「ワシントンポスト」(米)2000年9月8日・A31ページより
湾岸戦争に未だ謎残る
原文:http://washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A32277-2000Sep7.html
by ディヴィッド・ブラウン
翻訳:竹野内真理
「湾岸戦争シンドローム」の原因をめぐる様々な理論を専門家パネルが調査しているが、それぞれの理論を立証や反証する証拠が十分でないこと、そして近い将来にこのような証拠が見つかる可能性も少ないという結論に達した。
国立科学アカデミー医学研究所によって設置された専門家パネルは、湾岸戦争中に兵士達がどのような状況に置かれたかを示す信頼のおける記録がないため、一部の退役兵士らが、今も苦しんでいる慢性的な病気の原因が、化学物質、有毒物質、薬物のいずれによるものかを特定することは不可能だと発表している。さらにどれであったとしても、病気を訴えている退役兵士が症状の原因として疑っている物質のほとんどは、その長期的な影響に関する情報が不足している。
以前に結成された専門家グループと同様、今回の専門家パネルも、今後兵士を配備の際には、より綿密な記録を取ること、また戦場において兵士がさらされる可能性のある化学物質、有毒物質、薬物のさまざまな影響についてはさらに研究を行うことを要求している。
「戦時下におけるさまざまな事態が健康に及ぼす影響をもっと知るためには、今後こうしたことをきちんとしなければならない。」と、今回のパネルの議長を務めるダートマス医科大学のハロルド C. ソックス Jr.教授は述べた。
専門家パネルは、いまや湾岸戦争症候群として知られるようになった筋肉の衰えや痛み、思考や感情の問題、腸の働きの異常やその他の症状の原因をとして4つの可能性を掲げている。神経ガスのサリン、化学兵器に対抗するための臭化ピリドスチグミン(PB)という薬物、一部の兵士に接種された二種類のワクチン、装甲車や兵器に使われた低レベルの放射能を持つ劣化ウランの4つだ。
18人からなる科学者と医師のパネルは、低レベルのウラン被曝は肺がんや腎臓障害の原因にはならないという決定を最近下したことが明らかになった。他のサリン、PB、炭疸病やボツリヌス毒素ワクチンは、長期にわたる影響を否定する証拠が十分にないと結論付けた。
専門家たちは18ヶ月にわたる調査を行い、一万部に及ぶ公表済みの研究報告書を調べた。今回のパネルは非公表データや軍事機密情報は調べておらず、既存の科学文献のみに基づいて結果をだしているため、今までの調査結果よりさらに保守的な結論となっている。
例えば、パネルは、市民を対象とした研究では、短期間の副作用しか調査していないことを主な理由として、炭疸病やボツリヌス毒素ワクチンを慢性症状の原因から除外する十分な証拠がないとしている。こうした研究では、ワクチン注射をした人のその後の長期的健康調査をしていない。しかし、ワクチン接種をした何千人の人々が健康を害しているという証拠は、非公式にも、噂ですらも出ていない。
近年さまざまな政府機関によって任命された多くの専門家やパネルは、上記の4つの要因が湾岸戦争シンドロームを引き起こした可能性はほとんどないとしている。
医学研究所は、10年前の9月以降のサウジアラビアへの兵員配置の期間に起こった、または起こり得た33件の特殊事態に関して調査するよう、議会から任命を受けた。
殺虫剤や溶剤に関する調査のため、次の専門家パネルが召集される予定である。その次のパネルは、感染病、石油炎上による副産物、電磁波被曝、砂粒子、その他の想定要因について調査する予定である。全体の調査には、後4〜5年かかるであろう。
ソックス教授は、想定要因リストの中に心理的なストレスも議会が入れることを望むと語った。国防省のいくつかのパネルや、1995年にクリントン大統領によって召集されたパネルでは、ストレスが湾岸戦争退役兵士の慢性的な病気のほとんどの(全部ではないが)原因となった可能性が高いと結論している。
湾岸戦争症候群にかかった退役兵士の数はわからない。国防退役軍人部で行われた医療検査では、12万人が自主的に登録している。
原因不明の病気が退役兵士に起こったという歴史は、南北戦争の時代に遡る。しかし、湾岸戦争では従軍に関係する「診断不可能な病気」に対して、障害給付金が支払われている。今日まで3039人の兵士がこの給付金を受け取っており、8239人が申請はしたものの却下されている。ただし、後者の内3000人については、診断可能な症状に対して給付金が支払われている。
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