沖縄県 求釈明書(四)


平成七年(行ケ)第三号  職務執行命令裁判請求事件


                    原 告   内 閣 総 理 大 臣
                          橋  本  龍  太  郎

                    被 告   沖  縄  県  知  事
                          大  田   昌  秀


           求 釈 明 書 (四)


一九九六年三月一一日

                         右被告訴訟代理人
                         弁護士  中 野 清 光
                                 外一五名

福岡高等裁判所那覇支部 御中

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一 釈明を求める理由
 1 本訴訟における重要争点は、知事が立会・署名を行わないことが「著しく公益
  を害することが明らか」という要件に該当するか否かである。
   この「公益」という概念は、規範的評価であり、それ自体は不確定なものであ
  るから、「公益」という評価を成立させるためには、それを基礎づける具体的事
  実(評価根拠事実)が必要である。評価根拠事実については、これを主要事実で
  あると解する見解(主要事実説)と間接事実であると解する見解(間接事実説)
  に分かれているが、いずれの立場も評価根拠事実についての主張責任を認めてい
  る。即ち、主要事実説によれば当事者が具体的事実を主張しなければ当然に主張
  自体失当として排斥されることになる。間接事実説の立場からも、規範的評価概
  念については、その内容をなす間接事実が主要事実の存否を判断するのに、重大
  な影響を持つものについては、主要事実と同様に取扱い、裁判所が当事者の主張
  がない事実を不意打認定することはできないとされている。
   このように、評価根拠事実の主張が必要であるとされているのは、訴訟におけ
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  る攻撃防御の焦点を顕在化させ、当事者が争点を認識して防御活動を行う機会を
  保障するとともに、裁判の焦点を明らかにすることによって裁判所が適切な訴訟
  指揮を行うことを可能にし、充実した審埋を実現させるためである。
   本件において原告は、「公益」という規範的評価を主張しているが、その評価
  根拠事実を具体的に主張しなければ、主張自体失当として、原告の主張は排斥さ
  れなけれぱならない。このとおり、「公益」の評価根拠事実が本訴訟において重
  要な意味をもつ以上、裁判所において、原告に対して釈明を求めるべき義務があ
  ることは当然である。
 2 本訴訟において、公益性に関する原告の主張の要となっているのは、日本国が
  米国に対して、本件各土地を施設・区域として提供する条約上の義務があるとい
  うことである。
   原告は、訴状おいて「我が国が日米安保条約及び地位協定上の義務を履行する
  ために、合衆国軍隊に対し、その施設及び区域として・・提供する必要がある土
  地である。したがって、被告の法令違反ないし職務析怠を『放置することにより
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  著しく公益を害することが明らか』である」(一八頁)として、本件各土地を施
  設・区域として提供することが条約上の義務であるということを公益性に関する
  唯一の根拠として主張した。
   しかし、言うまでもないことであるが、日米安保条約及び地位協定上の義務が
  あるというのは、法的効果であって事実ではない。法的効果は、具体的事実を法
  律要件にあてはめた結果である。訴訟においては、法的効果の前提となる事実の
  存否及び事実の法律要件該当性こそが争点とされるのであり、法的効果のみを主
  張しても全く意味をなさない。例えて言うならば、ある被告人が、何時、何処で、
  具体的に何をしたのかも明らかにせず、刑法上のどの犯罪に該当するのかすら明
  らかにせず、抽象的に、刑法上の犯罪を犯したから処罰せよ、という起訴をする
  のにも等しい暴論である。
   したがって、原告において、本件各土地を施設・区域として提供する条約上の
  義務を発生させる法律要件及びそれに該当する具体的事実を主張しなけれはなら
  ないのである。それ故、被告は、第二回口頭弁論において、条約上の義務を基礎
  づける具体的事実は何であるのか、既に主張されているのであれぱ、訴状ないし
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  第二準備書面の何頁に記載があるのかを釈明するよう求めたのである(なお、使
  用認定に関するだけでなく、公益、公共性に関しても釈明を求めていることは、
  口頭で補充したとおりである。)。この求釈明に対し、原告は一言も発せず、裁
  判長も原告の態度を容認し、その場で釈明するよう被告代理人が発言しているの
  を不当にも制限したが、その際、裁判長が「条約上の義務の内容は具体的にして
  下さい。答えなければ、答えない方が困るだけだから」と発言したところよりす
  ると、当然のことではあるが、裁判所もこの点に関する釈明の必要性自体は認め
  ていた筈である。
 3 被告が第二回期日に求釈明したことに対し、原告はその第四準備書面(二八頁)
  において、「原告第二準備書面第六、三において釈明したとおり」と釈明した。
  しかし、右書面第六、三には「本準備書面第四、三で述べたとおり」とあるが、
  原告第二準備書面第四、三には、何ら具体的事実の主張はない。このことは同書
  面第四、三を見れば明らかであるが、沖縄返還協定及び了解覚書について、念の
  ため付言すると、沖縄返還協定は、その協定中には、返還後も米軍が使用する基
  地の特定はない。沖縄返還協定が、協定中に基地の特定を行わなかったことは、
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  公知の事実である。また、了解覚書は条約ではないから、了解覚書によって条約
  上の義務が発生することはあり得ないし、了解覚書では、施設・区域として使用
  を許すという合意はなされていない。そもそも、沖縄返還協定及び了解覚書は、
  復帰前に締結されたものであるが、施設・区域の使用を許すことは、一国の施政
  権行使である以上、日本国に沖縄の施政権が返還される以前に、沖縄の土地を米
  軍に施設・区域として使用を許す条約を締結することは、法論理上当然に不可能
  である。
 4 ところで、原告は、「六施設の提供を取り決めた日米間の協定書は、甲五六号
  証として次回期日に提出する予定である」と原告第四準備書面二九頁に記載する。
  しかし、甲五六号証記載事項に対応する主張は全くない。被告が、再三にわたっ
  て本件各土地の提供の根拠となる日米間の合意とは何かを求釈明してきたにもか
  かわらずである。
   主張がない以上、甲五六号証を原告が提出しても、主張とは関連性のない証拠
  が提出されたに過ぎないのであり、原告の主張がないまま、裁判所が甲五六号証
  に基づいて何らかの合意を認定することは弁論主義違背として許されない。原告
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  が、甲五六号証をもって日米間の合意を立証しようとするのであれば、まずそれ
  について主張をし、被告にもその主張に対する反論の機会が与えられなけれぱな
  らないことは当然である。

二 釈明事項
 1 原告は、「日米両国間では、本件各土地を含む施設及び区域を提供することが
  合意されて」いると主張するが(原告第二準備書面七〇頁〉、その合意とは、ど
  のような法的根拠に基づいて、何時、日本国と米国の知何なる地位にある者が、
  どのような手続きに従って締結したのか。
   その合意についての主張は、訴状ないし第四準備書面の何処に記載されている
  のか。
 2 外国軍隊の自ゥ国内の土地を基地として使用することは、一国の主権に対する制
  限の最たるものであり、それが例外的に国際法上許されるためには、基地提供の
  合意が存在し、かつ、駐留軍隊が基地の使用条件を遵守する場合に限定される
  (もとより、外国軍隊への基地の提供が受入国の国内法上許容されることが前提
  である。〉。そして、外国軍隊への基地提供は、他国への軍隊の駐留の禁止とい
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  う大原則に対する例外であるから、基地提供合意の存在及び基地の使用条件の遵
  守についての主張、立証責任は、外国軍隊への基地の提供義務を主張する側にお
  いて負担するものである。
   したがって、原告において、本件各土地の米軍に対する提供義務を主張するの
  であれば、提供義務が存在し、提供期間が現在に至っていることを主張しなけれ
  ぱならなず、また、原告において、各基地の使用条件及び米軍がそれを遵守して
  いることも主張しなければならない。
   よって、本件各土地について、日米間の合意では、提供期間及び使用条件はど
  のように定められているのかを明らかにされたい。
 3 原告は、本件各土地ごとに提供を取り決めた文書はないと釈明したが、そうで
  あるとすれば、提供義務のある土地はどのように特定されるのであろうか。
   例えぱ、甲五六号証では、施設名、所在市町村、おおよその土地面積、所有形
  態の記載しかないが、これでは、おおよそ一定の面積を提供すれば足り、特定の
  土地が提供されないからといって、義務の不履行という問題は起こらないことと
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  なる。
   本件各土地が提供義務のある土地であると特定される根拠を具体的に明らかに
  されたい。
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