代理署名拒否訴訟

意  見  書  (原告=国)


平成七年(行ケ)第三号 
職務執行命令裁判請求事件

           原  告   内 閣 総 理 大 臣

           被  告   沖 縄 県 知 事

    意   見   書

 平成八年二月一四日
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          右指定代理人
                  川  勝  隆  之
                  松  谷  佳  樹
                  富  田  善  範
                  浦  田  重  男
                  林        督
                  内  田     孝

福岡高等裁判所那覇支部 御中
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 原告は、被告の一九九六年二月一四日付け「被告本人尋問期日の変更
申立」に対し、左記のとおり意見を述べる。
             記
 裁判所が、平成八年二月九日の第二回口頭弁論期日において、被告申
請に係る被告知事本人を採用し、その尋問期日を同月二三日午前一〇時
と指定告知したことに対し、被告は、同日は第二回沖縄県講会において
代表質問が行われるから、出廷できないので、その尋問期日を三月六日
以降に変更されたい旨申し立てる。
 しかしながら、右変更の申立は、以下の理由により却下されるべきで
ある。
一 そもそも右申立に係る期日の変更は、次に指摘する諸点に照らし、
 民事訴訟法一五二条五項にいう「顕著ナル事由」が存在しないから、
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 これを許すことはできない。
 1 被告は、本件期日変更申立の理由として、平成八年二月二三日は、
  第二回沖縄県議会の代表質間が行われる予定となっており、被告知
  事本人の出席が必要不可欠であるという。
   なるほど、一般論としては、知事の県議会への出席がその職責を
  果たす上で重要であるということはできる。
   しかし、被告の主張によれば、被告知事が本件署名押印等の事務
  の執行を拒否したのは、「沖縄県における米軍基地の実態、それが
  県民生活および県政に与えている重大な支障、国の求めるままに立
  会・署名をなすことが基地の固定化につながるものであること、立
  会・署名に応ずることにより県民の財産権が侵害されること等々の
  諸般の事情を、県民の代表としての立場から総合的に判断し、沖縄
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  県および県民の公益を確保、実現するためである」(被告第一準備
  書面一二一ぺ−ジ二行目から七行目)というのである。
   そうであるとすれば、本件訴談において、被告知事本人が、法廷
  において右の点について供述することは、議会への出席に勝るとも
  劣らないほど重要な公務を遂行することにほかならない。
   他方、被告知事本人の尋問予定時間は二月二三日午前一〇時から
  一二時までの二時間の範囲にとどまる上、議会との調整の余地がな
  いかどうかも明らかにされていない(行政事件訴訟法七条、民事訴
  訟規則一三条参照。)。
 2 そもそも本件訴訟は、事実認定のために証人尋問ないし本人尋問
  をする必要がある訴訟ではなく、主として法律解釈によって判断さ
  れるべき訴訟であるにもかかわらず、被告はあえて被告本人尋問を
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  申請した。
   また、本件訴訟の進行について、裁判所は、これまでに原・被告
  双方の意見を十分に聴取した上、口頭弁論期日の指定をしてきた。
   すなわち、裁判所は、既に平成七年一二月一四日の事前打合せ期
  日において、二月中旬から下旬にかけて人証の集中的な証拠調べを
  行いたい旨の審理方針を原・被告双方に示しているばかりでなく、
  去る二月五日の事前打合せ期日においても、裁判所は、被告の希望
  に沿って、二月二三日を第三回口頭弁論期日と決定し、同日の午前
  一○時から四時まで審理を行うと指定した。
   したがって、裁判所が、二月九日の第二回口頭弁論期日において、
  被告知事本人を採用し、二月二三日の第三回口頭弁論期日において
  その尋問を実施する旨の決定を行う可能性があることは、被告訴訟
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  代理人らも十分に予測できた。
   他方、平成八年第二回沖縄県議会における具体的な議事日程は、
  第二回口頭弁論期日が開かれた二月九日の議会運営委員会において
  決定されたのであり、二月二三日の第三回口頭弁論期日が指定され
  た二月五日の事前打合せ期日の段階においては未だ決まっていなか
  ったのである。
   そうだとすると、被告知事ないし被告訴訟代理人らは、被告知事
  本人の出廷の機会を確保するために、事前又は事後に議会との調整
  を図る、裁判所に対して県議会の概括的な日程を事前に連絡する、
  あるいは被告本人尋問に代えて陳述書を提出するなど必要な措置を
  とるべきであるにもかかわらず、これを怠っているのである。
 3 右に述べた事実関係の下においては、本件申立に係る期日の変更
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  については、 民事訴訟法一五二条五項に規定する「顕著ナル事由」
  は存在しない。
二 裁判所が、右の第二回口頭弁論期日において被告知事本人の尋問期
 日を平成八年二月二三日午前一〇時と指定告知したことにつき、被告
 訴訟代理人らは、同日は第二回沖縄県議会において代表質問が行われ
 るので知事の出廷に差し支えがあるとして反対し、裁判所に対し執拗
 に再考を求めた。
  裁判所は、二回にわたって合議を繰り返された上、裁判所の最終的
 な判断であるとして、既に指定告知した証拠調べ期日は変更しないこ
 と、指定の日時に裁判所に出頭するか県議会に出席ずるかは被告知事
 本人の判断の問題である旨を明確に告げて、閉廷した。
  右のように、裁判所は、第二回口頭弁論期日において、被告が右変
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 更申立で述べている事由を十分に斟酌し検討した上で、右のような判
 断をしたのであるから、今更被告知事本人の尋問期日を変更すべきで
 ない。
  なお、原告は、二月九日の第二回口頭弁論期日において、人証の採
 否に関し、基本的には被告知事本人の尋問も不必要であり、せいぜい
 陳述書を提出すれば足りると考えるが、最終的にその採否は裁判所の
 判断に委ねたい旨意見を述べた。これは、いうまでもなく、被告本人
 が採用されるとずれば、その尋問が二月二三日の第三回日頭弁論期日
 において実施されることを当然の前提とした意見である。仮に、被告
 本人尋問が二月二三日の第三回口頭弁論期日以降に実施されるような
 ことがあるとすれば、特に迅速な審理・判断を要求している地方自治
 法及び職務執行命令等訴訟規則の趣旨に反する。
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  原告は、このような観点からしても、被告本人尋問期日の変更には
 反対であり、変更申請は却下されるべきである。


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