2000年12月19日、米軍の訓練を受けたコロンビア軍対麻薬部隊2個部隊が、コロンビアにおけるコカ栽培の中心地であるプツマヨに到着した。それから6週間、米国から提供されたヒューイ・ヘリコプターがほとんど毎日、左翼ゲリラと右翼準軍組織による攻撃から薬剤空中散布を行う航空機を守るための兵士を運んできた。2001年2月上旬には、6万2千エーカーのコカが破壊され、ワシントンとボゴタの政治家や将軍達は、プラン・コロンビアの最初の薬剤空中散布作戦が成功であったと発表した。
しかしながら、プツマヨの地上では、駆除されたものがコカだけではないことは明らかだった。航空機がまき散らした死をもたらす霧が、目に入る全てのものの上に降りてきて付着するのを、多くのカンペシノ達が恐怖をもって見つめていた。彼ら/彼女らは、自分たちの食料となる穀物が茶色になり、枯れ、ゆっくりと死んでいくのを見た。子供たちや家畜たちが病気になるのを見た。カンペシノ達にとって、あらゆるところに死が訪れたようだった。ゲリラや準軍組織、コロンビア軍の手による死が訪れなくれも、空から死が降ってくるようであった。
薬剤空中散布作戦で用いられた方法について深刻な疑問が持ち上がった。100フィートの高さから定期的に薬剤を散布するための飛行機が、プツマヨのコカ栽培地に、85000ガロンにのぼると見積もられるグリホサート除草剤をまき散らした。けれども、コロンビアで使われている種類のグリホサートであるラウンド・アップ・ウルトラの製造元、モンサント社は、対象となる作物の情報10フィート以上の高さからの散布に注意を促している。モンサント社によると、高所から散布すると飛散の恐れが増し、「ラウンド・アップ除草剤の非常にわずかな量でさえ、対象地域に隣接する地域に飛散した場合、穀物にダメージを与える」のである。さらに、薬剤散布作戦で用いられた除草剤の量についても疑問があがっている。
アンデス地域の麻薬政策を研究している組織であるアクション・アンディナの研究者、リカルド・バルガスによると、「不法作物の強制駆除に用いられているグリホサートの量は1エーカーあたり5リットルであり、これは、1エーカー1リットルという通常の推奨量を劇的に上回っている」。
空中散布が非常に破壊的であることのもう一つの理由は、コロンビア最大のゲリラグループであるコロンビア革命軍(FARC)のイヴァン・リオス報道官によると、「空中散布されるフリホサートには、葉への粘着を促しまた人に対してより危害の大きい特別な物質が混ぜられている」ことである。リオスが言及した「特別な物質」は、コスモ・フラックスと呼ばれるもので、バルガスによると、「グリホサートを重く粘らせ、コカに粘着しやすくする」ものである。
明らかに、コスモ・フラックスは、グリホサートの効果を向上させることにより、その破壊力を増強しているようである。ペスティサイド行動ネットワークのコロンビア地域代表であるエルサ・ニヴィア博士は、「コスモ・フラックスは、農業化学物質の生物的活動を大きく増加させ、少量でよりよい結果を生み出すものである」と述べている。けれども、南部コロンビアにおける薬剤散布作戦では、コスモ・フラックスは少量のグリホサートにではなく、モンサント社が推奨する量の5倍のグリホサートに添加されているのである。
プツマヨのカンペシノの多くは、除草剤はコカを汚染するだけでなく、メイズ、ユッカ、プラタノ、さらには動物や子供まで汚染する。空中散布を逃れた家族の中には、エクアドル国境近くのサン・ミゲールの町で、荒廃した木の小屋にクラスものもいる。中年女性のセシリアは、2001年1月に空中散布が行われたラ・ドラダの自分たちの農場から夫と3人の子供とともに逃げてきた。そこでは「全てが殺された。メイズ、ユッカ、全てが」と述べている。彼女は、今家族を支えるための絶望的な努力として、国境を越える旅行者に自家製の食べ物を販売している。
プラン・コロンビアを支持すると述べる、プツマヨの準軍組織司令官、コマンダンテ・エンリケすら、「サン・ミゲールに行くと、薬剤空中散布は無差別で合法的な穀物も違法作物も破壊するために、食料もお金も失ったカンペシノに出会う」ことを認めている。
ガムエス谷中心部にある人口3万5千人の町、ラ・オルミガの地方病院では、空中散布作戦が人間の健康にもたらした結果を見ることができる。エドガー・ペレア医師は次のように述べる。「私は、薬剤散布による皮膚の腫れ物や腹痛、下痢を扱った。この25日間に、空中散布の影響を受けた5人の子供を治療した。他の医者がどれだけの患者を扱ったかについては知らない」。
プツマヨの薬剤散布作戦には、米国の訓練を受けた対麻薬部隊3部隊のうち2部隊が導入され、米国議会が2000年に採択した13億ドルの援助パッケージの一部として提供されたヘリコプター60機のうち15機が使われている。この米国の援助は、コロンビアのアンドレス・パストラナ大統領によるプラン・コロンビアの一部である。米国政府とコロンビア政府は、このプラン・コロンビアを、コカの撲滅、内部対立の終焉、悪化する経済の改善を通して、麻薬取引と闘うものと主張している。けれども、批判者は、コロンビア南部のコカ栽培地域で左翼ゲリラと闘うコロンビア軍に対して米国政府が武器や訓練、情報、機材を提供することは、米国がコロンビア軍による対ゲリラ戦争に直接参加することであると述べている。
EU、南米のコロンビア近隣諸国そして多くのNGOは米国の援助パッケージが軍事中心であることを批判している。援助の80%がコロンビア軍にあてられる一方、代替穀物プログラムには、4%相当の3600万円があてられるに留まる。
プラン・コロンビアを批判する人々が心配しているのは、貧困生活を送る68パーセントのコロンビアの地方の人々が直面している社会経済的問題が無視されていることである。2001年2月に、欧州議会は474対1でプラン・コロンビアに反対の決議を行った。議員たちは、麻薬売買と、過去10年間に3万5千人のコロンビア人の命を奪った35年に及ぶ武力紛争の元凶にある、政治的・社会的・経済的問題に、より大きな重点を置くべきだと考えているのである。
プツマヨでプラン・コロンビアによる攻撃をかけるまえに、コロンビア政府はコカから代替作物に切り替える意志のあるカンペシノに対して1000ドルと技術支援を提供するとのべ、また、切り替えをする意志のあるカンペシノの畑には薬剤散布を行わないと約束した。
この提案を受け入れたカンペシノもいたが、過去に何度も約束を守らなかった政府を信用しない他の人々は、これを拒否した。ラ・ホルミガのある住民が述べたように、「歴史的にみて、政府はここの誰一人として助けてこなかった。人々はお互いに助けあい、コカによって経済状態は良くなった。今政府は援助を提供すると述べているが、人々は経済が破壊されることを恐れている」と述べた。
2000年12月に駆除作戦が始まったとき、政府の提案を受け入れた多くの小規模農家が、空中薬剤散布により自分たちが新たに植えた穀物が殺されれていくのを絶望的に眺めていた。けれども、プツマヨを拠点とするコロンビア軍第24部隊のブラス・オルティス大佐によると、空中散布作戦は、25エーカー以上の「産業規模」のコカ農園のみを対象としているという。
さらに、大佐は次のように主張する。「大規模コカ生産者が使う手法は、125エーカーのコカ畑の中に、2エーカーのユカを育てることだ。この2エーカーはカンペシノにではなく大規模コカ生産者のものだ。こうした人々は、空中散布されることを避けるためにこの策略を使う。」
けれども、代替作物プログラムを担当する政府機関である代替開発のための国家計画(PLANTE)のルベン・ダリオ・ピンソン博士は、カンペシノに同情を寄せ、次のように言う。「PLANTEから資金提供を受けた生産者も空中散布を受けている。これは、こうした土地がコカ生産者のただ中に小さな区画としてあるからだ。パイロットは正確にどこに薬剤散布するかコントロールできないので、こうした人々を守るのは不可能だ。パイロットたちは全区画に薬剤を散布する。」
薬剤空中散布キャンペーンが無差別であることにより、多くの人が、食料作物へのダメージを避けることができる、手作業での駆除を重視するよう求めている。ダリオ・ピンソン博士は、「PLANTEは、活動している6つの市で、代替作物育成を開始し、他の町でも交渉できるように、薬剤空中散布停止を求めている」と主張する。
けれども、ほとんどのコカ栽培は、腐りやすい合法的な作物を離れた都市や港に運ぶために必要な道やインフラの無い、遠く離れた地域で行われている。そして、代替作物に鞍替えするカンペシノたちが増えると、地域の受容を供給が超過し、価格が下がることになる。その結果、貧困に陥るカンペシノたちは、そもそもコカ栽培に手を染めるきっかけとなったときと同じ経済状態に陥ることになる。
PLANTEには、カンペシノたちが遠方の市場に代替作物を出荷するための支援準備があるかと訪ねると、ダリオ・ピンソンは残念そうに次のように述べた。「現在のところ、そのような経済計画を提案することはできない。米国やヨーロッパでのように、いくつかの作物を政府が援助するのが望ましいが、そのためのお金がない。」多くのコロンビアNGOや国際NGOは、持続可能な代替経済を創生するために、もっと多くの資金と資源を割り当てない限り、コカの駆除に成功するとは信じていない。
コカを育てるカンペシノたちは、自分の作物が腐る前に市場に出す心配をしなくてよい。麻薬取引業者がやってくるからである。また、コカは多くの合法的作物よりも強靱で、年に3回から4回収穫できる。けれども、農民たちは、2,3エーカーの土地で育てるコカから得られる年間1000ドルにより、家族を空腹から救うことはできても、この不法作物で裕福になるわけではない。
ヘリコプターと部隊が隣接するカケタで作戦にあたっているあいだ、ガムエス谷の薬剤空中散布は一時中断されている。地方の政府関係職員たちは、ワシントンとボゴタに、合法的作物がさらに破壊され、人々がさらに離散する前に、薬剤空中散布を取りやめるよう説得しようと絶望的な試みを続けている。けれども彼らの嘆願は聞き入れられていない。政治家と将軍たちは、キャンペーンの成功を祝福し、さらなる作戦をたてるのに忙しい。プツマヨのカンペシノたちにとって、再び死が空から地に降り立つのは時間の問題なのである。