 しかしながら、この行為への責めは北朝鮮にのみ負わされるものではないこともまた確かである。
 米国はブッシュ政権になってから、それまでの米国が取ってきたエネルギー保証と地域安定醸成の取り組みを一方的に破棄し、2001年9月11日からは、イラク、イランと並びテロ国家と規定し、いつ何時武力行使、しかも核先制攻撃をするかわからないという危機感を北朝鮮にもたらしたことは指摘せねばならない。
 もともと他国を信頼するというチャンネルが欠落した国家において戦争状態にある当事国、(米国と北朝鮮は今日も朝鮮戦争の戦時下にある。休戦しているに過ぎない)それも世界最大の軍事大国から威嚇されたと感じれば、何をするか分からないというふうに思うのが普通である。
 むしろ、米国は積極的に北朝鮮を挑発し、核開発を誘導し、東アジアの緊張を煽ってきたのである。
 ねらいは明らかだ。
 米国の世界戦略にとって当面の敵はイスラム勢力であるが、中長期的に緊張が高まると予想されるのは中ロとの関係である。
 8月、中央アジアの天然資源をめぐり中・ロ・米がしのぎを削る場に、退任直前の小泉首相が現職首相として初めて歴訪した。これは明らかに非中東産のエネルギー資源確保というねらいがあってのことである。
 米国にとっては、有数のライバルが中央アジアに結集されては困る。日本とイランの共同開発が進むアザデガン油田でも、米国は日本に手を引くように要求している。同様に、中央アジアの資源争奪でも、日本や中国やロシア(ロシアの場合は別の場もあるが)を牽制するために新しい「冷戦構造」が極東地域で必要なのである。在日米軍の存在意義も高まり、日本は米軍の駐留のために沖縄をはじめとした民衆の、生活や生産の場を奪い、環境を破壊してきたが、それをさらに推し進める動力源が必要だ。(辺野古沖の基地建設やパトリオット配備の動きを見よ)
 北朝鮮も金正日体制を維持するためには強大な敵が国外にあることが必要であるが、米国と日本はまさに格好の相手というわけだ。お互いの利害は一致している。
 このような構図を何とか解消したいと願うならばまだしも、日本は米国の戦略に乗ったまま、アジアでの緊張を高める行動をあえて取ってきた。その先には平和憲法(日本国憲法)の解体と、企業の世界市場での競争力、特に兵器や核技術(平和利用としての原子力などという論理は日本国内向けの言い回しに過ぎない)といったこれまで売り込みが出来なかった分野での競争力を強めようというねらいがある。
 さらにその先の日本には、ミサイル防衛に端を発し、弾道弾ミサイルの保有や核武装まで、あらゆる軍事的選択肢のフリーハンドを持とうという意図も見え隠れするのである。今後、核武装を選択肢として持つべきだという議論が増えてくるだろう。
 こんなよこしまな日米の策略に比べれば、「北朝鮮の核」など風前の灯火にさえ見えてくるが、しかしこのような脅威を煽ったあげくに自壊の道をたどり国民を飢餓や死に追いやるのであれば、金正日政権の罪は極めて重いと言わざるを得ない。
 在日コリアンの社会に与えた影響も大きい。特に子どもたちへ向けられる攻撃が心配される。このようなことは許してはならない。これに対しては日本政府にも私たちにも大きな責任がある。

核実験の中身

 実験に使われたのは、ヨンビョンの原子炉から取り出されたプルトニウムである。つまり核実験に使われたのはほぼ長崎原爆と同様のものであったと見て良いだろう。
 長崎原爆は重量4.5トン、その中に詰められたプルトニウムは13キログラムと言われる。当時世界最大のB29爆撃機「ボックス・カー」に搭載したが、爆弾倉からはみ出した。長崎上空で実際に核分裂をしたプルトニウムは全体の1割程度の約1キログラムと考えられており、その威力は推定21キロトンになった。この原爆による死者は7万人以上。(「キロトン」とは通常のTNT爆薬に換算をした爆発力を示す。つまりTNT(トリニトロトルエン)の爆薬1000トンの爆発で放出されるのと同じエネルギーが放出されたことを意味する)
 これと比べて、今回の核実験の爆発力は0.5キロトンないし1キロトン内外と見られているようだ。つまり、長崎原爆の40分の1程度ということだ。小型原爆を開発したのか。いやそうではないだろう。
 少量でも臨界に達する高純度プルトニウム239が手に入る状態ではないし、高性能の爆縮レンズなど米国でも最近になって開発した高度なシステムを有しているとは考えられないので、この実験では数十グラムのプルトニウム239が核分裂を起こした段階で爆弾本体が臨界を維持できなくなったと考えるのが妥当であろう。
 これは現在の水準から見れば失敗である。核爆発装置の実験は成功したかもしれないが、核兵器の獲得は出来なかったということであろう。

全ての核武装を拒否する

 北朝鮮の核武装はもちろんであるが、あらためて私たちは現存する全ての核武装国に対しても、核兵器の無条件放棄を要求する。合わせて劣化ウラン兵器のような放射能汚染をもたらす兵器の全面的かつ無条件の放棄を求める。
 特定の国に対して核武装を容認し、気に入らない国の核武装は武力を持っても制裁するという姿勢そのものが国際社会を不安定化し、ひいては核武装をしたほうが有利という倒錯した状況を生み出してきたのだ。
 日本もまた例外ではない。
 日本の核武装を止めているのは、国内外の世論であり、それに基づく原子力基本法や非核三原則であるが、これらは法律や国是であり、変えようと思えばできるのである。核拡散防止条約を脱退して核武装をするという道は、皮肉にも北朝鮮により「実践」された。日本もそれにならおうという勢力が存在する。日本核武装計画は、これまでも机上の空論でもなければ非現実的おとぎ話でも無かったが、残念ながらまともに取り上げて阻止の取り組みは十分されてこなかった。海外のNGOなどのほうが危機感を持っていた。
 日本の核武装が現実味を帯びてきたという論調が、欧米やアジアの新聞に見られるようになっているが、日本の新聞だけは、そう書かない。
 日本は、将来に禍根を残さないためにも、ウラン濃縮施設や再処理施設、高速(増殖)炉もんじゅなど、核武装につながる一切の原子力開発を、今すぐ全て放棄すべきである。


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