沖縄県 第五準備書面
平成七年(行ケ)第三号
職務執行命令裁判請求事件
原 告 内 閣 総 理 大 臣
橋 本 龍 太 郎
被 告 沖 縄 県 知 事
大 田 昌 秀
被 告 第 五 準 備 書 面
一九九六年二月二三日
右被告訴訟代理人
弁護士 中 野 清 光
同 池宮城 紀 夫
同 新 垣 勉
同 大 城 純 市
同 加 藤 裕
同 金 城 睦
同 島 袋 秀 勝
同 仲 山 忠 克
同 前 田 朝 福
同 松 永 和 宏
同 宮 國 英 男
同 榎 本 信 行
同 鎌 形 寛 之
同 佐 井 孝 和
同 中 野 新
同 宮 里 邦 雄
右被告指定代理人
同 高 山 朝 光
同 宮 城 悦二郎
同 粟 国 正 昭
同 大 浜 高 伸
同 山 田 義 人
同 垣 花 忠 芳
同 兼 島 規
同 宮 城 信 之
同 比 嘉 靖
同 仲村渠 重 政
同 上 原 貴 志
福岡高等裁判所那覇支部 御中
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被告は、原告の第三準備書面に対し、次のとおり意見を陳述し、反論する。
第一 機関委任事務の主張について
一 地方自治法二条六項二号についての原告の主張の誤り
1 原告は、「地方自治法二条六項は、同条三項に例示されている同条二項
の事務のうち、都道府県の広域的・統一的な事務処理機能等の特性に即し
て、都道府県の事務を更に例示的に規定している」として、地方自治法二
条六項が「都道府県の事務」(地方公共団体の事務)を例示するものであ
ることを認める。被告が指摘するように、同法二条六項二号は「土地の収
用に関する事務」例示しているものであるから、同事務は、他にこれを機
関委任事務とする「法律又はこれに基づく政令に特別の定め」がない限り、
「地方公共団体の事務」と解されるものである。同条六項二号だけでなく、
同条三項一九号も「法律の定めるところにより、地方公共の目的のために
動産及び不動産を使用又は収用すること」を「地方公共団体の事務」の一
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つとして例示していることからして、地方自治法が「土地の収用に関する
事務」を「地方公共団体の事務」の一つと位置づけていることは、明らか
である。
従って、立会・署名が「土地の収用に関する事務」に属する事務である
ことは明らかであるから、原告が、立会・署名が機関委任事務でないとす
る積極的な「法律又はこれに基づく政令に特別の定め」を提示しえない限
り、右条項は、立会・署名を「地方公共団体の事務」と解する有力な法令
上の根拠となるものである。
2 第三準備書面においても、依然として、原告は、立会・署名を機関委任
事務と解する実質的理由も法令上の根拠も提示しえないでいる。
3 被告が指摘する「国の関与現況表」の存在は、原告も否定できないよう
である。同表は、総務庁行政監察局が各法令毎に、国の関与の現況を明ら
かにし、国が関与する事務の性格を分類したものである。同表NO3は
「起業者が土地を収用し又は使用しようとするときの建設大臣又は都道府
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県知事の事業認定」が「団体事務」であることを明記している。ところが、
原告は、同表でいう「事務の性格」は、同表の「被関与者」欄の事務につ
いてのものであり、「国の関与等事項名」欄の事務についてのものではな
い旨弁明する。しかし、それは、著しい歪曲である。同表は、国が関与し
ている事務(国の事務)について、それが、団体事務であるのか、機関委
任事務であるのかを整理するために作成されたものであり、被関与者の事
務の性格を分類するために作成されたものではない。
(原告は、被告の主張によると、建設大臣のする事業認定さえ国の事務で
あることを否定することになる旨批判するが、全く趣旨不明な、見当違い
の批判である。被告は、建設大臣のする事業認定が国の事務でないと指摘
したことはない。右表は国が地方自治体に委任している事務につき、その
関与の現況(団体委任事務であるのか、機関委任事務であるのか)を明ら
かにする目的のもとに作成されたものであり、建設大臣のする事業認定の
ように、地方公共団体に委任してない事務についてその性格を分類するも
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のではないこと、同表の性格からして当然のことである。同表の「事務の
性格」が、都道府県知事の事業認定について、その性格を指摘したもので
あることは、同表の性格からして明白であり、原告の批判は当たらない)
二 審査請求について
原告の主張は、被告の批判に対するまともな反論とはなっておらず、支
離滅裂なものである。
行政不服審査法五条一項は、審査請求ができる場合は「処分庁に上級行
政庁があるとき」(一号)と「上級行政機関がない場合であつて、法律に
審査請求をすることができる旨の定めがあるとき」(二号)の二つあるこ
とを明らかにしている。従って、審査請求ができるというだけでは、それ
が前者の場合の規定であるのか、又は後者の場合の規定であるのかが明ら
かにされない限り、これを機関委任事務の根拠とすることはできない。
ところが、原告は、土地収用法一三〇条以下の不服申立期間等に関する
規定が、右一号によるものであるのか、又は二号によるものであるのか、
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その理由を明らかにしないまま、ただ「土地収用法は、都道府県知事の行
う事業の認定に関する処分については、行政不服審査法五条一項一号に基
づき主務大臣である建設大臣に対し審査請求をすることができることを前
提として、土地収用法一三〇条以下に不服申立期間等についての特別の定
めを置いている」と独断する。土地収用法一三〇条以下の規定が、行政不
服審査法五条一項一号に基づくものであるのか、同項二号に基づくもので
あるのかがまさに問題であるのに、原告はこの点について何ら論証するこ
となく、右独断に基づいて右条項が機関委任事務である理由になるとする
ものである。原告の批判は、何ら被告の指摘に対する反論とはなりえてい
ない。
三 立会・署名の性格について
1 原告は、駐留軍用地特措法に基づいて「土地の使用権原を取得する事務
は、国の安全保障、外交にかかわる問題であるから、その一連の手続に係
る事務はすべて本来的に国の事務ということができる。」と主張する。
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しかし、この国の主張には、起業者として行う米軍への基地提供のため
の土地使用権原取得事務と土地収用手続事務との混同がある。「国の安全
保障、外交にかかわる問題である」のは、防衛施設局長が行う起業者とし
ての土地使用権原取得事務であり、土地収用手続事務ではない。駐留軍用
地特措法及び土地収用法は、憲法で保障された国民の財産権を収用・使用
する手続を定めるものであり、且つ、収用・使用のための適正手続を定め
るものであり、「国の安全保障、外交にかかわる」手続を定めるもではな
い。再三被告が指摘してきたように、駐留軍用地特措法は、起業者を防衛
施設局長とし、使用認定権者を総理大臣とした点について特別の定めを置
いただけで、その他は基本的に土地収用法に基づく収用手続を定めるとい
う構造を持つものである。原告の主張は、この点につき、意図的に目を伏
せるものである。原告は、依然として土地収用手続の中の立会・署名手続
が何故に「機関委任事務」となるのか、説明しえないでいる。
再三被告から指摘されたにもかかわらず、立会・署名が何のために定め
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られているのか、その実質的理由を機関委任事務との関連で説明しえない
でいる。
原告は、立会・署名が「土地調書が適式に作成されたことを確認する」
手続であると主張するが、そのことと立会・署名を「機関委任事務」とす
ることとがどのように結びつくのか、全く説明しない。
「土地調書が適式に作成されたことを確認する」ことは、起業者の恣意
的な調書作成を抑制し、土地所有者等の財産権を保障し適正手続を定める
ことを意味し、最も地方公共団体の事務に適するものである。地方自治法
二条三項一九号、同条六項二号が「土地の収用に関する事務」を地方公共
団体の事務と定めたのは、このためである。
第二 主務大臣について
一 「一連の手続の一環」論について
原告は、「知事の署名押印等の事務は、駐留軍用地特措法に基づく土地
の使用権原取得の一環をなすものであり、この手続にかかわる事務全般を
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所掌する主務大臣が内閣総理大臣であることは、原告第一準備書面第一、
三において述べたとおりである」とし、従前の主張を繰り返す。
しかし、被告が批判しているのは、原告が主張するように事業認定が総
理大臣の事務だとしても、そのことから何故に立会・署名が総理大臣の事
務となるのか、という点である。原告は「具体的な事務が機関委任事務に
該当するか否かは、当該法令の解釈によって決まることになる」と主張し
ているのであるから、原告の立場に立っても、立会・署名がなぜ機関委任
事務となるのか、説明しなければならない。ところが、原告は、被告から
批判されたにもかかわらず、右のとおり従前の主張を繰り返すだけである。
これは、被告の批判に反論しえないことを示すものである。
駐留軍用地特措法は、使用認定を総理大臣の事務と定めるだけであり、
その他の事務については特別の定めを置いていない。従って、立会・署名
を総理大臣の事務と主張するためには、何故立会・署名が総理大臣の事務
となるかを、説明しなければならない。
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原告の主張は、立会・署名は総理大臣の事務だとの前提に立って、立会
・署名の主務大臣は総理大臣だと主張するものであり、「何故、立会・署
名が総理大臣の事務」であるのかを、説明するものではない。
原告の主張は、循環論に陥っており、自らの立論を論証しえないことを
告白するものである。
二 「計画局長回答」について
原告も、建設省が改正前の駐留軍用地特措法に基づく立会・署名につい
て、所掌官庁として山形県知事に対して回答したことを否定できず、これ
を認めた。ただ、原告は右照会が改正前の駐留軍用地特措法に基づく立会
・署名についてなされたものであるにもかかわらず、これを「土地収用法
三六条の解釈に関する」意見照会と歪曲して糊塗しようとする。しかし、
同照会が改正前の駐留軍用地特措法に基づく立会・署名についてなされた
ものであることは、同回答から明らかであり、原告の反論は理由がない。