沖縄県 第六準備書面


平成七年(行ケ)第三号
職務執行命令裁判請求事件


                    原 告   内 閣 総 理 大 臣
                          橋  本  龍  太  郎

                    被 告   沖  縄  県  知  事
                          大  田   昌  秀


    被 告 第 六 準 備 書 面



一九九六年二月二三日


                         右被告訴訟代理人
                         弁護士  中 野 清 光
                          同   池宮城 紀 夫
                          同   新 垣   勉
                          同   大 城 純 市
                          同   加 藤   裕
                          同   金 城   睦
                          同   島 袋 秀 勝
                          同   仲 山 忠 克
                          同   前 田 朝 福
                          同   松 永 和 宏
                          同   宮 國 英 男
                          同   榎 本 信 行
                          同   鎌 形 寛 之
                          同   佐 井 孝 和
                          同   中 野   新
                          同   宮 里 邦 雄

                         右被告指定代理人
                          同   高 山 朝 光
                          同   宮 城 悦二郎
                          同   粟 国 正 昭
                          同   大 浜 高 伸
                          同   山 田 義 人
                          同   垣 花 忠 芳
                          同   兼 島   規
                          同   宮 城 信 之
                          同   比 嘉   靖
                          同   仲村渠 重 政
                          同   上 原 貴 志

福岡高等裁判所那覇支部 御中

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  被告は、原告の第四準備書面の地籍不明地の主張に対し、次のとおり反論する。
第一 争いのない事実
  一 位置境界明確化法一七条に基づき認証された地図及び簿冊は、国土調査法
    一九条五項により「認証された国土調査の結果と同一の効果があるもの」と
    される点については、当事者間に争いがない。
  二 そして、訴状添付目録6記載を除く、その余の本件土地が、右一の効果を
    有する地図及び簿冊が存する土地であること、及び登記所に登記所備付けの
    地籍図(公図)が存する土地であることについても、当事者間に争いがない。
  三 又、訴状添付目録6記載の土地につき、右一の効果を有する地図及び簿冊
    が存せず、登記所に登記所備付の地籍図(公図)が存しないことについても、
    当時者間に争いがない。
第二 問題の所在と原告の主張の不当性
  一 目録1の土地、2のうちの松田所有地、7のうちの金城、比嘉、喜友名所
    有地、8の土地について
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    1 原告は、右各土地について「今回は改めて、測量して杭打ち等をする等
      の作業を行っていない」ことを自認する。
       これは、原告が本件土地調書を作成する過程で、右各土地について実測
      平面図の作成をおこなっておらず、一九九二年(平成四年)の使用裁決申
      請において作成した古い実測平面図を再使用したことを示すものである。
       原告は、古い実測平面図を使用した理由を「この裁決申請(一九九二年
      の裁決時の申請)に当たり、現地で右のような方法で杭打ち等の作業を行
      って、その実測平面図に現地復元性があることを確認しており、かつ、今
      回の使用の裁決の申請をするために、那覇防衛施設局職員が現地の状況を
      確認した結果、土地の客観的状況に何ら変化がなく、前回打った杭等の状
      況に変動がないことが確認されたからである」(五頁)と説明する。
    2 しかし、原告の右主張は、土地収用法が、強制収用又は使用に当たり起
      業者に土地調書を作成させ、これに実測平面図を添付させる趣旨を理解し
      ないものであり、誤っている。
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       土地収用法三七条一項が、土地調書に実測平面図を添付することを義務
      づけたのは、強制使用のつど起業者に実測図面を作成させ、対象土地を正
      確に特定しようとするものであり、公図をもって実測平面図に代えたり、
      強制使用認定前の実測平面図を使用したりすることを許さないものである。
       この点につき、小澤道一著「逐条解説 土地収用法 上」は、「実測平
      面図に代えて公図の写しを添付した土地調書は適法でない(調達庁次長宛
      計画局長回答昭三一・一〇・二六)。公図は不正確なものが多く使用に耐
      えないからである。不動産登記法一七条の地図や建物所在図、国土調査法
      二〇条一項の地籍図、土地区画整理登記令六条二項二号、土地改良登記令
      六条二項二号の土地の所在図は正確なものが多いが、これらによることは
      許されず、あくまで起業者が実測した図面でなければならない。」(三八
      四頁)と指摘する。正当である。
       原告の主張は、要するに、前回の強制使用申請時(一九九二年以前)に
      作成した実測図面が存したので、それを再使用したというものである。確
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      かに、実測図面が現地復元性を有することは、原告主張のとおりであるが、
      それは実測図面に限られるものではなく、小澤氏が指摘する右不動産登記
      法一七条の地図等も、実測図面と同様に現地復元性を有するものである。
      原告が主張する実測図面は、あくまで同測量が行われた一九九二年以前の
      現地を反映するものであり、今回の強制使用申請時の対象土地の現地を反
      映するものではない。土地収用法は、対象土地の特定を収用(使用)時の
      現地に即して特定することを不可欠の前提としており、そのためにこそ、
      強制収用(使用)申請時の実測を起業者に義務づけ、実測平面図の添付を
      要求しているものである。原告は、「那覇防衛施設局職員が現地の状況を
      確認した結果、土地の客観的状況に何ら変化がなく、前回打った杭等の状
      況に変動がないことが確認された」旨主張するが、土地収用法は実測図面
      による現地の特定を求めているものであり、起業者の職員による「確認報
      告」でこれを行うことを認めていない。原告の右主張は、那覇防衛施設局
      職員が現地の状況を確認したので、それで十分だとするものであるが、ど
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      のようにそれを確認するのであろうか。起業者の言を信用しろというので
      あろうか。原告の立場に立っても土地所有者等は、立会・署名の際、「土
      地の客観的状況に何ら変化がなく、前回打った杭等の状況に変動がない」
      と那覇防衛施設局職員が確認したことが「適式」になされたか否かを確認
      することになるが、どのようにそれを確認するというのであろうか。この
      ことだけをみても、原告の主張が誤ったものであることは、明らかといえ
      る。
       以上のとおり、実測平面図を添付せず、前回の強制使用申請時に作成し
      た図面を添付して、立会・署名を求めた起業者の行為は、手続的に瑕疵の
      存するものである。
  二 目録6の土地について
    1 原告は、目録6の土地(島袋善祐)につき、位置境界明確化法一七条に
      基づく認証申請がなく、国土調査法一九条五項の「認証を受けた国土調査
      の成果と同一の効果ある」地図及び簿冊が存在しないことを十分承知して
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      いながら、注意深く、この点に触れることを避けている。
       裁判所は、この点に留意し、明確な認否を行わせるべきである。
    2 原告は、第四準備書面、第二、二、2において、目録6の土地について
      の地籍明確化作業の手続を述べる。
      (1) まず、島袋氏が「編さん地図確認書」に署名押印したこと
      (2) ところが、島袋氏が「現地確認書」に署名押印しなかったこと
      を指摘する。その上で、「目録6記載の土地が現地において特定されてい
      る」と主張する。しかし、これは、不正確である。「編さん地図確認書」
      で確認された土地とは、将来、関係土地所有者が「現地確認書」に署名押
      印すれば、それぞれの関係土地所有者の所有地となる各土地の位置境界が
      明確になるということであり、「編さん地図確認書」に署名押印したから
      といって、島袋氏の所有地が特定したものではないし、又目録6の土地が
      島袋氏の所有地と確定したものでもない。
       原告は、この点を曖昧にしたまま、「目録6の土地」が特定したとし、
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      島袋氏所有の6の土地が特定したかのように、誤導しようとするが、騙さ
      れてはならない(原告は、目録6の土地を、島袋氏の所有地と断定してい
      る)。
       位置境界明確化法に基づく、地籍明確化は、同法が定める手続が全て完
      了して初めて、土地の位置境界を確定する法的効果を生ずるもである。地
      籍明確化作業は、大別すると基礎作業、地図編纂作業、復元作業、成果認
      証作業の四段階に分れるが、それは作業の手順であり、それぞれが独立し
      た意味を有するものではない。すべての作業が完了して、前述の国土調査
      法一九条五項の効力を有するに至るものである。
    3 原告も、承知のように、米軍基地内の本件ブロックには、戦前の土地の
      位置境界を示す物証が極めて少なく、物証により、ブロック内の各筆の位
      置境界を明らかにすることができなかった。このような事情は、本件ブロ
      ックだけでなく、米軍基地内の全ての位置境界不明地についていえること
      である。そのため、明確化作業は、現地をみないで図面(ブロック編纂図)
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      だけを見てお互いの土地の位置境界を割りつけ当てはめる協議を行い、一
      筆地編纂図、現況地籍照合図を作成し、「編纂地図確認書」を作成するも
      のである。この段階では、現地を見ないままの図上だけの協議、確認であ
      るため、現地を見る段階で協議、確認の結果を変更、訂正する場合が当然
      に生ずる。現地確認は、その意味で、地籍明確化作業手続の中で、重要な
      位置を占めている。位置境界明確化法は、このような明確化作業の実態を
      考慮して関係土地所有者全員の「現地確認書」への署名押印が完了した後、
      認証手続を経て、初めて国土調査法一九条五項の効力を有すると定めたも
      のである。
    4 原告は、目録6の土地の図面を何に基づいて作成したのか、明らかにし
      ないが、現況地籍照合図に基づき作成したものかと推測される。
       そうだとすると、目録6の土地の実測平面図と称する本件図面は、「字
      知花曲茶原」の区域内の土地の図面であり、仮にそれが実測図だとすると
      それは現地復元性を有する図面ということになるが、それは、地籍不明地
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      内の「地番、所有者」の不明な土地の実測平面図ということになる。それ
      以上のものではない。
       右図面は、その意味では「地番、所有者」不明の土地を現地で復元する
      能力はあるが、土地収用法が要求する「地番、所有者」が明確な実測平面
      図には、当たらないものである。
       よって、原告の主張は、理由がない。
    5 原告は、右事情を承知しているためか、目録6の土地が島袋氏の所有地
      であることを裏付けるものとして、島袋氏が他の土地の所有者と土地の位
      置境界を争っていないこと、収用委員会が過去に地籍不明地内の土地につ
      き強制使用裁決を行ったことを挙げる。しかし、土地の位置境界が明確化
      していないものであるから、島袋氏は他の地主と土地の位置境界につき争
      う理由がない。前述のように、米軍基地内の土地の位置境界を明確化する
      物証がないため、地主は仕方なく互いの土地の位置境界を定めるにつき、
      元々の土地の位置境界にこだわらずに、協議で定めているのが、地籍明確
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      化作業の実態である。現在は、基地内に土地が所在するため土地の位置境
      界が不明であっても、土地登記簿の面積に応じて軍用地料が支払われるた
      め、土地の位置境界につき、互いに異議をのべて争うことをしていないだ
      けであり、軍用地が返還されて現実に使用ができるようになると、現在の
      地籍明確化作業の問題性が顕在化するものである。島袋氏が、どのような
      理由により現地確認書に署名押印をしなかったのかは、被告のあずかり知
      らないところであるが、本件では、島袋氏が署名押印をしなかった理由が
      問題なのではなく、土地の地籍が明確していないことこそが問題なのであ
      る。
       又、収用委員会の判断については、その不当性につき島袋氏らが那覇地
      方裁判所で目下係争中であり、それが目録6の土地が地籍明確化している
      ことの理由となるものではない。
    6 以上のとおり、目録6の土地については、地籍不明地であり、地番、所
      有者が不明であり、このような土地については、土地収用法では、土地調
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      書の作成ができず、強制使用手続が行いえないものである。
        土地収用法は、境界につき争いがある土地につき、土地調書を作成する
      方法は存するが、地籍不明地については、その方法を採りえない。(原告
      は、土地所有者不明、又は境界争地について採られる土地調書の作成方法
      さえ採っていない。土地所有者不明、又は境界争地についての土地調書の
      作成方法と比べても、本件土地の調書作成方法は違法不当なものである。)