沖縄県 第二準備書面
平成七年(行ケ)第三号
職務執行命令裁判請求事件
原 告 内 閣 総 理 大 臣
橋 本 龍 太 郎
被 告 沖 縄 県 知 事
大 田 昌 秀
被 告 第 二 準 備 書 面
一九九六年二月九日
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右被告訴訟代理人
弁護士 中 野 清 光
同 池宮城 紀 夫
同 新 垣 勉
同 大 城 純 市
同 加 藤 裕
同 金 城 睦
同 島 袋 秀 勝
同 仲 山 忠 克
同 前 田 朝 福
同 松 永 和 宏
同 宮 國 英 男
同 榎 本 信 行
同 鎌 形 寛 之
同 佐 井 孝 和
同 中 野 新
同 宮 里 邦 雄
右被告指定代理人
同 高 山 朝 光
同 宮 城 悦二郎
同 粟 国 正 昭
同 大 浜 高 伸
同 山 田 義 人
同 垣 花 忠 芳
同 兼 島 規
同 宮 城 信 之
同 比 嘉 靖
同 仲村渠 重 政
同 上 原 貴 志
福岡高等裁判所那覇支部 御中
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第 二 準 備 書 面
被告は、原告第一準備書面の「本案前の申立に対する反論」に対し、以下のとおり
反論する。
第一 機関委任事務について
一 原告の論理
原告が、駐留軍用地特措法一四条一項及び土地収用法三六条四項、五項に基づ
く立会・署名を、国の機関委任事務と解する論理は、次のとおりである。
(1) 土地収用法の「事業の認定」は、国が収用権の主体であることを前提にしてい
る(五頁)。
(2) 土地収用法の「裁決事務」は、国の機関委任事務である(六頁)。
(3) 立会・署名は、事業の準備のための他人の土地への立入りの許可等の事務と同
様に「事業の認定及び裁決に付随する手続」である(六頁)。
(4) よって、土地収用法の立会・署名は、国の機関委任事務である(七頁)
(5) 駐留軍用地特措法は、土地収用法の特別法であるので、同法の立会・署名は、
土地収用法の立会・署名と同様に機関委任事務である(七頁)。
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右論理の最大の問題点は、 (3)の論述にあるが、その他の論述にもそれぞれ問
題が存するので、以下、反論する。
二 収用権の主体について
1 収用権が、「国家」に帰属することは、被告も格別争うところではない。
しかし、原告の「公共の利益を増進するために憲法上保障された財産権を収用
する源は、国の統治権にあるから、本来収用権は国家に専属する(憲法二九条三
項)」との主張は、不正確であり、誤っている。
財産権を収用する源は、「国の統治権にあるから、本来収用権は国家に専属す
る」のではない。原告の右主張は、憲法以前に、「国」に統治権があり、「国家」
に収用権が「専属」する、と主張するものである。
しかし、近代国家においては、憲法を越えて、「国」の統治権の存在や「国家」
の本来的収用権を認めるのは、憲法の根本規範性及び最高法規性を否定するもの
であり、法理論としては到底支持し得るものではない。
被告は、憲法により、収用権が国に帰属し、国会が法律を制定して、法律によ
り誰に収用権を行使させるかを定める、と解するものである。
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留意しなければならないのは、収用権が国に属すると解することと、収用権限
が総理大臣ないし主任の大臣に属することとは、同一でないという点である。や
やもすると、これを混同することがあるので注意を要する。
収用権限を、総理大臣ないし主任の大臣に属せしめるか、地方公共団体の長
(又はその機関)に属せしめるかは、専ら法律が決めることである。
この点についての、原告の見解は必ずしも明確ではない。
被告は、右理解に立って、土地収用法一七条一項、二項は、事業認定権限を建
設大臣と、都道府県知事に配分した、と解するものである。
2 原告は、「事業の認定は、憲法二九条三項の規定の趣旨に基づき設けられた制
度であり、すべての国民に対して公平にされなければならないから、統一的、一
元的に行われることが必要である」(四、五頁)と主張する。
しかし、事業認定が「公平」になされなければならないことと、事業認定が
「統一的、一元的」に行われることとは、同一ではない。原告の主張は、この点
で論理の飛躍がある。
土地収用法二〇条は、事業の認定の要件として次の四つを定める。
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(1) 事業が、第三条各号の一に掲げるものに関するものであること。
(2) 起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。
(3) 事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。
(4) 土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること。
右四つの要件のうち (1)は、三条各号への該当性の判断であるから、事業認定
権者の裁量の余地がないものである。従って、その意昧では全国で「統一的、一
元的」に行われなければならないものである。
しかし、その他の (2)ないし (4)の判断は、事業認定権者に一定の裁量権が与
えられているものである。これは、事業認定権者に、それぞれの立場から、例え
ば建設大臣は国の立場に立って、知事は地方の立場に立って、事業認定をするこ
とを認めるものである(土地収用法二八条は、知事が事業認定を拒否しうること
を認めている)。
事業認定権者がそれぞれの立場に立って、事業認定を行ったからといって、事
業認定が不公平となるものではない。むしろ、実質的な財産権の保障が図られる
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ものである。
例えば、A県での道路用地又は学校用地の強制収用とB県での道路用地又は学
校用地の強制収用とでは、その地域の道路事情、住宅・産業事情又は教育事情、
学校の所在状況等によって前述の (3)、 (4)の判断が異なるのが当然であること
を考えると、容易に理解できることである。
ちなみに、財産権の規制は、全国統一的、一元的に行われる場合もあり、又条
例等により地方公共団体の地域の事情に即して行われる場合もあることは、周知
のとおりである。事業認定が財産権に対する規制であることを理由に、事業認定
が統一的、一元的に行われなければならないことはない。
ところが、原告は、事業認定は全国で「統一的、一元的」に行われる必要が存
するとして、[したがって、右事業の認定の事務は、都道府県に委任されること
により、都道府県限りの責任において、その地方の実情に応じて決定されるべき
事柄ではない。」と短絡する。
しかし、この論理が飛躍したものであることは、右に指摘したとおりである。
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3 原告は、事業の認定が機関委任事務である形式的理由として、地方自治法一四
八条二項、別表第三、一、(百八)を挙げるが、原告も指摘するように「地方公
共団体の機関は、右各別表に基づいて初めて当該機関委任事務を処理する義務を
負うものではなく、個々の法令に基づいて当該機関委任事務を処理する義務を負
う。換言すると、機関委任事務の存否は、右別表の記載の有無だけによって判断
されるべきものではない。」(二頁)のである。
地方自治法二条六項二号は、「土地の収用に関する事務」を地方公共団体の事
務と定める。事業の認定は、「土地の収用に関する事務」そのものであるから、
地方公共団体の事務(団体委任事務)そのものである。
ちなみに、総務庁行政監察局作成にかかる「国の関与現況表」によると、土地
収用法一六条の事業認定は、「団体事務」に分類されており、国においても事業
認定事務を地方公共団体の事務として取り扱っているものである。
4 土地収用法二七条は、知事が事業認定を拒否するか、一定期間内に行わない場
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合に、建設大臣が事業認定を行うことを認めている。これは、右一定の場合に事
業認定権を建設大臣に付与することを定めたものであり、本来的に収用権又は事
業認定権が建設大臣にあることを示すものではない。
原告は、右規定を建設大臣が本来的に収用権又は事業認定権を持つことの根拠
にしようとするものであるが、相当でない。法律が、わざわざ一定の条件のもと
で建設大臣に事業認定権を認めると規定するのに、その条件がない場合(この場
合、知事が事業認定権を有する)にまで「本来的に」建設大臣が事業認定権を有
すると解するのは、明文に反する。
5 又原告は、都道府県知事の事業認定処分については、建設大臣に審査請求をす
ることができる(一三〇条一項、一三一条二項)ことを理由に、「都道府県知事
の事業の認定も国が収用権の主体であることを前提としている」とする。前述し
たとおり、この点については、何ら見解の相違はない。原告が、このように主張
するのは、収用権が国に属することと、収用権限を建設大臣が有することとの違
いを忘れ、これを混同しているためとしか言いようがない。思うに、原告は、建
設大臣に対し審査請求を行う規定が存することを理由に、建設大臣を事業認定事
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務についての上級機関と解し、事業認定事務は、機関委任事務だと主張したかっ
たものかと推測される。
しかし、右規定は、不服申立ての相手方を建設大臣としたものであり、審査の
対象となった事務が、機関委任事務であることを示すものではない。
行政不服審査法五条は、「処分庁に上級行政機関があるとき」(一号)、又は
「上級行政機関がない場合であって、法律(条例に基づく処分については、条例
を含む)に審査請求をすることができる旨の定めがあるとき」(二号)に審査請
求ができると定める。
従って、事業認定処分について、建設大臣に審査請求をすることができる旨の
規定が存することから、ただちに、建設省が上級機関と解することはできない。
例えば、地方自治法二四四条の四は、知事がなした公の施設を利用する権利に
関する処分について、不服がある者は、自治大臣に対して審査請求ができること
になっているが、公の施設を管理する事務は、国の機関委任事務でないこと、を
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見れば容易に理解できる。
審査請求は、行政手続上の不服申立手続を定めるものであり、上級機関を定め
るものではない。
よって、右規定を理由に、事業認定事務を国の機関委任事務と解することはで
きない。
6 以上のとおり、収用権が国に属することは、立会・署名が機関委任事務である
か否かを論じるに当たって、全く関係のないものである。
三 裁決事務の性格について
1 裁決事務が、公平に行われなければならないことは、当然のことである。
しかし、裁決事務が、全て統一的、一元的に処理されなければならない必然性
はない。むしろ、事務の内容によっては、地域の実情にそって処理されるのが適
当なものも存する。土地収用法四三条一項ただし書きの「意見書の受理」や同法
四六条の「審理」の進め方等については、地域の実情に則して収用委員会の裁量
に委ねられているものである。
従って、「統一的、一元的」に処理されねばならないことを理由に、裁決事務
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を国の機関委任事務と解するのは、論理の飛躍である。
2 又裁決に対して、建設大臣に審査請求をすることが認められている(一二九条)
ことを理由に、建設大臣を上級機関と解し、裁決事務を国の機関委任事務とする
のは、前述のように(二、6)理由がない。
ちなみに、建設大臣が裁決を取消得るのは、裁決に違法があったときであり、
収用委員会に委ねられた裁量権を侵害することは、許されていない。
3 被告は、答弁書で主張したとおり、土地収用法は、裁決事務を知事の所轄の下
の収用委員会に配分し、それを管理・処理する権限を付与した(団体委任事務)
と解するものである。
このように解することが、収用委員会を中立機関とした土地収用法の法構造に
もっとも合致し、憲法の趣旨にも沿うものである。
四 事業の認定及び裁決に「付随する手続」について
1 原告は、「事業の認定以外の都道府県知事の収用事務は、いずれも事業の認定
及び裁決に付随する手続であり、最終的に土地収用を適正に実現するための一連
の手続である。」と主張する(六頁)。
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後段の指摘は、そのとおりであり格別問題はないが、前段の「事業の認定及び
裁決に付随する手続」と述べる点は、問題である。
「付随する手続」とは、何を意昧するのか明らかでない。
「事業の認定以外の都道府県知事の収用事務」は自治事務なのか、又は機関委
任事務なのかを問題としている文脈で、右主張がなされていることを考えると
「付随する手続」とは「事業の認定及び裁決と同じ法的性格を持つ手続」という
趣旨で使用していると推測される。そうだとすると、何故、事業の認定以外の都
道府県知事の収用事務が「事業の認定及び裁決と同じ法的性格を持つ手続」とい
いうるのか、又同じ法的性格を持つとすると「事業の認定」と同じなのか、「裁
決」と同じなのかが、説明されなければならない。
この点こそ、本案前の抗弁の最大の争点なのである。
ところが、原告は、この最大の争点について、「付随する手続」と述べるだけ
で何ら実質的な説明をしない。これは、原告が被告の主張に反論しえないことを
自認したも同然である。
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原告は、「具体的な事務が機関委任事務に該当するか否かは、当該法令(土地
収用法)の解釈によって決まることになる。」と述べている(四頁)ものである
から、原告の立場に立っても、事業の認定以外の都道府県知事の収用事務につい
て、それぞれの個々の事務毎に、何故その事務が機関委任事務に該当するか否か
を決めなければならない。
ところが、右のように、原告は実質的な説明をしない。
2 又原告は、他方で、別表第三、一、(百八)に例示された「事業の準備のため
の他人の土地への立入りの許可等の事務」と「三六条五項の署名押印等の事務」
とは「実質的に異なる訳でもない」(七頁)と主張するが、何故実質的に異なら
ないというのか、その理由を明らかにしない。
被告は、答弁書で、立会・署名は、起業者の恣意的調書作成を抑止し、土地所
有者等の財産権を保障するための適正手続の一つとして定められたことを明らか
にし、土地所有者等の財産権を侵害ないし規制する「事業の準備のための他人の
土地への立入りの許可等」とは、その法的性質が異なることを指摘し、地方公共
団体に属する事務(自治事務)と解すべきことを明らかにした。
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右の点については、被告第三準備書面においても、詳しく述べたところである。
原告は、いとも簡単に「事業の認定以外の都道府県知事の収用事務は、いずれ
も事業の認定及び裁決に付随する手続」とか、「事業の準備のための他人の土地
への立入りの許可等の事務と三六条五項の署名押印等の事務とが実質的に異なる
訳でもない」等というが、事業の認定以外の都道府県知事の収用事務は、それぞ
れ固有の役割と意義をもつものであり、十把一からげに「付随する手続」と評し
うるものではないし、又立入りの許可等が財産権を侵害ないし規制するものであ
り、立会・署名とその法的性格を異にすることは一見して明らかである。
3 ちなみに、原告は、別表三、一、(百八)の「・・・代執行をする等の事務を
行うこと」という記載の「等」の中に、立会・署名が含まれると主張する。
しかし、「等」は同種のものを含むものであり、「立入りの許可等」と立会・
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署名が同種のものであって初めて「等」に含むと解する余地が生ずるものである。
前述のとおり、立会・署名は「立入りの許可等」とは同種の事務ではないので、
右「等」に含めるのは無理である。
又右別表の記載の仕方、すなわち土地収用法が、第二章で「事業の準備」を規
定し、第三章で「事業の認定等」、第四章、第一節で「調書の作成」を、第七章
で「収用又は使用の効果」を定めているにもかかわらず、右別表が「事業の準
備」、「事業の認定等」、「収用又は使用の効果」の章の事務については規定し
ながら、第四章の「調書の作成」について記載していないことは、むしろ、同表
が立会・署名を除いたと解するのが文理上、自然である。
なお、別表に揚げられている事務を当然に機関委任事務と解すべきかという間
題はあるが、別表に揚げられていない事務を機関委任事務と判定するには慎重で
なければならず(阿部照哉編「地方自治大系2」嵯峨書院一九九三年・芝浦義一
執筆部分の一六九頁)、少なくとも別表は、国の有権的判断を地方に対して提示
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するという機能を期待されていることは間違いない。
五 駐留軍用地特措法について
1 駐留軍用地特措法は、土地収用法の一定の条項を適用するので、土地収用法に
ついての前述の指摘は、同法の立会・署名にもそのまま当てはまる。
2 別表三、一、(三の四)の「等」についても、(百八)の指摘と同様のことが
いえる。
よって、原告の反論は、いずれも理由がない。
六 「被告の主張に対する反論」について
1 公共事務について
原告は、公共事務は、「地方公共団体の存立のためにする事務のほかは」「い
ずれも非権力的な給付行政である」と指摘する。その点は、そのとおりである。
被告は、立会・署名が当該地方の土地に関する事務であり、且つ起業者の恣意
的調書作成を抑止し、土地所有者等の財産権を保障する適正手続の一つとしての
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事務であることを指摘するにすぎない。
地方公共団体は国と同様に、住民の財産権、人権を保障する公的責務を負うも
のである。このことは、地方自治法二条三項が、地方公共の秩序を維持し、住民
及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること(一号)、清掃、消毒、公害の
防止、風俗又は清潔を汚す行為の制限その他の環境の整備保全、保健衛生及び風
俗のじゅん化に関する事項を処理すること(七号)、防犯、防災、罹災者の救護、
交通安全の保持等を行うこと(八号)、未成年者、生活困窮者、病人を救助等を
行うこと(九号)等を定めていることからも明らかである。
土地所有者等の財産権を保障する適正手続としての性格をもつ立会・署名は、
右の意昧で、地方公共団体の本来目的とする事務と評すべきものである、と被告
は指摘しているにすぎない。
2 自治事務
市町村長又は知事の立会・署名権限は、土地収用法三六条の規定なくしては存
しないものであるから、その意昧では、立会・署名権限は、法律によって付与さ
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れた事務である。
地方自治法二条六項二号は、都道府県が処理する事務の一つとして「土地の収
用に関する事務」を列記するが、立会・署名が「土地の収用に関する事務」であ
ることは明らかであるから、右の定めからすれば立会・署名は地方公共団体に属
する事務、いわゆる自治事務そのものということになる。
もし、右の定めとは異なり、立会・署名が自治事務でないというならば、右規
定とは異なる特別法あるいはそのような合理的解釈が可能な根拠の存在が示され
なければならない。原告が地方自治法のこの規定について全く触れないのは、理
解に苦しむ。
地方自治法二条一二項が「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本
旨に基いて、これを解釈し、及び運用しなければならない」と規定していること
から明らかなように、地方公共団体に関する法令の規定である土地収用法三六条
五項は、地方自治の本旨に従って解釈されなければならない。
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被告が答弁書、第三準備書面等で詳述するように、土地収用法三六条五項の立
会・署名は、企業者の恣意的調書作成を抑制し、土地所有者等の財産権を保障す
るための適正手続としての性格を有するものであり、このように解することが、
立会・署名を機関委任事務と解するより、最も地方自治の本旨に従った解釈とい
えよう。
この側面から見ても、被告の主張は正当である。
3 立会・署名を自治事務とすることの合理性について
被告は、起業者の恣意的な土地・物件調書の作成を抑制し、土地所有者等の財
産権を保障する者を地方公共団体としたのは、合理的である、と解するものであ
る。
ところが、原告は、これを批判する。
それでは、原告は、法が立会・署名者を地方公共団体としたことは、合理的で
ないと主張するのであろうか。立会・署名者を地方公共団体とした理由を、国は
どのように説明するのであろうか。
土地収用法は、土地所有者等が立会・署名を行わなかった場合の立会・署名者
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を、慎重に二層に定め、第一の立会・署名者を市町村(長)、第二の立会者を知
事とした。起業者が、仮に県の場合でも、市町村長が立会・署名を行うので有効
にチェック機能は働く。又逆に、市町村(長)が起業者の場合には、第二の立会・
署名者である知事が立会署名を行う(ことが予定されている)のでチェック機能
が働く。土地収用法は、起業者が市町村(長)の場合は、市町村(長)が法の趣
旨を理解して、立会・署名を行わず、知事に立会・署名を行わせることを期待し
ていると考えるのが妥当である。土地収用法は、このようにして立会・署名の持
つ「起業者の恣意的調書作成の抑制」及び「財産権保障のための適正手続の保障」
の目的を実現しようとしていると解される。
確かに、起業者が県の場合で、市町村長が署名を行わない場合には、起業者と
立会・署名者が同一となることは、原告指摘のとおりである(起業者が市町村で、
市町村長が署名行う場合も、同様の事態が生ずる)。これは、土地収用法が立会・
署名の趣旨を徹底していないことを示すものである。
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しかし、そうだからといつて、立会・署名者を地方公共団体の長とし、市町村
長と知事による重層的チェックを図ろうとしたことの意義が失われるものではな
い。
4 裁決事務について
裁決事務を誰に配分して、管理・執行させるかは、前述のとおり、法律が定め
るものである。土地収用法五一条は、「この法律に基づく権限を行うため、都道
府県知事の所轄の下に、収用委員会を設置する」と明記しているのであるから、
裁決事務は、都道府県知事の所轄の下に設置された収用委員会に配分されたと解
するのが自然である。
右明文に反して、裁決事務が国の行政機関(建設省)に配分されたと解する根
拠は、存しない。
原告の主張の誤りは、裁決事務の源の収用権が「国」に存することから、ただ
ちに、裁決事務を行う者も建設大臣だと短絡するところにある。
しかし、被告が再三指摘するように、収用権が国に属することと、それに関す
る事務、例えば事業認定事務又は裁決事務を誰に行わせるかは、別個の問題であ
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る。原告は、この点を混同している。
被告は、収用委員会の中立性を保障するため、土地収用法が裁決事務を都道府
県知事の所轄の下に設置された収用委員会に配分したと解することが、国の行政
機関の指揮監督権を明確に否定することになり、土地収用法の構造にもっとも合
致する、と主張するものである。
第二 主務大臣について
一 原告の二重の地位
原告は、本件においては駐留軍用地特措法に基づく強制使用申請者(起業者)
としての地位と同法に基づく強制使用認定権者としての地位と二重の地位を有し
ているので、彼比混同しないことが肝要である。
原告が主張する防衛庁設置法五条(防衛庁の所掌事務)二五号「駐留軍の使用
に供する施設及び区域の決定、取得及び提供に関すること」、同法六条(防衛庁
の権限)一四号「駐留軍に対して施設及び区域を提供し並びに駐留軍のために物
品及び役務を調達すること」、同法四二条(防衛施設庁の所掌事務)「五条・・
・・第一五号から第四〇号までに揚げる事務等をつかさどること」、同法四三条
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(防衛施設庁の権限)「防衛施設庁は、前条に規定する所掌事務を遂行するため、
第六条・・・・・第一四号から第三四号までに揚げる権限を行使する」の各規定
は、起業者としての地位に基づく事務の所掌及び権限を定めるものである。
従って、右規定の存在を理由に、事業認定事務を総理府の所掌事務とし、事業
認定事務の処理権限者を総理大臣と解することはできない。まして、右規定を理
由に、立会・署名を総理府の所掌事務とし、その権限者を総理大臣とすることは
できない。
二 立会・署名についての主務大臣
立会・署名が、仮に機関委任事務だとすると、その主務大臣は、誰かがここで
の間題である。
原告は、この点について見解を明らかにできないでいる。もつともなことであ
る。
駐留軍用地特措法は、土地収用法の特別法であるが、同法一四条で土地収用法
の一定の条項を適用する旨定め、同法施行令四条で読み替え規定を置いている。
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同読み替え規定によると、土地収用法一二九条の「建設大臣」は、読み替えら
れていないが、同法一三一条二項の「建設大臣」は「内閣総理大臣又は建設大臣」
と読み替えられている。
右条文は、つぎのようになっている。
一二九条 収用委員会の裁決に不服がある者は、建設大臣に対して審査請求
をすることができる。
一三一条二項 建設大臣は、事業の認定又は収用委員会の裁決についての異
議申立て又は審査請求があつた場合において、事業の認定又は裁
決に至るまでの手続その他の行為に関して違法があつても、それ
が軽微なものであつて事業の認定又は裁決に影響を及ぼすおそれ
がないと認めるときは、決定又は裁決をもつて当該異議申立て又
は審査請求を棄却することができる。
右読み替え規定から明らかなように、裁決にたいする審査請求は、駐留軍用地
特措法においても、建設大臣に対して行われることとされている。
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又総理大臣が行う駐留軍用地のための事業認定に対する異議申立ては、総理大
臣に対して行われるものとされている。
これは、駐留軍用地特措法において読み替えられていないものについては、一
般法たる土地収用法の規定がそのまま適用されることを示すものである。
沼尻元一氏は、時の法令六二号における駐留軍用地特措法の解説において、
「このような手続を定める法律としては、すでに、一般法として土地収用法があ
り、特別法として鉱業法、森林法、都市計画法等があるのであるが、標記の法律
は、これらの特別法の一に当たるわけで、原則として土地収用法の規定によって
駐留軍の用に供する土地建物等を使用、収用することとし、例外的に特殊の事情
によってこの原則によりがたい点についてだけその特例を認めることとしている。
すなわち、土地を収用しうる事業、土石砂れきの収用、事業の認定、非常災害の
際の土地の使用等に関する規定を除いては、起業者を調達局長(当時)と読み替
えて土地収用法の規定が適用されることとなる」(三五頁)と述べているが、正
当である(なお、正確にいえば森林法の場合は「適用」でなはく「準用」である
が、右の論旨は妥当である)。
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そうすると、駐留軍用地特措法には、立会・署名について、これを総理大臣の
所掌する事務と定める特別の規定はないから、一般法たる土地収用法の規定に基
づき立会・署名は建設大臣の所掌する事務となる。
原告の主張では、立会・署名が何故総理大臣の所掌する事務となるのか、実質
的な理由と法令上の根拠を説明したことにならない(原告が説明しているのは、
ただ事業認定が総理大臣の所掌事務となるという点だけである。)。
三 先例
改正前の駐留軍用地特措法に基づく立会・署名について、国はその所管を建設
省と解し、回答した行政実例が存する。
一九五五年に山形県知事が、改正前の駐留軍用地特措法に基づいて仙台調達局
長が進めていた使用手続において、県知事指定の吏員による「立会並びに署名等
について、疑義があり、このまま署名をなしては失当のそしりを受け将来紛争の
禍根を残す懸念」があるとして、知事が照会したのに対し、建設省は、一九五五
年(昭和三〇年)一〇月二八日建設計形第九五号「山形県知事あて計画局長回答」
にて回答をなした事例が存する(土地収用判例裁決例集、一九六〇年、港出版)
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右行政実例からも明らかなとおり、本件立会・署名が仮に機関委任事務だとし
たら、その主務大臣は原告ではなく、建設大臣となるものである。
四 起業者としての訴訟提起
前述のとおり、原告は、起業者としての地位と事業認定権者としての地位と二
重の地位を有する。
従って、仮に立会・署名が機関委任事務だとしても、原告は起業者としての地
位に基づき、知事の不作為又は作為につき不服の場合は、行政事件訴訟法に基づ
き機関訴訟以外の訴訟を提起しうるものである。
原告が「機関訴訟」の名の下に、裁判所に対して求めている裁判は、知事が土
地収用法三六条五項に基づく具体的な審査権(判断権)の行使について介入する
ものである。それは、「国の機関」として知事に付与された「権限の範囲」を争
うものではなく、知事に立会・署名を行う権限が存することを認めた上で、その
行使の仕方(判断内容)の違法性を争うものである。
従って、原告が機関訴訟の名目で争う訴訟物と原告が起業者の地位に基づき提
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起しうる抗告訴訟等の訴訟物とは同一である。
被告が、「原告は、監督者の立場で機関訴訟をおこすのではなく、起業者の立
場で抗告訴訟又は当事者訴訟をおこすべきであった」と主張するのは、このこと
を指摘するものである。