山崎久隆(劣化ウラン研究会運営委員)
(前号で一部をお伝えした第2回講演会では、山崎久隆さん劣化ウランの軍事利用についてもお話を伺いました。今回は、その山崎さんに執筆をお願いし、軍事利用のみならず、航空機のカウンターウェイトへの劣化ウラン転用についても書いていただきました。)
劣化ウランを最初に使った核兵器
天然に存在するウランは、ウラン235[脚注1]の濃度が0.7%であり、この状態では核兵器にも原発(軽水炉)の燃料にもならない(燃料については天然ウラン原子炉も存在はするが主流ではない)。そのため、ウラン235の濃度を高めなければならない。これをウラン濃縮という。
世界最初の核兵器は広島に投下された「リトルボーイ」で、ウラン爆弾であった。一方、プルトニウムを使う原爆も同時に開発され、これは「ファットマン」と呼ばれ長崎に投下された。
広島型原爆を製造する過程で、大量の「濃縮かす」が発生した。これが世界最初の劣化ウラン[脚注2]の誕生である。
劣化ウランはそのままではほとんど核分裂を起こさないため、プルトニウム[脚注3]製造の母材として使われた。つまり、プルトニウムはウラン238に中性子をぶつけて、プルトニウム239に変えることで作られるため、天然ウランよりもウラン238の割合が多い劣化ウランの方が純度の高いプルトニウムを作ることが出来るからである。
その後、核兵器は水爆時代に突入する。
最初の核分裂兵器である原爆は、ウランかプルトニウムを核分裂させることで、膨大な熱、爆風並びに放射線を発散させている。構造は至って単純であるが、火薬を使って核分裂性のウランやプルトニウムを一体化させ、効率よく核分裂を起こさせるところに技術的な困難さがあった。
時代は水爆の時代となり、主要エネルギーを核分裂ではなく核融合により発生させる兵器として登場した。
この場合、核融合を起こす母材はトリチウム(三重水素)やリチウムという軽い物質であるが、これらが核融合を起こすためには地上では存在し得ない高温高圧環境が必要となる。その環境を作り出すために、起爆剤として核分裂物質が使われる。
この核分裂物質はプルトニウムやウラン235であるが、ここで発生する中性子を効率よく利用できなければ、核融合反応を起こすまでエネルギーを蓄積させることが出来ない。そのため、最初の核分裂で発生した中性子を外に逃がさないようにするため、反射材が必要となる。その反射材に劣化ウランが使われた。
核分裂反応で発生した中性子の一部は、劣化ウランにぶつかると、内側に反射される。そこにはまだ核分裂をしていないウラン235やプルトニウムが存在するため、さらに核分裂が引き起こされる。また、高速で飛び交う中性子により、さしもの核分裂しにくいウラン238も核分裂を起こす。この相乗効果により大量の熱エネルギーが発生してトリチウムやリチウムが核融合反応を起こして水爆として爆発する。
高性能水爆を製造するには、高純度のプルトニウム239が必要であり、高純度のプルトニウム239はウラン238を高速中性子炉で中性子照射を受けて作られる。
劣化ウランは、核分裂性物質の母材と水爆の反射材として重要な役割を持っている。それそのものが爆弾とはならないからといって、核兵器とは関係ないというのは誤った見方である。
日本の高速炉実験炉として建設された「常陽」は、その燃料の中にブランケット[脚注4]と呼ばれる部分を持っていた。これは、ブランケットでプルトニウム239を作り、次世代原子炉の高速増殖炉の炉心燃料に転用すると説明されているが、これまで記してきたとおり、ここで作られるプルトニウム239は純度99%以上になる。つまり、高性能水爆には無くてはならない起爆材そのものになるのだ。劣化ウランをブランケットに使い、中性子線を照射する高速増殖炉原型炉「もんじゅ」もまた、同じである。
しかしこれだけではプルトニウム239を取り出すことが出来ない。そのため、高速炉燃料体を再処理する施設が必要となるが、これが東海再処理工場に併設する形で建設中のRETFリサイクル機器試験施設である。
この施設が稼働すれば、日本は直ちに核兵器に直接使える核物質を史上初めて手にすることとなるのである。その意味はきわめて重要である。
このような核分裂性物質を作ることが出来る国は、米国、ロシア、フランス、英国だけである。米国、ロシアは過去に製造したプルトニウムを大量に備蓄しており、フランスはフェニックスという高速炉で生産可能である。中国が生産できるプルトニウム239は純度が低く、さらにインドのプルトニウムはもっと純度が悪い。日本は現状でも米ロ仏に次ぐプルトニウム大国であるが、このままでは量的にも世界最大のプルトニウム保有国となるばかりでなく純度でも世界最高のものを手にすることになる。そしてその元となる劣化ウランは膨大に保有しているのだ。
劣化ウランの兵器転用
核兵器以外にも、多くの場で劣化ウランが兵器転用されている。
典型的には劣化ウラン弾だが、これについては既にふれてきた。今回はそれ以外の劣化ウラン転用について述べてみたい。
まず、劣化ウラン弾が各国で実戦配備されることで、大きな問題となるのが劣化ウランからの防御だ。通常の鋼鉄製装甲板では簡単に打ち抜かれてしまうとしたら、劣化ウラン弾を配備している国と交戦する場合、別の防御を施さねばならない。これまで実戦配備が確実視されているのは、米ロ英仏中と台湾、タイ、などである。今のところ劣化ウラン弾を配備した国同士の戦闘は確認されていないが、湾岸戦争では米軍の同士討ちがあり、劣化ウラン弾を友軍から打ち込まれるという事件が発生している。
劣化ウラン弾を装備している軍隊では、同士討ちのおそれも考慮しなければならない。
このため、劣化ウラン弾から防御するために劣化ウランを装甲板にも使用するようになってきた。ウラン同士であればそう簡単には打ち抜かれないというわけである。まさしく中国の故事である「矛盾」を地でいっている。
劣化ウラン装甲は相当の重さとなるため、重戦車でなければ装備して走れない。米軍のM1A1エイブラムスや英国チャレンジャーなどが装備している。
この劣化ウラン装甲板も、放射性物質であるため、戦車に取り付ければ内部の乗員が被曝する。従って、常時装備することは出来ず、戦場に展開して交戦する場合以外は取り外せるようになっているという。ウランを背負ってウランを撃つ。まさにおぞましいとしかいいようがない現実が、現代戦の最前線である。
劣化ウランの別の転用例
特に兵器に限ったことではないが、劣化ウランの高い密度と重い性質に着目して、これをカウンターウェイトに使用する例がある。例えば航空機の尾翼や主翼の補助翼に取り付け、稼働性能を高めるために使われる。
ボーイング社やマクダネルダグラス社の航空機は劣化ウランを使っている。1985年に起きた日航ジャンボ機墜落事件では、ボーイング747に取り付けていた劣化ウランが相模湾上で尾翼の破壊が起きたことで、海中に落下、さらに墜落現場でも散乱した。全量回収は結局出来なかった。
この事故の後、日本の航空会社は劣化ウランをタングステンに変えた。しかし世界の航空機ではまだ劣化ウランを使っているところがある。特に軍用機では、どの程度使われているか正確にわからない。民間航空機以上に頻繁に更新され、さらに整備などが軍の基地内で行われることから、実態がつかめない。
岡山県玉野市のスクラップ置き場で発見された劣化ウランは、A−7コルセアという米国製戦闘攻撃機の操縦桿のカウンターウェイトに使用されていたことが、NHK広島の調査で判明している。しかしなぜこんなところに流出したかは謎である。
A−7コルセアは70年代から80年代に使われた機体で、米軍だけでなく各国に売られた。従って、米軍機であるかどうかも分からない。製造番号らしき刻印があるので、製造メーカーを追跡すれば分かるかもしれないが、作ったメーカーだったボート社自体が、現在は存在しないため、これも見通しは暗い。
これを見ても、例えば軍用機が墜落事故を起こしたとしたら、積み荷の銃砲弾や爆弾などの脅威だけでなく、機体に使われているかもしれない劣化ウランの危険性も考えておかねばならないのだ。
[注]