国側 第三準備書面
平成七年(行ケ)第三号
職務執行命令裁判請求事件
原告 内閣総理大臣
被告 沖縄県知事
原告第三準備書面
平成八年二月一六日
右原告指定代理人
川 勝 隆 之
松 谷 佳 樹
植 田 和 男
田 村 厚 夫
富 田 善 範
田 川 直 之
小 澤 正 義
崎 山 英 二
浦 田 重 男
原 田 勝 治
安 里 國 基
久 場 景 一
屋 長 朝 郎
小 澤 毅
林 督
地 引 良 幸
千 田 彰
内 山 孝
西 村 和 敏
里 吉 勝
芦 田 栄 司
小 竹 秀 雄
世 利 隆 司
高 岡 辰 榮
大 石 毅
佐 伯 惠 通
新 城 弘 康
古 波 一 男
宮 国 恵 守
野 島 皓
斉 藤 勝
野 村 庄 一
運 天 常 隆
田 名 弘 明
福岡高等裁判所那覇支部 御中
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第一 被告第二準備書面における主張に対する反論
一 地方自治法二条六項二号について
被告は、地方自治法二条六項二号に「土地の収用に関する事務」が掲げら
れていることを根拠として、事業の認定は、地方公共団体の事務(団体委任
事務)そのものであると主張する。
しかし、都道府県知事の行う事業の認定に関する事務が、その事務の性質
や地方自治法別表第三の一の(百八)で機関委任事務として明示されている
こと等から機関委任事務であることは、原告第一準備書面二2(一)で述ぺた
とおりである。
そして、地方自治法二条六項は、同条三項に例示されている同条二項の事
務のうち、都遵府県の広域的・統一的な事務処理機能等の特性に即して、都
道府県の事務を更に例示的に規定しているが、同条三項は、そのただし書で
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「法律又はこれに基く政令に特別の定があるときは、この限りでない。」と
規定し、三項及ぴ六項に掲げられた事務の中には機関委任事務が含まれるこ
とを明らかにしている。このことは、実際に同条三項及ぴ六項に掲げられた
事務の中には、地方自治法一四八条、別表第三、第四に機関委任事務として
例示されているものが多数含まれていることからも明自である。したがって、
地方自治法二条六項で掲げられている事務が直ちに地方公共団体の事務であ
るということにはならない。
なお、被告は、総務庁行政監察局作成に係る「国の関与現況表」(甲第五
七号証、NO. 3)の「事務の性格」欄に「団体事務」と記載されているこ
とを根拠として、都道府県知事がする事業の認定は団体委任事務であると主
張するようであるが、右の記載は、「被関与者」の事務の性格、すなわち、
「都道府県・市町村」が起業者として行う事務の性格を示したものにすぎな
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い(被告の主張が、「国の関与等事項名」欄の事務が団体委任事務であると
いうのであれば、建設大臣のする事業認定さえ国の事務であることを否定す
ることになり、それが不当であることは明かである。)。
二 審査請求について
1 被告は、都道府県知事の事業認定及び収用委員会の裁決について建設大
臣に審査請求をすることができることを根拠として、これらの事務を国の
機関委任事務と解することはできないと主張する。
ところで、行政不服審査法五条一項一号は、「処分庁に上級行政庁があ
るとき」には一般的に審査請求をすることができると規定している。そし
て、機関委任事務の場合は、主務大臣は都道府県知事の上級行政庁として
の地位を与えられている(国家行政組織法一五条、地方自治法一五〇条)
から、特別の定めがない限り、主務大臣に対して審査請求をすることがで
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きる(南博方=小高剛・注釈行政不服審査法六九ぺ−ジ、塩野宏・行政法
II第二版一四ページ、同・行政法III一二二ぺ−ジ)。
土地収用法は、都道府県知事の行う事業の認定に関する処分については、
行政不服審査法五条一項一号に基づき主務大臣である建設大臣に対し審査
請求をすることができることを前提として、土地収用法一三〇条以下に不
服申立期間等についての特別の定めを置いているから、右各規定の存在は、
都道府県知事の行う事業の認定に関する処分が構関委任事務であることの
根拠の一つになる。
次に、収用委員会は、独立してその載権を行う(土地収用法五一条二項)。
そこで、土地収用法は、手続の適正を期するため、収用委員会の裁決につ
いては、特に建設大臣に対して審査請求ができる旨の規定を置いた(土地
収用法1一二九条。なお、行政不服審査法五条一項二号)。このように、国
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の行政機関に対する審査請求を認めたことは、もともと土地収用権が国家
に属するからであり、右審査請求に関する規定の存在は、裁決事務が国の
事務であることの根拠の一つとなる。
2 被告は、地方自治法二四四条の四が知事がした公の施設を利用する権利
に関する処分に不服がある者は、自治大臣に審査請求をすることができる
と規定しているが、公の施設を管理する事務は、国の機関委任事務でない
から、審査請求をすることができる旨の規定が存在することは、当該事務
が機関委任事務であることの根拠とはならない旨主張する。
なるほど、地方自治法には、自治大臣に対し審査請求ができる旨の定め
が、公の施設に関するものばかりでなく、多くの都道府県如事の処分につ
いても存在する(一四三条三項、一六八条八項、九項、二〇六条一項、二
五五条の二第二項)。そして、これらの事務がいずれも地方公共団体の事
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務であることは明らかであるが、これらの自治大臣に対する審査請求は、
地方自治の本旨を実現するために、特に法律で認められたものである(自
治省設置法三条、同法五条六号、行政不服審査法五条一項二号惨照)。し
たがって、被告の右主張は、失当である。
三 本件署名押印等の事務の性格について
駐留軍用地特措法は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及ぴ安全
保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地
位に関する協定を実施するため、駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用
に関し規定することを目約とする(一条)。したがって、この目的を達成す
るために土地の使用権原を取得する事務は、国の安全保障、外交にかかわる
問題であるから、その一連の手続に係る事務はすぺて本来的に国の事務とい
うことができる。そうすると、その一連の手続に係る事務のうちに都道府県
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知事の処理する事務があったとしても、その事務は機関委任事務と解すぺき
である。
被告は、本件署名押印等の事務が土地所有権者等の財産権を保障する手続
の一つとして定められたとして、これを自治事務と主張するが、仮にそのよ
うな機能が認められるとしても、それは自治事務のみに必要な機能ではなく、
国の事務についても必要な機能であるから、そのことをもって直ちに本件署
名押印等の事務が自治事務であるということはできない。
四 主務大臣について
被告は、駐留軍用地特措法には、土地調書、物件調書の立会・署名押印を
内閣総理大臣の所掌する事務と定める特別の規定はないから、これらの事務
は一般法である土地収用法の規定に基づき建設大臣の所事する事務となると
主張する。
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しかし、そもそも駐留軍用地特措法一四条一項、土地収用法三六条五項に
基づく知事の署名押印等の事務は、駐留軍用地特措法に基づく土地の使用権
原取得手続の一環をなすものであり、この手続にかかわる事務全般を所掌す
る主務大臣が内閣総理大臣であることは、原告第一準備書面第一、三におい
て述ぺたとおりである。
したがって、内閣総理大臣が主務大臣として所掌する一連の手続の一環を
なす右署名押印等の事務のみが切り離されて、建設大臣の所事する事務とな
ると解する余地はない。
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措法の所管庁としてこれに対する回答をしたものではない。
第二 被告の求釈明書(二)について
一 機関委任事務について
1 第一点ないし第四点について
右の点に関する原告の主張の趣旨は、既に原告第一準備書面の第一で述
ぺたところから明らかであるから、釈明の必要はない。
2 第五点について
前記第一の二で述ぺたとおりである。
3 第六点について
前記第一の二で述ぺたとおりである。
4 第七点について
原告第一準備書面の第一及ぴ本準備書面において述ぺたとおりである。
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5 第八点について
右の点に関する原告の主張の趣旨は、既に原告第一準備書面の第一で述
ぺたところから明らかであるから、釈明の必要はない。
二 主務大臣について
1 第一点について
土地収用法三六条四項、五項の事務についての主務大臣は、建設大臣で
ある。
2 第二点について
本件の争点と関係がないから、釈明の必要はない。
3 第三点について
前記第一の四で述ぺたとおりである。
4 第四、第五点について
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本件の争点と関係がないから、釈明の必要はない。
5 第六点について
前記第の四で述ぺたとおりである。