求釈明書(一)
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平成七年(行ケ)第三号職務執行命令請求事件
原 告 内 閣 総 理 大 臣
村 山 富 市
被 告 沖 縄 県 知 事
大 田 昌 秀
求 釈 明 書
一九九五年一二月二二日
右被告訴訟代理人
弁 護 士 中 野 清 光
外一五名
福岡高等裁判所那覇支部 御中
被告は、本件訴状記載の請求の趣旨及ぴ原因について、原告の主張内容を明確に認識
した上で、これに対する被告の主張を明らかにし、展開したいと考える。そこで、左記
の点について、原告の主張を明確にされるよう釈明を求める。
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記
一 請求の趣旨記載の立会及び署名押印の期限と場所に関する根拠と妥当性について
1 原告は、請求の趣旨で、土地・物件調書を作成するにつき必要とされる立会人の
指名と署名押印について、その期限を判決正本の送達を受けた日から三日以内(休
日は除く)とし、その場所を那覇防衛施設局としている。
2 この立会・署名は、土地・物件調書の正確性や真実性を保障し、担保するための
ものである。従って、訴状別紙目録記載の各土地(「本件各土地」という)につい
てその所在、形状、物件の有無等の利用状況等を正確に把握する必要がある。多く
の土地所有者が署名を拒杏したり、異議を申し立てているのには、法律上起業者の
義務とされている現地での立会をさせなかつたりして、署名の前提となるべき土地
の形状等について、土地・物件調書の記載の正確性が確認できなかつたという事情
が存するからでもある。にもかかわらず、原告が請求の趣旨で被告に対して求めて
いるのは、土地所有者に求めたのと同じく現地での立会・照合抜きの机上だけの形
式的な「立会」・署名なのである。土地所有者が確認できない形状等について、市
町村長や知事が確認できるわけがない。しかも三日間で、各土地の所在地ではない
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那覇防衛施設局において形状等の真否や正確性を判断できるとするのは言語道断と
いうべきである。
3 そこで、原告に対し、次の点を明らかにされるよう釈明を求める。
(1) 右立会を求める場所をなぜ本件各土地の現地でなく那覇防衛施設局としたの
か、本件各土地の現地でなく那覇防衛施設局を選択した具体的理由
(2) 右立会を求める期限を三日間とした具体的理由
二 土地所有者に対して予約締結の申込みをした賃貸借契約及び予約契約の内容と交渉
の経緯について
1 原告は、「別紙物件目録3記載の楚辺通信所に係る土地について」「土地所有者
に賃貸借契約の予約締結の申込みをしたが、再三にわたる交渉にもかかわらず、予
約締結の承諾が得られなかった」と述べている(請求の原因一項2、一〇頁)もの
の、それ以上の具体的な主張がみられない。
2 しかし、右土地の所有者が、一九九六年三月三一日をもつて満了する賃貸借契約
について、満了後の新たな契約については予約に応じないというのであるから、そ
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こには何らかの事情があると思われる。強制使用は、仮にこれを認めるとしても土
地所有者等の合意がどうしても得られない万やむを得ない場合に限って例外的に許
されるはずのものである。そうすると、合意をとりつけようとした賃貸借契約とそ
の予約の内容が違法・不当でなく合理的なものであることは、強制使用の前提とし
て最小限度の要件になるのは当然のことである。
3 そこで、次の点を明らかにされるよう釈明を求める。
(1) 右土地所有者に対して申込みをした賃貸借契約及びその予約の内容、特に使用
目的と期間、特約の有無と、特約があれぱその内容について
(2) 予約締結を交渉した時期と内容及びこれに対する右土地所有者の回答の内容と
態度について
三 本件各土地を強制使用の対象とすることの必要性、適正性、合理性について
1 原告は、本件各土地は、「なお引き続き駐留軍用地として提供する必要があり、
これらの土地を駐留軍の用に供することは適正かつ合理的である」(同一項3、一
〇頁)とし、また「いずれも我が国が日米安保条約及び地位協定上の義務を履行す
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るために、合衆国軍隊に対し、その施設及び区域として沖縄の本土復婦後二〇年以
上も継続的に提供してきた土地であり、かつ、今後も引き続き提供する必要がある
土地である」(同四項4、一八頁)と主張する。
2 原告のこの主張は、駐留軍用地特措法三条の定める必要性の要件についても「適
正かつ合理的」との要件についても、何ら具体的な説明をしでいない一方的、形式
的なものである。これらの規範的評価を要する要件がそれぞれ充たされるためには、
それを基礎づける各種の事実が本件各土地全てのそれぞれに対して存在しなけれぱ
ならないことは当然である。原告が唯一主張している事実は、本件各土地が「沖縄
の本土復帰後二〇年以上も継続的に提供してきた土地であ」ることだけであり、そ
れだけでは要件具備の有無を判断しようがない。
しかし、本件職務執行命令が適法か否かを判断するにあたっては、本件各土地の
強制使用認定のための要件が具備されているかどうかが不可欠の判断要素となって
いる。違法な強制使用認定に基づいて知事に対して土地・物件調書への署名押印を
求めた場合、知事がそれを拒むのは何ら違法なことではないからである。従つて、
原告としては、知事に右署名押印を求めている以上、右の使用認定の要件がすべて
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の土地について具備していることを明らかにしなければならない。
本件の場合、土地所有者が契約を拒否し、土地・物件調書への署名も拒否し、更
に市町村長まで署名を拒否したのである。そのうえ被告知事に至っては、総理大臣
名による勧告・命令を経、全く異例の長時間にわたる総理・知事会談を経てもなお
応じられないとして拒否してきた経緯を踏まえての大問題である本件において、国
ともあろうものが、このような形式的な通り一片の抽象的主張で事足れりとするこ
とが許されていいはずがない。
3 そこで、原告に対し、次の諸点について釈明を求める。
(1) 駐留軍用地特措法三条における、駐留軍の用に供するため土地等を「必要とす
る場合」との要件について、その具体的内容と判断基準についてどのように考え
ているか。
(2) 駐留軍の用に供するための土地を具体的に特定するには、日米合同委員会にお
ける協議と合意が必要とされていると思われるが(地位協定二五条〉、本件各土
地について、沖縄施政権返還時の日米合同委員会では、それぞれ個別具体的にど
のような必要性に基づいて提供されることになったのか。
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本件各土地の所在する施設及び区域について、地位協定二条aにいう協定内容
を開示されたい。
(3) 本件各土地について、日米合同委員会では、提供期間が定められているか。定
められているとすれば、その期間及びその期間が定められた理由。定められてい
ないとすれば、提供期間を定めなかつた理由。
(4) 本件各土地について、日米合同委員会では、それぞれ使用目的及び使用条件に
ついてどのように定められているか。また、その使用目的及び使用条件は、具体
的にどのような理由に基づいて定められたのか。
(5) 今回の本件各土地の強制使用認定(「本件使用認定」)にあたって、それぞれ
の土地の必要性の有無については、いつ誰がどのように判断したのか。それにつ
いては米軍との協議を行ったのか。行ったのであれば、その時期と内容。
(6) 本件各土地の必要性について、単に必要というのでなく、必要性の具体的内容
について各土地毎に、駐留軍のためのいかなる使用目的(兵舎とか兵器庫、駐
車、劇場、ゴルフ場用地等々)をもっているのか、その目的のためにどうして必
要不可欠なのか、その位置、形状、面積等との其体的関連を示してかつ、いつま
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で必要なのか期間を含めて明らかにされたい。
(7) 本件各土地について、「沖縄の本土復婦後二〇年以上も継続的に提供してきた」
という事実は、「必要とする場合」(三条)との要件該当性の判断にあたって具
体的にどのように関連しているのか。また、原告は右事実が「適正かつ合理的」
との要件に関わる事実と考えているのか。そうであるならばその要件該当性判断
にあたって具体的にどのように関連しているのか。
(8) 駐留軍用地特措法三条にいう「適正かつ合理的」との要件の具体的内容とその
判断基準についてどのように考えているか。本件各土地を駐留軍の用に供するこ
とがなぜ「適正かつ合理的」であるかということについて、各土地毎に具体的に
明らかにすること。
(9) 原告は、被告などの要求に応える形で、かねてから沖縄基地の整理縮小に向け
た見直しを言明してきたが、本件各土地を含め、沖縄の米軍基地について、どの
ような見直しをし、整理縮小を行ってきたか。見直しを行ったけれども本件各土
地の強制使用を「必要」、「適正」、「合理的」と判断したのであれば、具体的
な経過と根拠を示して明らかにされたい。
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(10) 地位協定二条三項は、合衆国軍隊が使用する施設等は、「必要でなくなつったと
きは」返還しなければならないと定め、この必要性の有無に関し、日米両政府
は、「返還を目的としてたえず検討」することになっている。ボン協定四八条一
項、五項では、「軍は、使用する土地の数と規模が必要最小限に限定されている
ことを保証するために、絶えず土地の需要を点検する。共通の防衛任務を考慮し
た上で、ドイツ側が土地を使用することによって得る利益が大きいことが明白な
場合、明渡請求に対し、軍は適切な形で応ずる。」とされている。また、地位協
定の実施に伴う国有財産の管理に関する法律七条によれば、国有財産を駐留軍用
地に提供しようとするときには、あらかじめ関係行政機関の長等の意見を聞かな
ければならず、土地を提供する場合の基地予定地周辺の住民の不利益を考慮すべ
きことが前提にされ、その不利益によっては土地の提供自体も許されないし、す
でに提供している土地は返還されなけれぱならないということが想定されてい
る。これら規定と同様に地位協定二条三項における「必要性」の判断について
も、土地を使用する側と提供する側の相互の「必要性」「利益・不利益の衡量」
がたえず検討されるべきであると思われる。この点について原告の見解はどう
か。土地を提
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供する側の「必要性」も判断材料となるのであれば、原告はその返還のための
「必要性」についてこれまで具体的にどのような検討をしできたのか。
四 土地所有者等の立会・署名押印拒否の正当性の有無について
1 原告は、那覇防衛施設局長が土地・物件調書を作成したうえ、土地所有者等に土
地収用法三六条二項に基づく立会・署名押印を求めたが、指定された日時、場所に
出頭しなかったり、署名押印を拒否された旨主張する(同三項1 、一二〜一五頁〉。
2 しかし、被告の本件立会・署名に関して本求釈明一項において述べたとおり、土
地所有者等に対して立会・署名押印を求めた趣旨は、土地・物件調書の内容の真実
性及び正確性の確保のためであるところ、那覇防衛施設局長は、土地所有者等の当
該土地の現状に基づく確認手段たる現地での立会を認めていない。また、このよう
な取扱は、市町村長や知事に対しても同様である。このような現地立会を認めない
土地・物件調書作成手続は、適正手続を欠くものであって、本件職務執行命令の適
法性に重大な影響を与えると言わねばならない。
3 そこで、原告に対し、次の点の釈明を求める。
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(1) 本件使用認定を受けた各土地について、土地所有者と関係人、各市町村に対し
てそれぞれどこで立会・署名押印を求めたのか、その場所と本件各土地の所在地
との関係を明らかにすること
(2) 本件各土地について、立会等が本件各土地の所在地であってはならない理由、
現実に立会等を求めた場所でなければならない理由、その他本件各土地の現地で
なく現実に立会等を求めた場所を選択した積極的理由をそれぞれ具体的に明らか
にすること。
五 地籍不明地の立会・署名について
1 在沖米軍基地のために提供されている土地には、いまだ地籍不明の土地が少なく
ない。地籍不明地は、土地の位置境界が〈ときに土地所有者も)不明であり、正確
な土地調書の作成が本来不可能な土地である。
2 そこで以下の点の釈明を求める。
本件各土地のうちの地籍不明地について、土地・物件調書の作成にあたって土地所
有者に立会、署名押印を求めたとしたら、どのようにして土地所有者に土地の
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形状等について確認させてその正確性を担保させることができるつもりだったか。
六 地方自治法一五一条の二、第一項の要件について(一)
1 原告は、被告が本件立会・署名押印に応じないことについて、『国の事務の管
理若しくは執行が法令の規定…に違反する』場合又は『国の事務の管理若しくは執
行を怠る』場合に該当する」と主張している(同四項2、一六頁)。
2 右の原告の主張は、法令違反と職務懈怠とを「又は」とつなげており、きわめて
曖昧なものとなっている。
3 そこで、原告は、右の要件につき、被告が立会・署名押印に応じないことが、
「法令の規定に違反する」ものと主張しているのか、「管理若しくは執行を怠る」も
のと主張しているのか、仮に法令違反もいうのであれば、いかなる法令に違反してい
るかを説明されたい。
七 地方自治法一五一条の二、第一項の要件について(二)
1 原告は、被告が本件立会・署名押印に応じないことをさして、「被告の法令違反
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ないし職務懈怠を『放置することにより著しく公益を害することが明らか』である」
としている(同四項4、一八頁)。
2 しかし、右要件該当性の記述も、本求釈明書三項で述べた強制使用認定の要件に
関する原告の論述同様、何ら具体的内容のない結論だけの記述であり、法律的検討
に堪えられないものである。訴状で原告が主張していることは、(1)被告が署名を拒
否すると本件各土地の使用権原を国が取得できなくなる、(2)本件各土地は、米軍に
二〇年以上も提供してきた、(3)本件各土地は今後も引き続き提供する必要がある、
(4)したがって、署名拒否を放置すると「著しく公益を害することが明らか」、とい
うことだけである。
他方、被告は、地方自治の本旨に基づき、「住民の安全、健康及び福祉を保持す
る」(地方自治法二条三項)責務を負っている。多発する事件・事故、環境破壊、
地域振興開発の阻害などの沖縄の米軍基地をめぐる実態、その解決のための被告の
基地政策実現のための努力、再三再四繰り返し行ってきた基地の整理・縮小の要求
とこれに対する政府の過去の対応や実績のなさ等に鑑み、被告が本件立会・署名を
行わないことこそ被告の負う責務に叶い、むしろ沖縄と沖縄県民の公益を図るもの
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ということができる。
しかしながら、原告は、「公益」と言うときに、右のような沖縄という地域と地
域住民の立場には何らの言及もなく、そのような考慮は全くされていないのではな
いかとの疑念が生じる。
3 そこで、右要件の具体的該当性について、本件各土地毎の具体的な事情に即して
説明されるよう次のとおり釈明を求める。
(1) 原告は、本件各土地について、どのような「公益」を判断したのか、その「公
益」の判断要素を個別土地毎に明らかにされたい。
(2) 「公益を害する」との判断結果について、本件各土地毎に具体的にその事由を
明らかにされたい。
(3) 公益を害することが「著しい」というが、本件各土地毎に具体的にいかに「著
しい」のかを明らかにされたい。
(4) 著しく公益を害することが「明らか」であるというが、本件各土地毎に具体的
にいかに「明らか」なのかを明らかにされたい。
(5) 右の「著しく公益を害することが明らか」との判断にあたって、前述の沖縄と
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沖縄県民の公益をどれだけ考慮したのか、あるいは考慮しなかったのか。また、
考慮したのであれば、その結果、これら沖縄の基地のもたらす様々な害悪を放置
し、基本的人権の侵害等を引き続き容認してでも駐留軍用地を提供するという結
論なのか、その見解を萌らかにされたい。
八 駐留軍用地特措法三条の「駐留軍の用に供する」との要件等について
1 駐留軍用地特措法三条の「駐留軍の用に供する」というのは、日米安保条約、地
位協定に基づく駐留軍用地としての提供である。そうである以上、この土地を使用
する米軍の軍事行動が安保条約の範囲を逸脱している場合には、軍用地の提供自体
許されないと思われるところ、在沖米軍は、安保条約六条の「極東」の範囲をはる
かに超えて、中東やアフリカにまでその軍事行動の枠をひろげ、機能を拡大強化し
ている。このことは湾岸戦争をはじめとした現実の米軍の行動や種々の米軍関係文
書が示している。特に、この二月に米議会に提出された「東アジア戦略報告」や村
山内閣が決定した「新防衛計画大綱」、そして日米双方が一九九四年一一月から協
議してきた「日米安保の再定義」によれば、二一世紀の未来にわたってこの動向
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(安保のグローバル化〉が進められようとしている。そうすると、本件各土地の提
供はその大元の根拠となる安保条約にも違反していて許されないはずである。
2 そこで、在沖米軍基地が安保条約六条における地域を限定する目的条項の範囲を
超える機能を果たしていることを原告は認めるのかどうか、また、安保条約の目的
を超えた機能を果たしている駐留軍のために本件各土地を提供することが許される
のか、違法ではないのか。違法でないとすれば、この点について原告はいかに説明
するか、その見解を明らかにされたい。