最高裁大法廷判決 補足意見要旨


平成八年(行ツ)第九〇号 地方自治法一五一条の二第三項の規定に基づく職務執
行命令裁判請求事件

            補 足 意 見 要 旨
〔園部裁判官補足意見〕
一 平成三年法律第二四号による地方自治法の改正により、職務執行命令訴訟が主
務大臣による罷免権行使の前提として機能するものではなくなったことからすると、
同訴訟において、裁判所は、当該職務執行命令の発動を必要とするに至った行政の
過程における先行行為については、それに重大な瑕疵があることが明白であるかど
うかを審査すれば足りると理解するのが相当である。本件のような土地等の収用又
は使用手続にかかわる職務執行命令訴訟においては、被上告人が上告人に対し署名
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等の代行を命ずること自体の適法性のみならず、行政の過程における先行行為とし
ての使用認定の瑕疵の重大性が明白であるか否かを判断すべきことは、必要であり、
また当然のことと考える。
二 しかし、本件において、裁判所が、日本国の安全に関する国の高度の政治的、
外交的判断に立ち入って本件使用認定の適法性を審査することは、司法権の限界を
超える可能性があると考える。沖縄県に駐留軍基地が集中していることから生ずる
深刻な問題があることについては、上告人が、沖縄県知事として、切々と意見を陳
述しており、また、原審も適法に確定しているところである。にもかかわらず、私
がこれらの事柄を本件使用認定の瑕疵の重大性が明白であるとする理由としないの
は、右に述べたとおり、司法裁判所の審査に適しない性質の問題が介在していると
認めるほかはないからである。
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〔大野、高橋、尾崎、河合、遠藤、藤井裁判官補足意見〕
 沖縄県に我が国における駐留軍の基地が集中しており、それに伴って、演習によ
る事故や駐留軍の軍人軍属による刑法犯罪が多数発生し、航空機騒音が付近住民の
生活環境に影響を及ぼし、また、基地の存在は同県の地域振興開発の制約要因となっ
ているにもかかわらず、同県における駐留軍基地の整理縮小が十分な成果を挙げて
いないなど、原審の認定する同県の実情に照らすならば、駐留軍基地が同県に集中
していることにより同県及びその住民に課せられている負担が大きいことが認めら
れる。しかし他面、駐留軍基地の存在は、沖縄返還協定三条一項、日米安全保障条
約六条、日米地位協定二条に基づくものであるから、同基地の沖縄県への集中によ
る負担を軽減するためには、日米政府間の合意、さらに、日本国内における様々な
行政的措置が必要であり、外交上、行政上の権限の適切な行使が不可欠である。そ
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れらをどのように行使するかは、沖縄県及びその住民に対する負担の是正と駐留軍
基地の必要性等との権衡の下に、行政府の裁量と責任においてなされるべき事柄で
ある。沖縄県及びその住民の負担が大きいことだけを理由に駐留軍用地特措法の同
県への適用を違憲無効とし、同法に基づく土地の使用認定をすべて無効とするなら
ば、何らの国際的合意や行政的措置もなく、同県における駐留軍基地の存在を法的
に覆滅する結果をもたらすことになるのであって、そのような判断は、司法による
審査の限界を超えるものといわざるを得ない。
 もとより、沖縄県における基地の提供は、ただ行政的外交的配慮のみによってな
されるものではなく、個々の土地の使用認定については、駐留軍用地特措法三条所
定の「適正かつ合理的」の要件を充足することを必要とするのであって、それが一
見明白に違憲、違法でないとしても、それによって自己の権利ないしは法的利益を
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侵害されたとする者が、使用認定又は収用委員会の裁決に対する取消訴訟において、
その瑕疵を主張し、審理判断を受けることができる。しかし、駐留軍基地の沖縄県
への集中を理由とする駐留軍用地特措法の適用違憲、使用認定の無効の主張に対す
る判断は、外交上、行政上考慮すべき問題を彼此検討してなされるべきであるから、
裁判所が一義的に判断するのに適切な事項とはいえない。

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